本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
英語のマジか!?ウソ

「to boldly go」は文法ミス? 1834年に禁止を提案した人も「規則はまだない」と書いていた

「to boldly go」は文法ミス? 1834年に禁止を提案した人も「規則はまだない」と書いていた

読む前に予想してみよう!

「to boldly go」のように to と動詞の間に副詞をはさむのは、英語の文法のまちがいだ

研究カード(どんな研究?)
対象
1834〜1926年の雑誌・文法書・用法辞典と現代の辞書
規模
辞書の用法パネル(2005年調査で70〜91%が認めた例文あり)
研究の種類
歴史資料の確認+辞書の用法調査
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

to と動詞の間に副詞をはさむ形は1300年代からある英語。禁止は1800年代から。古い記録の一つ、1834年の雑誌の投稿者は「規則はまだない」と認めたうえで提案していた。文頭の And・But も辞書は認める。

ひとことで言うと「to boldly go」はまちがいじゃない! 禁止ルールは19世紀生まれ

もくじ
  1. 「分割不定詞」ってなに?
  2. 1834年、「規則はまだない。だから提案する」
  3. 1864年、「そんな言い方をする人はいない」
  4. 1926年、「世の中の人は5種類に分けられる」
  5. 文の頭の And・But も「迷信」
  6. どんでん返し:何でも割ってよいわけではない
  7. まとめ

to boldly go where no man has gone before(これまで誰も行ったことのない場所へ、大胆に進む)

1966年に始まったアメリカのテレビドラマ『スター・トレック』の、冒頭のナレーションです。ところがこの名ゼリフは、昔ながらの文法のルールでは 「文法ミス」 とされてきた形です。to と go の間に boldly(大胆に)が割りこんでいるからです。

では、「to と動詞の間に言葉を入れてはいけない」というルールは、誰が決めたのでしょうか。記録をさかのぼると、古い例として 1834年のボストンの雑誌に投稿した1人の人物 が出てきます。しかもその人は、「これまでそんな規則を書いた文法書は知らない」と自分で書いたうえで、新しく提案していたのです。

01「分割不定詞」ってなに?

不定詞(infinitive) は、to go、to understand のような「to+動詞の原形」の形です。その to と動詞の間に、副詞などをはさんだものを split infinitive(分割不定詞) と呼びます。

  • to boldly go(大胆に行く)
  • She seems to really like it.(彼女は本当にそれが好きみたいだ)

『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』は、split infinitive の説明の例に、まさに to boldly go を挙げています。そして用法の解説で、こう書いています。

  • この形は 1300年代から英語にずっとある
  • 文法家が名前をつけて非難しはじめたのは 1800年代 になってから
  • 禁止の理由づけは、ラテン語とのまちがった比較 だけ。ラテン語の不定詞は1語なので割りようがない。だから英語の to+動詞も1つのまとまりとして扱うべきだ、という考え方
  • ジョン・ダン、デフォー、ジョージ・エリオット、ベンジャミン・フランクリン、エイブラハム・リンカーン、ワーズワースといった書き手も割っている

Dictionary.com によると、split infinitive という呼び名そのものが記録に出てくるのは 1895〜1900年ごろ です。

021834年、「規則はまだない。だから提案する」

いま分かっている中で古い非難の一つが、ボストンの月刊誌『ニューイングランド・マガジン』1834年12月号の記事「言葉づかいと文法の不正確さ」です(Internet Archive で誌面が読めます)。

筆者は、shew と showed の使い分けなど、気になる言葉づかいを順に挙げていきます。そして、こう続けます。

つまりこの筆者は、「英語にもとからある規則」を紹介したのではありません。ないと分かったうえで、新しく作ったのです。

031864年、「そんな言い方をする人はいない」

30年後の1864年。イギリスのカンタベリー大聖堂の主任司祭ヘンリー・オールフォードが、言葉づかいについての本『A Plea for the Queen's English(女王の英語のための訴え)』を出します。

その238節で、読者から to scientifically illustrate(科学的に説明する)という言い方を自分は使うし正しいと思う、という手紙が来たことを紹介します。オールフォードの返事は、それは英語を話す人にも書く人にも「まったく知られていない」やり方だ、というものでした。

