「ものもらい」の呼び名、方言地図に約120。大阪の「めばちこ」は新しいほうとされる

読む前に予想してみよう!
「ものもらい」は、日本中どこでも同じ名前で呼ばれてきた
国立国語研究所の『日本言語地図』第112図には、めばちこ・めいぼ・めっぱ・おひめさんなど約120の呼び名が並んでいる。
- 対象
- 全国の高年層の男性(1903年以前の生まれ)
- 規模
- 約2,400地点
- 研究の種類
- 方言の全国調査(面接)+辞書・百科事典
- 確かさ
- ★★★★☆
「ものもらい」はおもに関東の言い方。国立国語研究所の方言地図には約120の呼び名が並び、大阪を中心に広がる「めばちこ」はその中でも新しい部類とされる。
ひとことで言うと「ものもらい」の呼び方は、日本中で120くらいあるんだって!
もくじ
まぶたが赤くはれる、あのできもの。あなたは何と呼びますか?
「ものもらい」と答えた人は多いはずです。ところが平凡社の『世界大百科事典』によると、「ものもらい」はおもに関東地方で使われる言葉。地方によって、メモライ、メコジキ、メボ、メバチコなど、さまざまに呼ばれるといいます。
国立国語研究所がつくった全国の方言地図をひらくと、その数に目を疑います。地図の呼び名の一覧(凡例)を数えてみると、123もあります。約120通りです。
01「ものもらい」の由来は“よその家で物をもらう”
まず、標準語の「ものもらい」の意味から確かめましょう。
小学館の『デジタル大辞泉』で「物貰い」を引くと、意味が二つ書かれています。一つ目は、人から食べ物などをもらって暮らすこと、またその人。二つ目が、まぶたのできもの(麦粒腫=ばくりゅうしゅ)の俗称です。
なぜ病気の名前が「物をもらう」なのか。『世界大百科事典』は、この病気にかかったときに、よその家で物をもらって食べると治るという言い伝えからこの名がついた、といわれていると説明しています。病気の名前なのに、もとは治し方の言い伝えから来ているのです。
ちなみに、医学的にはまぶたの脂や汗を出す腺に細菌が入って起きる炎症で、近畿大学の健康情報では、人にうつることはほとんどないとされています。
02国の方言地図に、約120の呼び名
この呼び名を全国で調べたのが、国立国語研究所の『日本言語地図』です。
解説によると、「ものもらい」は今の標準語で使われる呼び名で、方言地図では関東を中心に広がっています。ただし関東だけでなく、山形とその周辺、静岡・愛知のあたり、島根の東部にもまとまって使われる地域がありました。
03めこじき、ほいと、おひめさん……名前のつけ方もいろいろ
約120の呼び名は、でたらめに散らばっているわけではありません。解説書はいくつかのグループに分けています。
一つは、「ものもらい」と同じく物をもらう人にちなむ名前です。中部地方と紀伊半島の南部に多い「めこじき」、秋田や中国地方に目立つ「ほいと」などがこの仲間です。解説書は、これらが治し方の言い伝えと結びついて全国に広まったのだろうと見ています。
九州には、まったく別の発想の名前があります。
- 「いんのくそ」:九州各地で優勢。犬のふんを意味すると考えられている。解説書は、わずらわしい邪魔ものには犬のふんという名前がふさわしく感じられたのだろうか、と書く
- 「おひめさん」:福岡・熊本を中心に分布。「いんのくそ」があまりに汚いので、代わりに生まれた表現かもしれない、と解説書は推測している
- 「ばか」:北海道を除くと、ほとんど宮城を中心とする地域に分布
ほかにも、群馬を中心とする「めかいご」は、かごなどの道具にちなむ名前で、治し方の言い伝えが関係しているのだろうとされます。「めっぱ」は中部・関東・東北にも点々とありますが、おもな地域は北海道でした。

04大阪の「めばちこ」は、むしろ新しい
関西の人にとって、ものもらいといえば「めばちこ」でしょう。近畿大学の健康情報にも、地域によっては「めばちこ」「めいぼ」と呼ぶと書かれています。
方言というと「昔からある古い言葉」というイメージがあります。ところが『日本言語地図』の解説は、大阪を中心に広がる「めばちこ」を、全国の呼び名の中でもっとも新しいものの一つだろうと書いています。
解説書がえがく流れは、こうです。
- 「めぼ」:近畿地方の周りに分布し、西日本にも広がる。一時代前に盛んだった表現
- 「めいぼ」:「目疣(めいぼ)」のことだろうとされる。「めぼ」から生まれたらしく、「めばちこ」が生まれるより一時代前のもの
