アプリコットは「先に煮えた実」。英語の「早熟な」と同じ語源だった

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アプリコット(apricot)と、「早熟な」という意味の precocious は、同じラテン語から来た言葉だ
アメリカン・ヘリテージ英語辞典によると、どちらもラテン語の prae-(前に)+coquere(煮る・熟す)にさかのぼる。
- 対象
- 辞書の語源記述・古代ローマの文献・アンズのゲノム研究
- 規模
- 約600本分のアンズのゲノム(2021年の研究)
- 研究の種類
- 歴史言語学(辞書の語源記述)+集団ゲノム解析
- 確かさ
- ★★★★☆
アンズの apricot のもとはラテン語 praecoquus(早く熟す)。「早熟な」という意味の precocious も、同じ「先に煮える」から来ている。アラビア語を通って a がつき、英語に入った。
ひとことで言うとアプリコットは「早く熟す実」という意味。英語の「早熟な(precocious)」と語源が同じ!
もくじ
年のわりに大人びた子を、英語で precocious(プリコーシャス) と言います。a precocious child(早熟な子)のように使います。
この precocious、もとのラテン語をそのまま訳すと 「先に煮えた」。
そしてもう一つ。ジャムやドライフルーツでおなじみの apricot(アプリコット=アンズ) も、同じ「先に煮えた」から生まれた言葉です。早熟な子とアンズは、言葉の上では“兄弟”だったのです。
01apricot の語源は「早く熟す」
『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』によると、apricot をさかのぼると、ラテン語の praecoquus(早く熟す) にたどりつきます。
- prae-:「前に、先に」(英語の pre- と同じ)
- coquere:「煮る・料理する」、そして「熟す」
ラテン語では、「料理する」と「実が熟す」が同じ動詞でした。だから「先に煮える」は「早く熟す」という意味になります。apricot は、早い時期に熟す果物 として名づけられたのです。
02ラテン語から、ぐるっと回って英語へ
この言葉は、まっすぐ英語に入ったわけではありません。辞書の説明をつなぐと、地中海のまわりを大きく回っています。
apricot の最初の a は、アラビア語の al-(the) の名残りです。
つづりの p にも旅のあとが残っています。ラテン語 praecoquus の p は、アラビア語では barqūq の b になり、スペイン語・フランス語でも b のまま(abricot)。英語でもう一度 p に戻ったのは、Dictionary.com によると、おそらくラテン語の praecox(早熟な)につられたためです。
アメリカン・ヘリテージ英語辞典は、アラビア語の al-barqūq の意味を「the plum(そのスモモ)」と書いています。ギリシャ語ではアンズの名前だった言葉が、アラビア語ではスモモの意味になっているのです。
03precocious も「先に煮えた」
一方、precocious のほうは、ラテン語の praecox(早すぎる) から来ています。もとの動詞は praecoquere。アメリカン・ヘリテージ英語辞典の説明は「前もって煮る、早く熟す」です。
今の英語の precocious には、意味が2つあります。
- 年齢のわりに、能力や興味が進んでいる:a mathematically precocious child(数学が早熟な子)
- 植物学で、葉が出る前に花が咲くこと
2つめは「花が早い」。もとの「早く熟す」に近い使い方が、植物の言葉として残っています。

04古代ローマでは「1個1デナリウス」
「早く熟すモモの仲間」は、古代ローマの記録にも出てきます。
1世紀のローマの学者プリニウスは、百科事典『博物誌』の第15巻でモモの種類を並べています。「ガリアのモモ」「アジアのモモ」のように土地の名前がついたものがあり、アジアのモモは秋が過ぎてから熟す。一方で、夏に熟す早生(わせ)の種類(ラテン語で praecocia) もある。それは ここ30年のうちに見つかったもので、はじめは1個1デナリウスで売られた、と書いています(タフツ大学の Perseus で原文と1855年の英訳が読めます)。
デナリウスはローマの銀貨です。果物1個に銀貨1枚でした。
英訳の注は、この praecocia という名前から apricot という言葉が生まれたと「一般に考えられている」と書いています。ただ、プリニウスの言う praecocia が今のアンズとまったく同じ果物なのかは、この記録からは決められません。
05「煮る」の仲間は台所じゅうにいる
apricot と precocious のもとになった coquere(煮る)は、ほかにもたくさんの英単語を生んでいます。アメリカン・ヘリテージ英語辞典で確かめた仲間です。
- cook(料理する、料理人):ラテン語 coquus(料理人)から
- kitchen(台所):後期ラテン語 coquina から。もとは coquus(料理人)から作った「料理の」という意味の語
- biscuit(ビスケット):中世ラテン語 bis coctus=「2度焼いた」。bis は「2度」。イタリアのお菓子 biscotti(ビスコッティ) も同じ
- ricotta(リコッタチーズ):ラテン語 recocta=「もう一度煮た」
- terra cotta(テラコッタ、素焼き):イタリア語で 「焼いた土」
- concoct(混ぜて作る、でっち上げる):ラテン語で「いっしょに煮る」
さらにさかのぼると、coquere はインド・ヨーロッパ祖語(英語やラテン語、ギリシャ語、ペルシャ語などの共通の祖先にあたる言葉)の **\*pekw-(料理する、熟す)** に行き着きます。同じ辞典の付録によると、ここからは次のような言葉も出ています。
- pumpkin(カボチャ):ギリシャ語 pepōn=「熟した」。ギリシャ語では大きなメロンの名前でもあり、ラテン語ではスイカやウリを指した
- ceviche(セビーチェ):生の魚介をライムやレモンの汁とスパイスにつけこむ料理。ところが名前のもとは、アラビア語 sikbāj(酢で煮た肉)。さらにさかのぼると中世ペルシャ語の「酢」+「料理、スープ」で、その「料理」の部分が、古いイランの言葉で 「火を通した」 を表す語から来ています。生の魚の料理の名前に「火を通した」が入っているのです
06日本語でも「よその国のモモ」
日本語の「アンズ」はどうでしょう。『日本大百科全書(ニッポニカ)』によると、アンズは 「杏子」の唐音(とういん=中国の比較的新しい時代の発音にもとづく読み方) です。平安時代の辞書『和名抄(わみょうしょう)』には 「からもも」 とあり、中国から伝わったので「唐桃」と呼ばれていました。
英語の peach(モモ)も、アメリカン・ヘリテージ英語辞典によるとラテン語 persica から来た言葉で、もとは 「ペルシャの(実)」。Dictionary.com の語源欄は、apricot のもとのラテン語を 「早く熟すモモ」 と説明しています。
日本語では「唐の国のモモ」、ラテン語では「早く熟すモモ」。どちらの言葉でも、アンズはまずモモの仲間として名前をもらっていました。
07どんでん返し:「アルメニアの実」はアルメニア生まれではなかった
アンズの学名は Prunus armeniaca。armeniaca は「アルメニアの」という意味です。プリニウスもスモモの仲間として「よその国の民族から名前をとった armeniaca」を挙げています。名前から見ると、ローマの人たちはこの実をアルメニアと結びつけていたようです。日本の百科事典には「中国原産」と書かれています。
ところが、2021年に科学誌『Nature Communications』に出た研究は、どちらとも少し違う答えを出しています。フランスの研究機関を中心とするチームが、アンズの仲間 578本のゲノム(遺伝情報の全体) を読み、ヨーロッパのアンズと中国のアンズを比べました。
その結果、ヨーロッパのアンズと中国のアンズは、遺伝的にはっきり分かれた2つのグループで、それぞれ中央アジアにある別々の野生のアンズから、別々に栽培されるようになったと考えられました。論文によると、野生のアンズが今も自然に生えているのは中央アジアだけです。かたちや植物学の特徴から、アンズは長いあいだ中国生まれと考えられてきた、とも論文は書いています。
ニッポニカによると、アンズは紀元前からアルメニアで栽培され、そこでいくつもの系統に分かれました。アルメニアは大事な栽培地ではあっても、ふるさとそのものではなかったのです。
08まとめ
apricot は「先に煮えた=早く熟す実」。早熟な子の precocious も、同じ「先に煮える」から来ています。ラテン語で生まれた名前は、ギリシャ語、アラビア語、スペイン語、フランス語と旅をして、頭にアラビア語の al- の名残りの a をつけたまま英語にたどりつきました。
台所の cook・kitchen・biscuit、カボチャの pumpkin も同じ一族です。次にアンズジャムのビンを開けたら、「先に煮えた実を、もう一度煮ている」と思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAbout 2,000 years ago, the Roman writer Pliny described a kind of peach that ripened in summer, earlier…
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The English word "apricot" comes from an old Latin word. It meant "ripe early." In Latin, one verb meant both "to cook" and "to ripen."
