警察のテーザー銃「TASER」は、1911年の少年小説の“電気ライフル”の頭文字

読む前に予想してみよう!
テーザー銃の「TASER」は、何かの英語の頭文字からできた名前だ
発明者ジャック・カバーが、愛読した少年小説の発明品 Thomas A. Swift's Electric Rifle の頭文字から名づけた。
- 対象
- 発明者の訃報・辞書編集者の解説・1911年の原作小説・特許
- 規模
- 1911〜2009年の文献
- 研究の種類
- 語源調査(文献)
- 確かさ
- ★★★☆☆
TASER は Thomas A. Swift's Electric Rifle(トマス・A・スウィフトの電気ライフル)の頭文字。発明者が子どものころ愛読した1911年の小説の発明品が元ネタ。ただ原作の主人公はずっと「トム」で、Thomas も真ん中の A も出てこない。
ひとことで言うとテーザー銃の名前は、昔の少年小説に出てくる「電気の銃」からとったんだって!
もくじ
ニュースや映画でよく見る、警察の「テーザー銃」。電気の針を飛ばして、相手を一時的に動けなくする道具です。
この TASER(テーザー) という名前、何の略か知っていますか?
答えは Thomas A. Swift's Electric Rifle(トマス・A・スウィフトの電気ライフル)。1911年にアメリカで出た少年向け冒険小説で、主人公が発明した「電気ライフル」からとった名前です。しかも、真ん中の A は原作には出てきません。
01テーザー銃の語源は「トム・スウィフトの電気ライフル」
発明したのは、アメリカの物理学者ジャック・カバー(Jack Cover)。2009年2月に88歳で亡くなったとき、アメリカの雑誌『TIME』が短い追悼記事を載せています。
カバーは、電気の玉で人を気絶させるなんてすごい発想だ、という意味のことを語っていたそうです。少年時代の読書が、数十年後に本物の発明の名前になったわけです。
アメリカの特許の記録も残っています。カバーが1972年に出願し、1974年に認められた特許の名前は「Weapon for immobilization and capture(動けなくして捕まえるための武器)」。細い電線につながった弾を飛ばすしくみが書かれています(発明者の欄は本名の John H. Cover)。
02原作の主人公は「トム」。A はどこから?
ここで原作を開いてみます。『Tom Swift and His Electric Rifle』は著作権が切れていて、プロジェクト・グーテンベルクで全文が読めます。
本文を検索すると、主人公はずっと Tom Swift(トム・スウィフト)。Thomas という名前は一度も出てきません。もちろん、ミドルネームの「A」もありません。
辞書編集者のジマーも、主人公はミドルネームの頭文字を一度も明かしていないと指摘しています。そのうえで、TASER は先にあった laser(レーザー) という頭文字語にならった形らしい、と書いています。
たしかに、Tom Swift's Electric Rifle の頭文字だけだと TSER。母音がなく、このままでは読みにくい名前です。A を1つ入れると、TASER と laser がきれいに韻をふみます。ただ、カバー本人が A を入れた理由を語った記録は、今回の調べでは見つかりませんでした。
03小説の“電気ライフル”は、ゾウも倒す武器だった
原作を読むと、もう一つずれがあります。
小説の電気ライフルが撃つのは、目に見えない「電気の弾」です。トムはそれを、5,000ボルトの電気を弾丸ほどの小さな玉に詰めたようなもの、と説明します。トムによると、その弾はX線のようにレンガの壁も通りぬける。物語の後半では、アフリカで象牙をとるためにゾウをしとめる場面もあります。
つまり原作は、命を奪うための強力な銃でした。そこから名前をもらったテーザー銃は、反対に「命を奪わずに止める」ための道具として作られたのです。

04おまけ:laser も radar も scuba も“頭文字の単語”
TASER のお手本になったらしい laser も、じつは頭文字をつないだ単語です。アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)の語源欄で確かめると、
- laser(レーザー)= light amplification by stimulated emission of radiation(誘導放出による光の増幅)
- radar(レーダー)= radio detecting and ranging(電波で探して距離をはかること)
- scuba(スキューバ)= self-contained underwater breathing apparatus(自分で持ち運ぶ水中呼吸装置)
日本語のカタカナで毎日のように見る「レーザー」「レーダー」「スキューバダイビング」も、もとは長い説明文の頭文字です。こうした語は acronym(アクロニム、頭文字語) と呼ばれます。どれも今では、ふつうの単語として小文字で書かれています。
05名前が動詞に:tase と「Don't tase me, bro!」
TASER は会社の登録商標です。ケンブリッジ英語辞典も Taser に trademark(商標)と記しています。それでも英語では、ふつうの単語としても使われます。
- taser / tase(動詞):テーザー銃で撃つ The suspect was tased by police.(容疑者は警察にテーザー銃で撃たれた)
ジマーによると、オックスフォード英語辞典(OED)は「Tasered(テーザー銃で撃たれた)」の例を1976年1月の『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』から引いています。短い動詞の tase は、ジマーたちが新聞のデータベースで見つけた最も古い例が1988年のものです。
2007年9月、フロリダ大学で上院議員を招いた公開討論会の場で、学生が大学の警察に取り押さえられ、テーザー銃を当てられて逮捕されました。その途中で学生が叫んだ「Don't tase me, bro!(テーザーはやめてくれよ!)」が大きな話題になり、tase は、オックスフォード大学出版局のアメリカ英語の辞書(New Oxford American Dictionary)が選ぶその年の「今年の単語」の次点リストにも入りました。
06どんでん返し:「Thomas A.」は後づけの説明?
ここまで「TASER は Thomas A. Swift's Electric Rifle の頭文字」と書いてきました。でもよく考えると、順番が逆かもしれません。
原作にない「Thomas A.」という形は、TASER という読みやすい名前を先に決めてから、それに合わせて作った説明のようにも見えます。ジマーも、TASER は「バクロニム(backronym)」っぽいところがある、と書いています。バクロニムとは、先に単語があって、あとから頭文字の中身をこじつけた語のこと。どちらが先だったのか、カバー本人の説明は今回の調べでは見つかりませんでした。
もう一つ。テーザー銃は「命を奪わない武器」として生まれましたが、使い方や安全性については今も議論があります。『TIME』の追悼記事も、テーザー銃が論争の的であり続けていることにふれています。カバー自身は、本物の銃で撃たれるよりはテーザー銃のほうがいい、という考えを変えなかったそうです。
07まとめ
警察のテーザー銃の名前は、1911年の少年小説で主人公トムが作った「電気ライフル」から来ていました。原作にない A を入れた理由は、本人の説明が見つかっていません。laser に似せて読みやすくした、と考えるとつじつまが合います。
次に laser・radar・scuba という単語を見たら、「これも頭文字の略なんだ」と思い出してみてください。身近なカタカナ語の中に、長い英語の説明文が隠れています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerJack Cover was a physicist who worked on NASA's Apollo program.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Police in many countries use a Taser to stop people without killing them. The name comes from an old book for boys. In 1911, an American novel told the story of a young inventor named Tom Swift and his electric rifle.
Jack Cover, the man who invented the Taser, loved this book as a child. He called his device TASER, for "Thomas A. Swift's Electric Rifle." But the book never gives Tom a middle name.
75 words ・ CEFR A2
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多くの国の警察が、人の命を奪わずに動きを止めるためにテーザー銃を使っています。その名前は、男の子向けの古い本から来ています。1911年、アメリカのある小説が、トム・スウィフトという若い発明家と彼の電気ライフルの物語を描きました。
テーザー銃を発明したジャック・カバーは、子どものころこの本が大好きでした。彼は自分の装置を「Thomas A. Swift's Electric Rifle(トマス・A・スウィフトの電気ライフル)」から TASER と名づけました。でも本の中で、トムのミドルネームは一度も出てきません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
The name comes from an old book for boys. から、TASER という名前の由来の話なので B。
Q2. When did the novel about Tom Swift come out?
In 1911, an American novel told the story of ... Tom Swift とあるので A。
Q3. In the passage, what does "device" mean?
He called his device TASER の device は、テーザー銃のような「特定の目的のために作られた道具・装置」なので C。
Jack Cover was a physicist who worked on NASA's Apollo program. In the 1960s, when the news was full of plane hijackings, he started thinking about a weapon that could stop a person without killing them.
For a name, he went back to his favorite childhood book, Tom Swift and His Electric Rifle, from 1911. He called his invention TASER, short for "Thomas A. Swift's Electric Rifle." The book itself is quite different. Tom's rifle shoots bullets of electricity that go through brick walls, and he uses it to hunt elephants.
Also, the hero is always just "Tom" and never has a middle initial. So the "A" was probably added later. One dictionary editor thinks the name was modeled on "laser."
121 words ・ CEFR B1
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ジャック・カバーは、NASA のアポロ計画に関わった物理学者だった。飛行機のハイジャックのニュースがあふれていた1960年代、彼は人の命を奪わずに動きを止められる武器について考えはじめた。
名前を決めるとき、彼は子どものころいちばん好きだった1911年の本『Tom Swift and His Electric Rifle』を思い出した。彼は自分の発明を「Thomas A. Swift's Electric Rifle」を縮めて TASER と呼んだ。本そのものはかなり違う。トムのライフルはレンガの壁も通りぬける電気の弾を撃ち、彼はそれでゾウを狩る。
また、主人公はいつもただの「トム」で、ミドルネームの頭文字は出てこない。だから「A」はおそらく後から足されたものだ。ある辞書編集者は、この名前は「laser」をまねて作られたと考えている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
名前は1911年の小説から来ているが、ライフルの性能や「A」の点で本とは違う、という話なので C。
Q2. What does Tom use his rifle for in the book?
he uses it to hunt elephants とあるので B。
Q3. Why does the writer think the "A" was added later?
the hero is always just "Tom" and never has a middle initial. So the "A" was probably added later. とあるので A。
When the physicist Jack Cover died in 2009 at the age of 88, obituaries retold the story behind the name of his invention. As a boy he had loved Tom Swift and His Electric Rifle, a 1911 adventure novel, and decades later he named his stun gun after it: TASER, for "Thomas A. Swift's Electric Rifle." The patent he filed in 1972 describes a harmless projectile that stays linked to the launcher by a thin wire.
