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英語のマジか!?ホント

ハイジャック、もとは飛行機でなく「密売の酒」を奪う強盗。「Hi, Jack!」説に証拠なし

ハイジャック、もとは飛行機でなく「密売の酒」を奪う強盗。「Hi, Jack!」説に証拠なし

読む前に予想してみよう!

hijack という英語は、最初から飛行機の乗っ取りを指す言葉として生まれた

研究カード(どんな研究?)
対象
英米の辞書・百科事典と1910〜20年代の新聞の用例
規模
hijack と jack の仲間約15語
研究の種類
辞書の語源欄と用例の調査
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

hijack は禁酒法のころのアメリカで、密売の酒を車や船ごと奪う強盗を指した。飛行機は後から。「Hi, Jack!」説に証拠はなく、語源は今も分かっていない。

ひとことで言うとハイジャックは、昔は飛行機じゃなくて「お酒を運ぶ車」をおそうことだったんだって!

もくじ
  1. ハイジャックの語源は? 辞書の答えは「よく分からない」
  2. 飛行機が狙われるのは、もっと後
  3. jack はもともと「そこらの男」
  4. 「ジャック」とは関係ない jack もいる
  5. どんでん返し:jack はジョン? それともジャック?
  6. まとめ

「ハイジャック」と聞けば、だれでも飛行機の乗っ取りを思い浮かべます。

ところが英語の hijack がもともと狙っていたのは、飛行機ではありませんでした。平凡社の世界大百科事典によると、hijack はアメリカで1919年に禁酒法ができたあと、密輸・密造の酒を運ぶ途中で、車や船ごと奪うことを指した言葉です。

では、なぜ hijack と呼ぶのか。「強盗が『Hi, Jack!(よう、ジャック)』と声をかけてから襲ったから」という話を聞いたことがあるかもしれません。でも、この説を裏づける証拠は見つかっていません。しかも、1926年の雑誌に載った早い時期の説明では、あいさつの「よう」ではなく、「手を上げろ」という意味の「High, Jack!」でした。hijack の語源は、今も分かっていないのです。

01ハイジャックの語源は? 辞書の答えは「よく分からない」

英語の辞書を引いてみましょう。

  • Dictionary.com:アメリカ英語で、1920〜25年ごろから。先にあった名詞 hijacker(ハイジャックする人)から、-er を取って作った動詞
  • アメリカン・ヘリテージ英語辞典(AHD):「おそらく highjacker から -er を取ってできた語。highjacker は、ひょっとすると jacker(強盗)から。その jacker は、夜に明かりで獲物をおびき寄せて狩る、という意味の動詞 jack から」

どちらも「おそらく」「ひょっとすると」付きで、言い切っていません。ただ、「乗っ取る」という動詞より、「乗っ取る人」hijacker のほうが先にあった、という点は両方の辞書で一致しています。

「Hi, Jack!」説はどこから来たのか。古い用例を調べているデューク大学のスティーヴン・ゴランソンは、アメリカ方言学会のメーリングリスト(ADS-L)への2020年の投稿で、この説の早い例として1926年の雑誌記事を挙げ、説明としての重みはあまりなさそうだと書いています。

その記事、雑誌『アメリカン・マーキュリー』1926年1月号の「Wobbly Talk」(筆者はスチュアート・ホルブルック、63ページ。Wobbly はアメリカの労働組合「世界産業労働者組合(IWW)」の組合員のあだ名で、その仲間うちのことばを紹介した記事)を開いてみると、書かれていたのは「よう、ジャック」ではありませんでした。

  • hijack は「High, Jack!」から来た。これは「手を上げろ」という命令
  • 生まれたのは、小麦の収穫期の終わりに貨物列車で移動し、帰り道の季節労働者から稼ぎを奪っていた小悪党の集団のあいだ
  • 禁酒法ができてから、広く使われるようになった

ただし、ホルブルックはこの説明を裏づける用例を示していません。ゴランソンの投稿では、「亜鉛の鉱石をくすねる人」を指した言葉から来たという説(1985年の論文)も紹介されていますが、どれも決め手はありません。

つまり、今たどれる早い記録では、hijacker は酒の密売人を狙う強盗でした。百科事典は「1919年に禁酒法ができたあと」と書いていますが、ゴランソンが引用した記事のとおりなら、言葉はその数年前から、酒の持ちこみが法律違反だったオクラホマで使われていたことになります。いまの辞書にも、その名残があります。AHD の hijack には「輸送中の車を止めて強盗する」「輸送中の車から品物を盗む」という意味が残っていて、Dictionary.com の例文は to hijack a load of whiskey(ウイスキーの積み荷を奪う)です。

02飛行機が狙われるのは、もっと後

世界大百科事典によると、飛行機の乗っ取りは1930年にペルーで起きた事件が最初とされ(ブリタニカ国際大百科事典は1931年としています)、記録に残る最初の事件は1948年、マカオと香港のあいだの便でした。1960年代になると多発するようになります。

そこで生まれたのが skyjack(空の hijack)。Dictionary.com では最初の記録が1965〜70年ごろで、sky+(hi)jack です。さらに1990年代には、車を運転手から奪う carjack(car+hijack)が生まれました。

日本語の「ハイジャック」は、精選版 日本国語大辞典では1976年の小説に例があり、デジタル大辞泉の説明は「運行中の乗り物、特に航空機を実力で乗っ取り……」。日本語の辞書の説明は、飛行機が中心です。

一方、英語の hijack は飛行機以外にも使えます。

  • The bus was hijacked by two armed men.(バスが武装した2人に乗っ取られた)
  • He always hijacks the conversation.(彼はいつも話題を自分の話に持っていく)

そして一周まわって、くだけた英語の動詞 jack(盗む)は、hijack を短くした形です(AHD・Dictionary.com)。Someone jacked my bike.(だれかに自転車を盗まれた)。jack が入った hijack から、また jack が生まれたわけです。

03jack はもともと「そこらの男」

では、その jack とはそもそも何なのか。Dictionary.com によると、中世の英語では Jakke が「男、とくに身分の低い男」への呼びかけに使われ、もとは John(ジョン)のあだ名です(Jan=John に、「小さい」を表す -kin がついた Jankin の変化形)。そこから「オスのもの」全般や、いろいろな道具の名前に広がりました。

AHD の jack の項目には、こんな意味が並んでいます。

  • 男、やつ(Dictionary.com の例文は Hey, Jack, which way to Jersey?=「おい、あんた、ジャージーはどっち?」)
  • 力仕事をする人:lumberjack(きこり)、steeplejack(高い塔の修理をする職人)
  • トランプの J:召使いや兵士の絵がかかれたカードで、knave とも呼ぶ
  • ジャッキ:車などの重い物を持ち上げる道具。日本語の「ジャッキ」もこの jack で、精選版 日本国語大辞典では1914年の外来語辞典に載っている
  • 差し込み口:プラグを差しこむ口。日本語の「イヤホンジャック」の jack
  • オスの動物、とくにオスのロバ:jackass(オスのロバ、ばか者)
ジャッキ、トランプの J、かぼちゃのランタン、野うさぎ。英語の jack は「そこらの男」から、あちこちに広がった
ジャッキ、トランプの J、かぼちゃのランタン、野うさぎ。英語の jack は「そこらの男」から、あちこちに広がった

ほかにも jack の仲間はたくさんいます。

  • jackrabbit(大型で耳の長い野うさぎ):jackass+rabbit。長い耳がロバに似ているから(AHD)
  • jack-o'-lantern(ハロウィーンのかぼちゃのランタン):もとは Jack-with-a-lantern=「ランタンを持った男」で、夜に見える怪しい光(鬼火、will-o'-the-wisp)のこと(AHD)。最初の記録は1655〜65年ごろ(Dictionary.com)

04「ジャック」とは関係ない jack もいる

つづりに jack が入っていても、ジョンとは無関係の単語もあります。

  • jackfruit(ジャックフルーツ):ポルトガル語の jaca から。さらにさかのぼると南インドのマラヤーラム語(AHD・Dictionary.com)。人の名前とは関係なし
  • jackal(ジャッカル):トルコ語の çakal から、ペルシア語、さらにサンスクリット語へさかのぼる。英語に入るときに jack に引っぱられた形になった(AHD)
  • jacket(ジャケット):AHD によると、古フランス語の jaquet から。jaquet は jaque(短い上着)に「小さい」の意味がついた形で、jaque のもとは、フランスの農民のあだ名だった jacques(ジャック)。1358年のフランス農民の反乱は、この名前から Jacquerie(ジャックリーの乱)と呼ばれます

05どんでん返し:jack はジョン? それともジャック?

ここまで「jack は John のあだ名」と書いてきましたが、実は辞書によって説明が分かれます。Dictionary.com は Jankin(John)から、と説明します。一方 AHD は、jack の名前を「ひょっとすると古フランス語の Jacques から」と書いています。英語の Jack がジョン由来か、フランスのジャック由来か、辞書の書き方はそろっていません。

さらに、hijack の jack が「人の名前」だという保証もありません。AHD の説明どおりなら、jack は「明かりで獲物をおびき寄せる」という動詞で、ゴランソンも、jack を shoplift(万引きする)の lift のような「盗む」に近い意味の語と考える可能性を挙げています。もしそうなら、「Hi, Jack!」と呼びかける相手は、はじめからいなかったことになります。

hi の部分も、あいさつの hi とは限りません。AHD は highjack というつづりも載せていて、Dictionary.com は hijacker の語源を「high(wayman)(追いはぎ)+jacker」としています。ゴランソンも2020年7月27日の続報で、早い時期の hi-jacker は「街道(highway)の強盗」だったのでは、と考え直しています。

