本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
日本語のマジか!?ビミョー

「かがみ」の「が」を鼻にかけて言う人は、70代で4割、20代では6%。消えゆく「鼻濁音」

「かがみ」の「が」を鼻にかけて言う人は、70代で4割、20代では6%。消えゆく「鼻濁音」

読む前に予想してみよう!

「かがみ」の「が」を鼻にかけて言う鼻濁音は、今も日本人の多数派の発音だ

研究カード(どんな研究?)
対象
全国の20〜79歳(国立国語研究所の調査)、アナウンサーなど
規模
803人(2009年の全国調査)、250人(1998年のアナウンサー調査)
研究の種類
録音による発音調査・アンケート調査
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「かがみ」の「が」を鼻にかけて言う鼻濁音は、放送では理想とされてきた。だが2009年の全国調査で使う人は約2割。70代で4割、20代では6%だった。

ひとことで言うと「かがみ」の「が」を鼻にかけて言う人は、若い世代ではほとんどいない!

もくじ
  1. 鼻にかかる「が」の決まり
  2. 70代で4割、20代では6%
  3. 東北で残るわけ:「柿」と「鍵」
  4. アナウンサーは「美しい」と考えてきた
  5. どんでん返し:鼻にかけない「が」が「よい発音」だった町
  6. まとめ
  7. もっと知りたい人へ
  8. よくある質問

「がっこう(学校)」と「かがみ(鏡)」。ゆっくり言ってみてください。2つの「が」は同じ音でしょうか。

東京の言葉をもとにした共通語の、伝統的な発音では、別の音です。「がっこう」の「が」はふつうの「が」。でも「かがみ」の「が」は、息を鼻にぬいて「ンガ」に近く言います。英語の song(ソング)や thing(シング)の ng と同じ音です。

この鼻にかかった「が」を鼻濁音(びだくおん)と呼びます。アナウンサーの多くが「美しい」と考えてきた発音です。ところが2009年の全国調査では、「かがみ」を鼻濁音で言った人は70代で4割、20代ではわずか6%でした。

01鼻にかかる「が」の決まり

鼻濁音は、言語学ではガ行鼻音とも呼びます。発音記号は [ŋ]。舌の奥を上あごの奥につけたまま、息を鼻から出す音です。ふつうの「が」は [g] で、こちらは息をいったん止めてから口で破裂させます。

共通語の伝統的な発音では、使い分けに決まりがあります。NHK が1987年に出した放送用の手引き書(『NHK放送のことばハンドブック』)は、鼻濁音を使う場所を次のようにまとめています(香川大学の轟木靖子さんらの論文が、その一部を抜き出して紹介したもの)。

  • 単語の途中や終わりのガ行:大群(たいぐん)、工芸(こうげい)、佐賀(さが)
  • 助詞の「が」:私が行きます
  • 結びつきの強い複合語(2つ以上の言葉がくっついてできた言葉):小学校、中学校
  • 2つの言葉がくっついて濁った音:株式会社、口車(くちぐるま)、飛行機雲
  • 日本語になじんだ外来語:イギリス、キング
  • 熟語や人名の「五」:十五夜、七五三、菊五郎

一方、単語の最初のガ行は、ふつうの [g] です。だから「がっこう」は [g]、「しょうがっこう」の「が」は鼻濁音になります。同じ「学校」でも、前に「小」がつくと音が変わるのです。

例外もあります。「ゴロゴロ」のようにくり返す言葉の2つ目の「ゴ」は、単語の途中でも [g] です(ノートルダム清心女子大学の尾崎喜光さんの論文より)。「教育学部」「都議会」のように結びつきのゆるい複合語は、どちらにもなりえます。外来語の扱いもゆれていて、1998年版の NHK の発音アクセント辞典では「イギリス」が鼻濁音ではない表記に変わったと、轟木さんらは書いています。

鼻にかけても、かけなくても意味は同じ

「かげ(影)」を [kage] と言っても、鼻にかけて [kaŋe] と言っても、意味は「影」のままです。鼻濁音とふつうの「が」は、意味を区別しません。言語学では、このように意味を区別する音の単位(音素)としては同じで、発音だけが違うものを異音(いおん。英語で allophone)と呼びます。伝統的な共通語では、[g] と [ŋ] は単語の最初か途中かで、ほぼ決まった使い分けになっていました。

