「シェイクスピアは1700語を発明」は盛りすぎ? 辞書が彼だけ特に念入りに読んでいた

読む前に予想してみよう!
シェイクスピアが約1700の英単語を自分で発明したことは、確かめられている
1700は辞書の「最初の用例」を数えた推定。辞書の改訂で調べ直した範囲では、シェイクスピアが「最初」とされていた語の約3分の1に、もっと古い用例が見つかった。
- 対象
- オックスフォード英語辞典(OED)の用例記録
- 規模
- 旧版でシェイクスピア初出の約2,000語のうち、改訂済み区間の406語を比較
- 研究の種類
- 辞書記録の分析(文献研究)
- 確かさ
- ★★★☆☆
「1700語」は辞書OEDで「最初の用例」がシェイクスピアだった語をもとにした推定。辞書が彼を特に熱心に読んでいたためで、改訂で調べ直した範囲では、彼が「最初」とされていた語の約3分の1にもっと古い用例が見つかった。
ひとことで言うと辞書がシェイクスピアだけを特に念入りに読んでいたから「発明王」に見えていた部分もある!
「シェイクスピアは1,700もの英単語を発明した」。英語の授業や本で、一度は聞いたことがあるかもしれません。
ところが、英語の歴史を記録した大辞典『オックスフォード英語辞典』(OED)で assassination(暗殺) を引くと、先頭に来るのは1610年に出たフランス語からの翻訳書です。『マクベス』は2番目(OEDは『マクベス』に「1616年以前」という日付を付けています。理由は後で)。
数字はデタラメではありません。でも数え方に落とし穴がありました。辞書の編集者たちが、シェイクスピアだけを特別に熱心に読んでいたのです。
01「1,700」はどこから来た数字?
OEDは、ことばごとに「いつ、だれが、どう使ったか」の用例(quotation)を古い順に並べた辞書です。いちばん古い用例を first citation(初出) と呼びます。
言語学者デイヴィッド・クリスタルさんは、旧版OEDのデータを調べ、シェイクスピアが初出になっている語を2,035語と数えました。そこから「すぐ他の人も使い始めた語の半分は、同時期にだれかが作っていたかも」と差し引くなどして、約1,700語と見積もったのです。この経緯は、英語学者シャーロット・ブルーワーさんが2012年の論文で詳しく紹介しています。
シェイクスピアの作品全体で使われた語は2万語弱とされます。つまり10語に1語が「新語」という計算。たしかに驚異的です。
02辞書は「シェイクスピア推し」だった
ところがOEDの初版は1884〜1928年に刊行された辞書。当時は「偉大な作家こそが国のことばを作る」という考えが強く、編集者とボランティアの読み手たちは、シェイクスピアのことばをできるだけ細かく記録しようとし、彼が使った語はほぼすべて辞書に入りました。
OED自身も、第3版の序文でシェイクスピアの引用の多さを“創造性の物差し”にする見方は重視されすぎてきたと認め、初出は「その人が最初に使った」ではなく「それより前の証拠がまだ見つかっていない」という意味だと説明しています。
03古い本をデジタルで調べ直したら…
いまOEDは全面改訂の最中です。武器になっているのが、初期の英語の印刷本をデジタル化した EEBO(Early English Books Online) などのデータベース。昔の編集者が読めなかった本まで、検索できるようになりました。
ブルーワーさんが、2010年11月の時点で改訂済みだった区間(M〜rotnessの範囲)を新旧の版で比べると、シェイクスピアが初出だった語は406語から263語に減っていました。約3分の1が「初出」の座を失ったわけです。
- newsmonger(うわさ好き):数年早いトマス・ナッシュの用例が見つかった
- ratcatcher(ネズミ捕り屋):『ロミオとジュリエット』より前、1565年の文献に登場
- majestic(堂々とした):改訂版では1606年の別の詩人の例が先頭に
majestic には事情もあります。OEDは、1623年の作品集(ファースト・フォリオ)から引用する劇を「1616年以前」(1616年はシェイクスピアの没年)とするルールに変えました。1599年には上演の記録がある『ジュリアス・シーザー』も、最初の印刷が1623年なので、辞書の上では1606年の例より後の用例として扱われるようになったのです。

04どんでん返し:それでも「使い方の発明王」
では、シェイクスピアは過大評価だったのか? そうとも言い切れません。
ブルーワーさんは、改訂済み区間での減り方が全体にも当てはまるとすれば、約2,000語は1,200語ほどに減ると見積もりつつ、それでも記録上は中世より後のどの作家もかなわないと結論しています。
さらに強いのが、単語ではなく「意味」の単位で数えた初出です。こう数えると、今ある単語に新しい意味を与えた例も拾えます。2010年12月の時点で、シェイクスピアが「ある単語の、ある一つの意味」の初出になっていた件数は8,207。中世より後の作家で2位の翻訳家フィリモン・ホランド(2,456件)を大きく引き離していました。ブルーワーさんが挙げる例では、lip を「キスする」の意味で使ったのも、当時のOEDではシェイクスピアが最初でした(『マクベス』の unsex〔女らしさを捨てさせる〕は、単語そのものの初出がシェイクスピア)。
そして、残っている語もあります。laughable(笑える)は、2011年に改訂済みの今のOEDで初出がシェイクスピア(1600年)。lonely(さびしい)も今のOEDではシェイクスピアが最初です(この項目はまだ改訂前)。ただし、loneliness(孤独)のほうはフィリップ・シドニーによる1586年以前の用例が先。名詞が形容詞より先に記録されているという、ちょっと不思議な順番です。
05まとめ
「1,700語」は、シェイクスピアの才能と、辞書が彼をえこひいきしていた記録の偏りの両方が混ざった数字でした。
それでも、だれもが知る単語に新しい意味を吹き込み、それが400年後まで残っている。単語を「発明」したかどうかより、ことばの使い方を変えたことのほうが、彼の本当のすごさなのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerShakespeare is often said to have invented about 1,700 English words.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people say Shakespeare made about 1,700 English words. This number comes from a big dictionary, the Oxford English Dictionary. For each word, it shows the oldest example it can find. For many words, the oldest example was from Shakespeare.