06まとめ

hijack は、禁酒法のころのアメリカで、密売の酒を狙う強盗として生まれた言葉でした。飛行機が狙われるようになったのは、もっと後のことです。

「Hi, Jack!」説はおもしろい話ですが、証拠はありません。そして jack そのものは、「そこらの男」からジャッキ、トランプ、かぼちゃのランタンにまで広がった、英語の中でもとくに“顔の広い”名前です。名前の正体がジョンかジャックかすら、辞書で割れているというおまけつきで。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1915, a small newspaper in Oklahoma described a new kind of criminal. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1915, a small newspaper in Oklahoma described a new kind of criminal. These "hi-jackers" robbed people who were moving alcohol to sell it illegally. A few years later, the whole United States banned the sale of alcohol, and "hijacker" became one of the words of that time.

Planes came much later. A Japanese encyclopedia says the first plane hijacking is thought to have taken place in Peru in 1930, and the word "skyjack" appeared in the late 1960s.

So where does "hijack" come from? A popular story says robbers greeted their victims with "Hi, Jack!" A researcher who has studied early examples sees little support for it, and dictionaries still say the origin is uncertain. They do agree that "hijacker," the person, came before the verb.

127 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1915年、オクラホマ州の小さな新聞が、新しい種類の犯罪者について書いた。この「hi-jacker」たちは、酒を違法に売るために運んでいる人々を襲った。数年後、アメリカ全土が酒の販売を禁止し、hijacker はその時代の言葉のひとつになった。飛行機はずっと後のことだ。

日本のある百科事典によれば、最初の飛行機の乗っ取りは1930年のペルーだと考えられており、skyjack という語が現れたのは1960年代の終わりごろだ。では、hijack はどこから来たのか。

強盗が相手に「Hi, Jack!」とあいさつした、という有名な話がある。初期の用例を調べた研究者はこの考えにほとんど裏づけがないとみており、辞書も今なお起源は不確かだとしている。ただし、「乗っ取る人」を表す hijacker が動詞より先にあったという点では、辞書の見方は一致している。

4択リーディングクイズ

Q1. Who did the first "hi-jackers" rob?

Q2. According to the passage, when did the word "skyjack" appear?

Q3. What does the writer suggest about the "Hi, Jack!" story?

重要単語

  • hijackB2
    動詞(乗り物を)乗っ取る;(話題などを)横取りするTwo men tried to hijack the truck on the highway. 飛行機だけでなく、バス・トラック・話題にも使える。hijack the conversation「話を横取りする」。
  • bootleggerC1
    名詞酒の密売人The bootlegger hid the bottles under a pile of hay. 禁酒法の時代によく使われた語。最初の hijacker が狙ったのがこの人たち。
  • ProhibitionC1
    名詞(アメリカの)禁酒法、禁酒法時代During Prohibition, it was illegal to sell beer. 大文字で始めると、アメリカの1920〜1933年の禁酒の時代を指す。prohibit「禁じる」の名詞。
  • nicknameB1
    名詞あだ名、愛称Jack is a common nickname for John. Jack を John のあだ名とする辞書と、フランス語の Jacques から来たかもしれないとする辞書がある。
  • jackB2
    名詞ジャッキ(重い物を持ち上げる道具);トランプの JWe used a jack to lift the car and change the tire. 動詞 jack up は「ジャッキで持ち上げる」「(値段を)つり上げる」。
  • carjackingC1
    名詞車の強奪(運転手から車を奪うこと)The police are looking for the man behind the carjacking. car + hijack から1990年代に生まれた語。skyjack(飛行機の乗っ取り)も同じ作り方。
  • originB1
    名詞起源、由来The origin of the word is still a mystery. of unknown origin「起源不明の」は辞書の語源欄によく出る言い方。
ハイジャック(hijack)は、もとは飛行機ではなく、禁酒法のころのアメリカで密売の酒を車や船ごと奪う強盗のこと。「Hi, Jack!(よう、ジャック)」と声をかけて襲ったから、という説は証拠なし。語源は今も不明。

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出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「hijack」「jack」「jackrabbit」「jacket」「jack-o'-lantern」「jackfruit」「jackal」ahdictionary.com
  2. Dictionary.com「hijack」「hijacker」「jack」「skyjack」「carjack」(Origin)dictionary.com
  3. コトバンク:改訂新版 世界大百科事典「ハイジャック」・精選版 日本国語大辞典「ハイジャック」「ジャッキ」kotobank.jp
  4. Mencken (1945) The American Language, Supplement I, Alfred A. Knopf(p. 305。Internet Archive 所蔵本)archive.org
  5. Goranson (2020) hi-jacker, antedated to 1915 (and 1916), ADS-L(アメリカ方言学会のメーリングリスト)listserv.linguistlist.org
  6. Holbrook, S. H. (1926) Wobbly Talk, The American Mercury 7(25), p. 63(Internet Archive 所蔵の誌面)archive.org

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