実際は1300年代から使われていた形です。それでもこうした本を通して、「割ってはいけない」は広まっていきました。

1909年には、アメリカの作家アンブローズ・ビアスが、言葉づかいのダメ出し集『Write It Right』でこの形を禁止しています。ところが同じ項目で、この非難は今ではかなり広まったが、誰かが言い出したのはごく最近のことらしい、とも書いています。昔の人も自分たちの世代も平気で使っていた。名前がなかったからかもしれない、と。禁止する本人が、新しいルールだと認めていたのです。

文法家が「to と動詞を割るな」と言い出したのは1800年代(アメリカン・ヘリテージ英語辞典)
文法家が「to と動詞を割るな」と言い出したのは1800年代(アメリカン・ヘリテージ英語辞典)

041926年、「世の中の人は5種類に分けられる」

この“ルール”をからかったのが、イギリスの辞書編集者 H・W・ファウラーです。1926年の『A Dictionary of Modern English Usage(現代英語用法辞典)』の split infinitive の項は、英語を使う人を5つに分けるところから始まります。

  1. 分割不定詞が何か知らないし、気にもしない人(大多数。うらやましい人たち)
  2. 知らないのに、ものすごく気にする人
  3. 知っていて、ダメだと言う人
  4. 知っていて、よいと言う人
  5. 知っていて、場合によって使い分ける人

ファウラーがこの項目で主に語りかけているのは2番の人たちです。割ってもいない文を割っていると思いこみ、副詞を変な場所に移して、かえって読みにくくしている、と言います。たとえば to be really understood は割れていません(to のすぐ後ろが be だから)。

そしてファウラーは、割ったほうがよい場合もあるとして、こんな例を出しています。

  • Our object is to further cement trade relations.(私たちの目的は、貿易関係をさらに固めることだ)

further を前に出して further to cement にすると、「さらに固める」なのか「さらに別の目的として、固める」なのかが、あいまいになるからです。

05文の頭の And・But も「迷信」

ファウラーの辞典には「SUPERSTITIONS(迷信)」という項目もあります。そこに出てくるのが、ある科学雑誌の編集者の話です。

その編集者は、文を But で始めた寄稿者の原稿を直し、「But で文を始めるのはまちがいだ。マコーリー(19世紀の有名な歴史家)もやっているのは知っているが、悪い英語だ」と書き送りました。寄稿者は納得せず、2人とも引かなかったので、記事は校正刷りから先に進まなかったそうです。ファウラーはこの編集者の言い分を「ナンセンス」と切り捨て、同じ仲間の“ルール”として「文を前置詞で終えるな」「不定詞を割るな」を並べています。

今の辞書も同じ立場です。

  • アメリカン・ヘリテージ英語辞典の and の解説:And や But で始まる文は「不完全な考え」だからダメという伝統的なルールは、シェイクスピアから現代の作家まで無視してきた。1988年に辞書の用法パネル(作家や学者などの協力者)にたずねたところ、このルールを自分の文章で「めったに、またはまったく気にしない」が40%、「いつも、またはたいてい気にする」は24%だった
  • 同じ辞典の but の解説:But で文を始めるのは、どんな文体でも認められる

その and の解説そのものが、2文目を But で始めています。

さらに古い例もあります。1611年に出た英語の聖書『欽定訳聖書』の創世記第1章は、31節のうち29節が And で始まります(今ふつうに読まれている形の本文を、Project Gutenberg 版で数えました)。

06どんでん返し:何でも割ってよいわけではない

では、どんな分割でも平気なのでしょうか。アメリカン・ヘリテージ英語辞典の用法パネル調査を見ると、答えは「割り方による」です。

  • The move allowed the company to legally pay the employees severance payments.(その措置で会社は退職金を合法的に支払えるようになった):認める人は 1988年に50% → 2005年に70%
  • We expect our output to more than double this year.(今年は生産量が2倍以上になる見こみだ):2005年に 91% が認めた
  • We are seeking a plan to gradually, systematically, and economically relieve the burden.(負担を段階的に、体系的に、経済的に軽くする計画を探している):to と動詞の間に3語も入ると、2005年でも 58%(1988年は23%)

20年ほどで、受け入れる人ははっきり増えました。それでも、間に入る言葉が長いほど、嫌がる人は残るのです。ルールが迷信だからといって、どんなに割っても読みやすいわけではありません。

