実在しない英単語「dord」が、アメリカの大辞典に何年も載っていた

読む前に予想してみよう!
英単語「dord(密度)」は、大辞典の編集ミスで生まれた“存在しない単語”だった
1934年の辞典で「D or d」(密度の略号)と書かれたカードが1語と読み違えられ、見出し語になってしまった。
- 対象
- ウェブスター新国際辞典 第2版(1934年)
- 規模
- 誤った見出し語1件
- 研究の種類
- 辞書社の編集記録にもとづく歴史
- 確かさ
- ★★★★☆
1934年のウェブスター新国際辞典第2版に、「D or d(密度の略)」のカードを1語と読み違えた幽霊単語 dord が載った。1939年に見つかったが、同社によれば完全に消えたのは1947年。
ひとことで言うと「D or d」を1つの単語とカンちがいして、辞書にのせちゃった!
dord。品詞は名詞、意味は「密度(density)」——。
1934年、アメリカを代表する大辞典に、こんな英単語が見出し語としてちゃんと載りました。ところが、dord という英単語は、この世に存在しません。
正体は、「D or d」(大文字の D か小文字の d =密度の略号)と書かれた1枚のカードを、だれかが1語と読み違えたもの。しかもこの“幽霊”は、1939年に見つかったあとも、出版社の説明では1947年まで完全には消えませんでした。
01「量産された本で史上最大」に紛れ込んだ1語
舞台は、メリアム・ウェブスター社の『ウェブスター新国際辞典 第2版(Webster's New International Dictionary, Second Edition)』。同社の大型辞典(完全版)は1909年、1934年、1961年に新しい版が出ていますが、その1934年版です。社内では「W2」と呼ばれています。
同社の解説によると、W2には編集者と専門顧問あわせて250人がかかわり、重さは17ポンド(約7.7kg)、背の幅は6インチ(約15cm)。同社は「量産された本としては史上最大」だったと胸を張っています。
その巨大な辞書に、dord はひっそり載っていました。ただし、語源(etymology)の説明もなければ、使われた例文もない。社内に集めてある用例のファイルにも、1件も見つかりませんでした。
02犯人は「すき間」のルールだった
ことの始まりは、化学担当の編集者オースティン・M・パターソン(Austin M. Patterson)がタイプした、3×5インチ(約7.6×12.7cm)のカード。アルファベットの D が何の略として使われるかをまとめるカードの1枚で、「大文字の D も小文字の d も density(密度)の略」と伝えるものでした。
カードには D or d と打たれていました。ふつうなら「or」と読めそうですよね。ところが当時の編集部には、見出しにする語は1文字ずつすき間をあけてタイプするというルールがありました。あとから強勢や音節の区切りの印を書き込むためです。
そのため、カードを受け取った担当者には「o と r の間のすき間だけが抜けている」ように見えました。担当者は4文字すべての下に波線を引きます。これは「太字にせよ=見出し語にせよ」という印。本当は D と d にそれぞれ波線、or には直線を引くべきでした。
そこへ発音担当が発音を書き込み、普通名詞だからと小文字に。こうして 「dord(名詞)密度」が誕生しました。最終チェック役、語源担当、校正係の目をどうすり抜けたのかは、同社も「わからない」としています。

03「緊急!」のメモのあとも、なかなか消えない
ここからがどんでん返しです。
1939年、ある編集者がこの誤りに気づき、次の刷りで直すようにとカードを書きました。そこには「imperative! urgent!(必須!緊急!)」と書かれていたといいます。
ところが、メリアム・ウェブスター社の解説によると、なぜか修正はすぐには行われませんでした。実際に直ったのは1947年、別の編集者がもう一度カードを書いてからだといいます。この説明どおりなら、「緊急」と言われてから8年、辞書に載ってから13年、幽霊は居座り続けたことになります。
ただし、記録には食い違いもあります。同社の第3版(1961年)を作った編集長ゴーヴ(Philip B. Gove)の仕事をたどったモートン(Herbert C. Morton)の本『The Story of Webster's Third』(1994年)は、誤りが見つかった日を1939年2月28日とし、図の説明文では修正を1940年としています。いつ dord が辞書から消えたのかは、資料によって書き方が違うのです。
ちなみに同社は、自社の辞書に載る語はすべて、編集を経た出版物の中で十分な使用例が確かめられた語だと説明しています。dord はそのルールを破った「唯一の」例。ただしこの「唯一」は、あくまで同社の辞書についての話です。
04「幽霊単語」は昔から辞書づくりの天敵
dord のような語は ghost word(幽霊単語) と呼ばれます。メリアム・ウェブスターの定義は「一度も定着した使われ方をしたことがない語形」。ghost word という言葉自体も古く、同辞典によると初出は1887年です。
19世紀末には、スキート(Skeat)という研究者が言語学の学会誌に「かつてチョーサー作とされた詩に出てくる幽霊単語」という題の論文(1895年)を書いています。だれかの気づかれないミスが「新しい単語」に化けてしまう問題は、辞書や古典の研究にずっとつきまとってきたのです。
05まとめ
dord は、辞書が大勢の人の手作業で作られていたことを教えてくれる、ちょっと笑える実例です。そして、だからこそ今の辞書は「実際に使われた証拠」を何より重く見ています。
次に英英辞典を開くときは、語源欄と例文欄まで眺めてみてください。その単語がどこから来て、どう使われてきたのかが見えてきます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWebster's New International Dictionary, Second Edition, came out in 1934 with a strange entry.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In 1934, a big American dictionary printed the word "dord." It said the word meant "density." But nobody ever used this word. An editor wrote a small card with the words "D or d" on it. He meant that a capital D and a small d can both stand for density.
Another worker read the letters as one word. An editor found the mistake in 1939. But the company says the word was not fully taken out until 1947.
79 words ・ CEFR A2
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1934年、アメリカの大きな辞書が「dord」という単語を載せました。その単語は「密度」という意味だと書いてありました。でも、だれもこの単語を使ったことはありませんでした。ある編集者が「D or d」と書いた小さなカードを作りました。彼は、大文字のDも小文字のdも密度を表せる、という意味で書いたのです。
別の担当者は、その文字を1つの単語として読みました。ある編集者が1939年にこの間違いを見つけました。でも辞書の会社によると、その単語が完全に取り除かれたのは1947年でした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
nobody ever used this word と、カードの読み間違いで辞書に入った経緯が中心なので B。
Q2. When did an editor find the mistake?
An editor found the mistake in 1939 とあるので B。1947年は単語が消えた年。
Q3. In this passage, "stand for" means ...
a capital D and a small d can both stand for density は「DもdもDensityを表す(略号になる)」という意味なので C。
Webster's New International Dictionary, Second Edition, came out in 1934 with a strange entry. It listed "dord" as a noun meaning "density," but the word had no word history and no examples of use. The problem began with a small card written by the chemistry editor. It said "D or d," meaning that both a capital D and a lowercase d are used as short forms for density.
At that time, the letters of a headword were typed with spaces between them, so the worker who handled the card thought the space between "o" and "r" was simply missing. The card was marked as a single word. An editor noticed the error in 1939, but Merriam-Webster says the entry was not fully removed until 1947.
125 words ・ CEFR B1
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『ウェブスター新国際辞典 第2版』は1934年に、奇妙な項目を含んだまま出版された。その辞書は「dord」を「密度」という意味の名詞として載せていたが、その単語には語源もなく、使用例もなかった。問題は、化学担当の編集者が書いた小さなカードから始まった。そこには「D or d」とあり、大文字のDも小文字のdも密度の略として使われる、という意味だった。
当時、見出し語の文字は1文字ずつすき間をあけてタイプされていたので、カードを扱った担当者は「o」と「r」の間のすき間が抜けているだけだと思った。カードは1つの単語として印をつけられた。ある編集者が1939年に誤りに気づいたが、メリアム・ウェブスター社によれば、その項目が完全に削除されたのは1947年になってからだった。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the card "D or d" really mean?
meaning that both a capital D and a lowercase d are used as short forms for density とあるので B。
Q2. Why did the worker read the card as one word?
the letters of a headword were typed with spaces between them, so ... thought the space ... was simply missing とあるので B。
Q3. What can we guess from the passage?
1939年に気づいたのに、完全な削除は1947年だった(was not fully removed until 1947)ことから、修正に長い時間がかかったと推測できるので A。
For years, one of the largest dictionaries in the United States contained a word that nobody had ever used. The word was "dord," defined simply as "density" in Webster's New International Dictionary, Second Edition, published in 1934. According to Merriam-Webster, the book involved 250 editors and consultants and weighed 17 pounds.
