本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
英語のマジか!?ビミョー

豚肉 pork、牛肉 beef はフランス語から。ただ昔は、生きたブタや牛も指した

豚肉 pork、牛肉 beef はフランス語から。ただ昔は、生きたブタや牛も指した

読む前に予想してみよう!

英語の pork(豚肉)や beef(牛肉)は、もとはフランス語から入った語だ

研究カード(どんな研究?)
対象
中英語・近代英語の辞書の用例と英語史の論文
規模
1300年ごろ〜19世紀の用例
研究の種類
歴史言語学(辞書・文献調査)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

英語では、動物は pig・cow・sheep、肉は pork・beef・mutton。肉の名前はフランス語から来た。ただ、昔は pork が生きたブタ、beef が生きた牛も指していて、「動物は英語、肉はフランス語」ときれいに分かれるまでには何百年もかかった。

ひとことで言うと英語の豚肉 pork や牛肉 beef は、フランス語から来たことばなんだって!

もくじ
  1. pork と beef の語源はフランス語
  2. 『アイヴァンホー』の豚飼いと道化の会話
  3. 1653年の学者が、すでに指摘していた
  4. どんでん返し:昔は pork が「生きたブタ」だった
  5. おまけ:dinner は昔「朝ごはん」、プラムとプルーンは同じ言葉
  6. まとめ

ポークカレー、ビーフシチュー、マトンのジンギスカン。日本語のメニューでおなじみの「ポーク」「ビーフ」「マトン」は、英語の pork・beef・mutton から来ています。

では、生きている動物は英語で何と言うでしょう。ブタは pig、牛は cow、羊は sheep。肉になると、急に名前が変わります。

しかもこの肉の名前、もとはフランス語です。「動物を育てたのは英語を話す農民、肉を食べたのはフランス語を話す貴族だったから」と、英語の授業や本でよく説明されます。ところが、昔の文章を調べてみると、話はそう単純ではありませんでした。

01pork と beef の語源はフランス語

アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)の語源欄で、動物と肉の名前を並べてみます。

動物の名前は、どれも1066年のノルマン征服より前からある英語。肉の名前は、どれもフランス語から入った語です。

AHD は beef の項の「Word History(語の歴史)」で、この分かれ方をこう説明しています。中世のイングランドで beef や pork をよく食べたのは、おそらくフランス語を話すか、フランス文化にあこがれる裕福な人たちだった。一方、実際に動物を育てた農民は、納屋で ox・swine・calf・sheep と英語の名前で呼び続けた。だから動物には今も英語の名前が残っている――。

02『アイヴァンホー』の豚飼いと道化の会話

この説明を有名にしたのが、スコットランドの作家ウォルター・スコットの歴史小説『アイヴァンホー(Ivanhoe)』です。1820年ごろに出た作品で、舞台はリチャード1世の時代(1189〜1199年)。征服者のノルマン人と、征服されたサクソン人(もとからいた英語を話す人々)の対立が描かれます。

第1章で、豚飼いのガースと道化のワンバが、森でブタを追いながら話します。プロジェクト・グーテンベルクの全文で、場面をたどってみましょう。

  • ワンバ「四本足で走り回っているあのブウブウ言う連中、何て呼ぶ?」
  • ガース「Swine, fool, swine(ブタだよ、ばかだな、ブタ)」
  • ワンバ「swine は立派なサクソンの言葉だ。じゃあ、皮をはいで切り分けて、つるされたら何て呼ぶ?」
  • ガース「pork」

ワンバは続けます。生きているうちはサクソン人の奴隷が世話をしてサクソンの名前で呼ばれるのに、城の広間で貴族のごちそうになると、ノルマン・フランス語の pork になる。牛の ox も、食べられる段になると「威勢のいいフランスの伊達男」beef に変わる。子牛も、オランダ風の Mynheer Calf(カーフ氏)から、フランス風の Monsieur de Veau(ヴォー殿)に変わる、と。

ちなみに、この小説の悪役の騎士の名前は Front-de-Bœuf。フランス語で「牛の額」という意味で、スコットは中世の写本にあるノルマン人の戦士の名簿から取った、と序文に書いています。

『アイヴァンホー』第1章。道化のワンバは、ブタは生きているうちは swine、城の宴に運ばれると pork になる、と言葉の分かれ方を皮肉った
『アイヴァンホー』第1章。道化のワンバは、ブタは生きているうちは swine、城の宴に運ばれると pork になる、と言葉の分かれ方を皮肉った

031653年の学者が、すでに指摘していた

じつは、この「動物は英語、肉はフランス語」の組み合わせに最初に目をつけたのは、スコットではないようです。

ハンガリーのエステルハージ・カーロイ・カレッジのエルシ・ティボル(Tibor Őrsi)が2015年に英語学の学術誌に書いた論文によると、デンマークの言語学者イェスペルセンは、この語の組み合わせに初めて注意を向けたのは、イギリスの学者ジョン・ウォリスが1653年に出した英文法の本だ、としています。ウォリスは deer(シカ)と venison(シカ肉)の組み合わせも挙げていました。スコットがウォリスの本を知っていたのか、自分で同じことに気づいたのかは分かっていない、とエルシは書いています。

04どんでん返し:昔は pork が「生きたブタ」だった

では、『アイヴァンホー』の場面は本当にあったことなのでしょうか。エルシの論文は、中英語辞典(MED)やオックスフォード英語辞典(OED)に集められた昔の文の例を年代順に調べ、こう結論しています。すっきりした使い分けは、12世紀の終わりにはおそらくまだなかった。

じつは今の英語にも、その名残があります。AHD で beef を引くと、最初の意味は「成長した去勢牛・雄牛・雌牛」、つまり生きた牛です。複数形として beeves(ビーヴズ)という形も載っています。エルシの論文によると、OED は「生きた牛」の意味の beef について「たいてい複数形で使い、古風または専門的」と注記しています。

AHD の Word History にも、フランス語の bœuf・porc・veau・mouton は、今でも動物と肉の両方を指せる、と書かれています。フランス語では、牛も牛肉も bœuf なのです。

さらに、この「法則」には例外もあります。エルシの論文によると、chicken(ニワトリ)・hen(めんどり)・cock(おんどり)といった、食用に飼う鳥の名前は英語本来の語です。そして鶏肉は、今も chicken のまま。ただし、ニワトリやアヒルなど食用に飼う鳥をまとめて言う poultry はフランス語から来ていて、論文は「生きた鳥を扱わない人の言葉」という見方を紹介しています。

もうひとつ。cow と beef は、じつは遠い親戚です。AHD によると、cow は古英語 cū から、beef はラテン語 bōs から来ていて、どちらも「牛」を表すインド・ヨーロッパ語の同じ根っこ(*gʷou-)にさかのぼります。英語に残った cow と、フランス語経由で戻ってきた beef。同じ祖先の言葉が、別の道を通って再会したわけです。

05おまけ:dinner は昔「朝ごはん」、プラムとプルーンは同じ言葉

食べ物の英語には、ほかにもフランス語が入りこんでいます。

  • dinner(ディナー):AHD の Word History によると、もとは古フランス語の disner で、中世の英語では「朝食」、あるいは「朝9時から正午ごろにとる、その日最初のしっかりした食事」だった。語源をたどると「断食(fast)をやめる」という意味で、breakfast(break+fast)と同じ発想。その日いちばん大きな食事がだんだん遅い時間に移り、今では主に夕食を指す
  • supper(夕食) もフランス語から。一方、breakfast は break(やめる)と fast(断食)を組み合わせた語で、フランス語を通っていない(エルシの論文・AHD)
  • plum(プラム)と prune(プルーン):エルシの論文によると、どちらもさかのぼると同じラテン語の言葉。plum は古英語の時代から英語にあり、prune はフランス語経由で、1345年に「干したプラム」の意味で入ってきた。生の果物は英語、加工したものはフランス語。cow と beef と同じ形です

06まとめ

pig・cow・sheep は英語、pork・beef・mutton はフランス語。この分かれ方は本当にあり、ノルマン征服後にフランス語を話す人々が上に立ったことと関係があると考えられています。

ただし、最初から「生きている動物は英語、肉はフランス語」ときれいに分かれていたわけではありません。英語に入ってから長いあいだ、pork は生きたブタも、beef は生きた牛も指しました。すっきりした使い分けは、何百年もかけてできあがったものです。その証拠は、今も辞書の beeves という複数形に残っています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFarm animals in English usually have native names, such as swine, cow and sheep, while their meat has… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Farm animals in English usually have native names, such as swine, cow and sheep, while their meat has French names like pork, beef and mutton. A popular explanation goes back to 1066, when French-speaking Normans took control of England. The idea is that English-speaking farmers raised the animals and French-speaking nobles ate the meat. Walter Scott made this idea famous in his novel "Ivanhoe."

In the first chapter, a jester points out that a pig is called "swine" while it lives and "pork" when it reaches a Norman table. But old texts tell a more complicated story. These French words entered English around 1300, and for a long time they could mean the living animal as well as the meat.

120 words ・ CEFR B1

和訳を見る

英語の家畜には、swine、cow、sheep のように英語本来の名前がふつうついているが、その肉には pork、beef、mutton というフランス語の名前がついている。よく知られた説明は、フランス語を話すノルマン人がイングランドを支配した1066年にさかのぼる。英語を話す農民が動物を育て、フランス語を話す貴族が肉を食べたという考えだ。ウォルター・スコットは小説『アイヴァンホー』でこの考えを有名にした。

第1章で、道化が、ブタは生きているうちは「swine」と呼ばれ、ノルマン人の食卓に上ると「pork」になると指摘する。しかし、古い文章はもっと複雑な事情を伝えている。これらのフランス語は1300年ごろに英語に入り、長いあいだ肉だけでなく生きた動物も意味することがあった。

4択リーディングクイズ

Q1. According to the popular explanation, who ate the meat?

Q2. What does the jester in "Ivanhoe" say?

Q3. What does the writer suggest in the last two sentences?

重要単語

  • livestockB2
    名詞家畜The family kept livestock on a small farm. live(生きた)+stock(財産、在庫)。集合的に使い、複数形にしない。
  • loanwordC1
    名詞借用語、外来語"Pork" is a loanword from French. loan(貸し)+word。日本語のカタカナ語も英語からの loanwords。
  • conquestB2
    名詞征服The Norman Conquest changed the English language. 動詞は conquer(征服する)。the Norman Conquest は1066年のノルマン征服を指す決まった言い方。
  • peasantB2
    名詞(昔の)農民、小作人The peasants worked on land owned by a lord. 歴史の文章でよく出る語。今の「農家」は farmer がふつう。
  • nobleB2
    名詞・形容詞貴族;高貴なThe nobles held a feast in the castle. nobility(貴族階級)。a noble cause(立派な目的)のように形容詞でも使う。
  • nativeB1
    形容詞その土地に元からある"Cow" is a native English word. native speaker(母語話者)でおなじみ。native to ~で「~原産の」。
  • beef upC1
    句動詞強化する、増強するThe school decided to beef up its science program. beef は俗語の動詞で「文句を言う」の意味もある(AHD)。
英語では生きた動物は pig・cow・sheep、肉は pork・beef・mutton。肉だけフランス語から来たのは「ノルマン人の貴族が食べたから」と言われる。ただ、昔は pork で生きたブタ、beef で生きた牛も指した。辞書には今も、生きた牛を指す beef の複数形 beeves が載っている。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Őrsi, Tibor (2015) Cow versus Beef: Terms Denoting Animals and Their Meat in English, Eger Journal of English Studies 15, 49–59ojs.uni-eszterhazy.hu
  2. The American Heritage Dictionary「beef」(Word History)ahdictionary.com
  3. The American Heritage Dictionary「pork」「mutton」「veal」「venison」「swine」「cow」「pig」「dinner」「prune」ahdictionary.com
  4. Scott, Walter (1820) Ivanhoe: A Romance(Project Gutenberg 版)gutenberg.org

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →