「アルゴリズム」は、9世紀バグダッドの数学者の名前から生まれた言葉

読む前に予想してみよう!
「アルゴリズム(algorithm)」という英単語は、もとは人の名前だ
9世紀にバグダッドで活躍した数学者アル=フワーリズミー(「ホラズムの人」という意味)の名前がラテン語を経て英語になった。
- 対象
- 英語・ラテン語・ポルトガル語の語源記録と数学史の文献
- 規模
- 9〜20世紀の文献と現代の辞書
- 研究の種類
- 語源調査・数学史(文献)
- 確かさ
- ★★★★☆
algorithm は、9世紀バグダッドの数学者フワーリズミー(「ホラズム地方の人」という意味)の名前から。つづりの th は arithmetic(算数)をまねて入った。ポルトガル語で数字を指す語も、彼の名前から来ている。
ひとことで言うと「アルゴリズム」は、1200年前の数学者の名前がもとになった言葉なんだ!
もくじ
スマホのおすすめ動画や検索の順番を決める「アルゴリズム」。ニュースでも毎日のように聞く言葉です。
この英単語 algorithm、じつは人の名前です。9世紀にバグダッドで活躍した数学者 アル=フワーリズミー(al-Khwārizmī)。しかもこの名前の意味は「ホラズムの人」。中央アジアの地名から来た“あだ名”が、およそ1200年かけてコンピューターの言葉になりました。
01アルゴリズムの語源は「ホラズムの人」
アメリカの辞書『American Heritage Dictionary』(以下 AHD)の語源解説は、こう書き出しています。この100年ほどでよく使われるようになったので新しい造語と思うかもしれないが、もとはシリコンバレーではなく、アラル海の近くの地方ホラズム(Khwarizm)だ、と。
ホラズムは、9世紀の数学者ムハンマド・イブン・ムーサー・アル=フワーリズミーのふるさととされる土地です。オックスフォードの学習辞典は、al-Khwārizmī を「ホラズムの男」という意味の呼び名とし、ホラズムを今のヒヴァ(Khiva)のあたりとしています。
02本の題名が「計算法」の名前になった
アルゴリズムという言葉を生んだのは、代数の本ではなく、この数字の本のほうでした。
MacTutor によると、アラビア語の原本はなくなってしまい、伝わっているのはラテン語訳だけ。その題名が Algoritmi de numero Indorum(アルゴリトミの「インドの数について」)でした。ラテン語の「アルゴリトミ」が、フワーリズミーの名前です。トゥーマーは、このラテン語訳はおそらく原本からかなり変えられていて、アラビア語の題名もはっきりしない、と書いています。
12世紀のはじめにラテン語訳で西ヨーロッパに紹介されると、この本は大きな成功をおさめ、それをもとにした本が次々に書かれました。トゥーマーによると、フワーリズミーの名前は「インド数字を使う新しい算術」とすっかり結びつき、名前のラテン語形 algorismus が、この種の計算の本ならどれにでもつけられる題名になりました。
つまり、こういう順番です。
- 人の名前(アル=フワーリズミー=ホラズムの人)
- 本の題名(アルゴリトミの「インドの数について」)
- インド数字を使う計算法そのもの(ラテン語 algorismus → 英語 algorism)
03th はどこから? arithmetic(算数)のまねだった
では、algorism がなぜ algorithm になったのでしょう。
AHD によると、algorithm はもともと algorism の別のつづりで、arithmetic(算数)や、そのもとのギリシャ語 arithmos(数)に引っぱられたと考えられています。オックスフォードの学習辞典も、ギリシャ語 arithmos の影響を受けた形だとしています。トゥーマーはもっとはっきり、algorism がまちがった語源の思いこみで algorithm にゆがめられた、と書いています。
「数の話だから、arithmetic の仲間だろう」。そう思った人たちが、人名のつづりに th を入れてしまったのです。
ここで並べてみてください。algorithm と logarithm。じつは同じ文字を並べかえただけ(アナグラム)です。ただし由来はまったく別。logarithm の「rithm」は本物のギリシャ語 arithmos から来ています。algorithm のほうは、人の名前から来た algorism に、算数のまねで th がまぎれこんで「rithm」になりました。

0414世紀の詩人チョーサーは「augrim」と書いた
英語の古い形も見てみましょう。トゥーマーによると、algorismus から、中世の英語の augrim(オーグリム) が生まれました。
14世紀のイギリスの詩人チョーサーの『カンタベリー物語』には、この augrim が出てきます。「粉屋の話」に登場する学生ニコラスの部屋には、天文学の本『アルマゲスト』や天体観測器アストロラーベと並んで、augrim-stones が置いてありました。19世紀の英語学者スキートの注によると、これは計算に使う石(数え玉)のことです。
チョーサーは1391年、10歳の息子ルイスのために、天体観測器の使い方を英語で説明した『アストロラーベ論』も書いています。その中で、目盛りの数は「noumbres of augrim」で書いてある、と説明しています。スキートの注では、これはアラビア数字のことです。
14世紀のイギリスでは、フワーリズミーの名前から来た augrim が、「1, 2, 3…」と書くアラビア数字を指していたのです。
05ポルトガル語では、数字を彼の名前から来た語で呼ぶ
この「名前が数字になる」流れは、今の言葉にも残っています。
ポルトガル語の辞書 Priberam によると、ポルトガル語で「数字(1つ1つの数を書く記号)」は algarismo(アルガリズモ)。語源欄には、中世ラテン語の algorismus から、もとは「9世紀のアラビアの数学者の人名」とあります。Priberam は「algarismo árabe(アラビア数字)」を、0から9までの10個の記号と説明しています。ポルトガル語を話す人たちは、0〜9の数字を、今もフワーリズミーの名前から来た語で呼んでいるのです。
ちなみに、その「アラビア数字」も、生まれはアラビアではありません。AHD は、この数字と使い方は古代インドで発達したもので、ヨーロッパの人たちはそれをアラビア語の本で学んだ、と書いています。トゥーマーも、インド数字のことを「誤って“アラビア数字”と呼ばれている」と書いています。
06どんでん返し:本人のことは、ほとんど分かっていない
これほど有名な名前なのに、トゥーマーは、フワーリズミーの生涯で分かることはごくわずかだと書いています。
たとえば「ホラズムの人」という呼び名。ふつうに読めばホラズム出身です。ところが歴史家タバリーは、彼に「クトルッブッリーの人」という別の呼び名もつけています。クトルッブッルはバグダッドからそう遠くない、チグリス川とユーフラテス川のあいだの地区です。トゥーマーは、ホラズムから来たのは本人ではなく先祖だったのかもしれないと考えています。ただし、この読み方には反論もあります。MacTutor が紹介する数学史家ラシェド(R. Rashed)の見方では、タバリーの写本で「と」にあたる1文字が抜け落ちたために、別の人物の呼び名がフワーリズミーにくっついて見えているだけです。
そのタバリーは、こんな話も伝えています。847年、カリフのワーシクが病に倒れたとき、フワーリズミーを含む天文学者たちが呼ばれ、ホロスコープ(星占い)から「あと50年は生きる」と告げました。ところがカリフは10日後に亡くなったというのです。トゥーマーは「タバリーの話を信じるなら」と断ったうえで、これを彼が847年より後まで生きていた手がかりとしています。
数学者としての評価も割れています。MacTutor は、「代数の父」と呼ぶべきだという意見から、科学的な業績は「よくて平凡」という厳しい評価まで、いくつもの見方を紹介しています。
07まとめ
ホラズムの人 → 本の題名 → インド数字の計算法 → 算数のまねをした th → コンピューターの手順。「アルゴリズム」は、1人の学者の呼び名が1200年かけて形を変えてきた言葉でした。
次に「おすすめはアルゴリズムが決めている」と聞いたら、9世紀のバグダッドで数字の本を書いた「ホラズムの人」を思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhen people talk about the algorithm behind a video app, they are using a man's name.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many apps use an "algorithm" to choose what you see. But this word comes from a person's name. About 1,200 years ago, a mathematician lived in Baghdad.
People called him al-Khwarizmi. It means "the man from Khwarizm," a place in Central Asia. He wrote a book about numbers from India, like 1, 2, 3 and 0. People in Europe read it in Latin, and his name became a word for this new way of doing math.
76 words ・ CEFR A2
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多くのアプリが、あなたが見るものを選ぶのに「アルゴリズム」を使っています。でも、この言葉は人の名前から来ています。約1200年前、ある数学者がバグダッドに住んでいました。
人々は彼をアル=フワーリズミーと呼びました。それは、中央アジアの土地「ホラズムの人」という意味です。彼は1、2、3、0のような、インドから来た数字についての本を書きました。ヨーロッパの人々はそれをラテン語で読み、彼の名前は、この新しい計算のやり方を表す言葉になりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
this word comes from a person's name とあり、algorithm の由来の話なので B。
Q2. What does "al-Khwarizmi" mean?
It means "the man from Khwarizm" とあるので C。
Q3. In the passage, what is a "mathematician"?
数の本を書いた人なので、数学を研究する人(数学者)。A。
When people talk about the algorithm behind a video app, they are using a man's name. Al-Khwarizmi was a mathematician who worked in Baghdad in the ninth century. His name means "the man from Khwarizm," a region in Central Asia. He wrote a book that explained how to calculate with numbers from India, including zero.
The Arabic original is lost, but a Latin translation spread in Europe under his name, and "algorismus" came to mean this way of calculating. In English it became "algorism." Later the spelling changed to "algorithm," probably because people connected it with "arithmetic." In Portuguese, the word for a single digit still comes from his name.
110 words ・ CEFR B1
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動画アプリの裏にあるアルゴリズムの話をするとき、人々はある男性の名前を使っている。アル=フワーリズミーは、9世紀にバグダッドで活動した数学者だ。彼の名前は、中央アジアの地方「ホラズムの人」という意味である。彼は、ゼロを含むインドから来た数字での計算のしかたを説明する本を書いた。
アラビア語の原本は失われたが、ラテン語訳が彼の名前とともにヨーロッパに広まり、「algorismus」はこの計算のやり方を意味するようになった。英語ではそれが「algorism」になった。のちにつづりが「algorithm」に変わったのは、おそらく人々がそれを「arithmetic(算数)」と結びつけたからだ。ポルトガル語では、1つ1つの数字を表す語が、今も彼の名前から来ている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
コンピューターの言葉 algorithm が数学者の名前から来た話なので D。
Q2. Why did "algorism" probably change to "algorithm"?
probably because people connected it with "arithmetic" とあるので A。
Q3. What can we infer about al-Khwarizmi's book?
The Arabic original is lost, but a Latin translation spread in Europe とあるので、ヨーロッパでは原本ではなく翻訳で知られたと推測できる。C。
The word "algorithm" began as a nickname. Al-Khwarizmi, "the man from Khwarizm," was a mathematician who worked at the House of Wisdom in Baghdad in the early ninth century. His book on calculating with Indian numerals, zero included, survives only in a Latin translation that was probably changed a good deal from the original. In medieval Europe his name became so closely tied to the new arithmetic that "algorismus" was used as the title of almost any book on the subject.
Middle English turned it into "augrim," and in 1391 Chaucer told his ten-year-old son that the numbers on an astrolabe were written "in augrim." The "th" arrived later, probably through confusion with "arithmetic." That is why "algorithm" and "logarithm" are anagrams with completely different histories. We know surprisingly little about the man himself. One historian links him to a district near Baghdad rather than to Khwarizm, so perhaps only his ancestors came from there.
Another scholar says the link comes from a copying mistake. The same historian tells a story in which he and other astronomers predicted that a sick ruler would live fifty more years. The ruler died ten days later.
193 words ・ CEFR B2
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「algorithm」という語は、あだ名として始まった。アル=フワーリズミー、つまり「ホラズムの人」は、9世紀前半にバグダッドの「知恵の館」で活動した数学者だった。ゼロを含むインド数字での計算についての彼の本は、ラテン語訳でしか残っておらず、その訳はおそらく原本からかなり変えられている。中世のヨーロッパでは、彼の名前が新しい算術とあまりに強く結びついたため、「algorismus」がこの分野のほとんどどんな本にも題名として使われた。
中英語ではそれが「augrim」になり、1391年にチョーサーは10歳の息子に、アストロラーベの数字は「augrim で」書かれていると教えた。「th」が入ったのはもっと後で、おそらく「arithmetic」との混同によるものだ。だから「algorithm」と「logarithm」は、まったく違う歴史を持つアナグラムなのである。この人物自身については、意外なほど分かっていない。ある歴史家は彼をホラズムではなくバグダッド近くの地区と結びつけているので、ホラズムから来たのは先祖だけだったのかもしれない。
ただ、別の学者は、この結びつきは写し間違いから生まれたものだと言う。同じ歴史家は、彼とほかの天文学者たちが、病気の支配者があと50年生きると予言したという話を伝えている。その支配者は10日後に亡くなった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
The word "algorithm" began as a nickname. から始まり、あだ名が algorithm になるまでの話なので B。
Q2. According to the passage, what did Chaucer tell his son?
Chaucer told his ten-year-old son that the numbers on an astrolabe were written "in augrim" とあるので C。
Q3. Why does the writer mention the story about the sick ruler?
We know surprisingly little about the man himself. の後に、ある歴史家が伝える話として出てくるので、数少ない不確かな逸話の例。D。
重要単語
- algorithmB2名詞アルゴリズム、問題を解くための手順The app uses an algorithm to choose which videos you see.
発音は /ˈælɡərɪðəm/。数学者アル=フワーリズミーの名前から。形容詞は algorithmic。 - arithmeticB1名詞算数、計算My little brother is good at mental arithmetic.
ギリシャ語 arithmos(数)から。algorithm の th はこの語のまね。mental arithmetic は「暗算」。 - numeralB2名詞数字The clock has Roman numerals instead of ordinary numbers.
Arabic numerals(アラビア数字)、Roman numerals(ローマ数字)の形でよく使う。 - mathematicianB1名詞数学者The mathematician wrote a book on how to calculate with zero.
math(数学)+-ician(専門家)。musician、magician と同じ形。 - translationB1名詞翻訳We only know the book from a Latin translation.
translate(翻訳する)の名詞形。in translation「翻訳で」。 - procedureB2名詞手順Follow the same procedure every time you solve this kind of problem.
proceed(進む)の名詞形。algorithm の説明によく出てくる語。 - anagramC1名詞アナグラム(文字の並べかえで別の語になるもの)"Listen" is an anagram of "silent."
algorithm と logarithm もアナグラム。言葉遊びの定番。
公式・一次情報をチェック
- algarismo(Dicionário Priberam da Língua Portuguesa)dicionario.priberam.org
- Chaucer's Works, Volume 3(Skeat 編, Project Gutenberg・『アストロラーベ論』原文)gutenberg.org
- algorithm(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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「アルゴリズム」は、9世紀バグダッドの数学者フワーリズミー(意味は「ホラズム地方の人」。中央アジアの地名)の名前から。つづりの th は arithmetic(算数)のつづりをまねて入った。ポルトガル語では、0〜9の数字を彼の名前から来た語で呼ぶ。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「algorithm」(Word History)「algorism」「logarithm」ahdictionary.com
- Oxford Learner's Dictionaries「algorithm」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Toomer, G. J. Al-Khwārizmī, Abū Jaʿfar Muḥammad ibn Mūsā, Dictionary of Scientific Biography(Charles Scribner's Sons。MacTutor 収録 PDF)mathshistory.st-andrews.ac.uk
- O'Connor & Robertson (1999) Al-Khwarizmi, MacTutor History of Mathematics(セント・アンドルーズ大学)mathshistory.st-andrews.ac.uk
- Skeat (ed.) (1900) Chaucer's Works, Volume 5: Notes to the Canterbury Tales, 2nd ed., Clarendon Press(Project Gutenberg 版)gutenberg.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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