これは、ほかの鼻の音とは違います。尾崎さんは、[d] と [n] の違いは「派手(はで)」と「羽(はね)」を、[b] と [m] の違いは「カバ」と「鎌(かま)」を区別すると説明しています。でも [g] と [ŋ] には、そういう組がありません。ふだんの文字でも書き分けません(特に区別して示したいときに、「カ゚」のように半濁点をつけて書く習慣はあります)。

0270代で4割、20代では6%

では、今どのくらいの人が鼻濁音を使っているのでしょう。

地域の差も大きく出ました。中国・四国・九州では、鼻濁音を使う人は1人もいませんでした。近畿は4.3%です。

ただし、昔からそうだったわけではありません。国立国語研究所が昭和30年代に全国約2,400地点で、その土地で生まれ育った年配の男性を調べた『日本言語地図』では、鼻濁音は近畿を含む東日本に広がり、西日本の多くは [g] でした(東日本の中にも、新潟・群馬・埼玉など [g] の地域がありました)。50年ほどのあいだに、近畿の鼻濁音はほとんど消えかけているのです。

北海道でも同じです。札幌市と富良野市で1980年代に行われた調査を分析し直した、国立国語研究所の南部智史さんらの論文(2014年)でも、生まれた年が新しい人ほど鼻濁音が少ないという結果でした。

2009年の全国調査では、鼻濁音を使う人は東北で7割近く、首都圏などで2〜3割、近畿で4.3%、中国・四国・九州では0人だった
2009年の全国調査では、鼻濁音を使う人は東北で7割近く、首都圏などで2〜3割、近畿で4.3%、中国・四国・九州では0人だった

03東北で残るわけ:「柿」と「鍵」

全国で減る中、東北地方では今も7割近くが鼻濁音を使っていました。20代でも4割以上です(ただし東北の回答者は65人で、6つの年代に分けると1つの年代は平均11人ほどです)。北陸も6割ほどでしたが、回答者が23人と少なく、尾崎さんは安定した数値ではないかもしれないと書いています。

その理由として、尾崎さんは言語学者の井上史雄さんの説明を紹介しています。東北の多くの地域では、単語の途中のカ行やタ行が濁って発音されます。たとえば「柿(かき)」が「カギ」[kagi] に近くなるのです。

すると、もし「鍵(かぎ)」まで [kagi] と言ったら、「柿」と「鍵」が同じ音になってしまいます。だから「鍵」の「ギ」は鼻にかけて [kaŋi] と言い分けている、という説明です。

東北の鼻濁音は、「柿」と「鍵」を言い分けるための音かもしれないのです。ほかの地域では意味を区別しない鼻濁音が、東北では区別に役立っている可能性があります。

尾崎さんは山形県鶴岡市の1992年の調査データで、これを確かめようとしました。その結果、「猫」を「ネゴ」のように濁らせて言う人のほうが、「鏡」を鼻濁音で言う割合がやや高い、という傾向は見えました。ただし、当時の鶴岡では鼻濁音を使う人がもともと多すぎて、はっきりした結論までは出せなかったと書いています。

04アナウンサーは「美しい」と考えてきた

鼻濁音を大切にしてきたのが、放送の世界です。

1998年、香川大学の轟木靖子さんと、当時同大学の学生だった河野葉子さんは、全国53の放送局のアナウンサー250人にアンケートをしました。

  • 「鼻濁音を使うべきところで使った発音は美しい」に「よくあてはまる」と答えた人は87.2%
  • 「自分が指導する立場なら、鼻濁音を使うように指導する」は76.4%
  • 「絶対に鼻濁音を使うべき」と答えた人がいちばん多かったのは助詞の「が」(74.8%)。外来語はわずか20.0%だった

鼻濁音を使わない地域で育ったアナウンサーでも、指導する立場なら使うように教える、と考えていました。経験年数が長い人ほど、鼻濁音を大事にする傾向も見られました。NHK でも、新人アナウンサーの研修で鼻濁音を教える試みが報告されています(『放送研究と調査』2000年)。

それでも放送の中で、鼻濁音は減っています。轟木さんらが紹介する別の研究によると、ニュースを読むアナウンサーでも、35歳以上より35歳未満のほうが鼻濁音を使う割合が低かったそうです。

05どんでん返し:鼻にかけない「が」が「よい発音」だった町

放送の世界では鼻濁音が「美しい」とされてきました。では、鼻濁音が減ったのは、若い人の発音が「くずれた」からなのでしょうか。

そうとも言い切れません。社会言語学者の日比谷潤子さんは1995年、東京で生まれ育った62人の話し方を分析した論文を発表しました。南部さんらの紹介によると、調査した場所は東京都文京区の根津。昔からの山の手と下町の境目にある町です。

