本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
英語のマジか!?ホント

「シルエット」は、1759年に8か月でクビになったフランス財務大臣の名前だった

「シルエット」は、1759年に8か月でクビになったフランス財務大臣の名前だった

読む前に予想してみよう!

「シルエット」という言葉は、18世紀のフランスの大臣の名前から来ている

研究カード(どんな研究?)
対象
辞書の語源欄・国立公文書館の一覧・美術館の解説・大学の教員の解説
規模
18世紀の人名と語の歴史
研究の種類
語源調査(文献)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「シルエット」は、1759年にフランスの財務総監(国の財政のトップ)になり、8か月ほどで追い出されたエティエンヌ・ド・シルエットの名前。なぜ彼の名前なのかは、辞書も「はっきりしない」としている。

ひとことで言うと「シルエット」は、すぐクビになったフランスの大臣の名前だったんだって!

もくじ
  1. 王さまの出費を削ろうとして、1年もたずに失脚
  2. 「シルエット風」は“安上がり”の悪口だった
  3. 写真のない時代の「安くて速い肖像」
  4. どんでん返し:なぜ彼の名前なのか、本当は分かっていない
  5. 名前が“不名誉な言葉”になった人たち
  6. まとめ

「このコート、シルエットがきれい」「夕焼けに山のシルエットが浮かぶ」。

日本語でもふつうに使う「シルエット」。英語でも silhouette です。ところがこれ、もとは人の名前です。

持ち主は、エティエンヌ・ド・シルエット(Étienne de Silhouette)。1759年、フランス王ルイ15世のもとで国の財布を預かる大臣になり、8か月ほどで追い出された人です。

01王さまの出費を削ろうとして、1年もたずに失脚

オックスフォード大学の現代語学部が運営する解説ブログで、フランス文学の教員サイモン・ケンプが、この人の一生をまとめています。

国のお金を立て直そうとしたら、ぜいたくをしたい側から嫌われた。このとき敵につけられたイメージが「ケチ」です。

02「シルエット風」は“安上がり”の悪口だった

ケンプによると、シルエットの名前はすぐに「けちくさい」「切りつめた」の代名詞になりました。当時、お金を入れるポケットのないズボンが culottes à la Silhouette(シルエット風の半ズボン) と呼ばれた、という話も伝わっています。お金をしまう場所すらいらない、というからかいです。

アメリカのスミソニアン・アメリカ美術館の解説も、同じ方向の説明をしています。研究者たちは、彼の節約ぶりが原因で、その名前が黒い横顔の肖像画と結びついたと考えている。当時、安く手に入る品物は、よく à la Silhouette(シルエット風) と呼ばれた――という説明です。

黒い紙を横顔の形に切りぬいて、白い台紙に貼るだけ。絵の具で顔を描く肖像画より、ずっと安く、速くできます。「安上がりな肖像画」だから「シルエット風」。からかいのあだ名が、そのまま絵の名前になった、という説です。

黒い横顔の肖像は「正確で、安くて、速い」と人気だった(スミソニアン・アメリカ美術館の解説より)
黒い横顔の肖像は「正確で、安くて、速い」と人気だった(スミソニアン・アメリカ美術館の解説より)

03写真のない時代の「安くて速い肖像」

スミソニアンの解説によると、アメリカでは18〜19世紀に、この黒い横顔の肖像がとても人気でした。正確で、安くて、すぐできて、遠くの家族や友だちに送りやすかったからです。

英語では、もともと shades(影)、profiles(横顔)、shadow pictures(影絵) などと呼ばれていました。そこへヨーロッパから職人たちがやって来ました。解説によると、彼らはアメリカやイギリスで、もうありふれていた「shades」と差をつけるため、よりおしゃれに聞こえる silhouette という名前を広めました。フランスでは「安物」をからかった名前が、海をこえると「高級そう」な名前として使われたわけです。

