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「ask」を“アクス”と言うのは間違い? チョーサーも1534年の聖書も「axe」と書いていた

「ask」を“アクス”と言うのは間違い? チョーサーも1534年の聖書も「axe」と書いていた

読む前に予想してみよう!

ask を「アクス(aks)」と発音するのは、最近になって生まれた言い間違いだ

研究カード(どんな研究?)
対象
古英語〜近代英語の文献と辞書
規模
古英語の用例、14世紀のチョーサー、1380〜1611年の英訳聖書
研究の種類
歴史言語学(文献の照合)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

ask を「アクス(aks)」と言う発音は、古英語の時代からある。チョーサーも、1534年のティンダル訳の新約聖書も axe とつづっていた。

ひとことで言うとask を「アクス」と言う発音は、1000年以上前からあった!

もくじ
  1. ask と aks、何がちがう?
  2. 古英語には ascian も acsian もあった
  3. チョーサーは同じ1行に axe と aske
  4. 「求めよ、さらば与えられん」は Axe だった
  5. どんでん返し:「aks こそ本家」も言いすぎ
  6. いま aks を使うのはだれ?
  7. まとめ

"Can I aks you a question?"

英語の ask(たずねる)を「アスク」ではなく「アクス」と言う人がいます。英語圏では、これが「標準的でない、まちがった言い方」として低く見られることがあります。

ところが、ask を「アクス」と言う発音は、1000年以上前の古英語の時代からありました。14世紀の詩人チョーサーも、1534年のティンダル訳の新約聖書も、この語を axe とつづっていたのです。

01ask と aks、何がちがう?

ちがいは、s と k の順番だけです。

  • ask:ア・ス・ク(s → k)
  • aks:ア・ク・ス(k → s)

このように、単語の中の音の順番が入れかわることを、言語学で metathesis(音位転換) と言います。アメリカの辞書 AHD は、音位転換は世界中の言語でよく起きることで、話し方の欠陥から生まれるものではないと説明しています。

英語にも、音が入れかわってできた単語はたくさんあります。AHD の語源欄で確かめると、

  • bird(鳥)← 古英語 brid(ひな鳥)
  • third(3番目)← 古英語 thridda
  • wasp(スズメバチ)← 古英語 wæps と wæsp の両方

今の bird を「brid がなまった間違いだ」と言う人はいません。ask と aks も、同じしくみの話なのです。

02古英語には ascian も acsian もあった

では、ask の祖先を見てみましょう。

古英語の辞書として知られる Bosworth-Toller の『アングロ・サクソン語辞典』では、「たずねる」の動詞は ascian の見出しで、別の形として acsian、ahsian、axian が並んでいます。オックスフォードの学習辞典の語源欄も、古英語の āscian、āhsian、āxian を挙げています。

その後の中英語(チョーサーなどの時代の英語)について、Dictionary.com は asken と axen の両方を挙げています。つまり、s→k の形と k→s の形は、長いあいだ並んで使われてきたのです。

03チョーサーは同じ1行に axe と aske

14世紀のイングランドの詩人ジェフリー・チョーサー(1340年ごろ〜1400年)の『カンタベリー物語』を見てみましょう。ケンブリッジ大学の古英語学者スキートが編み、オックスフォードのクラレンドン・プレスから出た版で、こんな行が見つかります。

Axe nat why, for though thou aske me,

(理由はきくな。たとえきかれても〔神の秘密は話せない〕)

これは「粉屋の話」の3557行目。同じ1行の中に、axe と aske の両方が出てきます。「バースの女房の話」の前口上にも、But that I axe, why that the fifthe man...(でも私はたずねたい、なぜ5人目の男は…)という行があります。

AHD も、チョーサーの写本では asken と axen が区別なく使われていると書いています。チョーサーにとって、axe はふつうの書き方の一つだったのです。

チョーサーの『カンタベリー物語』には、axe と aske の両方が出てくる(スキート編の版による)
チョーサーの『カンタベリー物語』には、axe と aske の両方が出てくる(スキート編の版による)

04「求めよ、さらば与えられん」は Axe だった

もっと有名な例もあります。新約聖書『マタイによる福音書』7章7節、「求めよ、さらば与えられん」の部分です。1841年に出た対照本『English Hexapla』は、6つの英訳を横に並べています。そのうち4つを見てみましょう(年は Hexapla の表記です)。

  • 1380年 ウィクリフ訳:Axe ȝe and it schal be ȝouun to ȝou
  • 1534年 ティンダル訳:Axe and it shalbe geven you
  • 1539年 クランマー訳:Aske, and it shalbe geuen you
  • 1611年 欽定訳:Aske, and it shalbe giuen you

(ȝ は古い文字で、ȝou は今の you にあたります)

1534年のティンダル訳では Axe、5年後のクランマー訳では Aske。16世紀の前半には、聖書の「求めよ」にまだ axe のつづりが使われていたのです。

05どんでん返し:「aks こそ本家」も言いすぎ

ここまで読むと、「じゃあ aks のほうが正しい元の形なんだ!」と言いたくなります。でも、それも言いすぎです。

AHD は、x の形は sk の形から音位転換で生まれたと説明しています。Dictionary.com の語源欄を見ても、ask の仲間であるゲルマン語の古い形(古フリジア語 āskia、古ザクセン語 ēscon、古高ドイツ語 eiscōn)は、どれも s→k の順番です。つまり、もとの順番は ask のほうで、aks はとても早い時代に生まれた「もう一つの形」と考えられます。

もう一つ注意したいのは、聖書のつづりが1534年の Axe から1539年の Aske に変わったからといって、人々の話し方が5年で一気に変わったとは言えないことです。分かるのは、訳した人がどちらのつづりを選んだか、までです。

エセックス大学の言語学者たちによると、かつてイングランドでは南部と中部で aks がふつうの発音、北部では ask が多く、のちに北部の ask が標準になりました。

06いま aks を使うのはだれ?

