「knight」のkは昔ちゃんと発音していた。英語のつづりが“中世の発音”のまま固まったワケ

読む前に予想してみよう!
knight の k は、昔から一度も発音されたことのない飾りの文字だ
古英語では cniht とつづり、k の音があった。OED によると、語頭の n の前の k が読まれなくなったのは初期近代英語の時代。
- 対象
- 中世〜近代の英語の文献・つづり
- 規模
- 中英語の方言地図などの資料
- 研究の種類
- 歴史言語学(文献にもとづく研究)
- 確かさ
- ★★★★☆
knightやknowのkは昔は発音されていた。印刷でつづりが中世の形のまま固まる一方、発音はkが消えたり、母音が大きく動いたり(大母音推移)して変わったので、文字と音がズレた。
ひとことで言うとknightのkは昔は読んでいた。音が消えても文字だけ残ったんだ!
もくじ
knight(騎士)、knife(ナイフ)、know(知っている)、knee(ひざ)。英語を習いはじめたころ、「この k、なんで読まないの?」と思いませんでしたか。
答えはシンプルです。昔はちゃんと読んでいたから。
英語のつづりは、ある時期に「中世の発音」に近い形のまま固まっていきました。そのあとも発音だけがどんどん変わったので、文字と音がズレてしまったのです。knight の k は、いわば消えた音の化石です。
01「ナイト」は、もとは「少年」や「召使い」
knight は古英語(おおむね1150年より前の英語)では cniht とつづりました。アメリカの辞書 Merriam-Webster によると、古英語の cniht の意味は「武装した兵士(man-at-arms)、少年、召使い」。古高ドイツ語の kneht(若者・軍の従者)と親戚の言葉です。
いまの「騎士」のイメージとは、ちょっとちがいますね。knife も古英語では cnīf と、頭に c がついていました。そしてこの語頭の k は、n の前でもちゃんと発音されていたのです。
02k が消えたのは「初期近代英語」の時代
OED(オックスフォード英語辞典)の英語史の解説によると、語頭の k と g が n の前で発音されなくなったのは、初期近代英語の時代。15世紀の終わりごろに始まり、テューダー朝(1485〜1603年)とステュアート朝(1603〜1714年)にほぼ重なる時代です。
同じころ消えた子音として、OED は次のような例をあげています。
- gnaw(かじる)の g …… 語頭で n の前
- write(書く)の w …… 語頭で r の前
- lamb(子羊)の b、hang(かける)の g …… m や ng のあとの語末
- thistle(アザミ)や listen(聞く)の t …… 語の中ほど
さらに、night や bought の gh。これは昔、スコットランド英語の loch(湖)の ch のような、のどの奥でこする音でした。OED によると、標準的な英語ではこの gh の音が1600年ごろまで残り、その後いまの発音に置きかわりました(rough のように f の音になった語もあります)。
そして、ここからがとっておきのネタです。gh がほとんど読まれなくなると、今度はもともと gh がなかった単語にまで gh が入りこみました。OED がその例としてあげているのが delight(喜び)。night や light と同じような顔をしていますが、語源的には gh を持っていなかった単語なのです。
03印刷が、つづりを“冷凍”した
では、なぜつづりは発音に合わせて変わらなかったのでしょう。カギは印刷です。
イングランドに印刷術を持ちこんだのはウィリアム・キャクストンで、1476年のこと。印刷業者たちは、手書きの文書ですでに標準のようになっていたロンドンの英語で本を刷りはじめました。それ以前、つづりはかなり自由でした。OED によると、中世後期の英語の方言地図(A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English)には、through(〜を通って)だけで約500通りのつづりが記録されています。
16世紀、英語のつづりは発音からどんどん離れていきました。OED の解説はその主な理由をこう説明しています。印刷がつづりを中英語後期(中世後期の英語)の形で固めつつあった。ちょうどそのときに、発音が大きく変わっていたのです。
- 1475年ごろから1630年ごろにかけて、つづりは少しずつ整えられた
- 17世紀半ばには、印刷された本のつづりはほぼ今と同じに
- ただし手書きの文書では、教養のある人でも、18世紀に入ってもしばらくはつづりがかなり揺れていた
おまけにこの時代には、ラテン語の語源に合わせてつづりを書きかえる動きも強まりました(中英語の終わりごろに始まった傾向)。たとえば doubt(疑う)は中英語では doute。発音までつづりに合わせて変わった単語もあれば、変わらなかった単語もあり、後者が新しい黙字になりました。doubt の b は今も読みませんね。

04母音も大移動した「大母音推移」
変わったのは子音だけではありません。母音には、もっと大きな変化が起きていました。大母音推移(Great Vowel Shift)です。
OED は「かなり単純化した説明」と断ったうえで、mite(ダニ)・meet(会う)・mate(仲間)の3語で説明しています。中英語では、この3つの母音はラテン語やヨーロッパ大陸の言葉と同じような長い「イー」「エー」「アー」で、つづりどおりの読み方でした。それが推移のあと、
- 長い i は二重母音に(16世紀にはおそらく、ago の最初の母音のようなあいまいな音で始まる [əi] だった)
- 長い e は、空いた「イー」の位置へ
- 長い a は前寄りの音になり、のちに「エー」に近い音へ
と動きました(mouth や moot の母音にも似た変化)。英語で a を「エイ」、i を「アイ」と読むことが多く、ほかのヨーロッパの言葉とずれているのは、英語の母音のほうが動いたからなのです。
05どんでん返し:大母音推移は「一つの大事件」ではなかった?
