トマトもチョコもチリも、もとはアステカの言葉。でもチョコの語源は今も分かっていない

読む前に予想してみよう!
「チョコレート」は、ナワトル語で「苦い水」という意味だと確かめられている
「苦い」の語から来た可能性を書く辞書もあるが、言語学者の論文は、これまでに出たどの語源説も正しくないとしている。
- 対象
- ナワトル語の辞書(16世紀〜)・英語の辞書・言語学の論文
- 規模
- 16世紀〜現代の用例
- 研究の種類
- 歴史言語学(文献調査・比較言語学)
- 確かさ
- ★★★★☆
tomato・chocolate・chili は、アステカの人々のことば「ナワトル語」から。もとの tomatl は小さなトマティーヨも指した。chocolate の語源は今も分かっていない。
ひとことで言うとトマトもチョコもチリも、もとはメキシコのアステカのことばだった!
もくじ
トマト(tomato)、チョコレート(chocolate)、チリ(chili)、ココア(cocoa)、コヨーテ(coyote)。
ばらばらに見えるこの5つの英語、じつは全部メキシコの先住民のことば「ナワトル語」から来ています。16世紀の初めまでメキシコ中部で栄えた、アステカの人々のことばです。
しかも、2つのどんでん返しつき。トマトの語源の tomatl は、赤いトマトだけの名前ではありませんでした。そして毎日のように食べるチョコレートの語源は、言語学者のあいだで今も決着していないのです。
01アステカのことばは、今も約165万人が話す
American Heritage Dictionary(アメリカの大きな英語辞典)によると、ナワトル語はアステカの人々をふくむメキシコ中部の民族のことばです。名前の Nahuatl そのものは「耳に心地よいもの」という意味だそうです。
アステカの文明は、16世紀の初めにスペインに征服されたころ最も栄えていました。でもことばは消えていません。
スペイン人がナワトル語の名前をスペイン語に取り入れ、それが英語に入りました。英語に入った時期は、Dictionary.com によると cacao(カカオ)が1545〜1555年、tomato が1595〜1605年、chocolate が1600〜1610年、chili が1655〜1665年です。
02tomato:tomatl は「果肉の多い丸い実」
英語の tomato は、スペイン語の tomate、さらにナワトル語の tomatl から来ています。英語でも最初は tomate の形でした(Dictionary.com)。
ところが、tomatl は赤いトマトだけの名前ではありません。American Heritage Dictionary は、tomatl の意味を「果肉の多い丸い実、トマティーヨ、トマト」と書いています。トマティーヨ(tomatillo)は、メキシコ原産のホオズキの仲間で、黄色から紫色の実をつけます(American Heritage Dictionary)。
メキシコ国立自治大学(UNAM)の「ナワトル語大辞典」を開くと、違いがはっきりします。
つまり英語の tomato のもとは、アステカの人たちが小さな実もふくめて呼んでいた名前です。大きな赤いトマトには、xitomatl という別の呼び方もありました。ちなみに英語の tomatillo は、スペイン語の tomate に「小さい」を表す語尾がついた形です(American Heritage Dictionary)。

03chili、chipotle、coyote、axolotl…英語になったナワトル語
食べ物や動物の名前にも、ナワトル語がたくさんあります。辞書(American Heritage Dictionary・Dictionary.com)で確かめたものを並べます。
- chili(とうがらし):ナワトル語 chīlli から。つづりは chili / chile / chilli のどれも辞書に載っている
- chipotle(チポトレ):chīlli(とうがらし)+pōctli(煙)=「煙のとうがらし」。熟したハラペーニョを乾かしていぶしたもの
- coyote(コヨーテ):coyōtl から。英語では1825〜1835年から。それ以前は cuiota、cayota などとも書かれた
- axolotl(アホロートル):ātl(水)+xōlōtl。American Heritage Dictionary は xōlōtl の意味として「双子」「犬の頭をした神ショロトル」「怪物」「召し使い」などを並べている。日本では「ウーパールーパー」の呼び名で知られる生き物(デジタル大辞泉「アホロートル」)
- ocelot(オセロット):1765年、フランスの博物学者ビュフォンが、ナワトル語 tlālōcēlōtl(「野のジャガー」という意味らしい)を短くして名づけた。Dictionary.com は「勝手に短くしたらしい」と書いている
- cocoa(ココア):cacao が、ココヤシを指した古い語 coco に引っぱられて形が変わったもの
- avocado(アボカド):āhuacatl から(くわしくは語源ずかんで)
04chocolate:語源は今も決着していない
では、チョコレートの chocolate は?