But the first editors of the dictionary read Shakespeare more carefully than other writers. Now old books are on computers. In one part of the dictionary, Shakespeare lost the "first" place for about one third of his words.
78 words ・ CEFR A2
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多くの人が、シェイクスピアは約1,700の英単語を作ったと言います。この数字は、オックスフォード英語辞典という大きな辞書から来ています。その辞書は、それぞれの単語について、見つけられたいちばん古い例を示します。多くの単語で、いちばん古い例がシェイクスピアのものでした。
しかし、その辞書の最初の編集者たちは、ほかの作家よりもシェイクスピアを丁寧に読みました。今では古い本がコンピューターで読めます。辞書のある部分では、シェイクスピアは約3分の1の単語で「最初」の座を失いました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
1,700語という数字が辞書の読み方の偏りから来ていて、調べ直すと減ったという話なので B。
Q2. Where does the number 1,700 come from?
This number comes from a big dictionary, the Oxford English Dictionary とあるので C。
Q3. In this passage, what does "editors" mean?
the first editors of the dictionary read Shakespeare... とあり、辞書を作って調べる人のことなので A。
Shakespeare is often said to have invented about 1,700 English words. That figure comes from the Oxford English Dictionary, which lists the earliest known example of each word. In an older version of the dictionary, Shakespeare was the first recorded user of more than 2,000 words.
But the editors of the first edition, published between 1884 and 1928, read his plays far more closely than books by other writers, so his examples often appeared first. Today, editors can search large collections of early printed books online. In one part of the alphabet, the number of words first credited to Shakespeare fell from 406 to 263. Even so, no writer after the Middle Ages has more first uses on record.
119 words ・ CEFR B1
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シェイクスピアは約1,700の英単語を発明したとよく言われる。この数字はオックスフォード英語辞典から来ており、この辞書は各単語の知られている最も古い例を載せている。この辞書の旧版では、シェイクスピアは2,000語以上で最初に記録された使い手だった。
しかし、1884年から1928年にかけて刊行された初版の編集者たちは、ほかの作家の本よりも彼の劇をはるかに丁寧に読んだため、彼の例が最初に載ることが多かった。今日では、編集者は初期の印刷本の大きなコレクションをオンラインで検索できる。アルファベットのある区間では、シェイクスピアが最初とされた単語の数は406から263に減った。それでも、中世より後の作家で、彼より多くの初出が記録されている人はいない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
編集者がシェイクスピアを特に丁寧に読んだため彼の例が最初に載りやすかった、という内容なので B。
Q2. In one part of the alphabet, how many words were first credited to Shakespeare after the revision?
fell from 406 to 263 とあるので、改訂後は263。正解は D。
Q3. What can we infer about words that both Shakespeare and less famous writers used?
編集者が彼の劇をほかよりずっと丁寧に読み、his examples often appeared first とあるので A。
Look up "assassination" in the Oxford English Dictionary and the first example is not from Macbeth. It is the title of a book translated from French in 1610. The popular claim that Shakespeare coined about 1,700 words rests on his "first citations," the oldest examples the dictionary records. The linguist David Crystal found about 2,000 in the second edition and then trimmed the figure for words others may have coined at the same time.
The problem lies in the dictionary itself. Its Victorian and Edwardian editors treated Shakespeare as a national treasure and quoted him about 33,000 times, over twice as often as the next author. Words he shared with less-studied writers were often credited to him. Since Early English Books Online went digital, revisers have pushed many dates back.
Charlotte Brewer found that from M to "rotness," his first uses dropped from 406 to 263, partly because of a new dating rule for plays quoted from the 1623 Folio. She expects a final total near 1,200, still unmatched by any writer after the Middle Ages. Counted by senses, including new senses of old words, his lead is even wider: 8,207 in 2010.
193 words ・ CEFR B2
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オックスフォード英語辞典で「assassination(暗殺)」を引くと、最初の例は『マクベス』ではない。1610年にフランス語から翻訳された本の題名だ。シェイクスピアが約1,700語を作ったという通説は、辞書が記録する最も古い例である彼の「初出」にもとづいている。言語学者デイヴィッド・クリスタルは第2版で約2,000語を数え、同じころにほかの人も作っていたかもしれない語を考慮して数字を絞り込んだ。問題は辞書そのものにある。
ヴィクトリア朝・エドワード朝の編集者たちはシェイクスピアを国の宝として扱い、彼を約3万3,000回引用した。これは2位の作家の2倍以上だ。あまり研究されていない作家と共通する単語は、しばしば彼の手柄とされた。Early English Books Online がデジタル化されて以来、改訂者たちは多くの年代をさかのぼらせてきた。
シャーロット・ブルーワーは、Mから「rotness」までの範囲で彼の初出が406から263に減ったことを見いだした。その一因は、1623年のフォリオから引用される劇に対する新しい日付のルールだった。彼女は最終的な合計を1,200前後と見込んでおり、それでも中世より後のどの作家も及ばない。古い単語の新しい意味も含めて意味の単位で数えると、彼のリードはさらに大きく、2010年には8,207件だった。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
偏りで数が膨らんでいたが、約1,200でも中世より後の作家では誰も及ばない、と述べているので B。
Q2. According to the passage, why did some of Shakespeare's first uses disappear in the revision?
revisers have pushed many dates back と partly because of a new dating rule for plays quoted from the 1623 Folio の2点から B。
Q3. According to the passage, when is Shakespeare's lead over other writers even wider?
最後の文 Counted by senses ... his lead is even wider から、語の意味の単位で数えたときにリードがさらに大きいので B。
重要単語
- coinB2動詞(新しい言葉を)作り出すNobody knows who first coined the word.
名詞「硬貨」と同じ語。硬貨を鋳造する→言葉を作る。coin a phrase / coin a word - citationC1名詞引用、(辞書の)用例The first citation in the entry is from 1610.
動詞 cite(引用する)から。first citation で「初出」 - antedateC1動詞~より日付が前である、(記録を)さかのぼらせるA text from 1565 antedates the play.
ante-(前に)+date。反対は postdate - lexicographerC1名詞辞書編集者Lexicographers read old books to find early examples.
lexicon(語彙)+-grapher(書く人) - credit A to BB2動詞句AをBの手柄とするThe invention was credited to a young engineer.
受け身 be credited to ~ の形でよく出る。credit は「信用・功績」 - reviseB1動詞改訂する、見直すThe online dictionary adds revised entries every three months.
名詞 revision。re-(再び)+vise(見る) - senseB1名詞(単語の)意味、語義The word "lip" once had the sense "to kiss."
「感覚」だけでなく、辞書では「語義」の意味でよく使う
公式・一次情報をチェック
- Examining the OED:Shakespeare(Charlotte Brewer、オックスフォード大学英文学部の支援による研究サイト)oed.hertford.ox.ac.uk
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「シェイクスピアは1700語を発明」は盛りすぎかも。根拠は英語辞典OEDの「最初の用例」の数で、辞書は彼を特に熱心に読んでいた。改訂で調べ直すと、彼が「最初」だった語の約3分の1にもっと古い例が。それでも「言葉の新しい使い方」ではダントツ。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Brewer (2012) Shakespeare, Word-Coining and the OED, Shakespeare Survey (Cambridge University Press), pp. 345–357doi.org
- Oxford English Dictionary, Preface to the Third Edition of the OED(John Simpson)oed.com
- Oxford English Dictionary, assassination, n.(2014年改訂)oed.com
- Oxford English Dictionary, lonely, adj.oed.com
- Oxford English Dictionary, loneliness, n.oed.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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