英語の「they」は、もとはバイキングの言葉。1200年ごろ入ったというのが定説

読む前に予想してみよう!
英語の they は、古英語の時代からずっと使われてきた英語生まれの単語だ
American Heritage 英語辞典によると、they は古ノルド語から来た語で、英語に現れたのは1200年ごろ。それまでは hīe などの別の語が使われていた。
- 対象
- 英語の代名詞 they・their・them
- 規模
- 英語辞典2種(American Heritage・Oxford)の語源欄と、反対説の論文1本
- 研究の種類
- 辞書の語源記述と論文要旨の照合
- 確かさ
- ★★★★☆
they・their・them は古ノルド語(バイキングの言葉)から来た代名詞、というのが辞書の定説。1200年ごろ英語に現れ、それまでの英語の「彼ら」hīe・hīora・him を少しずつ追い出した。
ひとことで言うとthey は、昔イギリスに来たバイキングの言葉から借りた単語とされている!
もくじ
They are my friends.
英語を習いはじめてすぐに出てくる、この they(彼ら)。じつはもともと英語の単語ではないとされています。
アメリカの代表的な辞書『American Heritage 英語辞典』(以下 AHD)は、語源の解説で「信じがたいかもしれないが、英語の they は英語生まれの代名詞ではない」と書いています。they は、バイキングが話していた古ノルド語(昔の北欧の言葉)から借りてきた“外来語”なのです。their(彼らの)も them(彼らを)も、同じ道を通ってきました。
01they・their・them の語源は「古ノルド語」
まず、2つの辞書の語源欄を並べてみます。
つまり、今の英語の「彼らは・彼らの・彼らを」は、3つそろって北欧から来ています。
古英語(千年ほど前の英語)では、「彼らは」は hīe、「彼らの」は hīora、「彼らを・彼らに」は him でした。AHD の 'em の項目によると、この複数の him は heom ともつづりました。一方で「彼に」も him です。古英語では、「彼に」と「彼らに」が同じ him になることがあったわけです。
02代名詞を借りるのは「めったにない」こと
外国から単語を借りること自体は、どの言語でもよくあります。では、なぜ they が特別なのでしょう。
AHD は理由をこう説明しています。代名詞は、言語のいちばん基本的な部分のひとつ。だから、外国語から借りた語に置きかわることはまれだ、と。
食べ物や道具の名前なら、新しい物といっしょに外国の言葉が入ってきても不思議はありません。でも「彼ら」は、毎日のように口にする言葉です。その「彼ら」まで外国の言葉に入れかわりました。AHD が they を、古ノルド語が英語に与えた影響の大きさを示す「典型的な例」と呼ぶのはこのためです。

03北から南へ、何百年もかけて広がった
古ノルド語を話す人たちは、どこにいたのでしょうか。
AHD によると、9〜10世紀、デンマークから来た侵入者や移住者がイングランド北東部に住みつき、自分たちの法律で治めました。この法律と、それが通用した地域を「デーンロウ(Danelaw)」と呼びます。古英語の Dena lagu(デーン人の法)から来た名前です。
they・their・them は、このデーンロウから南へ広がりました。AHD によると、主語の they が最初に広まり、their と them はそれより遅れたようです。
その証拠として AHD が挙げるのが、イングランドに印刷機を持ちこんだウィリアム・キャクストンの本です。
- 1475年以降の、初期に印刷した本:they, hir, hem
- 後に印刷した本:thei, their, theim
初めのころは「彼らは」だけが北欧系の they で、「彼らの」「彼らを」は英語生まれの hir・hem でした。それが後の本では、3つとも北欧系に変わっています。キャクストンは北部の人ではありません。最初に印刷した本の序文に、自分はイングランド南東部のケントで生まれて英語を覚えた、と書いています。そんな南の人の本でも、北欧系の形に入れかわっていきました。AHD はこれを、北欧系の形が南へ広がっていたはっきりした証拠だとしています(なお AHD はキャクストンを、印刷所のあったウェストミンスターの生まれと書いていますが、本人の序文とは合いません)。1人の印刷業者の本の中で、入れかわりが進んでいく様子が見えるのです。
04'em は them の省略……ではないかもしれない
映画や歌の歌詞で、こんな英語を見たことはありませんか。
- Give 'em back!(それ、返して!)
- Let 'em go.(行かせてやれ)
この 'em は、くだけた会話で them の代わりに使われます。見た目は「them の th が落ちたもの」に見えますね。
ところが AHD は、'em の項目で、中英語の hem・em から来た語としています。さかのぼると、古英語の him・heom(彼らを・彼らに)です。つまり、they に追い出された英語生まれの「彼らを」が、'em の形で生き残っている、という見方です。
ただし、AHD の they の語源解説では、この点を「'em に残っている可能性が十分ある」と、少し慎重に書いています。断定ではありません。
05they だけじゃない。sky も egg も北欧から
古ノルド語から入った身近な単語は、ほかにもあります。AHD の語源欄で確かめると、
- sky(空):古ノルド語の skȳ から。もとの意味は「雲」
- egg(卵):古ノルド語の egg から
- get(手に入れる):古ノルド語の geta から
- take(取る):古英語の tacan を経て、古ノルド語の taka から
They get eggs and look up at the sky.(彼らは卵を手に入れ、空を見上げる)。この短い文の they・get・eggs・sky が、どれも北欧から来た単語です。
06どんでん返し:them は「半分だけ」借りもの?
ここまで「3つとも北欧から」と書いてきましたが、辞書によって書き方が少しちがう語があります。
オックスフォードの学習辞典は、them を古ノルド語の theim から来たとしています。一方、AHD の them の項目は「古ノルド語の theim と、古英語の thǣm から」と、2つの語を並べて書いています。古英語にも thǣm(「それに・それらに」にあたる語)があり、北欧の theim とよく似た形でした。英語に元からあった語と、北欧から入ってきた語が重なって、今の them になった、という見方です。
そもそも「they は北欧から」という説明そのものに異を唱える研究者もいます。言語学者マルセル・コールは2018年、学術誌『Diachronica』の論文で、イングランド北部の古い文書のつづりや使われ方を調べ、they・their・them は古英語で「それら」を指す語 þā・þāra・þām から、英語の中で生まれたと主張しました。論文の要旨の冒頭でも、「古ノルド語から来た」というのが広く受け入れられた見方だと書かれていて、辞書もその見方に立っています。ただ、議論が完全に終わったわけではありません。
また、AHD は「なぜ代名詞まで入れかわったのか」について、古ノルド語の影響の大きさを示す例だと述べるだけで、細かい理由までは書いていません。通説どおり they が北欧から入ってきたとしても、なぜそこまで入りこめたのかは、辞書の説明だけでは分からないのです。
07まとめ
辞書の定説では、they・their・them は、9〜10世紀にイングランド北東部に住みついた人たちの古ノルド語から入り、1200年ごろから何百年もかけて、古英語の hīe・hīora・him を追い出しました。AHD が「めったにない」と言うほどの、言葉の深いところでの入れかわりです。
次に They are my friends. と言うときは、その they がバイキングの船に乗ってやってきた単語らしい、ということを思い出してみてください。そして Give 'em back! の 'em には、追い出された昔の英語が、ひっそり残っているのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWords like "I," "you" and "they" are some of the most basic words in a language, so they are rarely…
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English speakers say "they" every day, but dictionaries say the word did not start in English. It came from Old Norse, the language of the Vikings. More than a thousand years ago, many of these people came from Denmark and made their homes in the north of England.
"They" first appeared in English around the year 1200. Later, "their" and "them" came too. Slowly, these three words pushed out the old English words with the same meanings.
77 words ・ CEFR A2
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英語を話す人は毎日「they」と言いますが、辞書によると、この単語は英語から始まったのではありません。バイキングの言葉、古ノルド語から来ました。千年以上前、その人たちの多くがデンマークから来て、イングランド北部に住みつきました。
「they」が英語に初めて現れたのは1200年ごろです。そのあと「their」と「them」も入ってきました。この3つの単語は、同じ意味を持つ昔の英語の単語を少しずつ追い出していきました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
the word did not start in English. It came from Old Norse とあり、they の由来の話なので B。
Q2. When did "they" first appear in English?
"They" first appeared in English around the year 1200 とあるので C。千年以上前はバイキングが住みついた時期。
Q3. In the passage, what does "pushed out" mean?
新しい3語が、同じ意味の昔の英語の単語を pushed out した、つまり「取ってかわった」という意味なので B。
Words like "I," "you" and "they" are some of the most basic words in a language, so they are rarely borrowed from other languages. English has a famous case. Dictionaries trace "they" to Old Norse, the language of Danish invaders who settled in northeast England in the ninth and tenth centuries. It first appeared in English around 1200.
"Their" and "them" followed, and over time the three Norse words replaced the Old English ones, "hie," "hiora" and "him." The books of William Caxton, who brought the printing press to England, show this change. In his early books, printed after 1475, he used "they" with the English forms "hir" and "hem."
Later he wrote "thei," "their" and "theim." Caxton was born in Kent, in the south, far from the Danish area.
130 words ・ CEFR B1
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「I」「you」「they」のような語は、言語の中でもいちばん基本的な単語に入るので、ほかの言語から借りることはめったにない。英語には有名な例がある。辞書は「they」の語源を、9〜10世紀にイングランド北東部に住みついたデーン人の侵入者の言葉、古ノルド語にたどっている。英語に初めて現れたのは1200年ごろだ。
そのあと「their」と「them」が続き、時間をかけて、この3つの北欧の語が古英語の「hie」「hiora」「him」に取ってかわった。イングランドに印刷機を持ちこんだウィリアム・キャクストンの本に、この変化が表れている。1475年以降に印刷した初期の本では、彼は「they」を、英語の「hir」「hem」といっしょに使った。
後には「thei」「their」「theim」と書いた。キャクストンは、デーン人の地域から遠く離れた南部のケントの生まれだった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
基本的な語は借りにくいのに、they は古ノルド語から来たという話が中心なので A。
Q2. Which words did Caxton use in his early books?
In his early books ... he used "they" with the English forms "hir" and "hem." とあるので C。
Q3. Why does the writer mention where Caxton was born?
北部の生まれでないキャクストンが後に their・theim を使ったことから、北欧系の形が北部の外にも広がっていたと分かるので B。
Pronouns sit at the core of a language, so they are seldom replaced by borrowed words. Dictionaries treat "they" as a classic exception. According to the American Heritage Dictionary, the Old Norse forms "their," "theira" and "theim" moved south from the Danelaw, the part of northeast England under the law of Danish settlers in the ninth and tenth centuries.
"They" first shows up in English around 1200 and seems to have spread before the other two. Over the next few centuries, the Norse forms took the place of the Old English "hie," "hiora" and "him." The books of William Caxton show the change in progress. His early printed works use "they," "hir" and "hem," while his later ones use "thei," "their" and "theim." The old plural may not have vanished completely.
The informal "'em," as in "Give 'em back!", may come from the native plural "hem." If so, it is not a short form of "them" at all. Dictionaries do not tell the story in exactly the same way, though. The Oxford Learner's Dictionary traces "them" to Old Norse alone, but the American Heritage entry lists both the Norse word and an Old English one, "thaem."
196 words ・ CEFR B2
和訳を見る
代名詞は言語の核にあるので、借りてきた語に置きかわることはめったにない。辞書は「they」を、その典型的な例外として扱っている。American Heritage 英語辞典によると、古ノルド語の「their」「theira」「theim」は、9〜10世紀にデーン人の移住者の法が通用したイングランド北東部の地域、デーンロウから南へ広がった。「they」は1200年ごろ英語に初めて現れ、ほかの2語より先に広まったらしい。
その後の数世紀で、北欧の形が古英語の「hie」「hiora」「him」に取ってかわった。ウィリアム・キャクストンの本には、この変化の途中の様子が表れている。初期に印刷した本では「they」「hir」「hem」を使い、後の本では「thei」「their」「theim」を使っている。古い複数形は完全には消えなかったのかもしれない。「Give 'em back!
」のようなくだけた「'em」は、英語生まれの複数形「hem」から来ている可能性がある。そうだとすれば、「them」の省略形ではまったくないことになる。ただ、辞書の説明はまったく同じではない。オックスフォードの学習辞典は「them」を古ノルド語だけにさかのぼらせるが、American Heritage の項目は、北欧の語と古英語の語「thaem」の両方を挙げている。
4択リーディングクイズ
Q1. Which title best fits the passage?
代名詞は借りにくいのに they は古ノルド語から入った、という内容が中心なので B。
Q2. According to the passage, which word seems to have spread first?
"They" ... seems to have spread before the other two とあるので C。
Q3. What can be inferred about "'em" from the passage?
'em は英語生まれの複数形 hem から来ている可能性があり、そうなら them の省略形ではないとあるので C。
重要単語
- pronounB1名詞代名詞"They" and "them" are both pronouns.
pro-(〜の代わりに)+noun(名詞)。名詞の代わりをする語、という作り。 - borrowA2動詞借りる;(ほかの言語から語を)取り入れるEnglish borrowed many words from French.
borrow A from B「BからAを借りる」。言語の話では borrowed word(借用語)もよく使う。 - invaderB2名詞侵入者、攻めこんでくる人The invaders came across the sea in long ships.
invade(侵入する)+-er。名詞 invasion(侵略)もセットで。 - settleB1動詞住みつく、定住する;解決するMany families settled near the river.
settler は「移住者」。settle down は「落ち着く」。 - replaceB1動詞取ってかわる、置きかえるSmartphones have replaced many old cameras.
replace A with B「AをBに取りかえる」。入試頻出の語法。 - informalB1形容詞くだけた、略式の"Give 'em back" is an informal way to say "Give them back."
反対語は formal(改まった)。作文では informal な形を避けるのが基本。 - spreadB1動詞広がる、広めるThe new word spread quickly among young people.
過去形・過去分詞も spread(無変化)。spread to ~「~に広がる」。
公式・一次情報をチェック
- sky(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- egg(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- get(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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英語の they・their・them は、もとは英語じゃない、というのが定説。米国の辞書 American Heritage によると、バイキングが話した古ノルド語から1200年ごろ入り、それまでの英語の「彼ら」hīe・hīora・him を追い出した。「彼ら」のような基本の言葉まで外国から借りるのは、めったにないこと。
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出典・参考文献(8件)タップで表示
- American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「they」(Word History)ahdictionary.com
- American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「'em」ahdictionary.com
- American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「Danelaw」ahdictionary.com
- Cole, M. (2018). A native origin for Present-Day English they, their, them. Diachronica, 35(2), 165–209doi.org
- Duff, E. G. (1905). William Caxton. Chicago: The Caxton Club(キャクストンの出生地。Project Gutenberg #55919)gutenberg.org
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「they」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「them」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「their」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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