看板の「Ye Olde」の Ye は“あなた”でなく the。y は消えた文字「þ」の代役

読む前に予想してみよう!
看板の「Ye Olde Shoppe」の Ye は、昔の英語で「あなたたち」という意味の言葉だ
看板の Ye は定冠詞 the の古い書き方。th を表す文字 þ(ソーン)の代わりに y を使ったもの。「あなたたち」の ye は形が同じでも別の単語。
- 対象
- 中英語〜近代英語の手書き文書・印刷物
- 規模
- 15〜19世紀の書き方
- 研究の種類
- 辞書の語源記述の照合(英語史)
- 確かさ
- ★★★★☆
看板の「Ye Olde」の Ye は the の古い書き方。th を表した古い文字 þ(ソーン)が y とそっくりになり、y で代用されたのが始まり。
ひとことで言うとYe Olde の Ye は the。昔の文字 þ が y に見えたせいなんだって!
もくじ
古風なお店やパブの看板で、こんな名前を見たことはありませんか。
Ye Olde Tea Shoppe
いかにも「昔からある店」という感じの名前です。英語を習った人ほど、この Ye を「あなたたち」という古い言葉だと思うかもしれません。
ところが、この Ye の正体は、ふつうの the。y は、今の英語から消えた þ(ソーン) という文字の「代役」でした。
01Ye Olde の Ye の意味は? 正体は「the」の古い書き方
アメリカの辞書『The American Heritage Dictionary』(AHD)は、看板の ye を「the の古風な形」として、代名詞の ye とは別の見出しにしています。
AHD の解説によると、"Ye Olde Coffee Shoppe" のような看板の Ye は、古風な代名詞の ye と見た目は同じでも、中身はまったく別の単語。ただの the の古いつづりです。
イギリスの学習辞典も同じ説明です。
- Oxford:the を意味する語。パブや店の名前を古く見せるために使う。例 Ye Olde Starre Inn
- Cambridge:the を意味する語。特にパブの名前を古く見せるのに使う。例 a pub in the village called Ye Olde Barn
つまり "Ye Olde Tea Shoppe" は、今の英語なら "The Old Tea Shop"。「あなたたちの古い茶店」ではありません。
02消えた文字「þ」(ソーン)
では、なぜ the が ye になったのでしょう。カギは、英語がかつて使っていた þ という文字です。
AHD によると、þ はルーン文字から来た文字で、古英語・中英語・古ノルド語(昔の北欧の言葉)の写本で、th の2つの音を表していました。thin の「ス」に近い音と、this の「ズ」に近い音です。今でもアイスランド語では、thin の方の音を表す文字として使われています。
この文字の名前は thorn(ソーン)。英語で「とげ」を意味する、あの thorn と同じ単語です。AHD でも Oxford でも、「とげ」と同じ見出しの中に、文字としての意味が並んでいます。
þe と書けば、それは「the」。これが ye の正体です。
03y に化けた理由は「手書き」と「印刷機」
þ が y になった理由について、辞書は2つの事情を挙げています。
1つ目は手書きの形です。AHD によると、当時の手書きでは、þ の丸い部分が縦の線とつながらずに書かれることが多く、y とそっくりに見えました。Oxford も、中英語の終わりごろには þ と y が同じ形で書かれるようになったと説明しています。
2つ目は印刷機です。AHD によると、1470年代にイングランドで印刷が始まったとき、活字はヨーロッパ大陸から持ちこまれました。大陸では þ を使っていなかったので、活字にも þ がありません。そこで印刷業者は、いちばん形の近い y で代用しました。
ちなみに、英語で最初に印刷された本は、ウィリアム・キャクストンが出した『トロイ物語集(Recuyell of the Historyes of Troye)』です。AHD は「1475年ごろ」としていますが、アメリカのフォルジャー・シェイクスピア図書館の蔵書目録では、印刷した場所はイングランドではなく大陸のブルッヘ(いまのベルギー)、年は1473年か1474年とされています。英語の最初の印刷本も、大陸で刷られていたわけです。
y で代用されたのは the だけではありません。AHD は、that を yt や yat と書く例も挙げていて、こうした書き方は1800年代まで残ったといいます。

04olde や shoppe も「昔っぽさ」の演出
看板の「古さ」は、Ye だけではありません。
Oxford の学習辞典によると、olde は old の昔のつづりで、今では「伝統がある」という印象を出すために、店の名前や広告で使われる書き方です。AHD も shoppe を shop の別のつづりとして載せています。
Dictionary.com に載っている Collins の英英辞典は、看板の ye を「ほかの“古そうな”つづりといっしょに使う the の形」と説明し、例に ye olde oake を挙げています。Ye・Olde・Shoppe は、3つ合わせて「昔っぽさ」を出すセットなのです。
05本物の「あなたたち」の ye もある
ややこしいのは、英語には本当に「あなたたち」を意味する ye もあることです。
AHD によると、こちらの ye は古英語の gē から来た代名詞です。古英語では、1人の相手には thu(のちの thou)、2人以上の相手には ge(のちの ye)を使っていました。その後 you が広まり、1600年までには you がほぼ ye に取ってかわったといいます。
この ye は、聖書や古い詩の中で今も目にします。
- Judge not, that ye be not judged.(人を裁くな、自分が裁かれないために。欽定訳聖書。AHD の用例)
- Gather ye rosebuds while ye may.(バラのつぼみは摘めるうちに摘め。Oxford の用例)
- Ye gods!(なんてこった! 古風な驚きの言葉。Oxford)
見分ける目安は、使われている場所です。店やパブの名前で Ye Olde ~ と続くなら the の ye。聖書や詩の中で「あなたたちは」「あなたたちよ」の意味なら代名詞の ye です(Ye gods! も「神々よ!」という呼びかけなので代名詞)。
06どんでん返し:「イー」と読むのも、今は辞書にのっている
ここまで読むと、「じゃあ Ye Olde は『ジ・オールド』と読むのが正しいの?」と思うかもしれません。
ところが、そう単純ではありません。AHD は、古い the の書き方は復活したものの、その発音の知識はいっしょに復活しなかったとして、今のふつうの発音は「イー(yē)」だと書いています。