「大母音推移」という名前は、言語学者イェスペルセンが1909年に付けたもの。教科書ではふつう、15世紀ごろに始まった、ひとつながりの連鎖的な変化として説明されます。どの母音が先に動いたかをめぐっても、長い論争がありました。
ところが2016年、ステンブレンデン(Stenbrenden)がケンブリッジ大学出版局から出した本で、この見方に異をとなえました。日本英語学会の学会誌『English Linguistics』に載った書評によると、彼女は多くの研究者が「書きまちがい」として捨ててきた中英語の不規則なつづりを、方言地図などから網羅的に集めて分析しました。そして、
- 母音の変化は、ふつう考えられているよりずっと早く始まっていた(長い i の二重母音化は13世紀に始まっていた可能性)
- 変化は順番に起きたのではなく、同時並行で進んでいた
- 「大母音推移」という一つの出来事があったのではなく、10世紀ごろから16〜17世紀まで長く続いた母音の変化の一部にすぎない
と結論づけています。ただし、変化のきっかけになった音の条件が何だったのかはまだわかっていないと本人も述べており、書評は、ほかの研究者によるさらなる検討が必要だと結んでいます。教科書の「大母音推移」は、長い歴史をわかりやすく切り取った“見出し”なのかもしれません。
06まとめ
knight の k、night の gh、doubt の b。英語の黙字は、昔の英語の発音や語源が、つづりの中に閉じこめられたものです。印刷がつづりを固めた時期と、発音が大きく変わった時期が重なったことが、英語のつづりを難しくしました。
次に knife や know を書くときは、500年ほど前のイングランドの人たちが、その k を発音していたかもしれないことを思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerKnight, knife, know, knee.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Why do we write a "k" in "knight," "knife" and "know"? Long ago, people said that sound. In Old English, "knight" was spelled "cniht," and it meant a boy or a servant.
Later, English speakers stopped saying the "k" before "n" at the start of a word. This happened after about 1500. By then, printers were already making English spelling more fixed. So the letter stayed, but the sound went away.
71 words ・ CEFR A2
和訳を見る
なぜ「knight」「knife」「know」に「k」を書くのでしょうか。ずっと昔、人々はその音を発音していました。古英語では「knight」は「cniht」とつづり、少年や召使いを意味しました。
その後、英語の話し手は、語の始めの「n」の前の「k」を発音しなくなりました。これは1500年ごろより後に起きました。そのころには、印刷業者がすでに英語のつづりを固定しつつありました。だから文字は残り、音は消えたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
冒頭で Why do we write a "k" in "knight"...? と問い、読まれない k の理由を説明しているので B。
Q2. What did "cniht" mean in Old English?
it meant a boy or a servant とあるので A。
Q3. In this passage, what does "fixed" mean?
making English spelling more fixed は「つづりをより固定されたものにする」。fixed はここでは「変わらない、決まった」の意味なので C。
Knight, knife, know, knee. Each of these words starts with a "k" that nobody pronounces today. But the letter was not always silent. In Old English the word for knight was "cniht," meaning a boy or a servant, and the "c" at the start was said as a "k" sound.
In the early modern English period, which began around 1500, speakers stopped pronouncing "k" and "g" before "n" at the start of a word. The "w" in "write" disappeared in the same way.
William Caxton brought printing to England in 1476, and printers fixed spelling in its older form while pronunciation kept changing. By the middle of the 1600s, most printed words were spelled as they are today. So modern spelling often shows how English sounded centuries ago.
128 words ・ CEFR B1
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knight、knife、know、knee。これらの単語はどれも、今日だれも発音しない「k」で始まる。しかし、その文字はいつも黙っていたわけではない。古英語では knight にあたる語は「cniht」で、少年や召使いを意味し、語頭の「c」は「k」の音で発音されていた。
1500年ごろに始まった初期近代英語の時代に、話し手たちは語の始めの「n」の前の「k」と「g」を発音しなくなった。「write」の「w」も同じように消えた。
ウィリアム・キャクストンが1476年にイングランドに印刷術を持ちこみ、印刷業者たちは、発音が変わり続けるあいだに、つづりを古い形で固めていった。1600年代半ばには、印刷されたほとんどの単語が今と同じようにつづられていた。だから現代のつづりは、何世紀も前の英語がどう聞こえていたかを示していることが多い。
4択リーディングクイズ
Q1. When did English speakers stop pronouncing "k" before "n"?
In the early modern English period, which began around 1500, speakers stopped pronouncing "k" and "g" before "n" とあるので B。
Q2. Who brought printing to England, and when?
William Caxton brought printing to England in 1476 とあるので A。
Q3. What can we infer from the passage?
