シリアルは農業の女神、パニックは森の神、モルヒネは夢の神の名前

読む前に予想してみよう!
「パニック(panic)」は、ギリシャ神話の神パンの名前から来ている
オックスフォードの学習辞典によると、人をおびえさせる神とされ、森の物音もパンのしわざとされた。そのパンの名前が、フランス語を通って17世紀はじめの英語に入った。
- 対象
- 英語の辞書の語源欄
- 規模
- 14〜19世紀に英語に入った語
- 研究の種類
- 歴史言語学(辞書の語源記述)
- 確かさ
- ★★★★☆
cereal は農業の女神ケレス、panic は森の神パン、morphine は夢の神の名前から。volcano と atlas も神話から。gas はギリシャ語の chaos(カオス)をもとに作られた。
ひとことで言うと朝のシリアルは、ローマ神話の農業の女神の名前だった!
もくじ
朝ごはんのシリアル。人があわてふためくパニック。病院で使う強い痛み止めのモルヒネ。
この3つの英語のもとは、神さまの名前です。cereal はローマ神話の農業の女神ケレス(Ceres)、panic はギリシャ神話の森の神パン(Pan)、morphine は夢の神モルペウス(Morpheus)。
まだあります。火山の volcano は火の神、地図帳の atlas は天をかつぐ巨人。そして理科で習う gas(気体)は、ギリシャ語の「カオス(混沌)」をもとに、ひとりの化学者が作った言葉です。オックスフォード大学出版局の学習辞典と、アメリカの『アメリカン・ヘリテージ英語辞典(AHD)』の語源欄で、ひとつずつ確かめていきます。
01シリアルは農業の女神、パニックは森の神
ケレスの名前は、宇宙にも元素にも残っています。火星と木星のあいだを回る準惑星ケレス(AHD)と、元素のセリウム(cerium)です。セリウムは、発見されたばかりのケレス(当時は小惑星とされた)にちなんで、19世紀はじめに名づけられました(オックスフォード学習辞典)。朝のシリアルと元素のセリウムは、同じ女神の名前でつながっているのです。
パンは、人間の上半身にヤギの脚・角・耳をもつ、森と野と羊の群れの神です(AHD)。AHD によると、パンは羊などの群れをおびえさせる存在とされました。ギリシャ語の Pānikos(パンの)は、恐怖を表すときに「理由のない(恐怖)」という意味でも使われました。だれもいない森でガサッと音がしたときの、あのぞっとする感じ。それに神の名前をつけたのが panic です。
モルヒネは、アヘンから作られる強い痛み止めです(オックスフォード学習辞典)。その薬に、夢の神の名前がつけられました。AHD はモルペウスを、ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』に出てくる夢の神と説明しています。
02火山は火の神、地図帳は天をかつぐ巨人

- volcano(火山):イタリア語を通って17世紀はじめに英語へ。もとはラテン語 Volcānus、ローマ神話の火の神ウルカヌス(Vulcan)の名前(オックスフォード学習辞典)。ウルカヌスは火と金属細工の神(AHD)
- atlas(地図帳):巨人アトラス(Atlas)の名前から。アトラスは、神々の王ゼウスにそむいた罰として、天を支え続けることになった巨人族ティタンのひとり。初期の地図帳の最初のページに、アトラスの絵がのっていた(オックスフォード学習辞典)。英語に入った16世紀終わりには、「重い荷を背負う人」を指していた
atlas にはもうひとつ、体の中の意味もあります。AHD によると、首のいちばん上の骨(第一頸椎)も atlas。頭の骨を下から支えている骨で、この名前も巨人アトラスから来ています。地図帳と首の骨が、同じ巨人の名前を分け合っています。
03「密閉」は錬金術の祖ヘルメス、「陽気」は木星
神の名前は、物の名前だけでなく、様子を表す形容詞にもなっています。
- hermetic(密閉した):a hermetic seal(密封)のように使う。ギリシャ神話のヘルメスから(オックスフォード学習辞典)。もとになったラテン語 hermēticus は「錬金術の」という意味です(AHD)。ここでいうヘルメスは、正確には「ヘルメス・トリスメギストス(三倍偉大なヘルメス)」。ギリシャのヘルメスとエジプトの神トトを同じ神と見た呼び名で、錬金術・占星術・魔術の本を書いたと伝えられる伝説上の人物です(AHD)
- jovial(陽気な):ラテン語 joviālis「ユピテル(ジュピター)の」から。木星の下に生まれた人は陽気になるという、占星術の考えから来ている(オックスフォード学習辞典)