- 「めばちこ」:ある時期に、国の中央で勢力を持っていた「めいぼ」に代わって広がった
解説書の説明をまとめると、国の中央で新しい言い方が生まれ、それより古い言い方がその周りに残った、という流れになります。
辞書の記録も見てみましょう。『日本国語大辞典』によると、「めいぼ」は日本語をポルトガル語で説明した『日葡辞書』(1603〜04年)に「Meiboga(メイボガ)デキタ」(めいぼができた)という例があります。「目ばち」という語も、鎌倉時代の『名語記』(1275年)に、目のふちのはれ物の意味で出てきます。
ここで一つ注意があります。「目ばち」という語は鎌倉時代からあるのに、「めばちこ」は新しいとされる。この二つの関係は、今回調べた資料では分かりません。解説書は「めばちこ」の「ばち」について、まばたきを意味する方言の「めばち」と関係があるかどうかは不明とし、「鉢」だとすれば道具にちなむ名前の仲間かもしれない、と書くにとどめています。
05英語の stye は「盛り上がる」+「目」
英語では、ものもらいを stye(または sty)と言います。
- I have a stye on my eyelid.(まぶたにものもらいができた)
- A stye is usually not contagious.(ものもらいはふつう、人にうつらない)
American Heritage 英語辞典によると、stye は昔の英語(中英語)の styanye が縮まった形です。styan は、さらに古い英語(古英語)で「上る」を意味する動詞 stīgan からできた「上ってくる」という意味の語で、ye は eye(目)。「盛り上がる」と「目」を合わせた、見たままの名前だったわけです。
ややこしいのが、豚小屋の pigsty の sty。こちらは古い英語の別の単語から来ていて、つづりは同じでも別の言葉です。ちなみに『日本言語地図』の第112図の英語の題も「sty」になっています。
06どんでん返し:地図は「明治生まれの人の言葉」
ここまでの話には、大事な前提があります。
『日本言語地図』の調査は1957年に始まり、話を聞いたのは1903年以前に生まれた男性でした。地図に写っているのは、今の若い人ではなく、明治生まれの人たちの言葉です。今どこで何と呼ぶ人が多いかは、この地図だけでは分かりません。
「約120」という数にも注意が要ります。地図の一覧に並ぶ呼び名を数えた数で、中には全国で1地点にしか出てこないものもいくつもあります。また、解説書が書く「新しい」「一時代前」は、地図の分布から読みとった推定です。年号がはっきり分かっているわけではありません。
名前の由来も同じです。『世界大百科事典』は「ものもらい」の由来を「といわれる」と書いていて、言い伝えとして紹介しています。
07まとめ
標準語だと思っていた「ものもらい」は、もとは関東を中心とする言い方で、名前の由来は治し方の言い伝えでした。全国には約120の呼び名があり、大阪の「めばちこ」はその中でも新しい部類とされています。
次に目がはれたら、家族や友だちに「何て呼ぶ?」と聞いてみてください。出身地によって答えが分かれるかもしれません。
よくある質問
ものもらいの方言にはどんなものがありますか?
国の方言地図に、約120の呼び名が並んでいます。国立国語研究所の『日本言語地図』第112図(1968年)の一覧には、めばちこ・めいぼ・めっぱ・めこじき・ほいと・いんのくそ・おひめさんなどが並び、数えると123あります。明治生まれの人に聞いた調査です。
なぜ「ものもらい」と言うのですか?
この病気にかかったときに、よその家で物をもらって食べると治る、という言い伝えからこの名がついたといわれます(世界大百科事典)。病気の名前ですが、もとは治し方の言い伝えから来ています。
「ものもらい」はどこの言葉ですか?
おもに関東地方の言い方です(世界大百科事典)。『日本言語地図』では関東を中心に広がり、ほかに山形とその周辺、静岡・愛知のあたり、島根の東部にもまとまって使う地域がありました。
「めばちこ」はどこの方言ですか?
大阪を中心に広がる呼び名です。『日本言語地図』の解説は、「めばちこ」を全国の呼び名の中でもっとも新しいものの一つだろうと書いています。それより一時代前には、国の中央で「めいぼ」が勢力を持っていた、という見方です。
「めばちこ」の語源は何ですか?
