「アルコール(alcohol)」の語源は、目のふちを黒く塗る化粧の粉だった

読む前に予想してみよう!
英語の alcohol は、もとはアラビア語で「酔わせる飲み物」という意味だった
もとはアラビア語 al-kuḥl で、目のふちを黒くする化粧用の細かい粉のこと。お酒の意味は、あとから化学者の実験室で生まれた。
- 対象
- 英語・アラビア語・中世ラテン語の語源
- 規模
- 16〜19世紀の意味の変化
- 研究の種類
- 辞書の語源記述(歴史言語学)
- 確かさ
- ★★★★☆
alcohol の語源はアラビア語 al-kuḥl。目のふちを黒くする化粧の粉のことだった。「粉」から「蒸留したエッセンス」、そして「お酒」へと意味が移った。
ひとことで言うと「アルコール」は、もとは目のまわりを黒くする化粧の粉の名前だった!
もくじ
「アルコール消毒」「ノンアルコールビール」。毎日のように目にするこのことば、もとは何の名前だったと思いますか?
答えは、目のふちを黒く塗るための、化粧用の細かい粉です。
『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』(AHD)によると、英語の alcohol は、アラビア語の al-kuḥl(アル・クフル) から来ています。お酒とは何の関係もない、メイク道具の名前だったのです。
01al- は英語の the、kuḥl は「目もとの黒い粉」
al-kuḥl は、2つの部分に分けられます。
- al-:アラビア語で、英語の the にあたる語(定冠詞)
- kuḥl:細かい粉。AHD によると、多くはアンチモンという元素から作られ、まぶたを黒く見せる化粧に使われた
つまり al-kuḥl は「the kohl(その黒い粉)」という意味です。英語には、この粉そのものを指す kohl(コウル)という単語もあり、こちらも同じ kuḥl から来ています。AHD は kohl を「特に中東で、まぶたのふちを黒くするのに使われる化粧品」と説明しています。
AHD によると、この言葉がヨーロッパに入るとき、アラビア語の「al(the)+ kuḥl(黒い粉)」は、中世のラテン語にひとかたまりの1語 alcohol として借りられました。the まで含めて1つの単語になってしまったのです。
02粉からお酒へ、意味は実験室で変わった
では、黒い粉の名前が、どうしてお酒の名前になったのでしょう。AHD の語源解説(Word History)が、その道すじをまとめています。
- 英語の alcohol は、まず「細かい粉」全般を指すようになった。たとえば、物を熱して気体にし、それを冷やして取り出した粉
- 次に、蒸留して取り出した「エッセンス(精)」も alcohol と呼べるようになった
- 錬金術師や初期の化学者は、ワインから蒸留したエッセンスを alcohol of wine(ワインのアルコール) と呼んだ。これこそ人を酔わせる成分、今でいうエタノールだった
- やがて、この成分を含むお酒そのものも alcohol と呼ばれるようになった
- 現代の化学では、エタノールの仲間の化合物をまとめて呼ぶ名前にもなった
カギは「熱して気体にし、冷やして取り出す」という作業です。平凡社の『世界大百科事典』も、黒い粉を作るのに昇華という方法が使われていたことから意味が移り、やがて酒を蒸留して得たものもアルコールと呼ばれるようになった、と説明しています。
「化粧の粉」と「お酒」をつないだのは、化学者の実験の手順だったわけです。

03al- で始まる英単語は、アラビア語の名残り
AHD は、alcohol の al- を見て「アラビア語から来た語かも」と気づく読者もいるだろうと書き、同じ仲間として algebra と alkali を挙げています。辞書で確かめると、どれも中身が意外です。
- algebra(代数):アラビア語の al-jabr から。Oxford Learner's によると、意味は「折れた部分をつなぎ直すこと」、つまり「骨つぎ」。英語に入ったときも、最初は「骨折の治療」の意味でした。数学の意味は、数学者フワーリズミー(al-Khwārizmī)が書いた本の題名から来ています。題名の al-jabr は「欠けたものを補う(元に戻す)」という意味で使われていました
- alkali(アルカリ):アラビア語の al-qily(その灰)から。もとは、植物を焼いた灰から取れる物質を指しました
- alchemy(錬金術):アラビア語の al-kīmiyā' から。al + kīmiyā'(ギリシャ語から入った語)
- apricot(アプリコット):AHD によると、さかのぼるとアラビア語の al-barqūq(the plum)。ただしその先は、ギリシャ語を経てラテン語の praecoquus(早く熟す)にたどりつきます。アラビア語を通ったときに al- がついたわけです
数学の時間に習う algebra も、英語での最初の意味は骨つぎ。理科で習う alkali は、もとは灰。教科書の単語にも、アラビア語の「the」がこっそり残っているのです。
04発音は「アルカホール」
英語の alcohol は、Oxford Learner's の発音記号では /ˈælkəhɔːl/(アメリカ英語)。カタカナで書くなら「アルカホール」に近く、最初の al を強く読みます。日本語の「アルコール」のつもりで言うと、通じにくいことがあります。
ちなみに、小学館の『デジタル大辞泉』は、日本語の「アルコール」の元の語をオランダ語・英語の alcohol としています。
05どんでん返し:「化粧の粉=お酒」ではない
ここまで読むと「アラブの人は、お酒を化粧の粉と同じ名前で呼んでいた」と思うかもしれません。でも、AHD と Oxford Learner's の説明を見るかぎり、そうではありません。
2つの辞書の説明では、お酒の意味が生まれたのは、この語がヨーロッパに渡ったあとです。化粧の粉の名前が、ラテン語や英語の中で「細かい粉」→「蒸留したエッセンス」→「酒精」→「お酒」と少しずつ意味を変えていきました。
ただし、辞書によって書き方には違いがあります。Dictionary.com は、アラビア語の訳として「アンチモンの粉」と並べて「蒸留して得たもの(the distillate)」も挙げています。どの段階で、どの言語の中で意味が広がったのかは、学習用の辞書の短い説明だけでは細かく追えません。