Its fictional model was anything but harmless. In the novel, the rifle fires bullets of electricity that pass through a brick wall, and Tom uses it to kill elephants for their ivory. The name itself holds a small puzzle. Tom never has a middle initial in the book, and the full text of the novel does not contain the name "Thomas" even once.
The lexicographer Ben Zimmer calls TASER something of a "backronym," a word whose letters are explained after the fact, and he thinks it was modeled on "laser." Cover does not seem to have left any record of why he chose the A. The word has since turned into a verb, and the earliest "tase" found in newspaper archives is from 1988.
200 words ・ CEFR B2
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物理学者ジャック・カバーが2009年に88歳で亡くなったとき、追悼記事は彼の発明の名前にまつわる話を伝えた。少年時代、彼は1911年の冒険小説『Tom Swift and His Electric Rifle』が大好きで、数十年後、自分のスタンガンにその名をとって TASER(Thomas A. Swift's Electric Rifle)と名づけたのだ。彼が1972年に出願した特許には、細い電線で発射装置とつながったままの、害のない弾が書かれている。
ところが、そのお手本になった架空の武器は、害がないどころではなかった。小説ではライフルがレンガの壁も通りぬける電気の弾を撃ち、トムはそれで象牙のためにゾウを殺す。名前そのものにも小さななぞがある。本の中のトムにはミドルネームの頭文字がなく、小説の全文には「Thomas」という名前が一度も出てこない。辞書編集者のベン・ジマーは、TASER を「バクロニム」、つまり文字の中身が後から説明された語に近いものだと呼び、「laser」をまねて作られたと考えている。
カバーは、なぜ A を選んだのかについて何の記録も残していないようだ。この語はその後動詞にもなり、新聞の記録で見つかっている最も古い「tase」は1988年のものだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
TASER の名前の由来と、原作にない「A」のなぞが中心なので C。
Q2. According to the passage, what does Cover's 1972 patent describe?
The patent he filed in 1972 describes a harmless projectile that stays linked to the launcher by a thin wire とあるので B。A と D は小説のライフルの説明。
Q3. What can be inferred about the expansion "Thomas A. Swift's Electric Rifle"?
原作に Thomas も A も出てこず、ジマーが「バクロニム(文字の中身が後から説明された語)」と呼んでいることから、TASER という語に合わせて作られた説明だと推測できる。C。
重要単語
- acronymC1名詞頭文字語"Laser" and "scuba" are both acronyms.
頭文字をつないで1語として読む語。NASA・laser・scuba など。1字ずつ読む FBI のような略語は initialism と呼んで区別することもある。 - inventorB1名詞発明者The inventor named his device after a character in a book.
invent(発明する)+-or(人)。invention は「発明(品)」。 - deviceB1名詞装置、機器This small device can charge your phone in an hour.
発音は「ディヴァイス」。動詞の devise(考案する)とつづりが似ているので注意。 - stun gunB2名詞スタンガン(電気ショックで動けなくする武器)The officer carried a stun gun instead of a pistol.
stun は「気絶させる、ぼうっとさせる」。be stunned「(驚いて)ぼう然とする」もよく使う。 - patentB2名詞特許She applied for a patent on her new design.
apply for a patent「特許を出願する」。発音は「パテント」。 - nonlethalC1形容詞命を奪わない、非致死性のPolice wanted a nonlethal way to stop people.
lethal(致命的な)に non- がついた形。a lethal dose「致死量」。 - trademarkB2名詞登録商標"Taser" is a trademark, so it is often written with a capital T.
trade(商売)+mark(しるし)。比喩で「トレードマーク(その人らしさ)」の意味でも使う。
公式・一次情報をチェック
- Tom Swift and His Electric Rifle(Project Gutenberg・原作の全文)gutenberg.org
- Taser(Cambridge Dictionary)dictionary.cambridge.org
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警察が使うテーザー銃の TASER は「Thomas A. Swift's Electric Rifle」の頭文字。発明者が子どものころ夢中で読んだ1911年の少年小説の発明品が元ネタ。ただ原作の主人公は「トム・スウィフト」で、真ん中の A はどこにも出てこない。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Zimmer (2007) The Shocking Story of "Tase", OUPblog(オックスフォード大学出版局)blog.oup.com
- Cruz (2009) Jack Cover(Milestones), TIMEtime.com
- Appleton (1911) Tom Swift and His Electric Rifle(Project Gutenberg 版)gutenberg.org
- Cover (1974) Weapon for immobilization and capture, 米国特許 3,803,463patents.google.com
- American Heritage Dictionary「laser」「radar」「scuba」ahdictionary.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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