So an apricot was a fruit that was "cooked early" by nature. The word "precocious" comes from the same Latin words. We use it for a child who can do things very early. A five-year-old who reads the newspaper is precocious.
66 words ・ CEFR A2
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英語の「apricot」は、古いラテン語から来ています。その意味は「早く熟す」でした。ラテン語では、ひとつの動詞が「料理する」と「熟す」の両方を意味しました。
だからアンズは、自然の力で「早く煮えた」果物だったのです。「precocious」という語も、同じラテン語から来ています。私たちはこの語を、いろいろなことがとても早くできる子どもに使います。新聞を読む5歳の子は precocious です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
apricot と precocious が同じラテン語から来ている話なので B。
Q2. In Latin, what two meanings did one verb have?
one verb meant both "to cook" and "to ripen" とあるので C。
Q3. What does "precocious" mean in the passage?
a child who can do things very early に使うとあるので A。
About 2,000 years ago, the Roman writer Pliny described a kind of peach that ripened in summer, earlier than the others. He wrote that people had found it only within the last 30 years, and that at first each fruit sold for one silver coin. The English word "apricot" is usually traced to the Latin name for this early fruit.
The word took a long trip. It went from Latin into Greek and then into Arabic, where it picked up "al," the Arabic word for "the." After that it passed through Spanish or Portuguese and French before it reached English. "Precocious," the word for a child who is ahead for their age, comes from the same Latin roots.
118 words ・ CEFR B1
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約2000年前、ローマの著述家プリニウスは、ほかより早く夏に熟すモモの一種について書いた。それはここ30年のうちに見つかったもので、はじめは1個が銀貨1枚で売られた、と彼は書いている。英語の「apricot」は、ふつうこの早く熟す果物のラテン語名にさかのぼるとされる。
この語は長い旅をした。ラテン語からギリシャ語、そしてアラビア語に入り、そこでアラビア語で「the」にあたる「al」がついた。その後、スペイン語かポルトガル語、そしてフランス語を通って英語にたどりついた。年のわりに進んでいる子を表す「precocious」も、同じラテン語から来ている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
apricot という語の由来と、言語から言語への旅の話なので C。
Q2. According to Pliny, how much did each early fruit cost at first?
at first each fruit sold for one silver coin とあるので A。
Q3. What can we infer about the letter "a" at the start of "apricot"?
アラビア語に入ったときに "al"(the)がついたとあるので、頭の a はその名残りと考えられる。D。
Latin used a single verb, "coquere," for cooking food and for fruit ripening on the tree. Put "prae," meaning "before," in front of it and you get a word for fruit that ripens early. That is the source of "apricot," and "precocious" grew out of the same two parts. A precocious child, then, is one who has been "cooked" ahead of schedule.
The cooking verb left its mark all over the kitchen. "Cook" and "kitchen" come from it, and "biscuit" first meant "cooked twice." Even the name "ceviche," a dish of raw fish soaked in lime juice, has an old Iranian word for "cooked" hidden in its history. The fruit's own history has a twist too.
Its scientific name, Prunus armeniaca, ties it to Armenia, and Japanese encyclopedias say it is native to China. A genetic study published in 2021 read the genomes of 578 trees from the apricot group. It found that European and Chinese apricots were domesticated separately, each from a different wild population in Central Asia. Armenia was an important place for growing the fruit, but it was not where the story began.