はっきりとは分かっていません。『日本言語地図』の解説は、「ばち」がまばたきを意味する方言の「めばち」と関係があるかどうかは不明とし、「鉢」だとすれば道具にちなむ名前の仲間かもしれない、と書くにとどめています。
「めいぼ」とはどういう意味ですか?
「目疣(めいぼ)」のことだろうとされます(『日本言語地図』の解説)。『日本国語大辞典』によると、日本語をポルトガル語で説明した『日葡辞書』(1603〜04年)に「Meiboga デキタ」(めいぼができた)という例があります。
ものもらいは人にうつりますか?
人にうつることはほとんどないとされています(近畿大学の健康情報)。まぶたの脂や汗を出す腺に細菌が入って起きる炎症です。はれや痛みが強いとき、なかなか治らないときは、眼科を受診してください。
ものもらいは英語で何と言いますか?
stye(または sty)です。I have a stye on my eyelid.(まぶたにものもらいができた)のように使います。American Heritage 英語辞典によると、中英語の styanye が縮まった形で、「上ってくる」と eye(目)を合わせた語です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAsk people from different parts of Japan what they call a stye, and you may get very different answers.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many Japanese people call a red bump on the eyelid "monomorai." But this is mainly a word from the Kanto area. A national dialect map shows about 120 names for it.
In Osaka, people often say "mebachiko." The name "monomorai" comes from an old belief. People said you would get better if you ate food from another family's home. In English, this bump is called a "stye."
67 words ・ CEFR A2
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多くの日本人は、まぶたにできる赤いできものを「ものもらい」と呼びます。でも、これはおもに関東の言葉です。国の方言地図には、その呼び名が約120も載っています。
大阪では「めばちこ」と言うことが多いです。「ものもらい」という名前は、昔の言い伝えから来ています。よその家の食べ物を食べると治る、と言われていたのです。英語では、このできものを「stye」と呼びます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「ものもらい」は関東の言葉で、全国に約120の呼び名がある、という話なので B。
Q2. About how many names for a stye does the dialect map show?
A national dialect map shows about 120 names for it とあるので C。
Q3. In the passage, what does "bump" mean?
a red bump on the eyelid(まぶたの赤い〜)から、皮ふが小さくふくらんだ所という意味だと分かるので A。
Ask people from different parts of Japan what they call a stye, and you may get very different answers. "Monomorai" is mainly a Kanto word. It comes from an old belief that eating food from someone else's home would cure the problem. Japan's national language institute made a dialect atlas from a survey that began in 1957.
Its map for this word lists about 120 forms, such as "meppa" in Hokkaido and "ohimesan" in Fukuoka and Kumamoto. The notes to the map say that "mebachiko," which is centered on Osaka, is probably one of the newest of them all. Before it spread, another word, "meibo," was common in the central part of the country.
114 words ・ CEFR B1
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日本のいろいろな地方の人に、ものもらいを何と呼ぶかたずねると、まったく違う答えが返ってくるかもしれない。「ものもらい」はおもに関東の言葉だ。よその家の食べ物を食べると治る、という昔の言い伝えから来ている。日本の国立の国語研究所は、1957年に始まった調査をもとに方言地図をつくった。
この語の地図には、北海道の「めっぱ」や福岡・熊本の「おひめさん」など、約120の語形が載っている。地図の解説によると、大阪を中心とする「めばちこ」は、おそらくその中でもっとも新しいものの一つだという。それが広まる前は、国の中央部では「めいぼ」という別の言葉がよく使われていた。
4択リーディングクイズ
Q1. Where does the word "monomorai" come from?
It comes from an old belief that eating food from someone else's home would cure the problem とあるので B。
Q2. Which word does the passage connect with Hokkaido?
"meppa" in Hokkaido とあるので D。
Q3. What does the passage suggest about dialect words?
大阪の「めばちこ」は約120の中でもっとも新しいものの一つだとあるので、方言がいつも古いとは限らないと読み取れる。A。
Most Japanese know the bump on the eyelid as "monomorai," but the word belongs mainly to the Kanto region. According to a Japanese encyclopedia, the name is said to come from a belief that you could cure the bump by eating food given to you at another household. Japan's national language institute mapped the country's words in a survey that began in 1957, interviewing men born in or before 1903 at about 2,400 places.
The map for this word lists about 120 forms. Some refer to people who ask for food, like "monomorai" itself. In Kyushu, one common form seems to mean "dog dung," and the notes guess that "ohimesan," or "princess," may have come about as a cleaner name to replace it.