しかも、化学の用語として今のような意味に落ち着いたのは、かなり最近のことです。小学館の『日本大百科全書』は、アルコールが今のように化合物のグループ全体を指す名前になったのは19世紀からだと書いています。
06まとめ
alcohol のもとは、アラビア語で「その黒い粉」。目もとを飾る化粧の粉が、化学者の実験室を通って、お酒の名前になりました。
次に「アルコール消毒」の文字を見たら、the + 目もとを黒くする粉、と思い出してみてください。algebra(最初の意味は骨つぎ)や alkali(もとは灰)といっしょに覚えると、英単語の見え方が少し変わるはずです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerBefore it was a drink, "alcohol" was a word for makeup.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
What do alcohol and eye makeup have in common? The same word. The English word "alcohol" comes from the Arabic "al-kuhl." "Al" means "the," and "kuhl" was a fine black powder. People put it around their eyes to make them look darker.
Later, chemists in Europe used the word for other fine powders. Then they used it for the part of wine that makes people drunk. Today "alcohol" means the stuff in beer and wine.
75 words ・ CEFR A2
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アルコールと目のメイクに共通するものは何でしょう?同じ言葉です。英語の「alcohol」は、アラビア語の「al-kuhl」から来ています。「al」は「the」という意味で、「kuhl」は細かい黒い粉でした。人々は目を黒っぽく見せるために、それを目のまわりに塗りました。
のちにヨーロッパの化学者たちは、この語をほかの細かい粉にも使いました。次に、ワインの中の、人を酔わせる成分にも使いました。今日「alcohol」は、ビールやワインに入っている成分を意味します。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
The English word "alcohol" comes from the Arabic "al-kuhl." から、alcohol という語の由来の話なので B。
Q2. What does "al" mean in Arabic?
"Al" means "the," とあるので C。
Q3. In the passage, what is a "powder"?
kuhl は a fine black powder で、目のまわりに塗るものと説明されているので、粉のような細かく乾いたもの。B。
Before it was a drink, "alcohol" was a word for makeup. It comes from the Arabic "al-kuhl," or "the kohl." Kohl is a fine black powder, often made from a chemical element called antimony, and people used it to darken their eyelids.
The word entered Latin in the Middle Ages as a single word, and English borrowed it in the 1500s. At first it meant any very fine powder. Chemists then used it for the pure "essence" they got by heating a liquid until it became vapor and cooling it again.
The essence they took from wine was called "alcohol of wine." Over time, the drinks themselves became "alcohol." The Arabic "al-" also hides at the start of "algebra" and "alkali."
121 words ・ CEFR B1
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飲み物になる前、「alcohol」は化粧品を表す言葉だった。アラビア語の「al-kuhl」、つまり「the kohl」から来ている。コールは細かい黒い粉で、アンチモンという元素から作られることが多く、人々はまぶたを黒く見せるのに使った。
この語は中世に1つの単語としてラテン語に入り、英語は1500年代にそれを借りた。はじめは、とても細かい粉なら何でも指した。その後、化学者たちは、液体を熱して気体にし、それを再び冷やして得た純粋な「エッセンス」にこの語を使った。
ワインから取り出したエッセンスは「alcohol of wine(ワインのアルコール)」と呼ばれた。時がたつにつれ、飲み物そのものが「alcohol」になった。アラビア語の「al-」は、「algebra(代数)」や「alkali(アルカリ)」の頭にも隠れている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
Before it was a drink, "alcohol" was a word for makeup. で始まり、化粧の粉からお酒の意味になるまでを説明しているので A。
Q2. When did English borrow the word?
English borrowed it in the 1500s とあるので B。
Q3. Why does the writer mention "algebra" and "alkali" at the end?