- mercury(水銀):ローマ神話の神メルクリウス(マーキュリー)の名前。弁舌・技・商売・泥棒の神で、神々の使いでもあった(オックスフォード学習辞典)
- music(音楽)・museum(博物館):どちらも芸術の女神たちムーサ(Muse)から。music は「ムーサの技」、museum は「ムーサの座」。museum はもともと、エジプトのアレクサンドリアに建てられた学問の建物を指していた(オックスフォード学習辞典)
「密閉」と錬金術がどう結びついたのかまでは、今回確かめた辞書には書かれていません。辞書から言えるのは、もとのラテン語が「錬金術の」という意味だったところまでです。
04gas は「カオス」から作られた
神さまの名前ではありませんが、宇宙のはじまりを語る言葉から生まれた語で、いちばん身近なのが gas でしょう。
オックスフォード学習辞典によると、gas は17世紀半ば、ベルギーの化学者ファン・ヘルモント(1577〜1644)が作った言葉です。彼が「すべての物の中にある」と考えた、目に見えない神秘的な「もと」を表すために、ギリシャ語の khaos(カオス)から思いついた言葉です。ギリシャ語の kh の音を、オランダ語の g の文字で書いたので gas になったのです。
カオスは、AHD によると、世界に秩序ができる前にあったと考えられた、形のない混沌とした状態のこと。ガスコンロの「ガス」は、宇宙のはじまりの混沌から名前をもらったわけです。
05どんでん返し:typhoon と echo は「神の名前から」とは言い切れない
神話から来た言葉としてよく名前が挙がるのに、辞書で確かめると話が分かれるものもあります。
typhoon(台風)。ギリシャ神話には、ゼウスに地の底へ投げこまれた100の頭をもつ怪物テュポン(Typhon)がいます(AHD)。AHD は typhoon の語源を、アラビア語 ṭūfān(洪水)を通って、もとはギリシャ語の「テュポン、つむじ風」と書いています。そこに、中国語で台風を表す言葉(広東語の toi fung かもしれない、としています)の影響が加わった、とも説明しています。
ところがオックスフォード学習辞典は、アラビア語 ṭūfān のもとを「ひょっとするとギリシャ語 tuphōn(つむじ風)」と、あいまいに書いています。台風が怪物の名前から来たかどうかは、辞書によって書き方が違うのです。
日本語の「台風」も、すっきりしません。小学館の『日本国語大辞典』によると、明治になってから「タイフーン」や「大風」と書かれるようになり、大正時代から「颱風」が広まりました。平凡社の『世界大百科事典』は、「颱風」という語の語源について、アラビア語 tūfān か英語 typhoon の音を写したという説、台湾の方から来る暴風を指したという説などがあり、はっきりしないと書いています。今の「台風」は、戦後の漢字の決まり(当用漢字)で「颱」を「台」に書きかえた形です。
echo(こだま)。ギリシャ神話のニンフ(森や泉の精)エコーは、美少年ナルキッソスに恋をして、最後は声だけが残ったとされます(Dictionary.com)。そこで「echo はニンフの名前から」と思いがちですが、辞書の語源欄にニンフは出てきません。オックスフォード学習辞典も Dictionary.com も、ギリシャ語のふつうの言葉 ēkhō から来たとし、ēkhē(音)の仲間だと説明しています。ニンフの名前と「こだま」という言葉のどちらが先なのかは、辞書からは分かりません。
volcano も、オックスフォード学習辞典は火の神の名前からとはっきり書いていますが、AHD は「おそらく」をつけています。
06まとめ
朝のシリアル、あわてるパニック、痛み止めのモルヒネ、火山、地図帳、そしてガス。毎日のように使う英語の中に、ギリシャ・ローマの神々や神話の言葉が、名前を変えて今も生きています。
次にシリアルにミルクを注ぐときは、思い出してみてください。そのボウルの中身は、ローマの農業の女神ケレスの名前で呼ばれているのです。
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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Many people eat cereal for breakfast. The word "cereal" comes from Ceres, the Roman goddess of farming. Other English words have gods in them too. "Panic" comes from Pan, a Greek god of the woods.
People thought strange noises in the forest came from him. "Volcano" comes from Vulcan, the Roman god of fire. And "morphine," a strong drug for pain, is named after Morpheus, the god of dreams.
69 words ・ CEFR A2
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多くの人が朝ごはんにシリアルを食べます。「cereal」という言葉は、ローマ神話の農業の女神ケレスから来ています。ほかの英単語にも神さまが入っています。「panic」はギリシャ神話の森の神パンから来ています。
人々は、森の中の不思議な物音はパンのしわざだと考えていました。「volcano」はローマ神話の火の神ウルカヌスから来ています。そして、痛みに使う強い薬「morphine」は、夢の神モルペウスにちなんで名づけられました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
Other English words have gods in them too とあり、cereal・panic・volcano・morphine と神の名前の関係を説明しているので B。
Q2. Who was Ceres?
Ceres, the Roman goddess of farming とあるので C。
Q3. In the passage, what is "morphine"?
"morphine," a strong drug for pain とあるので B。
Open a box of cereal and you are holding the name of a goddess. The word comes from Ceres, the Roman goddess of farming. "Panic" goes back to Pan, a Greek god of woods and flocks who was said to cause sudden fear. People even blamed him for strange sounds in the forest.
A volcano is named after Vulcan, the Roman god of fire, and an atlas after Atlas, a giant who had to hold up the sky as a punishment. Pictures of him appeared at the front of early books of maps. "Gas" has a different story. A Belgian chemist made up the word in the 1600s, basing it on the Greek word "khaos," or chaos.
117 words ・ CEFR B1
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シリアルの箱を開けると、あなたは女神の名前を手にしていることになる。この言葉はローマ神話の農業の女神ケレスから来ている。「panic」は、突然の恐怖を引き起こすと言われた、森と家畜の群れのギリシャの神パンにさかのぼる。人々は森の不思議な物音まで彼のせいにした。
火山(volcano)はローマ神話の火の神ウルカヌスにちなみ、地図帳(atlas)は、罰として空を支え続けなければならなかった巨人アトラスにちなんで名づけられた。初期の地図の本の最初には、彼の絵がのっていた。「gas」には別のいきさつがある。あるベルギーの化学者が1600年代にこの言葉を作り、ギリシャ語の「khaos」、つまりカオスをもとにした。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did people connect Pan with fear?
Pan ... who was said to cause sudden fear. People even blamed him for strange sounds in the forest とあるので B。
Q2. Why is a book of maps called an "atlas"?
Pictures of him appeared at the front of early books of maps とあるので C。
Q3. How is the word "gas" different from the other words in the passage?
"Gas" has a different story. A Belgian chemist made up the word とあり、神の名前ではなく人が作った言葉なので A。
A surprising number of everyday English words carry the names of ancient gods. "Cereal" honors Ceres, the Roman goddess of farming, whose name was also given to a dwarf planet and to the element cerium. "Panic" comes from Pan, the goat-legged Greek god blamed for sudden, groundless fear.
"Morphine" was named after Morpheus, the god of dreams, and "volcano" goes back to Vulcan, the Roman god of fire. Some links are less obvious. "Hermetic," which now means airtight, comes from a Latin word meaning "alchemical." That word goes back to Hermes Trismegistus, the legendary author of books on alchemy and magic. "Jovial" reflects the old belief that people born under Jupiter were cheerful.
But not every famous story holds up. Dictionaries disagree about "typhoon." The American Heritage Dictionary traces it through Arabic back to the Greek monster Typhon, while the Oxford Learner's Dictionary says only that the Arabic word perhaps came from Greek. And "echo" is often linked to the nymph Echo, yet the dictionaries checked here trace the word to an ordinary Greek word related to "sound."
178 words ・ CEFR B2
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日常の英単語には、古代の神々の名前を宿したものが驚くほど多い。「cereal」はローマ神話の農業の女神ケレスにちなむ。その名は準惑星や元素セリウムにも使われた。
「panic」は、突然の理由のない恐怖を引き起こすとされた、ヤギの脚をもつギリシャの神パンから来ている。「morphine」は夢の神モルペウスにちなんで名づけられ、「volcano」はローマ神話の火の神ウルカヌスにさかのぼる。つながりが分かりにくいものもある。今は「密閉した」を意味する「hermetic」は、「錬金術の」という意味のラテン語から来ている。そのラテン語は、錬金術や魔術の本の伝説上の作者ヘルメス・トリスメギストスにさかのぼる。「jovial」には、木星の下に生まれた人は陽気だという昔の考えが残っている。
しかし、有名な話がすべて裏づけられるわけではない。「typhoon」については辞書の意見が分かれる。アメリカン・ヘリテージ英語辞典はアラビア語を通ってギリシャの怪物テュポンまでさかのぼるとするが、オックスフォードの学習辞典は、アラビア語の語がひょっとするとギリシャ語から来たかもしれない、と書くだけだ。また「echo」はよくニンフのエコーと結びつけられるが、ここで確かめた辞書は、この語を、「音」を表す語の仲間である、ギリシャ語のふつうの言葉にさかのぼらせている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
前半で神の名前から来た語を挙げ、後半で not every famous story holds up と typhoon・echo の不確かさを述べているので B。
Q2. According to the passage, what did the Latin word behind "hermetic" mean?
"Hermetic," ... comes from a Latin word meaning "alchemical" とあるので C。
Q3. What can be inferred about the word "typhoon"?
Dictionaries disagree about "typhoon" とあり、AHD は怪物テュポンまでさかのぼるが、オックスフォードは perhaps としか書かないので、テュポンとのつながりは決まっていないと推測できる。A。
重要単語
- cerealA2名詞穀物;(朝食の)シリアルI eat cereal with milk every morning.
農業の女神 Ceres から。同じ発音の serial(連続の)と書き間違えないこと。 - panicB1名詞・動詞うろたえ、恐慌;あわてるDon't panic. We still have ten minutes.
森の神 Pan から。過去形・-ing 形は panicked / panicking と k を足す。 - volcanoB1名詞火山Mount Fuji is a volcano.
火の神 Vulcan から。active volcano「活火山」。複数形は volcanoes が一般的。 - atlasB1名詞地図帳Look up Greece in the atlas.
天を支える巨人 Atlas から。1枚の地図は map、地図を集めた本が atlas。 - hermeticC1形容詞密閉したThe jar has a hermetic seal, so the coffee stays fresh.
hermetically sealed「密封された」の形でよく使う。もとになったラテン語は「錬金術の」という意味。 - jovialC1形容詞陽気な、愛想のいいOur coach is a jovial man who laughs a lot.
Jupiter(ユピテル)の別名 Jove から。木星の下に生まれた人は陽気、という占星術の考えによる。 - goddessB1名詞女神Ceres was the Roman goddess of farming.
god に女性を表す -ess がついた形。actress、princess と同じ作り。
公式・一次情報をチェック
- cereal(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- panic(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- gas(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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朝食の cereal は農業の女神ケレス、panic は森の神パン、痛み止めの morphine は夢の神モルペウスの名前から。火山 volcano は火の神。gas は chaos(カオス)から作られた言葉。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Oxford Learner's Dictionaries「cereal」「panic」「morphine」「volcano」「atlas」「hermetic」「typhoon」「gas」ほか(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「cereal」「panic」「volcano」「atlas」「hermetic」「typhoon」ほかahdictionary.com
- Dictionary.com「echo」「hermetic」(Origin・Collins English Dictionary)dictionary.com
- 精選版 日本国語大辞典「台風」(語誌)・世界大百科事典「台風」(コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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