AHD の注記によると、aks(ax)は今、アフリカ系アメリカ人の英語(African American Vernacular English)の目立つ特徴の一つとして、よく取り上げられます。アメリカ南部の白人の話し言葉にも、ときどき出てきます。かつてはニューイングランドの人々もよく使っていましたが、19世紀の初めにはほぼ使われなくなりました。

エセックス大学の言語学者たちは、aks が19世紀後半に「アフリカ系アメリカ人だけのもの」というステレオタイプで見られるようになったと指摘しています。イギリスでも、ロンドンで移民の言語などとの接触から生まれた方言(Multicultural London English)に aks があります。

AHD は、ax が「標準以下」という烙印を押されたのは、ain't などと同じ運命だと書いています。かつては教養のある人も使っていた形が、あとから低く見られるようになったのです。エセックス大学の言語学者たちは、こうしたことばへの偏見が、何世代もの子どもたちが学校で力を出しきれない原因になってきたことを、研究を挙げて指摘しています。

07まとめ

ask を「アクス」と言う発音は、最近の言い間違いではありません。古英語から続き、チョーサーも16世紀の聖書も axe と書いていました。

今の標準英語では ask が使われます。英語を学ぶ私たちは ask で話しつつ、aks にも1000年の歴史があることを知っておくと、英語の見え方が少し変わるはずです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you say "aks" instead of "ask," some listeners may think you are speaking badly. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

If you say "aks" instead of "ask," some listeners may think you are speaking badly. But this way of saying the word has a very long history. Old English already had two forms of the verb, "ascian" and "acsian."

The s and k sounds simply changed places. Linguists call this metathesis. The same kind of change gave us "bird," which was "brid" in Old English. In the 14th century, Chaucer used both "axe" and "aske," once even in the same line.

Bible translations show both forms as well. In 1534, William Tyndale wrote "Axe and it shalbe geven you," but a translation from 1539 has "Aske." Over time, "ask," more common in the north of England, became the standard.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

「ask」の代わりに「aks」と言うと、聞き手の中には話し方がよくないと思う人もいるかもしれない。だが、この言い方にはとても長い歴史がある。古英語にはすでに、この動詞の2つの形「ascian」と「acsian」があった。

s と k の音が入れかわっただけだ。言語学者はこれを音位転換と呼ぶ。同じ種類の変化から「bird」も生まれた。古英語では「brid」だったのだ。14世紀、チョーサーは「axe」と「aske」の両方を使い、一度は同じ行の中で使ってさえいる。

聖書の翻訳にも両方の形が見られる。1534年、ウィリアム・ティンダルは「Axe and it shalbe geven you(求めよ、さらば与えられん)」と書いたが、1539年の訳では「Aske」になっている。やがて、イングランド北部でより一般的だった「ask」が標準になった。

4択リーディングクイズ

Q1. What does the passage say about Old English?

Q2. Why does the writer mention the word "bird"?

Q3. What can we infer from the two Bible translations?

重要単語

  • pronunciationB1
    名詞発音The pronunciation of this word has changed over time. 動詞は pronounce だが、名詞は pronunciation(-noun- ではなく -nun-)。つづりの間違いが多い語。
  • metathesisC2
    名詞音位転換(音の順番が入れかわること)"Aks" for "ask" is an example of metathesis. bird(古英語 brid)、third(古英語 thridda)も同じ現象の例。
  • dialectB2
    名詞方言People in the north and south of England spoke different dialects. accent は「発音のなまり」、dialect は語彙や文法も含む「方言」。
  • standardB1
    形容詞標準の"Ask" is the standard pronunciation today. Standard English「標準英語」。名詞では「基準、水準」。
  • stigmaC1
    名詞汚名、悪いイメージThere was no stigma attached to "axe" in Chaucer's time. attach a stigma to ~「~に悪いイメージをつける」。形容詞 stigmatized。
  • prejudiceB2
    名詞偏見Laughing at someone's accent can come from prejudice. pre(前もって)+judice(判断)。linguistic prejudice「ことばへの偏見」。
  • translationB1
    名詞翻訳、訳This translation of the Bible was printed in 1534. translate(訳す)の名詞形。in translation「翻訳で」。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「ask」を“アクス”と言うのは間違い? チョーサーも1534年の聖書も「axe」と書いていたの4コマ漫画
ask を「アクス」と言うのは間違い? 古英語に ascian と acsian の両方があり、14世紀のチョーサーも axe と書いた。1534年のティンダル訳の新約聖書でも「求めよ」は Axe だった。

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出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「ax²」(Our Living Language の注記)ahdictionary.com
  2. Bosworth & Toller, An Anglo-Saxon Dictionary「ascian」(acsian, ahsian, axian)bosworthtoller.com
  3. Chaucer, G. The Canterbury Tales, ed. W. W. Skeat, Chaucer's Works Vol. 4(Oxford, Clarendon Press。Project Gutenberg #22120)gutenberg.org
  4. The English Hexapla(London: S. Bagster, 1841。Wiclif 1380・Tyndale 1534・Cranmer 1539・Authorised 1611 などの対照本。Internet Archive)archive.org
  5. Cole, Patrick & Jeffries (2022) Ask or aks? How linguistic prejudice perpetuates inequality, The Conversation(エセックス大学の言語学者)doi.org
  6. Dictionary.com「ask」(Origin)dictionary.com

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