レオタードは空中ブランコの男性曲芸師の名前。サックス、ディーゼル、ニコチンも人名

読む前に予想してみよう!
レオタードという名前は、女性のバレエダンサーの名前から来ている
1859年にパリで空中ブランコの芸を初めて見せた、フランスの男性曲芸師ジュール・レオタールの名前から来ている。
- 対象
- 英語辞書の語源欄・1606年のフランス語辞書・博物館や歴史雑誌の記事
- 規模
- 人名から生まれた英語6語
- 研究の種類
- 語源調査(文献)
- 確かさ
- ★★★★☆
レオタードは、1859年に空中ブランコの芸を初めて見せたフランスの男性曲芸師の名前。サックス、ディーゼル、ニコチン、Ferris wheel も人名から。
ひとことで言うとレオタードは、空中ブランコをした男の人の名前だったんだって!
もくじ
体操やバレエで着る、体にぴったりした「レオタード」。この名前は、じつは人の名前です。
しかも持ち主は女性ではありません。19世紀フランスの男性の曲芸師、ジュール・レオタール(Jules Léotard)。1859年、パリで空中ブランコの芸を初めて見せたと記録に残る人です。
身の回りのカタカナ語には、こうした「人の名前」がたくさん隠れています。サックス、ディーゼル、ニコチン、それに観覧車の英語 Ferris wheel。名前の向こうには、それぞれ思いがけない人生がありました。
01レオタードの語源は、空中ブランコの“元祖”の名前
アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)の語源欄には、leotard は「フランスの空中曲芸師ジュール・レオタールにちなむ」とあります。オックスフォードの学習辞典(Oxford Learner's Dictionaries)も「フランスの空中ブランコ芸人」と説明しています。
では、どんな人だったのか。イギリスの歴史雑誌『History Today』(2010年)の記事を見てみます。
1860年代のイギリスには、空中を軽々と飛ぶ「大胆な若者」を歌った流行歌がありました。この若者は、レオタールのことだとされています。歌詞を書いたのは、ミュージックホール(歌や芸を見せる大衆向けの劇場)の歌手ジョージ・レイボーンです。
人気ぶりは、おもちゃにも残っています。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館には、1863年ごろイギリスで作られた「レオタール」のおもちゃがあります。ガラス張りの木箱の中で、厚紙の人形が空中ブランコにぶら下がり、砂の力で動く仕掛けです。

02ニコチンの「ニコ」は、辞書をまとめた外交官
たばこに含まれる nicotine(ニコチン)。AHD によると、もとはたばこの仲間の植物の学名 Nicotiana で、意味は「ニコの草」。フランスの外交官ジャン・ニコ(Jean Nicot)の名前です。オックスフォードの学習辞典は、ニコが1560年にたばこをフランスに持ちこんだ、と説明しています。
このニコには、もう一つの顔がありました。フランス語の辞書をまとめた人だったのです。
その辞書『フランス語の宝典(Thresor de la langue françoyse)』は、ニコが亡くなった後の1606年に出版されました。シカゴ大学などが公開している古い辞書のデータベースで、この辞書の「Nicotiane(ニコティアーヌ)」の項目を開くと、こう書かれています(筆者による要約)。
- あらゆる傷、けが、ただれ、できものなどを治す、すばらしい力をもつ草
- この辞書をまとめたジャン・ニコが、ポルトガル大使だった1560年にフランスへ送った
- それでこの草は「ニコティアーヌ」と呼ばれるようになった
ニコがまとめた辞書に、ニコの名前のついた草が「傷を治すすばらしい草」として載っているのです。今の AHD は nicotine を「有毒なアルカロイド(植物にふくまれる成分)で、たばこ製品の中毒性の主な原因」と説明しています。400年あまりで、評価はすっかり逆になりました。
03ディーゼルは、海の上で消えた発明家
トラックや船で使う diesel(ディーゼル)エンジン。AHD によると、ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼル(Rudolf Diesel, 1858–1913)が1892年に開発したエンジンです。
スミソニアン協会の雑誌『Smithsonian』(2016年)によると、ディーゼルのエンジンは植物油やピーナッツ油など、さまざまな燃料で動かせるように作られていました。
ところが1913年9月、ディーゼルはベルギーからイギリスへ向かう蒸気船の上で姿を消しました。当時の『ニューヨーク・タイムズ』は、船が朝6時にイギリスのハリッジに着いたとき彼はおらず、ベッドには寝た形跡がなく、寝間着が広げて置かれたままだった、と伝えています。
死因は公式には自殺とされました。あとで、大きな借金や体調の悪さも分かりました。それでも「ドイツのスパイに消された」「カナダで生きていた」といったうわさが流れ、真相は今も分かっていません。
04観覧車の英語 Ferris wheel は、エッフェル塔に負けまいと作られた
観覧車は英語で Ferris wheel。オックスフォードの学習辞典によると、とくに北米での言い方で、イギリスでは big wheel と呼ぶことが多いそうです。Ferris はアメリカの技術者ジョージ・フェリス(George Ferris)の名前です。
『Smithsonian』(2015年)の記事によると、きっかけは1893年のシカゴ万国博覧会でした。1889年にはパリにエッフェル塔が建っていました。見劣りを恐れたシカゴの博覧会の責任者は、技術者たちに「新しく、独創的で、大胆なもの」を出せと迫りました。そこで巨大な鋼鉄の輪を思いついたのが、ピッツバーグから来た33歳の技術者フェリスです。
- 直径は約76メートル(250フィート)
- ゴンドラは36台で、1台に60人乗れた
- 1893年6月21日に動き出し、19週間で140万人以上が50セントを払って、1回20分の空の旅を楽しんだ
ただ、博覧会のあとフェリスは借金をめぐる裁判に巻きこまれ、1896年、破産状態のまま37歳で亡くなりました。初代の観覧車は1904年のセントルイスの博覧会に売られ、その2年後にダイナマイトで解体されました。
05サックスとジャグジー:楽器職人と、プロペラ職人
saxophone(サクソフォン、サックス) は、ベルギー生まれの楽器職人アドルフ・サックス(Adolphe Sax, 1814–94)の名前に、「音」を表す -phone をつけた語です(オックスフォードの学習辞典)。ブリュッセルの楽器博物館によると、サックスは1846年3月21日に特許をとり、もともとは、作りと指づかいが同じ8種類の楽器を「ひとつの家族」としてまとめて作りました。AHD の定義では、サックスは金属の管でできているのに「木管楽器」。リードを1枚つけたマウスピースで鳴らすからです。
泡が出るお風呂の Jacuzzi(ジャグジー) は、イタリアから来た Jacuzzi 家の兄弟の名前で、AHD では今も商標です。スミソニアン航空宇宙博物館の解説によると、兄弟は20世紀の初めにカリフォルニアへ渡り、飛行機のプロペラを作っていました。第一次世界大戦では軍用機のプロペラも納めています。
しかし1921年、兄弟の1人が自分たちの会社の飛行機の事故で亡くなりました。両親に頼まれて兄弟は飛行機の仕事をやめ、プロペラ作りの技術を農業用の水ポンプに生かします。その先に生まれたのが、1955年の泡風呂でした。家族の病気の治療のために作った、という話もよく語られますが、今回確かめた資料には書かれていませんでした。
06どんでん返し:名前のもとになった人が「最初に作った」とは限らない
人名がついた言葉を見ると、その人が最初の発明者だと思いがちです。でも、そうとは限りません。
『Smithsonian』によると、フェリスより前に、ウィリアム・サマーズという大工がアトランティックシティなどに50フィート(約15メートル)の木の回転輪を建て、特許までとっていました。フェリスの功績は「最初」よりも「けた外れの大きさ」にありました。
レオタールも、自分の服に名前をつけたわけではありません。オックスフォードの学習辞典では、服の名前としての leotard は20世紀初めの語で、本人が1870年に亡くなってからの言葉です。しかも生まれた年は、AHD が1830年、オックスフォードが1839年と、辞書によって食い違っています。
ニコの辞書の「Nicotiane」の項目も、ニコのことを「この辞書をまとめた人」と、他人のことのように書いています。出版はニコの死後なので、この一文をニコ本人が書いたのか、出版にたずさわった人が書き足したのかは、本文からは分かりません。
07まとめ
レオタードは空中ブランコの男性、ニコチンは辞書をまとめた外交官、ディーゼルは海で消えた技術者、Ferris wheel はエッフェル塔に挑んだ若い技術者。毎日のように見るカタカナ語の中に、19世紀前後の人たちの人生が残っています。
次にサックスの音を聞いたり、観覧車に乗ったりするときは、その名前の持ち主のことを少しだけ思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerJean Nicot was a French diplomat who served in Portugal.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many dancers and gymnasts wear a leotard. The word comes from a man's name. Jules Léotard was a French acrobat. In 1859, in Paris, he did the first flying trapeze act on record. He wore a tight outfit with no sleeves, and later people gave it his name.
Other everyday words come from people too. The saxophone is named after Adolphe Sax, a Belgian instrument maker, and the diesel engine after Rudolf Diesel.
73 words ・ CEFR A2
和訳を見る
多くのダンサーや体操選手がレオタードを着ます。この言葉は、ある男性の名前から来ています。ジュール・レオタールはフランスの曲芸師でした。1859年、パリで、彼は記録に残る最初の空中ブランコの芸を見せました。彼は袖のない、体にぴったりした服を着ていて、のちに人々はその服に彼の名前をつけました。
ほかにも、人から来た身近な言葉があります。サクソフォンはベルギーの楽器職人アドルフ・サックスにちなんで、ディーゼルエンジンはルドルフ・ディーゼルにちなんで名づけられています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
レオタード、サクソフォン、ディーゼルが人の名前から来ている話なので B。
Q2. What did Jules Léotard do in 1859?
In 1859, in Paris, he did the first flying trapeze act on record とあるので C。
Q3. In the passage, what does "outfit" mean?
He wore a tight outfit with no sleeves(袖のない、体にぴったりした服を着ていた)とあるので、outfit は「服」。A。
Jean Nicot was a French diplomat who served in Portugal. In 1560 he sent tobacco to France. The plant's scientific name, Nicotiana, means "Nicot's herb," and that is where the word "nicotine" comes from. Nicot also put together a French dictionary, which came out in 1606, after his death.
Its entry for "Nicotiane" calls the plant a wonderful herb that can heal wounds and sores. The same entry says it was Nicot, the man who put this dictionary together, who sent the plant to France. Today, dictionaries describe nicotine as a toxic substance and the main reason tobacco is addictive. Words like "leotard" and "saxophone" also come from real people's names.
111 words ・ CEFR B1
和訳を見る
ジャン・ニコは、ポルトガルに赴任していたフランスの外交官だった。1560年、彼はたばこをフランスへ送った。この植物の学名 Nicotiana は「ニコの草」という意味で、「ニコチン」という言葉はそこから来ている。ニコはフランス語の辞書もまとめており、それは彼の死後の1606年に出版された。
その辞書の「Nicotiane」の項目は、この植物を傷やただれを治せるすばらしい草だと説明している。同じ項目には、この植物をフランスへ送ったのは、この辞書をまとめた人物であるニコだと書かれている。今日、辞書はニコチンを有毒な物質であり、たばこに中毒性がある主な理由だと説明している。「レオタード」や「サクソフォン」のような言葉も、実在の人物の名前から来ている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ニコの名前がニコチンという語になった話が中心なので B。
Q2. When was Nicot's dictionary published?
which came out in 1606, after his death とあるので C。1560年はたばこを送った年。
Q3. What can be inferred from the passage?
1606年の辞書は「傷を治すすばらしい草」、今の辞書は「有毒で中毒性の主な原因」と書いているので、評価が大きく変わったと推測できる。A。
When Chicago hosted a world's fair in 1893, its organizers wanted something to match the Eiffel Tower, which had gone up in Paris in 1889. George Ferris, a 33-year-old engineer from Pittsburgh, offered a giant steel wheel. It was 250 feet across and had 36 cars, each able to carry 60 people.
Over 19 weeks, more than 1.4 million visitors paid 50 cents for a 20-minute ride. Ferris himself did not do so well. After the fair he was caught up in lawsuits over debts, and he died in 1896, at 37, with almost no money. His name lives on in "Ferris wheel," though he was not the first to build such a ride.
A carpenter named William Somers had already put up 50-foot wooden wheels and even patented his design. Rudolf Diesel, who gave his name to the diesel engine, had a stranger end. In 1913 he vanished from a steamship crossing from Belgium to England. His death was ruled a suicide, but stories about spies and secret escapes kept going for years.
174 words ・ CEFR B2
和訳を見る
1893年にシカゴが万国博覧会を開いたとき、主催者たちは、1889年にパリに建ったエッフェル塔に匹敵するものを求めていた。ピッツバーグ出身の33歳の技術者ジョージ・フェリスは、巨大な鋼鉄の輪を提案した。それは直径250フィートで、ゴンドラが36台あり、それぞれ60人を乗せることができた。
19週間で140万人を超える来場者が、20分の乗車のために50セントを払った。しかしフェリス本人はうまくいかなかった。博覧会のあと、彼は借金をめぐる訴訟に巻きこまれ、1896年に37歳で、ほとんどお金のないまま亡くなった。彼の名前は「Ferris wheel(観覧車)」に残っているが、こうした乗り物を最初に作ったのは彼ではない。
ウィリアム・サマーズという大工がすでに50フィートの木の回転輪を建て、その設計の特許までとっていた。ディーゼルエンジンに名前を残したルドルフ・ディーゼルは、もっと奇妙な最期をとげた。1913年、彼はベルギーからイギリスへ渡る蒸気船から姿を消した。死因は自殺と判断されたが、スパイや秘密の逃亡についての話が何年も続いた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
Ferris wheel のフェリスと、diesel のディーゼルという2人の人生を紹介しているので B。
Q2. How many people could one car of the first Ferris wheel carry?
36 cars, each able to carry 60 people とあるので C。36はゴンドラの数、250は直径(フィート)。
Q3. What does the passage suggest about the name "Ferris wheel"?
he was not the first to build such a ride とあり、先にサマーズが木の回転輪を作っていた。それでも名前はフェリスのものが残ったので D。
重要単語
- eponymC1名詞人名から生まれた語、名祖(なおや)"Leotard" is an eponym, named after a French acrobat.
leotard・diesel・saxophone のような「人の名前から来た語」をまとめて呼ぶときに使う。 - acrobatB2名詞曲芸師、軽業師The acrobat landed safely on the mat.
形容詞は acrobatic(アクロバティックな)。カタカナの「アクロバット」は技の名前にも使うが、英語では人を指す。 - trapezeC1名詞空中ブランコHe let go of one trapeze and caught the next one.
発音は「トラピーズ」。flying trapeze で「(飛び移る)空中ブランコの芸」。 - diplomatB2名詞外交官Jean Nicot was a French diplomat in Portugal.
diplomatic は「外交の」「(人あたりが)如才ない」。アクセントは DIP-lo-mat の最初。 - patentB2名詞特許Sax got a patent for his new instruments in 1846.
get / take out a patent「特許をとる」。動詞でも使う:He patented the design. - engineerB1名詞技術者、技師George Ferris was a young engineer from Pittsburgh.
engine(エンジン)と同じく、ラテン語 ingenium(才能・工夫)にさかのぼる語。アクセントは最後の -NEER。 - trademarkB2名詞登録商標"Jacuzzi" is still a trademark, so people often say "hot tub" instead.
ある会社だけが使える商品名。一般名として広まっても、辞書に trademark と書かれることがある。
公式・一次情報をチェック
- Alto saxophone(ブリュッセル楽器博物館 MIM・アドルフ・サックスの解説)mim.be
- Propeller, Fixed-pitch, Jacuzzi Bros. Co.(スミソニアン航空宇宙博物館)airandspace.si.edu
- Léotard の砂仕掛けのおもちゃ(ヴィクトリア&アルバート博物館)collections.vam.ac.uk
このネタ、誰かに教えたくなった?
体操やバレエのレオタードは、1859年にパリで空中ブランコの芸を初めて見せた男性曲芸師レオタールの名前。ニコチンのニコは外交官で、彼がまとめた辞書には、自分の名がついた草が「傷を治す草」として載っている。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- American Heritage Dictionary「leotard」「saxophone」「Diesel」「nicotiana」「Ferris wheel」「Jacuzzi」・Oxford Learner's Dictionaries(Word Origin)ahdictionary.com
- Nicot (1606) Thresor de la langue françoyse「Nicotiane」, Dictionnaires d'autrefois(シカゴ大学 ARTFL・ATILF)portail.atilf.fr
- Cavendish (2010) The First Flying Trapeze, History Today 60(5)historytoday.com
- Malanowski (2015) The Brief History of the Ferris Wheel, Smithsonian Magazinesmithsonianmag.com
- Lewis (2016) When the Inventor of the Diesel Engine Disappeared, Smithsonian Magazinesmithsonianmag.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





