辞書には、編集部がわざと入れた「ウソの英単語」がある。丸写しを見抜くワナ

読む前に予想してみよう!
有名な辞書の中に、編集者がわざと作ったウソの単語が入っていたことがある
2001年の New Oxford American Dictionary 初版に、まねを見抜くための造語 esquivalience が入れてあった(ニューヨーカー誌、2005年)。
- 対象
- 辞書・百科事典・電話帳・検索結果のわな
- 規模
- 4つの事例(1975〜2011年)
- 研究の種類
- 雑誌の取材記事・米最高裁判決・企業の公式発表
- 確かさ
- ★★★☆☆
2001年にアメリカで出たオックスフォードの辞書に、存在しない英単語 esquivalience がわざと入れてあった。中身を丸写しした相手を見抜くためのワナ。百科事典や電話帳にも同じ手口がある。
ひとことで言うと辞書には、まねした人を見つけるための「ニセの単語」が入っていることも!
もくじ
esquivalience。意味は「わざと職務をサボること」。語源の欄には「19世紀後半から。フランス語の esquiver(身をかわす、こっそり逃げる)から来たか」――。
2001年、アメリカの大きな辞書に、こんな英単語が載りました。それらしい意味に、それらしい語源。ところが、この単語は辞書の編集部がゼロから作った“ウソの単語” でした。
目的は、辞書の中身を丸ごとまねした相手を見抜くこと。辞書には、ときどきこうした“わな”が仕込まれているのです。
01esquivalience の正体は?「まね」を見抜くわな
この話を明らかにしたのは、2005年8月の雑誌『ニューヨーカー』の記事(筆者はヘンリー・アルフォード)です。
きっかけは、『New Oxford American Dictionary(ニュー・オックスフォード米語辞典)』第2版に「e で始まる作りものの単語がひとつある」といううわさでした。ある人が独自に、e で始まる 3,128 項目を1つずつチェック。よく知られた語や、別の大辞典(ウェブスター第3版)に載っている語を外していき、残った 360 語をさらに調べて、候補を 6語 にしぼりました。
マッキーンによると、編集部は最初「一生けんめい働くこと」という意味のニセ単語を考えましたが、うまく思いつかず、「じゃあ逆にしよう」と「わざと仕事をサボること」になったそうです。考えたのはクリスティーン・リンドバーグという編集者でした。
そして、わなにかかったらしい辞書も見つかりました。記事によると、esquivalience はその後 Dictionary.com にも載っていて、出典として『Webster's New Millennium』という別の辞書の名前が挙がっていました。マッキーンはこれを「大きなカメに標識をつけて放すようなもの」とたとえています。目印をつけておいた単語が、よその辞書で見つかったわけです。
02元祖は「爆発事故で亡くなった」架空の女性写真家
辞書のわなには先輩がいます。
1975年版の『New Columbia Encyclopedia(ニュー・コロンビア百科事典)』の 1,850ページには、リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼル(Lillian Virginia Mountweazel) という人物が載っています。
もちろん、こんな人は実在しません。この百科事典の編集者のひとりリチャード・スタインズは『ニューヨーカー』の取材に、「著作権を守るために、ニセの項目を入れるのは百科事典の古い伝統だった」「だれかがリリアンを写したら、盗んだと分かる」と話しています。
爆発事故で亡くなったときの取材先が、『燃えやすいもの』という名前の雑誌。作った人たちの遊び心が見えます。
そしていま、この架空の女性の名前は本物の英単語になりました。Dictionary.com には mountweazel が「辞書や百科事典に、まねをした相手を見つけるためにこっそり入れた、おとりの項目」という意味の名詞として載っています。2026年10月9日にオックスフォード英語大辞典(OED)の公式サイトを見ると、「最近追加された語」の一覧にも mountweazel が並んでいました。

03電話帳にも、グーグルにも「わな」があった
同じ手口は、辞書の外でも使われてきました。
電話帳:アメリカ・カンザス州の電話会社ルーラル社は、自社の電話帳(約7,700件)に、まねを見抜くためのウソの掲載を入れていました。別の会社フェイスト社が作った電話帳(46,878件)を調べると、1,309件がルーラル社のものとまったく同じで、そのうち4件がウソの掲載でした。米国連邦最高裁の判決(1991年)に、このことがはっきり書かれています。
検索エンジン:2011年2月、グーグルは公式ブログで、マイクロソフトの検索エンジン Bing が自社の検索結果を利用していると主張しました。グーグルは、ふつうの人がまず打ちこまない hiybbprqag のような検索語を約100個作り、それぞれに中身とまったく関係のない本物のページを1位に出るように仕込みました。そのうえで、Bing のツールバーを入れたパソコンで20人のエンジニアがグーグルでこの語を検索し、仕込んだページをクリック。数週間のうちに、Bing で hiybbprqag を検索しても、グーグルが仕込んだのと同じ、ロサンゼルスの劇場の座席のページが出てくるようになったといいます。ただしマイクロソフトは「グーグルの結果をコピーしてはいない」と反論していました(グーグルのブログより)。
04dord は「うっかり」、esquivalience は「わざと」
別館で紹介した dord も「辞書に載った実在しない英単語」でした。ただ dord は、1934年の辞書で略号のカードを1語と読みまちがえたうっかりミスです。esquivalience やマウントウィーゼルは、わざと入れたわな。同じ“幽霊単語”でも、生まれ方は正反対です。
05どんでん返し:わなにかかっても、勝てるとは限らない
では、わなでまねが見つかれば、裁判に勝てるのでしょうか。
電話帳の事件は、そうなりませんでした。1991年3月27日、米国連邦最高裁はルーラル社の訴えを認めませんでした。判決の理由は「事実には著作権がない」。名前・町・電話番号は事実で、それをアルファベット順に並べただけの電話帳には、著作権で守られるだけの創作性がない、という判断です。4件のウソの掲載は「写した証拠」にはなっても、勝つための決め手にはなりませんでした。
辞書のわなも、それだけで勝負が決まるとは限りません。少なくとも『ニューヨーカー』の記事には、esquivalience をめぐって裁判が起きたという話は出てきません。
06まとめ
辞書や百科事典の中には、まねを見抜くためにわざと仕込まれた“ウソ”がまぎれていることがあります。わざとサボることを意味する esquivalience、爆発事故で亡くなったことになっている写真家マウントウィーゼル、電話帳の4件のウソの掲載、検索語 hiybbprqag。
そしてマウントウィーゼルは、いまや辞書に載る本物の英単語になりました。ウソから出た、まことの単語です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1975, an encyclopedia included the life story of Lillian Virginia Mountweazel, a photographer known for…
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原田英語の English Corner
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Making a dictionary is hard work, and some people just copy it. So in 2001, the editors of an American dictionary added a fake word, "esquivalience." They said it meant "not doing your job on purpose." They had made the word up themselves.
If it appeared in another book, the editors would know their work was copied. Later, the word did show up on a dictionary website.
67 words ・ CEFR A2
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辞書を作るのは大変な仕事で、それをそのまままねする人もいます。そこで2001年、あるアメリカの辞書の編集者たちは、esquivalience というニセの単語を入れました。意味は「わざと仕事をしないこと」だとしました。でも、これは編集者たちが自分で作った単語でした。
もしこれが別の本に出てきたら、編集者は自分たちの仕事がまねされたと分かります。その後、この単語は実際に、ある辞書のウェブサイトに出てきました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
まねを見抜くために辞書に入れたニセの単語の話なので B。
Q2. When did the editors add the fake word?
So in 2001, the editors ... added a fake word とあるので C。
Q3. In the passage, what does "on purpose" mean?
on purpose は「わざと、意図して」。B の Because you meant to が近い。
In 1975, an encyclopedia included the life story of Lillian Virginia Mountweazel, a photographer known for her pictures of country mailboxes. She was said to have died at 31 in an explosion while working for a magazine called Combustibles. None of it was true. The editors had made her up so they could catch anyone who copied their book.
The trick has been used again and again. A dictionary published in 2001 contained "esquivalience," an invented word for avoiding your duties on purpose. A telephone company in Kansas hid fake listings in its phone book, and four of them later turned up in a rival company's directory. Today "mountweazel" is itself a dictionary word for this kind of fake entry.
120 words ・ CEFR B1
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1975年、ある百科事典に、田舎の郵便受けの写真で知られる写真家リリアン・ヴァージニア・マウントウィーゼルの経歴が載った。彼女は31歳のとき、『Combustibles(燃えやすいもの)』という雑誌の仕事中に爆発事故で亡くなったとされていた。どれも本当ではなかった。編集者たちは、本をまねした者を見つけるために、彼女を作り上げていたのだ。
この手は何度も使われてきた。2001年に出た辞書には、「わざと義務を避けること」を表す作られた単語 esquivalience が入っていた。カンザス州のある電話会社は電話帳に偽の掲載を隠し、そのうち4件がのちにライバル会社の電話帳に出てきた。今では mountweazel そのものが、この種の偽の項目を表す、辞書に載った単語になっている。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did the editors invent Lillian Virginia Mountweazel?
so they could catch anyone who copied their book とあるので B。
Q2. How many fake listings turned up in the rival company's directory?
four of them later turned up in a rival company's directory とあるので B。31 は架空の写真家の死亡時の年齢。
Q3. What does the last sentence suggest?
Today "mountweazel" is itself a dictionary word とあり、架空の人物の名前が本物の単語になったことを示しているので A。
In 2005, The New Yorker reported on a hunt for a fake word said to be hiding among the "e" entries of the New Oxford American Dictionary. An investigator worked through 3,128 entries, narrowed them down to six suspects and sent the list to nine experts. Seven picked "esquivalience," defined as the willful avoidance of one's official responsibilities. One expert felt it was trying too hard.
Another pointed out that nothing in its supposed French source would explain the "l." The editor in chief, Erin McKean, confirmed that the word was invented and said it had gone into the 2001 first edition to protect the copyright on the electronic text. Fake entries like this now have a name, "mountweazel," after an invented photographer in a 1975 encyclopedia. They can prove that copying happened, but proof is not the same as winning.
In 1991 the U.S. Supreme Court ruled against a Kansas phone company even though four of its fake listings showed up in a rival's book, because names and numbers are facts, and facts cannot be copyrighted. Google set a similar trap for Bing in 2011, and Microsoft denied copying.
190 words ・ CEFR B2
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2005年、雑誌『ニューヨーカー』は、『ニュー・オックスフォード米語辞典』の e の項目にまぎれているといわれた偽の単語探しを報じた。ある調査者は3,128の項目を調べ、容疑者を6語にしぼり、そのリストを9人の専門家に送った。7人が、「公的な義務をわざと避けること」と定義された esquivalience を選んだ。ある専門家は、がんばりすぎている感じがすると言った。
別の専門家は、語源とされるフランス語のどこからも l が入る理由がないと指摘した。編集長のエリン・マッキーンは、この単語が作られたものだと認め、電子版のテキストの著作権を守るために2001年の初版に入れたと語った。このような偽の項目には今、1975年の百科事典に載った架空の写真家にちなむ mountweazel という名前がある。偽の項目はまねがあったことを証明できるが、証明することと勝つことは同じではない。1991年、米国連邦最高裁は、カンザス州の電話会社の偽の掲載4件がライバルの電話帳に出ていたにもかかわらず、その電話会社に不利な判決を下した。
名前や番号は事実であり、事実には著作権が認められないからだ。グーグルも2011年に Bing に対して似たわなを仕掛けたが、マイクロソフトはまねを否定した。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
偽の項目の例を挙げたうえで、They can prove that copying happened, but proof is not the same as winning. と述べているので A。
Q2. How many of the nine experts chose "esquivalience"?
Seven picked "esquivalience" とあるので B。6 は候補の数。
Q3. Why did the Kansas phone company lose, according to the passage?
because names and numbers are facts, and facts cannot be copyrighted とあるので B。偽の掲載は実際に写されていた。
重要単語
- fictitiousC1形容詞架空の、作りもののThe phone book had four fictitious names in it.
fiction(作り話)の形容詞。a fictitious entry「架空の項目」、a fictitious name「偽名」。 - copyrightB2名詞著作権You cannot copy the whole book because of copyright.
copy(写す)+ right(権利)。動詞としても使う:The text is copyrighted.「その文章は著作権で守られている」。 - entryB1名詞(辞書の)項目、見出しEach entry in this dictionary has an example sentence.
enter(入る)の名詞。辞書・百科事典の1つ1つの項目。a fake entry「偽の項目」。 - trapB1名詞わなThe fake word was a trap for copycats.
set a trap「わなを仕掛ける」、fall into a trap「わなにかかる」。 - copycatB2名詞まねをする人Don't be a copycat. Write your own report.
くだけた語。子どもどうしの「まねっこ!」にも使う。 - decoyC1名詞おとりThe hunter used a wooden duck as a decoy.
Dictionary.com は mountweazel を a decoy entry(おとりの項目)と説明している。 - inventB1動詞作り出す;でっち上げるThe editors invented a word that nobody had ever used.
「発明する」だけでなく「(話や人物を)でっち上げる」の意味もある。make up も同じ意味。
公式・一次情報をチェック
- mountweazel(Dictionary.com)dictionary.com
- Oxford English Dictionary(公式サイト)oed.com
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2001年の米国版オックスフォード辞書に載った esquivalience(わざと職務をサボること)は、編集部が作ったウソの単語。中身を丸写しした相手を見抜くワナだった。1975年の百科事典には、架空の女性写真家までいた。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Alford (2005) Not a Word, The New Yorkernewyorker.com
- Feist Publications, Inc. v. Rural Telephone Service Co., 499 U.S. 340 (1991)(米国連邦最高裁判決、Cornell LII 掲載)law.cornell.edu
- Singhal (2011) Microsoft's Bing uses Google search results—and denies it, Google Official Bloggoogleblog.blogspot.com
- Dictionary.com「mountweazel」(Origin)dictionary.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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