いじめっ子の bully、16世紀は「恋人」の意味。シェイクスピアでは王様へのほめ言葉

読む前に予想してみよう!
bully(いじめっ子)は、昔からずっと悪い意味の言葉だった
16世紀の bully は男女どちらにも使う「いとしい人」という愛情の言葉だった。今の「弱い者いじめをする人」の意味は17世紀後半から。
- 対象
- 英語の辞書の語源記述とシェイクスピアの劇の用例
- 規模
- 16世紀〜20世紀初めの用例
- 研究の種類
- 歴史言語学(辞書・文献の調査)
- 確かさ
- ★★★★☆
bully(いじめっ子)は16世紀には男女どちらにも使う「いとしい人」。シェイクスピアの劇では王様をほめる言葉。今の「弱い者いじめをする人」の意味は17世紀後半から。
ひとことで言うといじめっ子の bully、500年くらい前は「恋人」っていう意味だった!
もくじ
いじめっ子は英語で bully(ブリー)。いじめは bullying です。
ところが、この bully、16世紀には「いとしい人」「恋人」という意味でした。しかも男性にも女性にも使える、愛情たっぷりの呼び方です。
シェイクスピアの劇では、兵士が王様のことを the lovely bully と呼んでいます。今の感覚で訳すと「愛すべきいじめっ子」。でも本人は、心の底からほめているのです。
0116世紀の bully は「いとしい人」
オックスフォードの学習英英辞典(OALD)の語源欄によると、bully が英語に現れたのは16世紀半ば。もとはおそらく、中期オランダ語(中世のオランダ語)の boele=「恋人」です。
つまり、ざっくり並べるとこうです。
恋人・いとしい人 → 親しい男友だち(いい奴) → 弱い人をいじめる人
日本語でいえば、「ダーリン」が「相棒」になり、最後は「いじめっ子」になったようなもの。16世紀半ばから17世紀後半まで、150年ほどのあいだに、ほめ言葉が悪口のほうへ動きました。
02シェイクスピアの bully は、ほめ言葉
この「いい奴」の bully は、シェイクスピアの劇で今も読めます。米国のフォルジャー・シェイクスピア図書館の本文で確かめました。
『ヘンリー五世』4幕1場。アジャンクールの戦いの前の夜、ヘンリー王は家臣から借りたマントで身分をかくし、陣地を見て回ります。そこで出会った兵士ピストルは、目の前の相手が王様本人だとは知らずに、王様をこうほめちぎります。
「I kiss his dirty shoe, and from heartstring I love the lovely bully.」(王様の汚れた靴にだってキスするぜ。心の底から、あの愛すべき“いい奴”が大好きだ)
同じせりふで、ピストルは王様を bawcock(フランス語 beau coc=「りっぱなおんどり」から。「いい男」)とか、imp of fame(名高い家の子)とも呼んでいます。imp も今は「いたずらっ子」「小鬼」の意味ですが、アメリカン・ヘリテージ英語辞典によると、もとは古英語の「若い芽」、そこから「子ども、子孫」でした。
『夏の夜の夢』3幕1場では、素人芝居の世話役クインスが、仲間の機織り職人ボトムに bully Bottom と呼びかけます。「いいやつのボトム」「ボトムの旦那」くらいの、親しみをこめた呼び方です。

03「いい意味」の bully は、まだ生きている
意味が変わっても、古い「いい」の意味はいくつかの言い回しに残っています。
bully for you!:アメリカン・ヘリテージ英語辞典では「よくやった!」と認める間投詞。ところがOALDでは、相手の言ったことやしたことをたいしたことないと思っているときに使う、と説明しています。He's got a job in New York? Well, bully for him!(ニューヨークで仕事が決まった? へえ、そりゃよかったね。OALDの例文)のように、今は皮肉で使うことが多い言い方です。
bully pulpit:アメリカン・ヘリテージ英語辞典によると、bully は「すばらしい」の意味。説教壇(pulpit)のように、自分の考えを大勢に語れる立場のことです。大統領職をこう呼んだセオドア・ルーズベルト大統領が作った言葉とみられています(OALD・アメリカン・ヘリテージ英語辞典とも「おそらく」「どうやら」と書いています)。She used her office as a bully pulpit for school reform.(彼女は自分の地位を、教育改革を訴える場として使った)
形容詞の bully(すばらしい)も、アメリカン・ヘリテージ英語辞典に did a bully job(見事な仕事をした)という例とともに載っています。
04おまけ:愛称が悪口になった英単語
bully と同じように、「かわいい人」「家の人」だった言葉が、悪い意味に変わった例はほかにもあります。
- minion(手下):映画のタイトルでもおなじみの語。OALDでは「命令に従うだけの下っぱ」。でも語源はフランス語の mignon(かわいらしい人、恋人)で、アメリカン・ヘリテージ英語辞典には今も「とても大事にされている人、お気に入り」の意味が残っています。ステーキの filet mignon(フランス語で「上品なヒレ肉」)の mignon と同じフランス語です
- hussy(ふしだらな女):OALDによると housewife(主婦)が縮んだ形。もとの意味は「主婦」で、悪い意味は17世紀半ばから
- imp(いたずらっ子、小鬼):もとは「若い芽」「子ども」。シェイクスピアのピストルは、王様をほめるのにこの語を使った
05どんでん返し:「恋人」説も、実は「おそらく」
ここまで「bully のもとはオランダ語の恋人」と書いてきましたが、辞書の書き方は慎重です。OALDは「probably(おそらく)」、アメリカン・ヘリテージ英語辞典は「Possibly(ひょっとすると)」。さらにアメリカン・ヘリテージ英語辞典は、そのオランダ語 boele 自体が、おそらく broeder(兄弟) という語が変わった形だ、とまで書いています。もしそうなら、もとの意味は「恋人」より前に「兄弟」だったことになります。
なぜ「いい奴」が「いじめる奴」になったのか。その道すじも、今回調べた辞書には書かれていません。辞書には「雇われの乱暴者」(Dictionary.com では古い用法)という意味も載っていて、これが間をつなぐのかもしれません。ただ、どの意味がどの順番で現れたのかは、今回の資料では確かめられませんでした。
それから、英語には つづりが同じでまったく別の bully もあります。缶詰の牛肉 bully beef の bully は、フランス語の bouilli(ゆでた肉)から来たとされる別の語。いじめっ子とは関係ありません。
06まとめ
恋人 → いい奴 → いじめっ子。bully は、約500年のあいだに意味が大きく入れかわった英単語です。シェイクスピアの兵士が王様に送った最高のほめ言葉は、今では学校の廊下で言われたくない言葉になりました。
Bully for you! と言われたら、それがほめ言葉なのか皮肉なのか、相手の顔をよく見てください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf someone called you a bully today, you would be upset.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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Today a bully is a person who hurts or scares weaker people. But about 500 years ago, the word was much kinder. In the 1500s, "bully" meant "sweetheart" or "dear." People used it for both men and women.
Later it became a friendly word for a male friend. The bad meaning came in the late 1600s. In one of Shakespeare's plays, a soldier says he loves "the lovely bully." He is talking about the king!
75 words ・ CEFR A2
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今、bully は弱い人を傷つけたり、こわがらせたりする人のことです。でも約500年前、この単語はずっとやさしい言葉でした。1500年代、「bully」は「恋人」や「いとしい人」という意味でした。男性にも女性にも使いました。
その後、男の友だちへの親しい呼び方になりました。悪い意味が出てきたのは1600年代後半です。シェイクスピアの劇のひとつでは、兵士が「the lovely bully」が大好きだと言います。それは王様のことなのです!
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
bully が「恋人」から「いじめっ子」へ意味を変えた話なので B。
Q2. When did the bad meaning of "bully" appear?
The bad meaning came in the late 1600s. とあるので B。
Q3. In the passage, what does "sweetheart" mean?
"sweetheart" or "dear" と並べており、愛する人を呼ぶ言葉なので B。
If someone called you a bully today, you would be upset. In the mid-1500s, though, it was a compliment. The word probably came from the Middle Dutch "boele," meaning "lover," and English speakers first used it as a loving name for a man or a woman. Over time it became a friendly way to address a male friend, a bit like "buddy."
The meaning we know, a person who frightens weaker people, dates from the late 1600s. Shakespeare's plays still show the older sense. In Henry V, a soldier praises the king as "the lovely bully," without knowing that the man in front of him is the king himself. Today the old meaning lives on in phrases like "Bully for you!", which usually sounds sarcastic.
125 words ・ CEFR B1
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今、誰かにbullyと呼ばれたら、あなたは腹を立てるだろう。でも1500年代半ばには、それはほめ言葉だった。この語はおそらく「恋人」を意味する中期オランダ語の「boele」から来ており、英語を話す人々は最初、男性にも女性にも使う愛情のこもった呼び名としてこれを使った。やがて、男の友だちに親しく呼びかける言い方になった。少し「buddy(相棒)」に似ている。私たちが知っている「弱い人をこわがらせる人」という意味は、1600年代後半からだ。
シェイクスピアの劇には、今も古い意味が残っている。『ヘンリー五世』では、兵士が王を「the lovely bully」とほめるが、目の前の男が王本人だとは知らない。今日、古い意味は「Bully for you!」のような言い回しに残っているが、これはたいてい皮肉に聞こえる。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
1500年代にはほめ言葉だった bully が、今の悪い意味になった流れを説明しているので A。
Q2. Who does the soldier in Henry V call "the lovely bully"?
a soldier praises the king as "the lovely bully" とあるので C。
Q3. What does the writer suggest about "Bully for you!" today?
which usually sounds sarcastic とあり、本気でほめていないことが多いと分かるので B。
On the night before the battle of Agincourt in Shakespeare's Henry V, the king walks through his camp in a borrowed cloak. A soldier named Pistol, who has no idea who he is talking to, tells him that he would kiss the king's dirty shoe and that he loves "the lovely bully." To modern ears that sounds like an insult, but Pistol means it as high praise.
Dictionaries date "bully" to the mid-1500s and link it, with some hesitation, to the Middle Dutch "boele," meaning "lover." At first it was a term of endearment for either sex. Later it was used between male friends, and only in the late 1600s did it settle into its present sense of someone who intimidates weaker people.
The dictionaries checked for this article don't explain that last step, and one of them even suggests that "boele" may go back to the Dutch word for "brother." A few traces of the friendly sense survive. Theodore Roosevelt is thought to have called the presidency a "bully pulpit," meaning a splendid platform. Words like "minion," from a French word for a lover, and "hussy," from "housewife," took a similar downhill path.
194 words ・ CEFR B2
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シェイクスピアの『ヘンリー五世』で、アジャンクールの戦いの前の夜、王は借りたマントを着て陣地を歩く。話している相手が誰なのかまったく知らないピストルという兵士は、王の汚れた靴にキスしてもいい、「the lovely bully」が大好きだ、と彼に言う。今の耳には悪口に聞こえるが、ピストルは最高のほめ言葉のつもりで言っている。
辞書は「bully」を1500年代半ばの語とし、ややためらいながらも「恋人」を意味する中期オランダ語の「boele」と結びつけている。最初は男女どちらにも使う愛情のこもった呼び方だった。その後、男の友だちどうしで使われ、1600年代後半になってようやく、弱い人を脅す人という今の意味に落ち着いた。
この記事で調べた辞書は、その最後の変化がどう起きたのかを説明しておらず、そのうちの1冊は、「boele」がオランダ語の「兄弟」を表す語にさかのぼるかもしれないとまで書いている。親しみのある意味の名残もいくつかある。セオドア・ルーズベルトは大統領職を「bully pulpit」、つまり「すばらしい演壇」と呼んだと考えられている。フランス語の「恋人」から来た「minion」や、「housewife(主婦)」から来た「hussy」のような語も、同じように悪い意味のほうへ下っていった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ピストルのほめ言葉から始まり、bully が愛情の言葉から悪い意味へ変わった流れを説明しているので B。
Q2. According to the passage, when did "bully" take on its present meaning?
only in the late 1600s did it settle into its present sense とあるので B。
Q3. What can be inferred about the origin of "bully"?
with some hesitation や may go back to から、辞書は有力な説を示しつつも断定していないと分かるので C。
重要単語
- bullyB1名詞・動詞いじめっ子;いじめるThe school bully took my lunch money.
bullying で「いじめ」。be bullied into -ing で「脅されて〜させられる」。 - sweetheartB1名詞恋人;(呼びかけで)ねえ、あなたThey were high school sweethearts.
16世紀の bully はちょうどこの意味だった。high school sweethearts は「高校時代からの恋人どうし」。 - term of endearmentC1名詞愛情をこめた呼び方"Honey" is a common term of endearment.
endear(好かれるようにする)から。honey、dear、sweetie などがその例。 - minionC1名詞手下、言いなりの部下The villain sent his minions to find the key.
フランス語 mignon(かわいらしい人、恋人)から。複数形 minions で悪者の手下たちを指すことが多い。 - sarcasticB2形容詞皮肉っぽい"Bully for you" usually sounds sarcastic today.
名詞は sarcasm。「すごいね(本当はそう思っていない)」のような言い方。 - pick onB1句動詞〜をいじめる、〜にばかり文句を言うStop picking on your little brother.
bully より日常的でくだけた言い方。pick on someone your own size「自分と同じくらいの相手とやれ」。 - intimidateC1動詞おどす、こわがらせるHe tried to intimidate the younger players.
辞書で bully を説明するときによく使われる語。形容詞 intimidating は「近寄りがたい、威圧的な」。
公式・一次情報をチェック
- bully pulpit(The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.)ahdictionary.com
- minion(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- hussy(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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いじめっ子を表す英語 bully。16世紀には「いとしい人、恋人」という意味でした。シェイクスピアの『ヘンリー五世』では、兵士が王様のことを the lovely bully と呼んでほめています。「いじめっ子」の意味は17世紀後半から。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「bully」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「bully」ahdictionary.com
- Dictionary.com(Random House Unabridged・Collins)「bully」dictionary.com
- Shakespeare『Henry V』4幕1場(Folger Shakespeare Library)folger.edu
- Shakespeare『A Midsummer Night's Dream』3幕1場(Folger Shakespeare Library)folger.edu
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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