豚肉 pork、牛肉 beef はフランス語から。ただ昔は、生きたブタや牛も指した

読む前に予想してみよう!
英語の pork(豚肉)や beef(牛肉)は、もとはフランス語から入った語だ
AHD などの辞書によると、pork は古フランス語の porc(ブタ)、beef は buef(牛)から。ただし英語に入ってから長いあいだ、肉だけでなく生きた動物も指した。
- 対象
- 中英語・近代英語の辞書の用例と英語史の論文
- 規模
- 1300年ごろ〜19世紀の用例
- 研究の種類
- 歴史言語学(辞書・文献調査)
- 確かさ
- ★★★☆☆
英語では、動物は pig・cow・sheep、肉は pork・beef・mutton。肉の名前はフランス語から来た。ただ、昔は pork が生きたブタ、beef が生きた牛も指していて、「動物は英語、肉はフランス語」ときれいに分かれるまでには何百年もかかった。
ひとことで言うと英語の豚肉 pork や牛肉 beef は、フランス語から来たことばなんだって!
もくじ
ポークカレー、ビーフシチュー、マトンのジンギスカン。日本語のメニューでおなじみの「ポーク」「ビーフ」「マトン」は、英語の pork・beef・mutton から来ています。
では、生きている動物は英語で何と言うでしょう。ブタは pig、牛は cow、羊は sheep。肉になると、急に名前が変わります。
しかもこの肉の名前、もとはフランス語です。「動物を育てたのは英語を話す農民、肉を食べたのはフランス語を話す貴族だったから」と、英語の授業や本でよく説明されます。ところが、昔の文章を調べてみると、話はそう単純ではありませんでした。
01pork と beef の語源はフランス語
アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)の語源欄で、動物と肉の名前を並べてみます。
動物の名前は、どれも1066年のノルマン征服より前からある英語。肉の名前は、どれもフランス語から入った語です。
AHD は beef の項の「Word History(語の歴史)」で、この分かれ方をこう説明しています。中世のイングランドで beef や pork をよく食べたのは、おそらくフランス語を話すか、フランス文化にあこがれる裕福な人たちだった。一方、実際に動物を育てた農民は、納屋で ox・swine・calf・sheep と英語の名前で呼び続けた。だから動物には今も英語の名前が残っている――。
02『アイヴァンホー』の豚飼いと道化の会話
この説明を有名にしたのが、スコットランドの作家ウォルター・スコットの歴史小説『アイヴァンホー(Ivanhoe)』です。1820年ごろに出た作品で、舞台はリチャード1世の時代(1189〜1199年)。征服者のノルマン人と、征服されたサクソン人(もとからいた英語を話す人々)の対立が描かれます。
第1章で、豚飼いのガースと道化のワンバが、森でブタを追いながら話します。プロジェクト・グーテンベルクの全文で、場面をたどってみましょう。
- ワンバ「四本足で走り回っているあのブウブウ言う連中、何て呼ぶ?」
- ガース「Swine, fool, swine(ブタだよ、ばかだな、ブタ)」
- ワンバ「swine は立派なサクソンの言葉だ。じゃあ、皮をはいで切り分けて、つるされたら何て呼ぶ?」
- ガース「pork」
ワンバは続けます。生きているうちはサクソン人の奴隷が世話をしてサクソンの名前で呼ばれるのに、城の広間で貴族のごちそうになると、ノルマン・フランス語の pork になる。牛の ox も、食べられる段になると「威勢のいいフランスの伊達男」beef に変わる。子牛も、オランダ風の Mynheer Calf(カーフ氏)から、フランス風の Monsieur de Veau(ヴォー殿)に変わる、と。
ちなみに、この小説の悪役の騎士の名前は Front-de-Bœuf。フランス語で「牛の額」という意味で、スコットは中世の写本にあるノルマン人の戦士の名簿から取った、と序文に書いています。

031653年の学者が、すでに指摘していた
じつは、この「動物は英語、肉はフランス語」の組み合わせに最初に目をつけたのは、スコットではないようです。
ハンガリーのエステルハージ・カーロイ・カレッジのエルシ・ティボル(Tibor Őrsi)が2015年に英語学の学術誌に書いた論文によると、デンマークの言語学者イェスペルセンは、この語の組み合わせに初めて注意を向けたのは、イギリスの学者ジョン・ウォリスが1653年に出した英文法の本だ、としています。ウォリスは deer(シカ)と venison(シカ肉)の組み合わせも挙げていました。スコットがウォリスの本を知っていたのか、自分で同じことに気づいたのかは分かっていない、とエルシは書いています。
04どんでん返し:昔は pork が「生きたブタ」だった
では、『アイヴァンホー』の場面は本当にあったことなのでしょうか。エルシの論文は、中英語辞典(MED)やオックスフォード英語辞典(OED)に集められた昔の文の例を年代順に調べ、こう結論しています。すっきりした使い分けは、12世紀の終わりにはおそらくまだなかった。
じつは今の英語にも、その名残があります。AHD で beef を引くと、最初の意味は「成長した去勢牛・雄牛・雌牛」、つまり生きた牛です。複数形として beeves(ビーヴズ)という形も載っています。エルシの論文によると、OED は「生きた牛」の意味の beef について「たいてい複数形で使い、古風または専門的」と注記しています。
AHD の Word History にも、フランス語の bœuf・porc・veau・mouton は、今でも動物と肉の両方を指せる、と書かれています。フランス語では、牛も牛肉も bœuf なのです。
さらに、この「法則」には例外もあります。エルシの論文によると、chicken(ニワトリ)・hen(めんどり)・cock(おんどり)といった、食用に飼う鳥の名前は英語本来の語です。そして鶏肉は、今も chicken のまま。ただし、ニワトリやアヒルなど食用に飼う鳥をまとめて言う poultry はフランス語から来ていて、論文は「生きた鳥を扱わない人の言葉」という見方を紹介しています。
もうひとつ。cow と beef は、じつは遠い親戚です。AHD によると、cow は古英語 cū から、beef はラテン語 bōs から来ていて、どちらも「牛」を表すインド・ヨーロッパ語の同じ根っこ(*gʷou-)にさかのぼります。英語に残った cow と、フランス語経由で戻ってきた beef。同じ祖先の言葉が、別の道を通って再会したわけです。
05おまけ:dinner は昔「朝ごはん」、プラムとプルーンは同じ言葉
食べ物の英語には、ほかにもフランス語が入りこんでいます。
- dinner(ディナー):AHD の Word History によると、もとは古フランス語の disner で、中世の英語では「朝食」、あるいは「朝9時から正午ごろにとる、その日最初のしっかりした食事」だった。語源をたどると「断食(fast)をやめる」という意味で、breakfast(break+fast)と同じ発想。その日いちばん大きな食事がだんだん遅い時間に移り、今では主に夕食を指す
- supper(夕食) もフランス語から。一方、breakfast は break(やめる)と fast(断食)を組み合わせた語で、フランス語を通っていない(エルシの論文・AHD)
- plum(プラム)と prune(プルーン):エルシの論文によると、どちらもさかのぼると同じラテン語の言葉。plum は古英語の時代から英語にあり、prune はフランス語経由で、1345年に「干したプラム」の意味で入ってきた。生の果物は英語、加工したものはフランス語。cow と beef と同じ形です
06まとめ
pig・cow・sheep は英語、pork・beef・mutton はフランス語。この分かれ方は本当にあり、ノルマン征服後にフランス語を話す人々が上に立ったことと関係があると考えられています。
ただし、最初から「生きている動物は英語、肉はフランス語」ときれいに分かれていたわけではありません。英語に入ってから長いあいだ、pork は生きたブタも、beef は生きた牛も指しました。すっきりした使い分けは、何百年もかけてできあがったものです。その証拠は、今も辞書の beeves という複数形に残っています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFarm animals in English usually have native names, such as swine, cow and sheep, while their meat has…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In English, a living animal and its meat often have different names. A pig gives us pork. A cow gives us beef. A sheep gives us mutton. The animal words are old English words, but the meat words came from French.
Many books say this is because rich people who spoke French ate the meat, and poor farmers raised the animals. That story is partly true, but it is too simple.
71 words ・ CEFR A2
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英語では、生きている動物とその肉が別の名前を持つことがよくあります。ブタ(pig)からは pork がとれます。牛(cow)からは beef。羊(sheep)からは mutton。動物の言葉は昔からある英語ですが、肉の言葉はフランス語から来ました。
多くの本は、その理由を、フランス語を話す裕福な人々が肉を食べ、貧しい農民が動物を育てたからだと説明しています。その話は一部は正しいのですが、単純すぎます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
動物と肉で名前が違い、肉の名前がフランス語から来たことを説明しているので B。
Q2. Which word for meat comes from a cow?
A cow gives us beef. とあるので C。
Q3. What does the writer think of the usual story?
That story is partly true, but it is too simple. とあるので B。「一部は正しいが、単純すぎる(大事な点が抜けている)」という意味。
Farm animals in English usually have native names, such as swine, cow and sheep, while their meat has French names like pork, beef and mutton. A popular explanation goes back to 1066, when French-speaking Normans took control of England. The idea is that English-speaking farmers raised the animals and French-speaking nobles ate the meat. Walter Scott made this idea famous in his novel "Ivanhoe."
In the first chapter, a jester points out that a pig is called "swine" while it lives and "pork" when it reaches a Norman table. But old texts tell a more complicated story. These French words entered English around 1300, and for a long time they could mean the living animal as well as the meat.
120 words ・ CEFR B1
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英語の家畜には、swine、cow、sheep のように英語本来の名前がふつうついているが、その肉には pork、beef、mutton というフランス語の名前がついている。よく知られた説明は、フランス語を話すノルマン人がイングランドを支配した1066年にさかのぼる。英語を話す農民が動物を育て、フランス語を話す貴族が肉を食べたという考えだ。ウォルター・スコットは小説『アイヴァンホー』でこの考えを有名にした。
第1章で、道化が、ブタは生きているうちは「swine」と呼ばれ、ノルマン人の食卓に上ると「pork」になると指摘する。しかし、古い文章はもっと複雑な事情を伝えている。これらのフランス語は1300年ごろに英語に入り、長いあいだ肉だけでなく生きた動物も意味することがあった。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the popular explanation, who ate the meat?
French-speaking nobles ate the meat とあるので B。
Q2. What does the jester in "Ivanhoe" say?
a pig is called "swine" while it lives and "pork" when it reaches a Norman table とあるので B。
Q3. What does the writer suggest in the last two sentences?
長いあいだ生きた動物も意味することがあったと述べており、使い分けは最初からはっきりしていなかったと示している。C。
Around 1300, an English writer listed the food a group took on board a ship: "porc, mouton, and beof." These are among the earliest records of pork, mutton and beef in English, and they all came from French. The standard explanation is social. After the Norman Conquest, the French-speaking upper class ate the meat, while English-speaking peasants raised the animals and kept calling them swine, sheep and cows.
Walter Scott turned this into a memorable scene in "Ivanhoe," and the observation itself goes back at least to a grammar book by John Wallis in 1653. Historians of English have found problems with it, though. Scott's story is set in the 1190s, about a century before the meat words are recorded.
Also, the new words did not mean only meat. For centuries, "pork" could mean a live pig and "mutton" a live sheep, and some dictionaries still list "beeves," a plural of "beef" that means cattle. In 1985 the dictionary editor Robert Burchfield called the familiar story a half-truth. A 2015 study of the records concluded that the neat division developed slowly, during the fourteenth and fifteenth centuries.
187 words ・ CEFR B2
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1300年ごろ、イングランドのある書き手が、一行が船に積みこんだ食料を「porc, mouton, and beof」と書き並べた。これらは英語の pork、mutton、beef の最も古い記録の一つで、どれもフランス語から来た。定番の説明は社会的なものだ。ノルマン征服の後、フランス語を話す上流階級が肉を食べ、英語を話す農民は動物を育てて、それを swine、sheep、cow と呼び続けたというのだ。
ウォルター・スコットはこれを『アイヴァンホー』の印象的な場面にし、この見方そのものは少なくとも1653年のジョン・ウォリスの文法書にさかのぼる。しかし、英語の歴史を研究する人たちはこの説明に問題を見つけてきた。スコットの物語の舞台は1190年代で、肉の言葉が記録されるおよそ100年前だ。
また、新しい言葉は肉だけを意味したわけではなかった。何百年もの間、「pork」は生きたブタを、「mutton」は生きた羊を意味することがあり、一部の辞書には今も、牛を意味する beef の複数形「beeves」が載っている。1985年、辞書編集者ロバート・バーチフィールドは、おなじみの話を「半分だけの真実」と呼んだ。記録を調べた2015年の研究は、きれいな使い分けは14〜15世紀にゆっくりできあがったと結論づけた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
肉の名前についての定番の説明が、一部しか正しくないことを述べているので B。
Q2. Why is Scott's scene described as a problem?
Scott's story is set in the 1190s, about a century before the meat words are recorded とあるので A。
Q3. What can be inferred about the word "beeves"?
複数形 beeves が今も牛を指すことから、beef がかつて生きた動物を指していた名残だと推測できる。B。
重要単語
- livestockB2名詞家畜The family kept livestock on a small farm.
live(生きた)+stock(財産、在庫)。集合的に使い、複数形にしない。 - loanwordC1名詞借用語、外来語"Pork" is a loanword from French.
loan(貸し)+word。日本語のカタカナ語も英語からの loanwords。 - conquestB2名詞征服The Norman Conquest changed the English language.
動詞は conquer(征服する)。the Norman Conquest は1066年のノルマン征服を指す決まった言い方。 - peasantB2名詞(昔の)農民、小作人The peasants worked on land owned by a lord.
歴史の文章でよく出る語。今の「農家」は farmer がふつう。 - nobleB2名詞・形容詞貴族;高貴なThe nobles held a feast in the castle.
nobility(貴族階級)。a noble cause(立派な目的)のように形容詞でも使う。 - nativeB1形容詞その土地に元からある"Cow" is a native English word.
native speaker(母語話者)でおなじみ。native to ~で「~原産の」。 - beef upC1句動詞強化する、増強するThe school decided to beef up its science program.
beef は俗語の動詞で「文句を言う」の意味もある(AHD)。
公式・一次情報をチェック
- Ivanhoe: A Romance(Project Gutenberg・原作の全文)gutenberg.org
- beef(The American Heritage Dictionary・Word History)ahdictionary.com
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英語では生きた動物は pig・cow・sheep、肉は pork・beef・mutton。肉だけフランス語から来たのは「ノルマン人の貴族が食べたから」と言われる。ただ、昔は pork で生きたブタ、beef で生きた牛も指した。辞書には今も、生きた牛を指す beef の複数形 beeves が載っている。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Őrsi, Tibor (2015) Cow versus Beef: Terms Denoting Animals and Their Meat in English, Eger Journal of English Studies 15, 49–59ojs.uni-eszterhazy.hu
- The American Heritage Dictionary「beef」(Word History)ahdictionary.com
- The American Heritage Dictionary「pork」「mutton」「veal」「venison」「swine」「cow」「pig」「dinner」「prune」ahdictionary.com
- Scott, Walter (1820) Ivanhoe: A Romance(Project Gutenberg 版)gutenberg.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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