The error started with a 3-by-5-inch slip prepared by Austin M. Patterson, the chemistry editor, recording that "D or d" could stand for density. Because staff typed headwords with spaces between the letters, leaving room for stress and syllable marks, the person handling the slip assumed one space had been left out and marked all four letters as a single headword.
A pronunciation was added, and the entry then got past several more readers. In 1939 an editor spotted the problem and asked for an urgent correction, but the company says the fix only appeared in 1947, after a second request. Merriam-Webster calls dord the only "ghost word" in its dictionaries. The company says that every word it includes must be backed by evidence from edited, published writing.
179 words ・ CEFR B2
和訳を見る
何年ものあいだ、アメリカ最大級の辞書の1冊に、だれも使ったことのない単語が載っていた。その単語は「dord」で、1934年に出版された『ウェブスター新国際辞典 第2版』では、ただ「密度」と定義されていた。メリアム・ウェブスター社によると、この本には250人の編集者と専門顧問がかかわり、重さは17ポンドあった。
誤りは、化学担当の編集者オースティン・M・パターソンが作った3×5インチのカードから始まった。カードには、「D or d」が密度を表しうることが記録されていた。編集部では、強勢や音節の印を書き込む余白を残すため、見出し語を1文字ずつすき間をあけてタイプしていたので、カードを扱った人は、すき間が1つ抜けているのだと思い込み、4文字すべてに1つの見出し語としての印をつけた。
発音が書き加えられ、その項目はさらに何人もの読み手の目をすり抜けた。1939年にある編集者が問題に気づいて至急の修正を求めたが、同社によれば、修正が実際に反映されたのは、2度目の依頼を経た1947年だった。メリアム・ウェブスター社は dord を、自社の辞書で唯一の「幽霊単語」と呼んでいる。同社は、載せる語はすべて、編集を経て出版された文章での使用例に裏づけられていなければならないとしている。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did the worker mark all four letters as one headword?
Because staff typed headwords with spaces between the letters ... assumed one space had been left out とあるので B。
Q2. According to the passage, what happened after the error was found in 1939?
the fix only appeared in 1947, after a second request とあるので C。
Q3. Which statement best matches Merriam-Webster's view of dord?
the only "ghost word" in its dictionaries と、every word ... must be backed by evidence from edited, published writing から C。
重要単語
- ghost wordC1名詞幽霊単語(実際には使われたことがないのに辞書などに載った語)"Dord" is the most famous ghost word in English.
Merriam-Webster の定義は a word form never in established usage。初出は1887年とされる。 - densityB2名詞密度;(人口などの)密集度Ice has a lower density than water, so it floats.
形容詞は dense(密な、濃い)。population density「人口密度」の形でもよく出てくる。 - abbreviationB2名詞略語、略号"Dr." is an abbreviation for "doctor."
動詞は abbreviate(省略する)。stand for ~「~の略である」とセットで覚える。 - headwordC1名詞(辞書の)見出し語Each headword in this dictionary is printed in bold.
entry もほぼ同じ意味で使う。辞書づくりの人は lexicographer。 - lowercaseB1形容詞小文字のType your password in lowercase letters.
大文字は uppercase / capital。名詞として lowercase(小文字)とも使い、in lowercase で「小文字で」。 - proofreaderC1名詞校正係The proofreader found three typos on one page.
proofread は「校正する」。proof はここでは「校正刷り」。
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1934年、アメリカの大辞典に「dord=密度」という英単語が載った。でもそんな単語は存在しない。正体は「D or d(密度の略号)」と書かれたカードの読み間違い。1939年に発覚したのに、出版社によれば完全に消えたのは1947年。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- Merriam-Webster「'Dord': How a Non-Word Made it into the Dictionary」merriam-webster.com
- Gove (1954) The History of 'Dord', American Speech 29(2)doi.org
- Merriam-Webster「ghost word」(定義・First Known Use)merriam-webster.com
- Merriam-Webster「Merriam-Webster's Ongoing Commitment」(辞書の版の歴史)merriam-webster.com
- Skeat (1895) Some Ghost-Words in Poems Once Attributed to Chaucer, Transactions of the Philological Society 23(1)doi.org
- Morton (1994) The Story of Webster's Third: Philip Gove's Controversial Dictionary and Its Critics, Cambridge University Press(Internet Archive の所蔵記録)archive.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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