186 words ・ CEFR B2
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ラテン語では、食べ物を料理することにも、木の上で果物が熟すことにも、「coquere」というひとつの動詞を使った。その前に「前に」を意味する「prae」をつけると、早く熟す果物を表す語になる。これが「apricot」のもとであり、「precocious」も同じ2つの部品から生まれた。つまり precocious な子とは、予定より早く「煮えた」子なのだ。
料理の動詞は、台所のあちこちに跡を残した。「cook」と「kitchen」はこの動詞から来ており、「biscuit」はもともと「2度焼いた」という意味だった。生の魚をライムの汁につけた料理「セビーチェ」の名前でさえ、その歴史をたどると「火を通した」を表す古いイランの言葉が隠れている。この果物自体の歴史にも、ひとひねりがある。
学名の Prunus armeniaca はアルメニアと結びついており、日本の百科事典は中国原産だと書いている。2021年に発表された遺伝子の研究は、アンズの仲間の木578本のゲノムを読んだ。その結果、ヨーロッパのアンズと中国のアンズは、それぞれ中央アジアの別々の野生の集団から、別々に栽培化されたことが分かった。アルメニアはこの果物を育てる大事な場所だったが、物語が始まった場所ではなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
coquere(料理する・熟す)という動詞が apricot・precocious・cook などをつないでいる、というのが中心なので B。
Q2. What did the 2021 study find?
European and Chinese apricots were domesticated separately, each from a different wild population in Central Asia とあるので C。
Q3. Why does the writer mention ceviche?
生の魚の料理なのに、名前の歴史に「火を通した」を表す語が入っている、という意外さを示すために挙げているので A。
重要単語
- apricotB1名詞アンズ(の実・木);アンズ色She put some dried apricots in her lunch box.
発音は「アプリコット」も「エイプリコット」も辞書にある。dried apricots(干しアンズ)、apricot jam(アンズジャム)。 - precociousC1形容詞(子どもが)早熟な、年のわりに大人びたHe was a precocious reader and finished the whole series at seven.
prae-(先に)+ラテン語 coquere(煮る・熟す)。ほめ言葉にもなるが、イギリス英語では「ませた」という悪い意味でも使う。名詞は precocity。 - ripenB2動詞熟す、熟させるThe apricots ripen in early summer.
ripe(熟した)+-en(〜にする)。The time is ripe. で「機が熟した」。 - biscuitA2名詞(英)ビスケット;(米)スコーンのようなパンIn the US, biscuits are often served with gravy.
中世ラテン語 bis coctus=「2度焼いた」。イギリスとアメリカで指す物がちがうので注意。 - concoctC1動詞(材料を混ぜて)作る;(話などを)でっち上げるHe concocted a story about a lost bag.
ラテン語 concoquere=「いっしょに煮る」。concoct an excuse(言い訳をでっち上げる)。 - kitchenA1名詞台所My grandmother spends every morning in the kitchen.
後期ラテン語 coquina から。cook(料理する)と同じ一族。cooker はイギリスで「調理用コンロ」。 - domesticateC1動詞(動植物を)栽培化する、家畜化するPeople domesticated wheat thousands of years ago.
domestic(家の)から。植物にも動物にも使う。名詞は domestication。
公式・一次情報をチェック
- apricot(Dictionary.com)dictionary.com
- ceviche(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- pumpkin(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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アンズの apricot と、「早熟な(子)」の precocious は語源が同じ。どちらもラテン語の「先に煮える=早く熟す」から。apricot はギリシャ語、アラビア語、スペイン語、フランス語を回って英語に入った。同じ「煮る」の仲間に、biscuit(2度焼いた)や kitchen(台所)もいる。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「apricot」「precocious」「biscuit」「kitchen」「cook」ahdictionary.com
- The American Heritage Dictionary, Appendix I: Indo-European Roots「pekw-」ahdictionary.com
- Pliny the Elder, Naturalis Historia 15(Mayhoff 校訂 1906・Bostock & Riley 英訳 1855, Perseus Digital Library, タフツ大学)perseus.tufts.edu
- Groppi, A. et al. (2021) Population genomics of apricots unravels domestication history and adaptive events, Nature Communications 12doi.org
- 日本大百科全書(ニッポニカ)「アンズ」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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