最後の modern spelling often shows how English sounded centuries ago から、黙字は昔の発音の手がかりになると推測できる。正解は C。
The word "through" was once written in about 500 different ways. That count comes from a linguistic atlas of late medieval English, and it shows how loose spelling was before printing. After William Caxton brought printing to England in 1476, printers adopted the London English already used in handwritten documents, and by the mid-1600s printed spelling looked much like ours.
The timing caused trouble. Spelling was settling into its late Middle English form while pronunciation was changing fast. Speakers stopped pronouncing "k" before "n" in words such as "knight," and the throaty sound written "gh" in "night" faded from standard English around 1600. Once that "gh" had gone quiet, it even crept into "delight," a word that had never had it. Vowels moved too.
In the Great Vowel Shift, the long vowels of "mite," "meet" and "mate" took on new values, which is why English vowel letters sound different from their counterparts in other European languages. Some scholars now doubt that the shift was a single event. In a 2016 book, Gjertrud Stenbrenden studied irregular medieval spellings that earlier researchers had dismissed as errors, and argued that the changes began much earlier and ran side by side.
197 words ・ CEFR B2
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「through」という単語は、かつて約500通りのつづりで書かれていた。この数は中世後期の英語の方言地図によるもので、印刷以前のつづりがどれほどゆるかったかを示している。1476年にウィリアム・キャクストンがイングランドに印刷術を持ちこんだあと、印刷業者たちは手書きの文書ですでに使われていたロンドンの英語を採用し、1600年代半ばには印刷物のつづりは私たちのものとよく似たものになった。
このタイミングが問題を生んだ。つづりが中英語後期の形に落ち着きつつあったちょうどそのとき、発音は急速に変わっていたのだ。話し手たちは「knight」のような単語で「n」の前の「k」を発音しなくなり、「night」の「gh」とつづられるのどの奥の音は、1600年ごろに標準的な英語から消えていった。その「gh」が読まれなくなると、それは一度も gh を持ったことのない「delight」という単語にまで入りこんだ。母音も動いた。
大母音推移で「mite」「meet」「mate」の長母音は新しい音になり、そのため英語の母音字はほかのヨーロッパの言語の対応する文字とちがう音になっている。今では、この推移が一つの出来事だったことを疑う学者もいる。2016年の本で、ステンブレンデンは、それ以前の研究者たちが誤りとして退けてきた中世の不規則なつづりを調べ、変化はずっと早く始まり、同時並行で進んだと論じた。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, why does English spelling often not match pronunciation?
Spelling was settling into its late Middle English form while pronunciation was changing fast とあるので B。
Q2. What does the passage say about the word "delight"?
it even crept into "delight," a word that had never had it とあり、もともとなかった gh が入りこんだと述べているので C。
Q3. What did Stenbrenden argue?
argued that the changes began much earlier and ran side by side とあるので A。不規則なつづりを「誤り」とみなしたのは以前の研究者たち。
重要単語
- silent letterB1名詞黙字(つづりにあるのに発音しない文字)The "k" in "knee" is a silent letter.
silent は「静かな」。kn-, wr-, -mb などはグループで覚えると楽。 - pronounceB1動詞発音するPeople once pronounced the "k" in "know."
名詞は pronunciation。つづりが pronoun- ではなく pronun- になる点が入試の頻出ひっかけ。 - printing pressB1名詞印刷機The printing press helped books spread quickly.
press は「押す」。紙に版を押しつける機械なので press。報道機関を the press と呼ぶのもここから。 - medievalB2形容詞中世のMedieval writers spelled words in many different ways.
medi-(中間)+ev-(時代)。the Middle Ages「中世」とセットで覚える。 - vowelB1名詞母音English vowels changed a lot over the centuries.
反対は consonant(子音)。the Great Vowel Shift「大母音推移」は英語史の超定番用語。 - dismissB2動詞(考えなどを)退ける、取り合わないSome scholars dismissed the odd spellings as mistakes.
dismiss A as B「A を B だとして退ける」の形が頻出。「解散させる・解雇する」の意味もある。 - counterpartC1名詞対応するもの、相当するものThe Japanese minister met her British counterpart.
counter(対の)+part。「相手方の同じ立場の人」の意味でニュース英語に頻出。
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knight・knife・know の k、昔はちゃんと発音していたらしい。消えたのは1500年ごろからの「初期近代英語」の時代。ちょうど印刷でつづりが固まりつつあり、音だけ消えて文字が残った。黙字は昔の発音の化石。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Weiner, Edmund「Early modern English: grammar, pronunciation, and spelling」Oxford English Dictionary(History of English)oed.com
- Weiner, Edmund「Early Modern English – an overview」Oxford English Dictionary(History of English)oed.com
- Durkin, Philip「Middle English – an overview」Oxford English Dictionary(History of English)oed.com
- Ikegashira (2020) 書評:Stenbrenden, Long-Vowel Shifts in English, c.1050–1700: Evidence from Spelling (Cambridge University Press, 2016), English Linguistics 36(2)doi.org
- Merriam-Webster「knight」「knife」(Etymology)merriam-webster.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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