The Arabic "al-" also hides at the start of ... とあり、どちらもアラビア語の the(al-)で始まる語として挙げているので C。
The word you see on beer labels started out as the name of eye makeup. "Alcohol" goes back to the Arabic "al-kuhl," "the kohl," a fine black powder, often made from antimony, that people used to darken the edges of their eyelids. Medieval Latin took the Arabic article and noun as a single word, and English borrowed it in the sixteenth century.
For a while it could mean any extremely fine powder, especially one made by heating a solid until it turned into vapor and letting it cool. From there, early chemists applied it to essences produced by distillation. The essence distilled from wine, "alcohol of wine," was the part that made people drunk, and the name slowly moved from that essence to the drinks that contained it.
A Japanese encyclopedia notes that the chemical sense, a whole family of compounds, only settled in the nineteenth century. Dictionaries tell this story in a few lines, and they don't agree on every step. Dictionary.com, for example, lists "the distillate" as one of the Arabic meanings, so it is hard to say exactly where the shift began. The same Arabic "al-" sits at the front of "algebra," which first meant bone-setting.
199 words ・ CEFR B2
和訳を見る
ビールのラベルで見かけるこの語は、目のメイクの名前として始まった。「alcohol」はアラビア語の「al-kuhl」、つまり「the kohl」にさかのぼる。これは細かい黒い粉で、アンチモンから作られることが多く、人々はまぶたのふちを黒くするのに使った。
中世のラテン語は、アラビア語の冠詞と名詞を1つの単語として取り入れ、英語は16世紀にそれを借りた。しばらくの間、この語はとても細かい粉なら何でも指すことができ、とくに固体を熱して気体にし、冷やして作った粉を指した。そこから初期の化学者たちは、蒸留で作ったエッセンスにこの語を当てはめた。ワインから蒸留したエッセンス「alcohol of wine」は人を酔わせる部分で、その名前はゆっくりと、エッセンスからそれを含む飲み物へと移っていった。
日本の百科事典によると、化合物のグループ全体を指す化学の意味が定着したのは19世紀になってからだという。辞書はこの話を数行で語っていて、すべての段階で一致しているわけではない。たとえば Dictionary.com はアラビア語の意味の1つに「蒸留して得たもの」を挙げているので、意味の変化がどこで始まったのかを正確に言うのは難しい。同じアラビア語の「al-」は「algebra(代数)」の頭にもあり、この語はもともと骨つぎを意味した。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
化粧の粉の名前が、蒸留したエッセンス、飲み物、そして化合物のグループの名前へと移った流れを説明しているので B。
Q2. What did "alcohol of wine" refer to?
The essence distilled from wine, "alcohol of wine," was the part that made people drunk とあるので C。
Q3. What does the writer suggest about the dictionaries?
they don't agree on every step ... it is hard to say exactly where the shift began とあるので B。
重要単語
- alcoholA2名詞アルコール、酒類You have to be 20 to buy alcohol in Japan.
発音は /ˈælkəhɔːl/ で「アルカホール」に近い。最初の al を強く読む。語源はアラビア語 al-kuḥl(その黒い粉)。 - powderB1名詞粉Grind the coffee beans into a fine powder.
a fine powder「細かい粉」はよく使う組み合わせ。baking powder(ベーキングパウダー)も同じ語。 - distillC1動詞蒸留するThey distill wine to make brandy.
アメリカ式のつづりは distill、イギリス式は distil。名詞は distillation(蒸留)。 - essenceB2名詞(植物などから取り出した)エキス;本質Add a few drops of vanilla essence to the cake mix.
「本質」の意味でも使う。the essence of the problem「問題の核心」。 - cosmeticsB2名詞化粧品She keeps her cosmetics in a small pouch.
ふつう複数形で使う。日常会話では makeup のほうがよく使われる。 - originB1名詞起源、由来The word "algebra" has an Arabic origin.
word origin「語源」。形容詞は original(もとの)。 - non-alcoholicB1形容詞アルコールを含まないDo you have any non-alcoholic drinks?
「ノンアルコール」を英語で言うならこれ。non- は「〜でない」。
公式・一次情報をチェック
- kohl(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- alkali(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- alchemy(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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「アルコール」の語源は、アラビア語で目のふちを黒く塗る化粧の粉「クフル」。ヨーロッパで意味が「細かい粉」から「蒸留したエッセンス」へと広がり、やがてお酒の名前になった。ちなみに algebra(代数)も、英語での最初の意味は「骨つぎ」だった。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「alcohol」(Word History)ahdictionary.com
- Oxford Learner's Dictionaries「alcohol」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Dictionary.com(Random House Unabridged)「alcohol」(Origin)dictionary.com
- Oxford Learner's Dictionaries「algebra」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- 日本大百科全書・世界大百科事典・デジタル大辞泉「アルコール」(コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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