American Heritage Dictionary によると、もとはナワトル語の chicolātl / chocolātl。水、トウモロコシの粉、すりつぶしたカカオなどを混ぜた、泡立つ飲み物のことでした。後半の ātl は「水」。ところが前半の chicol- / chocol- は、意味も由来も分からないと書かれています。
UNAM のナワトル語大辞典は、chocolatl の古い記録について、次のように伝えています。
スペイン語や英語で chocolate が使われていたころ、ナワトル語の辞書にはまだ chocolatl が見当たらない。 このずれが、語源をややこしくしています。
2007年、言語学者のカウフマンとジャステソンは、学術誌『Ancient Mesoamerica』の長い論文で、これまでに出た chocolate の語源説は、どれも正しくないと結論づけました。chocolate のすぐもとがナワトル語の chikolātl であることは認めつつ、その chikolātl がどうやってできた言葉なのかは分からない、としたのです。
05どんでん返し:カカオはアステカより古い言葉かもしれない
チョコレートの原料、カカオ(cacao)はどうでしょう。こちらにも論争があります。
カウフマンとジャステソンの説(2007年):カカオを表す *kakawa は、ミヘ・ソケ語族(メキシコ南部などで話される先住民のことばのグループ。語族は、同じ先祖から分かれたことばの集まり)のことばで生まれた。オルメカ文明(紀元前1300〜前400年ごろ栄えた文明)の中心地あたりから広がり、マヤ語には紀元前200年ごろから西暦400年ごろのあいだに入った。ナワトル語はそれを借りた側だ、という説です。
ダキンとヴィッヒマンの説(2000年):反対に、cacao も chocolate も、ナワトル語をふくむユト・アステカ語族の言葉だとしました。もとは、豆の形や飲み物の作り方を表す言葉だったという考えです。
2007年の論文は、2000年の論文の論点に一つずつ反論しています。American Heritage Dictionary は cacao の語源を「ナワトル語 cacahuatl から。おそらくミヘ・ソケ祖語(ミヘ・ソケ語族の共通の先祖のことば)の *kakawa から(ミヘ・ソケ語はオルメカ文明のことばだったかもしれない)」と書いています。辞書も「おそらく」「かもしれない」をつけるほど、まだ決着がついていない問題なのです。
ちなみに「オルメカ」という呼び名そのものもナワトル語で、もとは「ゴムの国の人々」という意味です(American Heritage Dictionary)。ゴムの木がとれる土地の人、というわけです。
06まとめ
トマト、チョコレート、チリ、ココア、コヨーテ。毎日のように目にする言葉の中に、500年前のアステカのことばが生きています。そのナワトル語は、今もメキシコでおよそ165万人が話しています。
ただし、tomatl は赤いトマトだけの名前ではなく、chocolate の語源は今も謎、cacao はアステカよりさらに古い文明のことばかもしれません。次にチョコをかじるときは、「この名前、まだ誰にも正体が分かっていないんだよ」と話してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany food words in English come from Nahuatl, the language of the Aztecs.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Tomato, chocolate and chili are English words, but they first came from Nahuatl. Nahuatl was the language of the Aztecs in Mexico.
Today about 1.65 million people in Mexico still speak it. Spanish speakers took the words first, and then English borrowed them from Spanish. The word "chocolate" has a mystery. Nobody knows for sure what the first part of the word means. Some people say "bitter water," but no one has proved it.
74 words ・ CEFR A2
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トマト、チョコレート、チリは英語の単語ですが、もとはナワトル語から来ました。ナワトル語は、メキシコのアステカの人々のことばでした。
今も、メキシコでは約165万人がこのことばを話しています。まずスペイン語を話す人たちがこれらの単語を取り入れ、それから英語がスペイン語から借りました。「chocolate」という単語には謎があります。単語の前半が何を意味するのか、はっきり分かる人はいません。「苦い水」と言う人もいますが、それを証明した人はいません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
tomato・chocolate・chili がアステカのことばナワトル語から来た話なので B。
Q2. About how many people in Mexico speak Nahuatl today?
Today about 1.65 million people in Mexico still speak it. とあるので B。
Q3. In the passage, what does "borrowed" mean?
English borrowed them from Spanish は「スペイン語から単語を取り入れた」という意味なので A。
Many food words in English come from Nahuatl, the language of the Aztecs. Spanish speakers learned the words in Mexico in the 1500s, and English took them from Spanish. "Tomato" comes from "tomatl," but that word did not mean only the big red tomato. It also covered the tomatillo, a small Mexican fruit that is a kind of ground cherry.
The red tomato had another name, "xitomatl," which lives on in the Mexican Spanish word "jitomate." "Chili" comes from "chīlli," and "chipotle" means "smoked chili." Nahuatl is still very much alive. Mexico's 2020 census counted about 7.4 million people who speak an indigenous language, and 22.4 percent of them speak Nahuatl.
111 words ・ CEFR B1
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英語の食べ物の単語の多くは、アステカの人々のことばナワトル語から来ている。スペイン語を話す人たちが1500年代にメキシコでそれらの単語を覚え、英語はスペイン語からそれを取り入れた。「tomato」は「tomatl」から来ているが、この単語は大きな赤いトマトだけを意味していたのではない。ホオズキの仲間の、メキシコの小さな実トマティーヨも指していた。
赤いトマトには「xitomatl」という別の名前があり、それはメキシコのスペイン語の「jitomate」に今も残っている。「chili」は「chīlli」から来ていて、「chipotle」は「いぶしたとうがらし」という意味だ。ナワトル語は今もしっかり生きている。メキシコの2020年の国勢調査では、先住民のことばを話す人が約740万人いて、そのうち22.4%がナワトル語を話していた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
tomato・chili・chipotle などナワトル語から来た食べ物の単語の話なので A。
Q2. Which modern word comes from "xitomatl"?
"xitomatl," which lives on in the Mexican Spanish word "jitomate." とあるので C。
Q3. What can be inferred about the word "tomatl"?
tomatl は赤いトマトだけでなくトマティーヨも指したとあるので、複数の種類の実を指したと推測できる。B。
The word "chocolate" has been in English since the early 1600s, yet its origin is still argued over. Dictionaries trace it to Nahuatl "chocolātl," a frothy drink made with ground cacao, but the American Heritage Dictionary says the first part, "chocol-," is of unknown meaning and origin. A Nahuatl dictionary project at Mexico's national university adds an odd detail. The word for cacao beans appears in a major Nahuatl dictionary from 1571, but "chocolātl" does not, and the earliest source the project lists for it is a book from 1780.
In 2007, the linguists Kaufman and Justeson concluded that none of the proposed explanations for "chocolate" was correct. They also argued that the word for cacao itself began in the Mixe-Zoquean languages, spread from around the heartland of the Olmec civilization, and reached Mayan languages between about 200 BC and AD 400. Not everyone agrees. Seven years earlier, Dakin and Wichmann had argued that both "cacao" and "chocolate" came from the language family that includes Nahuatl, and that they first described the shape of the bean and the way the drink was made.
183 words ・ CEFR B2
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「chocolate」という単語は1600年代の初めから英語にあるが、その起源は今も議論されている。辞書はこの語を、すりつぶしたカカオで作った泡立つ飲み物を表すナワトル語「chocolātl」にさかのぼらせているが、アメリカン・ヘリテージ英語辞典は、前半の「chocol-」は意味も由来も分からないとしている。メキシコの国立大学のナワトル語辞書プロジェクトは、奇妙な点を付け加えている。カカオ豆を表す単語は1571年のナワトル語の主要な辞書に載っているのに「chocolātl」は載っておらず、このプロジェクトが挙げるこの語の最も古い出典は1780年の本である。
2007年、言語学者のカウフマンとジャステソンは、「chocolate」についてこれまでに出された説明はどれも正しくないと結論づけた。2人はさらに、カカオを表す単語そのものはミヘ・ソケ語族のことばで生まれ、オルメカ文明の中心地あたりから広がり、紀元前200年ごろから西暦400年ごろのあいだにマヤ語に入ったと主張した。全員が同意しているわけではない。その7年前、ダキンとヴィッヒマンは、「cacao」も「chocolate」もナワトル語をふくむ語族から来たもので、もとは豆の形や飲み物の作り方を表していたと主張していた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
chocolate と cacao の語源について、辞書の記述や研究者の対立する説を紹介しているので B。
Q2. According to the passage, what is odd about the 1571 Nahuatl dictionary?
The word for cacao beans appears in a major Nahuatl dictionary from 1571, but "chocolātl" does not とあるので B。
Q3. What can be inferred about the origin of the word for cacao?
Kaufman と Justeson はミヘ・ソケ語族起源、Dakin と Wichmann はナワトル語をふくむ語族起源と主張しており、Not everyone agrees. とあるので C。
重要単語
- borrowA2動詞借りる;(ことばを)取り入れるEnglish borrowed "tomato" from Spanish.
言語学では、ほかの言語から入った語を borrowing / loanword(借用語)と呼ぶ。 - indigenousC1形容詞先住の、その土地固有のNahuatl is an indigenous language of Mexico.
indigenous peoples「先住民族」。動植物にも使う:a plant indigenous to Mexico。 - originateB2動詞生まれる、始まるThe word may have originated in another language.
originate in / from ~「~で生まれる」。名詞は origin(起源)。 - originB1名詞起源、由来The origin of the word is still a mystery.
of unknown origin「起源不明の」は辞書の語源欄でよく見る表現。 - spicyA2形容詞辛い、香辛料のきいたThis chili sauce is too spicy for me.
hot も「辛い」の意味で使うが、「熱い」とまぎらわしいときは spicy が便利。 - frothC1名詞(細かい)泡She whisked the hot chocolate until it had a thick froth.
形容詞は frothy(泡立った)。chocolātl はもともと泡立つ飲み物だった。 - censusB2名詞国勢調査The census counts everyone living in the country.
take a census「国勢調査をする」。メキシコの2020年の調査でナワトル語の話者数が分かる。
公式・一次情報をチェック
- tomatl(Gran Diccionario Náhuatl, UNAM)gdn.iib.unam.mx
- chocolatl(Gran Diccionario Náhuatl, UNAM)gdn.iib.unam.mx
- chocolate(Dictionary.com)dictionary.com
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トマト、チョコレート、チリ、ココア、コヨーテ。全部メキシコのアステカの人々のことば(ナワトル語)から、スペイン語を通って英語に入った。でも「チョコレート」の語源は、言語学者のあいだで今も決着していない。「苦い水」説も確かめられていない。
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出典・参考文献(7件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary「tomato」「chocolate」「cacao」「Nahuatl」ほかahdictionary.com
- Gran Diccionario Náhuatl(メキシコ国立自治大学)「xitomatl」gdn.iib.unam.mx
- Kaufman & Justeson (2007) The history of the word for cacao in ancient Mesoamerica, Ancient Mesoamerica 18(2)doi.org
- Dakin & Wichmann (2000) Cacao and chocolate: A Uto-Aztecan perspective, Ancient Mesoamerica 11(1)doi.org
- INEGI (2022) Estadísticas a propósito del Día Internacional de los Pueblos Indígenas(2020年国勢調査)inegi.org.mx
- Oxford Learner's Dictionaries「tomato」(発音)oxfordlearnersdictionaries.com
- デジタル大辞泉「アホロートル」(コトバンク)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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