結果は、若い世代ほど鼻にかけない [g] を使う、というものでした。しかも、山の手の人と付き合いのある人ほど [g] を多く使っていました。日比谷さんは、[g] が山の手から下町へ、威信のある(よいとされる)発音として広がったと考え、論文の題で「上からの拡散(diffusion from above)」と呼びました。南部さんらは、これを社会言語学でいう「上からの変化」の例として紹介しています。上からの変化とは、人々が意識して、よいと思う形を取り入れていく変化のことです。

北海道の調査でも、似た手がかりがあります。南部さんらによると、短い文を読むときより、単語を1つずつ読み上げるとき(ていねいに発音しようとするとき)のほうが、鼻濁音が少なかったのです。南部さんらは、札幌や富良野では、鼻にかけない [g] のほうが「正しい」と意識されている可能性があると書いています。

鼻濁音が減る理由について、研究者の説明はいくつかあります。

  • 意味を区別しないので、なくても困らない(「下からの変化」。人々が気づかないうちに進む変化)
  • かなで書き分けないので、意識されにくい
  • 「こと(事)→ おおごと(大事)」のように、2つの言葉がくっついて濁ると [g] になる組が多く、[g] にそろえたほうが自然(尾崎さんの考え)
  • [g] のほうが「よい発音」と受けとめられた(日比谷さん、南部さんらの「上からの変化」の考え)

どれがいちばん大きいのかは、地域によっても違う可能性があり、まだ決着していません。

06まとめ

「がっこう」の「が」と「かがみ」の「が」を言い分ける鼻濁音は、放送の世界では「美しい発音」として守られてきました。でも、2009年の全国調査で使っていたのは2割ほど。20代では6%、首都圏の20代では0%でした。

一方で、東北では「柿」と「鍵」を言い分けるために残っているのかもしれません。東京の根津では、鼻にかけない「が」のほうが「よい発音」として広がった可能性も指摘されています。同じ「が」1つにも、地域と世代と「よい発音」の考え方が重なっているのです。

07もっと知りたい人へ

  • 鼻濁音・ガ行鼻音(velar nasal [ŋ])/異音(allophone)/相補分布(complementary distribution)
  • 上からの変化・下からの変化(change from above / change from below)
  • Hibiya, Junko (1995) "The velar nasal in Tokyo Japanese: A case of diffusion from above". Language Variation and Change 7(2)
  • 南部智史・朝日祥之・相澤正夫 (2014)「ガ行鼻音の衰退過程とその要因について」『国立国語研究所論集』7
  • 尾崎喜光 (2015)「全国多人数調査から見るガ行鼻音の現状と動態」『ノートルダム清心女子大学紀要』39(1)
  • 国立国語研究所 (1966)『日本言語地図』第1集(「鏡」のガの地図を収める)

よくある質問

鼻濁音とは何ですか?

「かがみ」の「が」のように、息を鼻にぬいて「ンガ」に近く言うガ行の音です。言語学ではガ行鼻音とも呼び、発音記号は [ŋ] です。英語の song や thing の ng と同じ音です。

鼻濁音はどんなときに使うのですか?

共通語の伝統的な発音では、単語の途中や終わりのガ行と助詞の「が」で使います。単語の最初のガ行はふつうの [g] です。だから「がっこう」の「が」は [g]、「しょうがっこう」の「が」は鼻濁音になります。

鼻濁音を使わないと、意味が変わりますか?

いいえ。「かげ(影)」を鼻にかけて言っても、かけなくても意味は「影」のままです。言語学では、このように意味を区別せず発音だけが違う音を異音(allophone)と呼びます。

鼻濁音を使う人はどのくらいいますか?

2009年の全国調査(803人)では、全体で2割ほどでした。「鏡」の「が」では70代で40%、20代では6%で、若い世代ほど少なくなっています。東京・神奈川・千葉・埼玉の20代では0%でした。

鼻濁音が多いのはどの地方ですか?

2009年の調査では東北地方で、今も7割近くが使っていました。説明の1つは、東北では「柿」が「カギ」に近く濁るので、「鍵」の「ギ」を鼻にかけて言い分けている、という言語学者の井上史雄さんの説です。

鼻濁音はなぜ減っているのですか?

決着はしていません。意味を区別しないので、なくても困らない、かなで書き分けないので意識されにくい、鼻にかけない [g] のほうが「よい発音」と受けとめられた、などの説明があり、地域によっても違う可能性があります。

アナウンサーは鼻濁音を使っているのですか?

大切にしてきました。1998年のアンケートでは、アナウンサー250人の87.2%が「鼻濁音を使うべきところで使った発音は美しい」に「よくあてはまる」と答えました。ただ、ニュースを読むアナウンサーでも、35歳未満は35歳以上より使う割合が低かったという研究があります。

鼻濁音は英語で何と言いますか?

英語の論文では velar nasal(軟口蓋鼻音)と呼ばれることが多いです。音そのものは英語の song、thing の ng と同じ [ŋ] です。「鼻にかかった声」は a nasal voice と言います。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany Japanese announcers believe that a g in the middle of a word should be said through the nose. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many Japanese announcers believe that a g in the middle of a word should be said through the nose. In kagami (mirror) or in the particle ga, the sound becomes like the ng in song. At the start of a word, as in gakko (school), a normal g is used.

In a 1998 survey of 250 announcers, about 87 percent strongly agreed that this nasal sound is beautiful. Ordinary speakers are a different story. In a national survey of 803 people in 2009, only about one in five used it. In the Chugoku, Shikoku and Kyushu regions, nobody did. In the Tohoku region, on the other hand, close to 70 percent still used the sound.

115 words ・ CEFR B1

和訳を見る

日本のアナウンサーの多くは、単語の途中の g は鼻を通して言うべきだと考えている。kagami(鏡)や助詞の「が」では、その音は英語の song の ng のようになる。gakko(学校)のように単語の最初では、ふつうの g が使われる。

1998年に250人のアナウンサーを調べた調査では、約87%が、この鼻にかかる音は美しいという考えに強く賛成した。ふつうの話し手の場合は事情が違う。2009年に803人を調べた全国調査では、この音を使ったのは5人に1人ほどだけだった。中国・四国・九州地方では1人もいなかった。一方、東北地方では、70%近くがまだこの音を使っていた。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. Where did close to 70 percent of people still use the sound?

Q3. What does the writer mean by "Ordinary speakers are a different story"?

重要単語

  • nasalB2
    形容詞鼻の、鼻にかかったShe has a slightly nasal voice when she has a cold. nose(鼻)と同じ語源。nasal spray は「点鼻薬」。
  • pronunciationB1
    名詞発音His pronunciation is very clear. 動詞 pronounce(プロナウンス)とつづりも発音も違う点に注意。pronounciation は誤り。
  • announcerB1
    名詞アナウンサーThe announcer read the news slowly and clearly. announce(知らせる)+-er。ニュースを読む人は newsreader や news anchor とも言う。
  • surveyB1
    名詞(アンケートなどの)調査The survey asked 800 people about their speech. 動詞では「見渡す、調査する」(アクセントは後ろ)。名詞はアクセントが前(サーヴェイ)。
  • declineB2
    動詞減る、衰えるThe number of people who use this sound is declining. 「断る」の意味もある(decline an offer)。名詞も同じ形で a decline in ~「~の減少」。
  • prestigeC1
    名詞威信、高い評価In the past, that accent had a lot of prestige. 形容詞は prestigious(名門の、一流の)。a prestigious university で「名門大学」。
「がっこう」の「が」と「かがみ」の「が」。伝統的な共通語の発音では、「かがみ」のほうだけ鼻にかけて「ンガ」に近く言う。これが鼻濁音。アナウンサーの8割以上が「美しい」と答えたが、2009年の全国調査で「かがみ」を鼻濁音で言った人は70代で4割、20代では6%だった。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. 尾崎喜光 (2015) 全国多人数調査から見るガ行鼻音の現状と動態, ノートルダム清心女子大学紀要 39(1)ndsu.repo.nii.ac.jp
  2. 南部智史・朝日祥之・相澤正夫 (2014) ガ行鼻音の衰退過程とその要因について:札幌と富良野の言語調査データを利用して, 国立国語研究所論集 7doi.org
  3. Hibiya J. (1995) The velar nasal in Tokyo Japanese: A case of diffusion from above, Language Variation and Change 7(2)doi.org
  4. 轟木靖子・河野葉子 (2004) 放送におけるガ行鼻濁音について:アナウンサーの意識調査に基づく考察, 香川大学教育学部研究報告 第Ⅰ部 122kagawa-u.repo.nii.ac.jp
特設コーナー「言語学のマジか!?」 音のふしぎ(音声学・音韻論)の記事ですコーナーを見る →

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →