本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
英語のマジか!?ホント

ココナッツの「ココ」は“おばけ”。殻の3つのくぼみが顔に見えた

ココナッツの「ココ」は“おばけ”。殻の3つのくぼみが顔に見えた

読む前に予想してみよう!

ココナッツの「ココ」と、飲み物のココアの「ココ」は同じ語源である

研究カード(どんな研究?)
対象
16世紀のポルトガル語の記録と英語・スペイン語の辞書
規模
1563〜1578年の記録、1755年のジョンソン辞典、現代の辞書4種
研究の種類
歴史言語学(辞書・文献調査)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

coconut の coco は、ポルトガル語・スペイン語で子どもを怖がらせる「おばけ」。殻の根元の3つのくぼみが、目と口に見えたから。ココアとは別の言葉。

ひとことで言うとココナッツは「おばけの実」。3つのくぼみが顔に見えたんだって!

もくじ
  1. 殻の3つのくぼみが「おばけの顔」
  2. 16世紀の記録「女たちが子どもを怖がらせるときの言葉」
  3. ココアは別の言葉。でも、昔の辞書はごちゃまぜ
  4. スペイン語では「頭」、英語では nut が「頭」
  5. 見た目で名づけられた仲間:チューリップとラン
  6. どんでん返し:coco そのものの出どころは、まだ分かっていない
  7. まとめ

ココナッツミルク、ココナッツサブレ、ココナッツオイル。毎日のように目にする「ココナッツ」の「ココ」には、ちゃんと意味があります。

答えは 「おばけ」。ポルトガル語やスペイン語の coco(ココ) は、子どもを怖がらせるときに持ち出す化け物のことでした。

ココナッツの殻の根元には、くぼみが3つあります。これが目と口に見えた。だから16世紀にインドの海へ出たポルトガル人たちは、この実を「おばけ」と呼んだのです。

01殻の3つのくぼみが「おばけの顔」

アメリカン・ヘリテージ英語辞典で coconut を引くと、語源の欄にこう書かれています。もとはポルトガル語の coco で、意味は 「子どもを怖がらせるために顔を彫ったカボチャなどの物」「小鬼(goblin)」、そして「ココナッツ」。ココナッツの根元にある3つのくぼみが、小鬼の目と口を思わせるからだ、という説明です。

顔を彫ったカボチャといえば、ハロウィーンのカボチャのランタンを思い出す人も多いでしょう。ポルトガル語の coco は、そんな「こわい顔」の物を指す言葉でした。

根元の3つのくぼみが目と口に見えたことから、ポルトガル語で「おばけ」を意味する coco と呼ばれた(アメリカン・ヘリテージ英語辞典)
根元の3つのくぼみが目と口に見えたことから、ポルトガル語で「おばけ」を意味する coco と呼ばれた(アメリカン・ヘリテージ英語辞典)

0216世紀の記録「女たちが子どもを怖がらせるときの言葉」

この名前が付いたいきさつは、16世紀の書き手たちが書き残しています。インドに関わる英語を集めた辞典『ホブソン・ジョブソン』(1886年初版、シカゴ大学の電子版)が、その文章を英訳で並べています。

  • 1563年 ポルトガルの歴史家バロス(『アジア史』第3部):「わが国の人々はこれに coco という名を付けた。女たちが子どもを怖がらせようとするときに使う言葉だ。ほかの名を誰も知らなかったので、この名が定着した。本当の名前は、マラバールの人々の呼ぶ tenga である」
  • 1563年 ポルトガルの医師ガルシア・デ・オルタ:「サルか、何かほかの動物の顔に見えるので、coco と名付けた」
  • 1578年 医師アコスタ:「ポルトガル人は、あの3つの穴があるので coco と呼ぶ」

インド南西部のマラバール海岸では、地元の言葉で tenga と呼ばれていました。それなのに、ポルトガル人は自分たちの「おばけ」という言葉で呼び、それが英語の coconut にまでなったのです。

03ココアは別の言葉。でも、昔の辞書はごちゃまぜ

名前が似ている cocoa(ココア) はどうでしょう。オックスフォード学習辞典によると、cocoa は18世紀のはじめに、カカオの種を指す cacao(カカオ)のつづりが変わったもの。カカオとココヤシは、まったく別の植物です。

ところが、この2つは昔からよく混同されてきました。1755年にサミュエル・ジョンソンが出した有名な英語辞典の Cocoa の項目を見てみましょう。

  • 「より正しくは cacao と書く」と前置きしたうえで、まずヤシの木の説明。「実の外側は縄に、殻は飲み物の器になる。殻の中のミルクは体を冷やす飲み物になる」。これはココナッツのこと
  • 続けて、別の本からの引用でカカオ(チョコレートの実)の説明

ひとつの見出しに、ココナッツとカカオが同居しているのです。Dictionary.com には、ココヤシを指す cocoa という語も載っていて、「coco のつづり間違い。ココア(カカオ)の cocoa と混同したもの」と説明されています。同じ辞書によると、coconut は cocoanut とつづられることもあります。

混同は逆向きにも起きていました。アメリカン・ヘリテージ英語辞典によると、cocoa のつづり自体が、ココヤシを指す古い語 coco の影響を受けて cacao から変わったものです。

04スペイン語では「頭」、英語では nut が「頭」

スペイン王立アカデミーの辞書を引くと、coco にはくだけた言い方で 「人の頭」 という意味もあります。

  • comer el coco a alguien(直訳「人のココを食べる」):他人の考えをしつこく吹きこんで、その人の頭をいっぱいにし、ふだんならしないことをさせる(スペインのくだけた言い方)
  • parecer un coco(「ココみたいだ」):とても醜い

丸い実が「頭」になるのは英語も同じです。オックスフォード学習辞典によると、イギリス英語のくだけた言い方では nut(木の実)が「人の頭」。off your nut は「頭がおかしい」、do your nut は「カンカンに怒る」という意味です。

05見た目で名づけられた仲間:チューリップとラン

形が何かに似ているので名前が付いた植物は、ほかにもあります。

  • tulip(チューリップ):オスマン帝国のトルコ語 tülbend(頭に巻く薄い布)から。開いた花がターバンに見えたため。英語の turban(ターバン)も同じ語から来ています。トルコ語でチューリップを指す本来の言葉は lale です(アメリカン・ヘリテージ英語辞典)
  • orchid(ラン):ギリシャ語の orkhis から。もとは男性の体の一部(睾丸)を指す言葉で、ランの地下にある丸くふくらんだ部分(塊茎)の形が似ていたため、この名前が付きました(オックスフォード学習辞典、アメリカン・ヘリテージ英語辞典)

ココナッツは「おばけの顔」、チューリップは「ターバン」、ランは地下の丸いふくらみの形。どれも、最初に名前を付けた人の目に何が見えたかが、そのまま単語に残っています。

06どんでん返し:coco そのものの出どころは、まだ分かっていない

「3つのくぼみが顔に見えたから、おばけの名前で呼んだ」。ここまでは、16世紀の記録と今の辞書の説明がそろっています。

ところが、coco という言葉がそもそもどこから来たのかについては、辞書によって説明が違います。

  • アメリカン・ヘリテージ英語辞典:coco は、おそらく後期ラテン語(ローマ帝国の終わりごろのラテン語)の coccum(殻)から
  • スペイン王立アカデミーの辞書:最初は「丸い実」を指す言葉だった。それが、丸い実を頭にして作ったおばけを指すようになり、その後、おばけの頭に似ていることからココナッツを指すようになった
  • 『ホブソン・ジョブソン』の編者たち:語源は「非常にはっきりしない」。古いスペイン語の coca(殻)から来た可能性もあるのでは、と書いている

スペイン王立アカデミーの説明どおりなら、「丸い実→おばけ→ココナッツ」と、言葉が一周して実の名前に戻ってきたことになります。「おばけの顔に見えたから」という話は16世紀のポルトガル人の説明で、その奥はまだはっきりしていないのです。

07まとめ

ココナッツの「ココ」は、子どもを怖がらせる「おばけ」の顔でした。殻の3つのくぼみが目と口に見えた、という16世紀の船乗りたちの感想が、そのまま世界中の言葉に残っています。

次にココナッツを手に取ったら、根元をこちらに向けてみてください。にやっと笑う「coco」と目が合うはずです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the 1500s, a Portuguese historian named João de Barros explained why his people called the fruit of the… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the 1500s, a Portuguese historian named João de Barros explained why his people called the fruit of the coconut palm "coco." It was the word that women used for anything they wanted to scare children with.

People on the southwest coast of India already had their own name for it, "tenga," but the Portuguese name stuck. A Portuguese doctor wrote that the nut looked like the face of a monkey or some other animal. The reason is easy to see.

The base of the shell has three dents, and they look like two eyes and a mouth. English later added "nut" to make "coconut." The drink "cocoa" is not related. It comes from "cacao," a different plant, although people often mixed up the two spellings.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1500年代、ジョアン・デ・バロスというポルトガルの歴史家が、自分の国の人々がココヤシの実を「coco」と呼んだ理由を説明した。それは、女たちが子どもを怖がらせたいときに持ち出すもの何にでも使う言葉だった。

インド南西部の海岸の人々はすでに「tenga」という独自の名前を持っていたが、ポルトガル語の名前が定着した。あるポルトガルの医師は、この実がサルか何かほかの動物の顔に見えると書いた。理由は見ればすぐ分かる。

殻の根元には3つのくぼみがあり、それが2つの目と1つの口に見えるのだ。英語はのちに「nut」を足して「coconut」にした。飲み物の「cocoa」は関係がない。別の植物である「cacao」から来た語だが、人々はよく2つのつづりを混同した。

4択リーディングクイズ

Q1. What does the passage mainly explain?

Q2. According to the passage, what did people in southwest India call the coconut?

Q3. What can we infer about the name "coco"?

重要単語

  • coconutA2
    名詞ココナッツ、ヤシの実She cracked open a coconut and drank the water inside. coco(おばけ、にやにや顔)+nut。発音は「コウカナット」で、最初を強く読む。
  • goblinB2
    名詞小鬼、いたずら好きのおばけIn the story, a goblin lives under the old bridge. 童話やゲームでおなじみ。辞書は coco を英語で goblin と説明している。
  • grinB2
    動詞・名詞にやっと笑う(こと)He grinned when he saw the cake. 歯を見せて大きく笑うこと。a grinning face「にやにや笑う顔」。過去形は grinned(n を重ねる)。
  • frightenB1
    動詞怖がらせるThe loud thunder frightened the dog. fright(恐怖)+-en(〜にする)。受け身の be frightened of 〜「〜が怖い」もよく使う。
  • resembleB2
    動詞〜に似ているThe three holes resemble two eyes and a mouth. 他動詞なので resemble to とは言わない。入試の正誤問題で頻出。
  • shellB1
    名詞殻、貝殻The coconut has a very hard shell. 卵・木の実・貝の殻すべてに使う。coco の語源を「殻」とする説もある。
  • spellingA2
    名詞つづり"Cocoanut" is another spelling of "coconut." spell(つづる)の名詞形。a spelling mistake「つづりの間違い」。
ココナッツの「ココ」は、ポルトガル語・スペイン語で子どもを怖がらせる“おばけ”。殻の根元の3つのくぼみが目と口に見えたから。16世紀のポルトガルの歴史家も「女たちが子どもを怖がらせるときの言葉」と書いている。ココアとは別の語。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「coconut」「cocoa」「tulip」「orchid」ahdictionary.com
  2. Oxford Advanced Learner's Dictionary「coco」「cocoa」「nut」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
  3. Real Academia Española, Diccionario de la lengua española「coco」dle.rae.es
  4. Yule & Burnell (1903) Hobson-Jobson, new ed. by W. Crooke「COCO, COCOA, COCOA-NUT, COKER-NUT」(シカゴ大学 Digital Dictionaries of South Asia)dsal.uchicago.edu
  5. Review of Culture(Instituto Cultural de Macau, 1997)Documental Anthology「Decade of Asia – III」(João de Barros, Década da Ásia III の初版は1563年リスボンと記載)icm.gov.mo
  6. Johnson, S. (1755) A Dictionary of the English Language「cocoa」(Johnson's Dictionary Online, セントラルフロリダ大学)johnsonsdictionaryonline.com

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →