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英語のマジか!?ホント

昔の英語は s を f そっくりに書いた。だから Congress が「Congrefs」に見える

昔の英語は s を f そっくりに書いた。だから Congress が「Congrefs」に見える

読む前に予想してみよう!

18世紀の英語の本で s が f のような形をしているのは、当時の人が s を f と発音していたからだ

研究カード(どんな研究?)
対象
18〜19世紀の英語の印刷物・手書き文書・デジタル化された本
規模
1700年代〜1870年代の資料・約800万冊の本のデータ(Google ブックス第2版)
研究の種類
文書調査・コーパス分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

18世紀の英語では、語のはじめや途中の s を、f そっくりの「ſ(長い s)」で書くことが多かった。権利章典の Congress も Congrefs に見える。印刷からは1800年代のはじめに消えた。

ひとことで言うと昔の英語では s を f みたいな形で書いていたんだって!

もくじ
  1. Congress の「f」の正体は「長い s(ſ)」
  2. 1800年代のはじめ、印刷から消えた
  3. コンピューターまで「same」を「fame」と読み違えた
  4. 長い s の“親戚”は、今も身近にいる
  5. どんでん返し:手書きでは、もっと長く残った
  6. まとめ

アメリカの首都ワシントンにある国立公文書館。その円形ホールには、1789年に議会が憲法の修正案をまとめた権利章典(Bill of Rights)の原本が展示されています。

この文書を見た来館者から、とてもよく出る質問があります。

「見出しの Congress(議会)、f が入っていませんか?」

たしかに、見出しは「Congrefs」と読めてしまいます。でも、これは書き間違いではありません。この f のような文字は、昔の英語で使われた「s」のもう一つの形です。

01Congress の「f」の正体は「長い s(ſ)」

国立公文書館のブログ(2021年)によると、この文字はいま long s(長い s)と呼ばれ、ſ と書きます。f とそっくりですが、よく見ると少しちがいます。

  • 印刷の文字:f は横棒が縦の線をつらぬいている。ſ は横棒が左側にしか出ていない
  • 手書きの文字:ſ は下の部分が左に曲がる。f は右に曲がるか、曲がらない

つまり ſ は、f ではなく s の仲間。発音もふつうの s と同じです。同じ文字を、置く場所によって形を変えて書いていたのです。

021800年代のはじめ、印刷から消えた

長い s は、いつ消えたのでしょう。

国立公文書館のブログによると、英語で長い s が使われなくなるまでには、18世紀半ばから19世紀はじめまで、ほぼ1世紀かかりました。始まりは手書きで、帳簿や公文書に使われた読みやすい筆記体「ラウンドハンド」で ſ が使われなくなったことでした。1787年の合衆国憲法の草稿にも、その移り変わりが見えるそうです。

印刷のほうは、さらに何十年か遅れました。活字は金属でできていて、ſ をやめるには新しい活字を作り直し、活字を入れておく箱の配置も変えなければなりません。しかも当時の活字には、ſh・ſt・ſs のように2文字がくっついた活字がたくさんあり、1文字やめるだけでは済まなかったのです。

ブログによると、印刷物から ſ が消えたのはイングランドで1810〜1820年代。アメリカではそれより少し早く消えました。

学術誌『English Language and Linguistics』に載った2012年の論文も、印刷での ſ は18世紀の終わりに使われなくなり、19世紀の最初の25年でほぼ姿を消したというのが一般的な見方だ、と整理しています。消えた理由としてよく挙げられるのは、印刷屋が活字を組む作業を簡単にしたかったから。

1700年代の英語の本では、単語のはじめや途中の s が f そっくりの「ſ」で印刷されていた
1700年代の英語の本では、単語のはじめや途中の s が f そっくりの「ſ」で印刷されていた

03コンピューターまで「same」を「fame」と読み違えた

この文字は、21世紀のコンピューターも困らせました。

Google は世界の大学図書館などの本をスキャンし、文字を自動で読み取って、何百万冊もの本のデータを作りました。どの年代にどの単語がよく使われたかを調べられる、言葉の研究の大きな材料です。

アメリカのバーモント大学の研究チームが2015年に学術誌『PLOS ONE』に発表した論文は、このデータの弱点を調べました。1800〜1809年の本と1810〜1819年の本で単語の数をくらべると、いちばん大きく動いた単語は「fame(名声)」の減少でした。1800〜1809年の本では、長い s で印刷された same などが fame と読み取られ、fame が実際より多く数えられていたと考えられます。

1810年代の本には、ナポレオンの名前がぐっと多く出てくるようになりました。それでも、データの上でいちばん大きく動いたのは、その英雄の名前ではなく、長い s が消えたせいで「fame が減って same が増えた」ことでした。lise(life の読み違い)のように、逆に f を s と読んだ例もあります。

04長い s の“親戚”は、今も身近にいる

長い s そのものは消えましたが、その形や仕組みは今も残っています。

  • ∫(インテグラル、積分の記号):数学者ライプニッツが1675年10月29日のメモで初めて使った。メモには「omn.(すべての)の代わりに ∫ と書くとよい。∫l は l をすべて足したもの」とある(MacTutor 数学史)。数学記号の歴史をまとめたカジョリの本(1929年)は、ライプニッツが選んだのは summa(ラテン語で「合計」)の長い sだったと書いている
  • ß(ドイツ語のエスツェット):米国立公文書館のブログは、ss の書き方のルールを説明する中で、ドイツ語の ß を長い s の「親戚」として挙げている
  • ギリシャ文字のシグマ:ギリシャ語でも、σ と、単語の最後に使う ς の2つの形を使い分ける。「語の最後だけ形が変わる s」は英語だけの話ではない

05どんでん返し:手書きでは、もっと長く残った

印刷から消えたのは、イングランドでも1820年代ごろまで。ところが、手書きの世界では話がちがいました。

国立公文書館のブログによると、長い s は手書きではときどき残り(とくに単語の最後の ss を「ſs」と書く形)、文字の書き方を教える手本の本には1870年代まで出てきます。南北戦争(1861〜1865年)のころの記録にも、ときどき ſs が見つかるそうです。前に出た2012年の論文も、印刷で ſ が消えたことはよく調べられているのに、手書きで何が起きたかを調べた研究はほとんどないと書いています。この論文は、その空白を埋めるために、18世紀の文法家ジョゼフ・プリーストリーとリンドリー・マリーの手紙での使い方を、印刷のルールとくらべました。

そして、いちばん根本の謎はまだ解けていません。そもそも、なぜ s に長い形があったのか。国立公文書館のブログは、これに「はっきりした答えはない」と書いています。

06まとめ

権利章典の「Congrefs」は書き間違いではなく、Congreſs。単語のはじめと途中で s を f そっくりに書く、ほんの200年ほど前までの英語のルールでした。

その名残は、数学の ∫ や、ドイツ語の ß に今も残っています。そして21世紀のコンピューターまで、古い本の same を fame と読み違えていたのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you look closely at an English book from the 1700s, many words seem to be full of f's. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

If you look closely at an English book from the 1700s, many words seem to be full of f's. These are not f's at all. They are a form of s called the "long s," which writers and printers used at the start or in the middle of a word. A normal s went at the end.

So "possess" was written "poſſeſs," and "Congress" became "Congreſs." You can tell the two letters apart by the crossbar. On an f it goes all the way across, but on a long s it sticks out only on the left.

The long s fell out of use in printing in the early 1800s. Printers had to make new metal type to replace it, so the change took some time.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1700年代の英語の本をよく見ると、多くの単語が f だらけに見える。それらはまったく f ではない。「長い s」と呼ばれる s の一つの形で、書き手や印刷屋が単語のはじめや途中に使っていた。単語の最後にはふつうの s が来た。

だから「possess」は「poſſeſs」と書かれ、「Congress」は「Congreſs」になった。この2つの文字は横棒で見分けられる。f では横棒がつらぬいているが、長い s では左側にしか出ていない。

長い s は1800年代のはじめに印刷で使われなくなった。印刷屋はそれに代わる新しい金属の活字を作らなければならなかったので、切り替えには時間がかかった。

4択リーディングクイズ

Q1. How was "Congress" written with the long s?

Q2. How can you tell a long s from an f?

Q3. Why did the change away from the long s take time in printing?

重要単語

  • long sC1
    名詞長い s(ſ)The long s looks like an f without the full crossbar. 単語のはじめと途中で使い、最後には使わない。発音はふつうの s と同じ。
  • printerB1
    名詞印刷業者、印刷工;印刷機Printers stopped using the long s in the early 1800s. print(印刷する)+-er。今は「(パソコンの)プリンター」の意味がふつう。
  • crossbarC1
    名詞横棒On an f, the crossbar goes all the way across. cross(横切る)+bar(棒)。サッカーのゴールの「クロスバー」も同じ語。
  • handwritingB1
    名詞手書き(の文字)、筆跡His handwriting is hard to read. 数えられない名詞。in his own handwriting で「本人の手書きで」。
  • misreadB2
    動詞読み違えるThe computer misread "same" as "fame." mis-(誤って)+read。misread A as B で「A を B と読み違える」。過去形も misread(発音はミスレッド)。
  • documentB1
    名詞文書、記録The National Archives keeps the original document. 動詞では「記録する」。documentary(記録映画)も同じ仲間。
  • fall out of useB2
    熟語使われなくなるThe long s fell out of use in the early 1800s. go out of use も同じ意味。反対は come into use(使われ始める)。
アメリカの権利章典の Congress は「Congrefs」に見える。正体は f ではなく「長い s(ſ)」。昔の英語は語のはじめと途中の s をこう書いた。Google ブックスのデータでは、古い本の same が fame と読み違えられていたらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Bartgis (2021) The Long S, Pieces of History(米国立公文書館ブログ)prologue.blogs.archives.gov
  2. Fens-de Zeeuw & Straaijer (2012) Long-s in Late Modern English manuscripts, English Language and Linguistics 16(2)doi.org
  3. Pechenick, Danforth & Dodds (2015) Characterizing the Google Books Corpus: Strong Limits to Inferences of Socio-Cultural and Linguistic Evolution, PLoS ONE 10(10)doi.org
  4. Cajori (1929) A History of Mathematical Notations, Vol. II(p.203), Open Courtarchive.org
  5. Miller, Earliest Uses of Symbols of Calculus(MacTutor 数学史, セント・アンドルーズ大学)mathshistory.st-andrews.ac.uk

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