The notes also describe "mebachiko," centered on Osaka, as probably one of the newest forms. They say it took the place of the older "meibo" in the center of the country. These ages are guesses based on where each word is found, and the map shows the speech of men born in 1903 or earlier. Young people today may talk differently. English uses "stye," from an old word meaning "something that rises" plus "eye."
197 words ・ CEFR B2
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ほとんどの日本人は、まぶたのできものを「ものもらい」として知っているが、この語はおもに関東地方のものだ。日本の百科事典によれば、この名前は、よその家でもらった食べ物を食べるとできものが治るという言い伝えから来ているといわれる。日本の国立の国語研究所は、1957年に始まった調査で国じゅうの言葉を地図にした。
約2,400の地点で、1903年以前に生まれた男性に話を聞いたのである。この語の地図には約120の語形が載っている。「ものもらい」そのもののように、食べ物を求める人を指すものもある。九州でよく使われる形の一つは「犬のふん」を意味するらしく、解説は、「おひめさん(お姫さん)」がそれに代わるきれいな名前として生まれたのかもしれないと推測している。
解説はまた、大阪を中心とする「めばちこ」を、おそらくもっとも新しい形の一つだとしている。国の中央で、古い「めいぼ」に取って代わったというのだ。こうした新旧は、それぞれの語がどこで見つかるかにもとづく推定であり、地図が示すのは1903年以前に生まれた男性の言葉だ。今の若い人は違う話し方をしているかもしれない。英語では「stye」と言い、「盛り上がるもの」を意味する古い語に「目」を足したものから来ている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
約120の語形があること、「めばちこ」が新しい形とされることが中心なので B。A は言い伝えの紹介で、事実として書かれてはいない。
Q2. Who did the researchers interview for the map?
interviewing men born in or before 1903 at about 2,400 places とあるので C。
Q3. Why does the writer mention when the speakers were born?
the map shows the speech of men born in 1903 or earlier. Young people today may talk differently. とあり、今の言葉とは違うかもしれないと注意しているので A。
重要単語
- styeC1名詞ものもらい(まぶたのできもの)I have a stye, so I can't wear contact lenses today.
sty ともつづる。豚小屋の pigsty の sty とは別の語。発音は「スタイ」。 - eyelidB2名詞まぶたThe stye made my eyelid red and swollen.
eye(目)+lid(ふた)。upper eyelid「上まぶた」、lower eyelid「下まぶた」。 - dialectB2名詞方言My grandmother speaks the Osaka dialect.
regional dialect「地域の方言」。dialect atlas は「方言地図(帳)」。 - swollenB2形容詞はれたHer eye was swollen when she woke up.
swell(はれる、ふくらむ)の過去分詞から。a swollen ankle「はれた足首」。 - contagiousC1形容詞うつる、伝染性のA stye is usually not contagious.
人から人へうつる病気に使う。比喩で contagious laughter「つられて笑ってしまう笑い」。 - folk beliefB2名詞民間の言い伝え、俗信The name comes from an old folk belief.
folk は「民間の、庶民の」。folk song「民謡」、folk tale「民話」。 - replaceB1動詞取って代わる、置きかえるA newer word slowly replaced the old one.
replace A with B「A を B に置きかえる」。入試頻出。
公式・一次情報をチェック
- 『日本言語地図』地図画像(国立国語研究所)mmsrv.ninjal.ac.jp
- ものもらい(麦粒腫)について(近畿大学 健康情報)kindai.ac.jp
- デジタル大辞泉「物貰い」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
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目のできもの「ものもらい」は、おもに関東の言い方。国立国語研究所の方言地図には約120の呼び名が並ぶ。大阪中心の「めばちこ」は、その中でも新しい部類だという。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- 国立国語研究所 (1968) 日本言語地図 第3集 別冊 日本言語地図解説 各図の説明3, 国立国語研究所報告30-3(「112. ものもらい(麦粒腫)」pp.23-29)doi.org
- 国立国語研究所 (1968)『日本言語地図』第3集 第112図「ものもらい(麦粒腫)」凡例mmsrv.ninjal.ac.jp
- 改訂新版 世界大百科事典「ものもらい」(平凡社、コトバンク掲載)kotobank.jp
- 精選版 日本国語大辞典「目ばち」「目疣(めいぼ)」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「sty」(HarperCollins)ahdictionary.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