Cambridge と Oxford の学習辞典が看板の ye の発音として載せているのも /jiː/(イー)だけです。Dictionary.com は「ズィー(thee)」と「イー(yee)」の両方を載せたうえで、「イー」はつづりにひっぱられて生まれた読み方(スペリング発音)だと説明しています。
つまり、中身は the でも、看板の Ye を「イー」と読むのは、今では辞書にのっている読み方です。
もう1つ、辞書によって力点の置き方が少しちがいます。AHD は「初期の印刷業者の工夫」を強調し、Oxford は「中英語の手書きの段階で、すでに þ と y が同じ形になっていた」ことを強調しています。y への置きかえは、印刷機だけが生んだものではなさそうです。
07まとめ
看板の Ye Olde の Ye は、「あなたたち」ではなく the。th の音を表した古い文字 þ(ソーン)が、手書きで y とそっくりになり、さらに大陸から来た活字にも þ がなかったため、y で代用されたのが始まりでした。
次に Ye Olde の看板を見かけたら、心の中で「これは the」とつぶやいてみてください。y の下に、消えた文字 þ が隠れています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerShops and pubs that want to look old sometimes choose names like "Ye Olde Tea Shoppe." The "ye" in these…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some old-style shops and pubs have names like "Ye Olde Tea Shoppe." Many people think "ye" means "you" here. It doesn't. It means "the."
Long ago, English had a letter called thorn, written þ. It stood for the "th" sound. Over time, people began to write it so that it looked just like a "y."
So "the" sometimes looked like "ye." Today most English speakers say "yee" when they read these signs.
72 words ・ CEFR A2
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昔風のお店やパブには、「Ye Olde Tea Shoppe」のような名前のものがあります。ここでの「ye」は「あなた」の意味だと思う人がたくさんいます。でも違います。「the」という意味なのです。
ずっと昔、英語には thorn(ソーン)という文字があり、þ と書きました。この文字は「th」の音を表していました。時がたつにつれ、人々はこの文字を「y」とそっくりに見える形で書くようになりました。
そのため「the」が「ye」のように見えることがあったのです。今では、英語を話す人の多くは、こうした看板を読むとき「イー」と発音します。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
看板の「ye」が実は「the」である理由を説明している文章なので A。
Q2. What sound did the letter thorn stand for?
It stood for the "th" sound. とあるので B。
Q3. In the passage, "stood for" is closest in meaning to ...
stand for は「(文字や記号が)〜を表す」。「th の音を表していた」という意味なので C。
Shops and pubs that want to look old sometimes choose names like "Ye Olde Tea Shoppe." The "ye" in these names is not the old word for "you." It is an old way of writing "the."
Old English used a letter called thorn (þ) for the "th" sound. By late Middle English times, people often wrote thorn so that it looked the same as "y."
Then printing reached England in the 1470s. The metal type came from mainland Europe, where nobody used thorn, so printers used "y" instead. For a long time, people also wrote "the" as a "y" with a small "e" above it. In handwriting, this short form lasted into the 1800s.
114 words ・ CEFR B1
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古く見せたいお店やパブは、「Ye Olde Tea Shoppe」のような名前を選ぶことがある。こうした名前の「ye」は、「あなた」を意味する古い言葉ではない。「the」の古い書き方なのだ。
古英語では「th」の音を表すのに thorn(þ)という文字を使っていた。中英語の終わりごろには、人々は thorn を「y」と同じに見える形で書くことが多くなっていた。
その後、1470年代に印刷がイングランドに伝わった。金属の活字はヨーロッパ大陸から来たもので、大陸では thorn を使う人がいなかったため、印刷業者は代わりに「y」を使った。また長い間、人々は「the」を、上に小さな「e」をのせた「y」の形でも書いた。手書きでは、この略し方は1800年代まで続いた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
古い文字 thorn のせいで「the」が「ye」に見えるようになった経緯を説明しているので A。
Q2. Why did early printers in England use "y"?
The metal type came from mainland Europe, where nobody used thorn, so printers used "y" instead. とあるので B。
Q3. What can we infer about the "ye" in "Ye Olde Tea Shoppe"?
It is an old way of writing "the." とあり、ye は見た目が変わっただけの the だと分かるので C。
The word "Ye" on a sign such as "Ye Olde Tea Shoppe" looks like the old pronoun that meant "you," as in the Bible line "Judge not, that ye be not judged." But the two are separate words. The pronoun comes from Old English "ge." The "ye" on shop signs is the word "the," spelled with a letter English no longer uses. That letter, thorn (þ), stood for both "th" sounds, the one in "thin" and the one in "this."
In late medieval handwriting it came to look almost exactly like "y." When printing arrived in England in the 1470s, the type was made in mainland Europe and had no thorn, so printers used "y." Dictionaries tell this story a little differently. The American Heritage Dictionary puts the weight on the printers, while Oxford points out that the two letters had already become identical in handwriting. People at the time did not read the word as "yee."
Today, though, "yee" is the normal way to say it, and two major learner's dictionaries list only that pronunciation. Shop owners add "olde" and "shoppe" for the same old-time feel.
187 words ・ CEFR B2
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「Ye Olde Tea Shoppe」のような看板の「Ye」は、聖書の一節「Judge not, that ye be not judged(人を裁くな、自分が裁かれないために)」に出てくるような、「あなたたち」を意味する古い代名詞に見える。しかし、この2つは別の単語だ。代名詞の方は古英語の「ge」から来ている。店の看板の「ye」は、英語が今はもう使っていない文字でつづった「the」なのだ。その文字 thorn(þ)は、「thin」の th と「this」の th という、2つの th の音の両方を表していた。
中世の終わりごろの手書きでは、この文字は「y」とほとんど同じに見えるようになった。1470年代にイングランドに印刷が伝わったとき、活字はヨーロッパ大陸で作られたもので thorn がなかったため、印刷業者は「y」を使った。この話の説明は辞書によって少しちがう。American Heritage Dictionary は印刷業者の方に重きを置くが、Oxford は、2つの文字が手書きの段階ですでに同じ形になっていたことを指摘している。当時の人は、この語を「イー」とは読まなかった。
それでも今では「イー」がふつうの言い方で、主な学習英英辞典のうち2つはその発音だけを載せている。店主たちは、同じ昔風の雰囲気を出すために「olde」や「shoppe」も付け加えるのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
看板の ye の由来と、今どう発音されるかを説明しているので B。
Q2. According to the passage, what does Oxford point out?
Oxford points out that the two letters had already become identical in handwriting とあるので C。
Q3. What would the writer most likely say about someone who reads "Ye Olde" as "yee olde" today?
Today, though, "yee" is the normal way to say it とあるので、今のふつうの読み方だと考えるはず。A。
重要単語
- archaicC1形容詞古風な、今は使われない"Ye" is an archaic word for "you."
辞書で(archaic)とあれば「古語」の印。発音はアーケイイック。 - thornB2名詞とげ;(古英語の文字)þI got a thorn in my finger from the rose.
a thorn in my side「悩みの種」。古い文字 þ の名前も同じ thorn。 - handwritingB1名詞手書きの文字、筆跡Her handwriting is hard to read.
hand(手)+writing(書くこと)。数えない名詞。 - printingB1名詞印刷、印刷術Printing reached England in the 1470s.
printer は「印刷機」と「印刷業者」の両方の意味がある。 - pronounB1名詞代名詞"You" and "they" are pronouns.
pro-(代わり)+noun(名詞)=名詞の代わり。 - pronunciationB1名詞発音What is the pronunciation of this word?
動詞は pronounce なのに、名詞は pronunciation(-nounce- ではなく -nunci-)。つづりミスの定番。 - pubA2名詞パブ、酒場There is an old pub next to the church.
public house の略。古風な店名の Ye Olde ~ はパブの名前でよく使われる(Cambridge の説明)。
公式・一次情報をチェック
- thorn(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- Caxton(The American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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店名「Ye Olde Tea Shoppe」の Ye は“あなたたち”ではなく the。th を表す古い文字 þ(ソーン)が y とそっくりになり、1470年代のイングランドの活字にも þ がなく、y で代用された。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.(HarperCollins)"ye"(定冠詞の語源・Usage Note、代名詞の語源)ahdictionary.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary "ye"(determiner・Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Dictionary.com(Random House Unabridged)"ye"(発音・Spelling の注記)dictionary.com
- Cambridge Dictionary "ye"(determiner)dictionary.cambridge.org
- Oxford Advanced Learner's Dictionary "olde"oxfordlearnersdictionaries.com
- Folger Shakespeare Library Catalog「Recuyell of the historyes of Troye」([Bruges], [1473 or 1474])catalog.folger.edu
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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