作家の側の“反撃”もあります。言語学者のブログ「Language Log」(ペンシルベニア大学)が紹介した、ハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーの1947年の手紙です。チャンドラーは雑誌の編集長に、校正係へ「不定詞を割るときは、割ったままにするつもりで割っている」と伝えてほしい、と書いています。

07まとめ

to と動詞の間に副詞を入れる英語は、1300年代から使われてきました。「割るな」というルールが生まれたのは1800年代です。古い記録の一つ、1834年の雑誌の投稿者は「これまで規則はない」と認めたうえで提案し、その後、言葉づかいの本を通して広まりました。禁止した本人たちでさえ、新しいルールだと分かっていました。

文の頭の And・But も、辞書は認めています。ただし、間に長い言葉をはさむと読みにくくなるのは本当です。ルールだから避けるのではなく、読みやすいかどうかで決める。それが、ファウラーが100年前に言っていたことでした。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you put an adverb between "to" and a verb, as in "to really understand," you have made a split infinitive. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

If you put an adverb between "to" and a verb, as in "to really understand," you have made a split infinitive. For a long time, many grammar books treated this as a mistake. But it has been part of English since the 1300s, and writers such as Benjamin Franklin and Abraham Lincoln used it.

So where did the rule come from? In December 1834, a writer in a Boston magazine called The New-England Magazine complained about phrases like "to fully understand it." He admitted that he knew of no grammar book with a rule about this. Then he suggested one of his own. Dictionaries today say the form is fine, although some people still avoid it in formal writing.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

「to really understand」のように「to」と動詞の間に副詞を入れると、分割不定詞になる。長いあいだ、多くの文法書はこれをまちがいとして扱ってきた。でもこれは1300年代から英語の一部で、ベンジャミン・フランクリンやエイブラハム・リンカーンのような書き手も使っていた。

では、そのルールはどこから来たのか。1834年12月、ボストンの雑誌『ニューイングランド・マガジン』に書いたある人が、「to fully understand it」のような言い方に文句をつけた。彼は、この点について規則がのっている文法書は知らないと認めた。そのうえで、自分の規則を提案したのだ。今日の辞書はこの形を問題ないとしているが、改まった文章では今も避ける人がいる。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What did the 1834 writer admit?

Q3. What can we infer from the passage?

重要単語

  • infinitiveB2
    名詞(文法の)不定詞In "I want to go," "to go" is an infinitive. to+動詞の原形の形。split an infinitive で「不定詞を割る」。
  • adverbB1
    名詞副詞"Quickly" is an adverb. ad-(〜に)+verb(動詞)=「動詞につく語」。-ly で終わるものが多い。
  • boldlyB2
    副詞大胆にShe boldly asked the teacher a question. bold(大胆な)+-ly。太字の「ボールド体」も同じ bold。
  • ambiguousC1
    形容詞あいまいな、二通りに取れるThe sentence is ambiguous, so let's rewrite it. ambi-(両方)から。分割不定詞を避けると、かえって ambiguous になることがある。
  • superstitionB2
    名詞迷信It's a common superstition that black cats bring bad luck. ファウラーは「文頭の But はダメ」などのルールをこう呼んだ。形容詞は superstitious。
  • condemnB2
    動詞(強く)非難するMany grammarians once condemned split infinitives. n は発音しない(コンデム)。名詞は condemnation。
  • formalB1
    形容詞改まった、正式のAvoid slang in formal writing. 反対は informal。formal writing(改まった文章)は英作文の指示によく出る。
『スター・トレック』の to boldly go は「文法ミス」とされがちな形。でも to と動詞の間に副詞を入れる英語は1300年代からある。1834年に禁止を提案した雑誌の投稿者は「そんな規則を書いた文法書は知らない」と自分で書いていた。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「split infinitive」(Usage Note)・「and」「but」(Usage Note)ahdictionary.com
  2. Inaccuracies of Diction, Grammar (1834) The New-England Magazine 7, December 1834, pp. 467–470(Internet Archive)archive.org
  3. Alford, H. (1864) A Plea for the Queen's English, §238(Internet Archive)archive.org
  4. Fowler, H. W. (1926) A Dictionary of Modern English Usage, Oxford: Clarendon Press「SPLIT INFINITIVE」「SUPERSTITIONS」(1927年刷, Internet Archive)archive.org
  5. The Holy Bible, King James Version, Genesis 1(Project Gutenberg)gutenberg.org

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →