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英語のマジか!?ホント

「ボイコット」は人の名前。1880年、村じゅうから無視された男の名字だった

「ボイコット」は人の名前。1880年、村じゅうから無視された男の名字だった

読む前に予想してみよう!

「ボイコット」という言葉は、ボイコットを呼びかけた人の名前から来ている

研究カード(どんな研究?)
対象
1880年アイルランドの「ボイコット事件」
規模
当事者の証言・伝記・辞書
研究の種類
歴史資料と辞書の照らし合わせ
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

boycott は、1880年のアイルランドで使用人にも店にも郵便配達にも背を向けられた男、チャールズ・ボイコットの名前。地主に代わって地代を集める仕事をしていた。名付け親は地元の神父だと、アメリカの新聞の記者が書き残している。

ひとことで言うと「ボイコット」は、みんなに無視された人の名前だったんだって!

もくじ
  1. ボイコットさんは、地代を下げなかった土地の管理人
  2. きっかけは「撃て」ではなく「無視しろ」という演説
  3. 刈り入れ人50人を、兵士900人ほどが守った
  4. 名付け親は、神父とアメリカ人記者?
  5. ことばのおまけ:使われなかった ostracize と、人の名前から生まれた動詞
  6. 17年後には、日本の新聞にも「ボイコット」
  7. どんでん返し:名付けの話は「本人の証言」、そしてボイコットは戻ってきた
  8. まとめ

「卒業式をボイコットする」「その会社の商品をボイコットしよう」。

日本語でもよく聞く「ボイコット」。じつはこれ、人の名前です。

しかもその人は、ボイコットを呼びかけた側ではありません。1880年のアイルランドで、使用人にも、店にも、郵便配達にも背を向けられた“された側”の男。チャールズ・ボイコット(Charles Boycott)です。

01ボイコットさんは、地代を下げなかった土地の管理人

アメリカの辞書『American Heritage Dictionary(AHD)』の語源欄によると、ボイコット(1832〜1897年)はイングランド出身の元軍人。アイルランド西部メイヨー州で、アーン伯爵という大地主の土地を管理する「土地差配人(land agent)」をしていました。

伯爵はメイヨーの領地には住んでいない「不在地主」で、ふだんはアイルランド北部ファーマナー州の城で暮らしていました。土地を借りて耕す小作人から、地代(土地の借り賃)を集めるのがボイコットの仕事です。

当時のアイルランドでは、地代の引き下げを求める「土地戦争」が起きていました。1880年秋、小作人たちが「この額なら払う」と申し出た地代を、ボイコットははねつけます。そして払わない小作人に、立ち退き(evict)の書類を出しました。

02きっかけは「撃て」ではなく「無視しろ」という演説

ちょうどそのころ、アイルランドの政治家チャールズ・スチュワート・パーネルが、ある演説をしています。1898年に出た伝記によると、1880年9月19日、アイルランド西部の町エニスでのことです。

パーネルが「追い出された人の農地を借りようとする者には、どうすればいいか」と問いかけると、群衆から「殺せ!」「撃て!」と声が上がりました。

パーネルは静かに続けます。もっとよいやり方がある、と。道で会っても、町の通りでも、店のカウンターでも、市場でも、教会でも、その人をとことん一人きりにしておけ。

畑の作物は、刈り取る人がいないまま残りました。

03刈り入れ人50人を、兵士900人ほどが守った

10月29日には、ダブリンの新聞がボイコットの作物を救う募金を呼びかけます。

アイルランド北部から、刈り入れを手伝うボランティア50人が送りこまれました。伝記によると、彼らは軍と警察の大部隊に守られ、大砲2門まで付いていました。

アイルランドの郷土史家リアム・オ・ラハリーの記事(2011年)によると、ボランティアが着いたのは11月12日、引き上げたのは11月27日。そのあいだ、町と周辺には900人ほどの兵士が置かれました。刈り入れに必要だったのは、本来12人ほどだったといいます。

同じ記事によると、かかった費用は見積もりで最大1万ポンド。守った作物の値打ちは、多く見ても350ポンドだったとされます。

刈り入れ人50人のまわりに、900人ほどの兵士(郷土史家オ・ラハリーの記事による)。「ボイコット事件」は大げさな警備でも有名になった
刈り入れ人50人のまわりに、900人ほどの兵士(郷土史家オ・ラハリーの記事による)。「ボイコット事件」は大げさな警備でも有名になった

04名付け親は、神父とアメリカ人記者?

では、だれが「ボイコット」を言葉にしたのでしょうか。

当時アイルランドからアメリカの新聞『インターオーシャン』(シカゴ)に記事を送っていた記者ジェームズ・レッドパスが、1881年の本『Talks about Ireland』に、こう書き残しています。

ある晩、レッドパスは地元のジョン・オマリー神父と食事をしていました。新しい言葉を探して悩んでいたのです。地主や差配人を仲間外れにすることを、ostracism(オストラシズム、追放)と呼んでも、農民には意味が通じない。

すると神父は額をたたいて、こう言ったそうです。

「How would it do to call it to Boycott him?(『ボイコットする』と呼んだらどうだろう)」

レッドパスは大喜びし、ダブリンやロンドンから来る記者の耳に入るよう、この言葉を広めようと約束します。本人いわく、最初に口にしたのは神父、最初に書いたのは自分でした。

05ことばのおまけ:使われなかった ostracize と、人の名前から生まれた動詞

神父とレッドパスが「通じない」と見送った ostracize(仲間外れにする) にも、語源があります。AHD によると、ギリシャ語の ostrakon(陶器のかけら)から。古代アテネでは、危険とみなした市民を、陶器のかけらを票に使う投票で、一定の期間、国の外へ追い出していました。

パーネルの演説にも、もう一つの「無視」の英語が出てきます。「moral Coventry に送れ」。send somebody to Coventry(コベントリーに送る)は、オックスフォードの学習辞典で「罰として、その人と口をきかない」という意味のイギリス英語です。コベントリーはイングランド中部の都市の名前です。

boycott のように、人の名前がそのまま動詞になった英語はほかにもあります(AHD の語源欄より)。

  • gerrymander(自分の党に有利なように選挙区を区切る):1812年、マサチューセッツ州知事エルブリッジ・ゲリー(Gerry)の時代に作られた選挙区の形が、トカゲに似たサラマンダー(salamander)のよう。そこで Gerry+salamander。ゲリー本人の名前は「ゲ」と読むのに、いまの英語では「ジェ」と読むのがふつうです
  • bowdlerize(本の不適切な部分を削る):1818年に、下品とみなした部分を削ったシェイクスピア全集を出したトマス・バウドラーから
  • mesmerize(うっとりさせる):18世紀に磁気で病気を治せると唱えた医師フランツ・メスメルから。英語での最初の記録は1829年

0617年後には、日本の新聞にも「ボイコット」

AHD によると、boycott は英語だけでなく、フランス語、オランダ語、ドイツ語、ロシア語にも、そのまま取り入れられました。

日本語も例外ではありません。『精選版 日本国語大辞典』が挙げる最も早い例は、1897年(明治30年)7月20日の『時事新報』。「所謂ボイコットを実行し」とあります。遅くとも事件から17年後には、遠い日本の新聞にまで届いていたことになります。

07どんでん返し:名付けの話は「本人の証言」、そしてボイコットは戻ってきた

神父が名付けたという話は、レッドパス本人の証言です。ほかの記録で確かめられたわけではありません。2011年のオ・ラハリーの記事も、神父は「名付け親とされている」と書くにとどめています。

また、ボイコットは1880年12月1日にアイルランドを離れますが、それで終わりではありませんでした。1881年4月にはアメリカに渡って新聞の取材を受け、同じ年の8月には元の屋敷に戻っています。農場を手放したのは1886年。最後はイングランドで土地の管理の仕事をし、1897年に65歳で亡くなりました。

「村から永遠に追い出された男」というイメージは、少し話を盛っています。

08まとめ

「ボイコット」は、無視を呼びかけた人ではなく、無視された人の名前でした。

撃つ代わりに、みんなで背を向ける。この新しいやり方の呼び名を探していたとき、ちょうど標的になっていた土地差配人の名字が選ばれました。そして遅くとも17年後には、日本の新聞にまで届いていました。ニュースで boycott を聞いたら、刈り入れ人50人と兵士900人ほどの、あの秋の畑を思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCharles Boycott was a land agent in the west of Ireland. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Charles Boycott was a land agent in the west of Ireland. His job was to collect rent from tenant farmers for an owner who lived far away. In the autumn of 1880, the tenants offered to pay a lower rent.

Boycott refused and tried to have some of them evicted. The local people answered by leaving him completely alone. His servants walked out, shops refused to serve him, and the boy who carried his mail was warned off.

Fifty volunteers came from the north to bring in his crops, and a local historian says about 900 soldiers guarded the area. A reporter for an American newspaper later wrote that a local priest suggested turning Boycott's name into a verb. By 1897 the word had reached a Japanese newspaper.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

チャールズ・ボイコットは、アイルランド西部の土地差配人だった。彼の仕事は、遠くに住む地主のために小作人から地代を集めることだった。1880年の秋、小作人たちは、もっと安い地代なら払うと申し出た。

ボイコットはこれを拒み、何人かを立ち退かせようとした。地元の人々は、彼を完全に一人きりにすることで応えた。使用人たちは出ていき、店は品物を売ろうとせず、郵便を運ぶ少年はおどされて手を引いた。

北部から50人のボランティアが作物の取り入れに来て、ある郷土史家によれば、およそ900人の兵士がその一帯を警備した。のちにアメリカの新聞の記者が、地元の神父がボイコットの名前を動詞にすることを思いついたと書いた。1897年までに、この語は日本の新聞にまで届いていた。

4択リーディングクイズ

Q1. What was Charles Boycott's job?

Q2. Who came to bring in Boycott's crops?

Q3. What does the last sentence suggest about the word "boycott"?

重要単語

  • boycottB2
    動詞・名詞(抗議として)参加・購入・取引を拒む;不買運動Some countries boycotted the 1980 Olympics. 名詞は a boycott of ~(~のボイコット)。call for a boycott「ボイコットを呼びかける」もよく使う。1880年の土地差配人チャールズ・ボイコットの名前から。
  • tenantB2
    名詞借地人、小作人、借家人The tenants asked for lower rent after a bad harvest. 反対は landlord(地主、家主)。アパートの住人も tenant。
  • rentA2
    名詞・動詞家賃、地代;賃借りするHow much is the rent for this apartment? pay the rent「家賃を払う」。rent a car「車を借りる」のように動詞でも使う。
  • evictC1
    動詞(家・土地から)立ち退かせるThe family was evicted because they could not pay the rent. 受け身 be evicted で使うことが多い。名詞は eviction。
  • ostracizeC1
    動詞仲間外れにする、のけ者にするHe was ostracized by his classmates after the incident. ギリシャ語 ostrakon(陶器のかけら)から。古代アテネの「陶片追放」が語源。
  • gerrymanderC1
    動詞(自分の党に有利なように)選挙区の線を引き直すThey gerrymandered the district to keep their seat. Gerry(人名)+salamander(サラマンダー)。名詞 gerrymandering もニュースで頻出。
  • harvestB1
    名詞・動詞収穫、取り入れ;収穫するThe farmers worked from morning to night during the harvest. bring in the harvest / bring in the crops「作物を取り入れる」。
「ボイコット」は人の名前。1880年のアイルランドで、使用人にも店にも郵便配達にも背を向けられた地代の取り立て役、チャールズ・ボイコット。無視を呼びかけた側ではなく、無視された側。刈り入れに来た50人を、郷土史家の記事によれば900人ほどの兵士が守った。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Redpath (1881) Talks about Ireland, P. J. Kenedy(ch. XIII "An Exile of Erin"、Internet Archive)archive.org
  2. O'Brien (1898) The Life of Charles Stewart Parnell, 1846–1891, Vol. 1, Smith, Elder(pp. 236–239、Internet Archive)archive.org
  3. Ó Raghallaigh (2011) Captain Boycott: man and myth, History Ireland 19(1)historyireland.com
  4. American Heritage Dictionary「boycott」(Word History)・「ostracize」・「gerrymander」・「bowdlerize」・「mesmerism」ahdictionary.com
  5. 精選版 日本国語大辞典「ボイコット」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp

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