同じ解説には、こんな話もあります。1802年、チャールズ・ウィルソン・ピールは、フィラデルフィアの自分の博物館に横顔をなぞる機械を置きました。最初の1年で切られた肖像は8,500枚以上。客は自分で機械を使うこともできましたが、お金を払って、ピールの奴隷だったモーゼス・ウィリアムズに動かしてもらうこともできました。

スミソニアンの解説は、ウィリアムズがこの仕事でかせいだお金で自由を買い取った、と書いています。ただ、フィラデルフィア美術館の図書館・アーカイブのブログ(2021年)は「1802年にピールがウィリアムズを解放した」としていて、自由になったいきさつは資料によって食い違います。

04どんでん返し:なぜ彼の名前なのか、本当は分かっていない

ここまで「ケチだったから」という説を中心に紹介してきました。でも、辞書はもっと慎重です。

  • オックスフォード学習辞典:英語に入ったのは18世紀後半。シルエット氏にちなむが、「その理由ははっきりしない」
  • アカデミー・フランセーズの辞書(フランス語の公式な辞書):18世紀、最初は portrait à la silhouette(シルエット風の肖像)という言い方で使われた。理由は「おそらく、彼が出した税の改革案の多くが、下書き(スケッチ)だけで終わったから」

輪郭だけで中身がない、という皮肉です。「ケチだから」とは別の説明が、フランス語の公式な辞書に書かれています。

さらにケンプは、第3の話も紹介しています。シルエット本人が影絵の肖像が大好きで、客を白い布の前に座らせ、特別なランプで影を映して輪郭をなぞっていた、というものです。ただしケンプは、彼が影絵を発明したわけではないとも書いています。東南アジアの影絵芝居は少なくとも1,000年前からあり、その影絵(フランス語で ombres chinoises)がヨーロッパに伝わって流行したのも、ちょうどこのころだったからです。

05名前が“不名誉な言葉”になった人たち

人の名前が、本人の望まない意味で英語に残った例はほかにもあります。アメリカン・ヘリテージ英語辞典で確かめた3つを紹介します。

  • guillotine(ギロチン):フランスの医師ジョゼフ・イニャス・ギヨタンの名前。彼は1789年、議会で「処刑は首を切る機械で行うべきだ。縄や剣より速く、苦しみが少ない」と提案しただけで、機械を設計したのは外科医のアントワーヌ・ルイ。最初は louisette(ルイゼット)と呼ばれていた。同じ辞典によると、ギヨタンの死後、子どもたちは機械の名前を変えてもらおうとして失敗し、代わりに自分たちの名字を変えることを認められた
  • dunce(のろま、劣等生):13〜14世紀のスコットランドの神学者ドゥンス・スコトゥスの名前。あだ名は「精妙博士(the Subtle Doctor)」。16世紀に彼の書いたものや考え方がばかにされ、名前が「のろま」の意味になった
  • bowdlerize(本の“不適切な”部分を勝手に削る):1818年に、下品とされた部分を削ったシェイクスピア全集を出したトマス・ボウドラーの名前

「精妙博士」と呼ばれた神学者が「のろま」に、処刑の苦しみを減らそうとした医者が処刑台の名前に。シルエット氏は「安物」でした。

06まとめ

「シルエット」は、1759年に約8か月だけフランスの財務総監を務めたエティエンヌ・ド・シルエットの名前。節約を訴えて追い出され、名前は「安上がり」のからかいに使われました。ただ、なぜ影の肖像が彼の名前になったのかは、辞書も「はっきりしない」としています。

次に服の「シルエット」をほめるときは、王さまの財布のひもをしめようとして1年もたなかった大臣のことを、少し思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCut a face out of black paper, glue it onto white card, and you have a silhouette. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Cut a face out of black paper, glue it onto white card, and you have a silhouette. In America, these portraits were popular in the 1700s and 1800s because they were cheap, quick to make and easy to send by mail.

The name comes from Étienne de Silhouette, who became France's top finance official in March 1759. He tried to cut the spending of the royal court, and by November he had been forced out. His enemies called him a penny-pincher, and cheap goods were sometimes labeled "à la Silhouette." Scholars think the portraits got his name in the same way. Even so, the Oxford learner's dictionary says the real reason is not clear.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

黒い紙で顔の形を切りぬき、白い台紙に貼れば、シルエットのできあがりだ。アメリカでは、こうした肖像は1700年代から1800年代に人気があった。

安く、すぐにでき、郵便で送りやすかったからだ。この名前は、1759年3月にフランスの財政のトップになったエティエンヌ・ド・シルエットから来ている。彼は宮廷の出費を削ろうとし、11月には職を追われていた。敵は彼をけちだと呼び、安い品物はときどき「シルエット風」と呼ばれた。研究者たちは、肖像画も同じようにして彼の名前がついたと考えている。それでも、オックスフォードの学習辞典は、本当の理由ははっきりしないとしている。

4択リーディングクイズ

Q1. Why were black paper portraits popular in America?

Q2. What happened to Silhouette in 1759?

Q3. What does the writer suggest in the last sentence?

重要単語

  • silhouetteC1
    名詞・動詞シルエット、影絵;(be silhouetted で)黒い輪郭が浮かぶThe tower was silhouetted against the evening sky. 発音は /ˌsɪluˈet/ で最後の -ette を強く読む。h は発音しない。in silhouette「シルエットで」。
  • outlineB1
    名詞輪郭;あらすじFirst, draw the outline of the face. out(外側)+line(線)。動詞で「概要を述べる」。outline a plan「計画の概略を説明する」。
  • profileB1
    名詞横顔;人物紹介The coin shows the king's face in profile. in profile「横顔で」。SNS の「プロフィール」と同じ語。
  • portraitB1
    名詞肖像画、肖像写真My grandmother keeps an old portrait of her parents. スマホの「ポートレートモード」も同じ語。縦長の向き(portrait)と横長(landscape)の意味もある。
  • stingyB2
    形容詞けちなMy uncle is a bit stingy and never buys anyone lunch. 発音は「スティンジー」。名詞は stinginess。くだけた言い方に penny-pincher「けちな人」。
  • eponymC1
    名詞名祖(なおや)=名前が語のもとになった人Silhouette is an eponym, and so is Guillotin. ギリシャ語で「上に+名前」。sandwich や guillotine のように人名から生まれた語は eponymous words と言う。
  • financeB1
    名詞財政、金融;(複数形で)資金She wants to work in finance after college. the Ministry of Finance「財務省」。形容詞は financial。
服の「シルエット」、夕焼けの「シルエット」。じつは人の名前です。1759年、フランス王の財布のひもをしめようとして、約8か月で追い出された財務大臣エティエンヌ・ド・シルエット。当時「シルエット風」は“安上がり”の意味の悪口でした。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(7件)タップで表示
  1. Oxford Advanced Learner's Dictionary「silhouette」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
  2. Académie française, Dictionnaire de l'Académie française 9e édition「silhouette」dictionnaire-academie.fr
  3. Archives nationales(フランス国立公文書館)「Liste des contrôleurs généraux des finances de 1715 à 1774」girophares.archives-nationales.culture.gouv.fr
  4. Kemp (2015) Great French Lives: Etienne de Silhouette, Adventures on the Bookshelf(オックスフォード大学 現代語学部)bookshelf.mml.ox.ac.uk
  5. Smithsonian American Art Museum (2012) Q and Art: Silhouettes, Eye Levelamericanart.si.edu
  6. American Heritage Dictionary「guillotine」(Word History)「dunce」「bowdlerize」ahdictionary.com
  7. Smith (2021) Moses Williams, Four Elements(フィラデルフィア美術館 図書館・アーカイブ)philamuseum.libguides.com

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →