歌詞の空耳は英語で「mondegreen」。語源は作家が聞き間違えた“いない貴婦人”だった

読む前に予想してみよう!
英語の mondegreen(歌詞の聞き間違い)は、ある人の聞き間違いで生まれた名前がそのまま単語になったものだ
スコットランドの歌の laid him on the green を Lady Mondegreen と聞き取っていた作家シルヴィア・ライトが、1954年にこの名で呼んだ。
- 対象
- ドイツ語を母語とする成人(実験)+英語の辞書・歌謡集
- 規模
- 23人・61曲
- 研究の種類
- 辞書の語源欄+聞き取り実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
歌詞の聞き間違いは英語で mondegreen。1954年、作家シルヴィア・ライトが、古い歌の聞き間違いで生まれた「モンデグリーン夫人」から名づけた。
ひとことで言うと歌の聞き間違いには英語で名前がある。mondegreen(モンデグリーン)だよ!
もくじ
歌を聞いていて、歌詞がまったく別の言葉に聞こえたことはありませんか。日本語でいう「空耳」です。
じつは英語には、歌詞の聞き間違いを指す専用の単語があります。mondegreen(モンデグリーン)です。
しかもこの単語は、ある作家の聞き間違いから生まれました。もとは「モンデグリーン夫人」という、どこにもいない貴婦人の名前だったのです。
01mondegreen の意味は?
アメリカの『アメリカン・ヘリテージ英語辞典(AHD)』は、mondegreen を「発言や歌詞を聞き間違えたり、取り違えたりして生まれた語句」と説明しています。イギリスの Cambridge Dictionary も、「話し言葉や歌を聞き違えて、もとにはなかった意味が生まれた語句」としています。
AHD が挙げている例が、アメリカの「忠誠の誓い」の出だしです。
- 本当:I pledge allegiance to the flag(私は国旗に忠誠を誓います)
- 空耳:I led the pigeons to the flag(私はハトたちを旗のところへ連れて行った)
pledge allegiance(忠誠を誓う)という難しい言葉が、led the pigeons(ハトを連れて行った)という、意味は分かるけれどおかしな文に化けています。
02「モンデグリーン夫人」はどこにもいなかった
もとになった歌は、トマス・パーシーが編んだ古い歌の本『古英詩拾遺(Reliques of Ancient English Poetry)』に「スコットランドの歌」として載っています。本の解説によると、1592年2月7日の夜、ハントリー伯が若いマリ伯の屋敷を囲んで焼き払い、マリ伯を殺した事件を悼む歌です。
その最初の4行がこちら。
「Ye highlands, and ye lawlands, / Oh! quhair hae ye been? / They hae slaine the Earl of Murray, / And hae laid him on the green.」(高地の人々よ、低地の人々よ、どこにいたのか。やつらはマリ伯を殺し、草の上に横たえた)
問題は最後の行です。And hae laid him on the green(そして彼を草の上に横たえた)。この行を、ある人はこう聞き取りました。
And Lady Mondegreen(そしてモンデグリーン夫人を)
すると歌の意味は「やつらはマリ伯と、モンデグリーン夫人を殺した」に変わります。殺されたのは1人なのに、もう1人、悲劇の貴婦人が増えてしまったわけです。
その人こそ、作家のシルヴィア・ライトです。あとで紹介するドイツの研究チームの論文や Cambridge Dictionary が、ライトはこう聞いていたと説明しています。

031954年、聞き間違いに名前がついた
アメリカの辞書 Dictionary.com は、mondegreen の語源を「アメリカの作家シルヴィア・ライトが1954年に作った語」と説明しています。雑誌『ハーパーズ・マガジン』のアーカイブには、ライトのエッセイ「The death of Lady Mondegreen(モンデグリーン夫人の死)」が1954年11月号に載っています。
ライトは、自分の頭の中だけにいた貴婦人の名前を、こうした聞き間違い全体の呼び名にしました。歌の中にさえいなかった人の名前が、いまでは辞書に載る英単語になっているのです。
04日本語の「空耳」は千年前からある言葉
一方、日本語の「空耳」は、もともと歌詞の聞き間違いを指す言葉ではありませんでした。
『日本国語大辞典』によると、「空耳」のいちばん古い意味は「音がしないのに、聞こえたように感じること」。10世紀後半の歌集『一条摂政集』や、10世紀末の『枕草子』(能因本)に例があります。『枕草子』には、遠くのホトトギスの声がかすかすぎて「空耳かと思う」ほどだ、という一節があります。
『デジタル大辞泉』は、これに「外国語の歌詞などを日本語に聞きなすことを空耳ということもある」と補足しています。つまり、
- mondegreen:英語の歌を、別の英語に聞き違える(同じ言語の中の聞き違い)
- 空耳:外国語の歌を、日本語に聞きなす(2つの言語にまたがる聞き違い)
と、少し守備範囲がちがいます。
05ドイツの実験:論文に「Soramimi」が登場
この2つを実験に使ったのが、ドイツのテュービンゲン大学のチームです。2014年に学術誌『PLoS ONE』に発表した論文で、同じ言語の中の聞き違いを Mondegreen、2つの言語にまたがる聞き違いを Soramimi と呼び分けました。論文は、言語をまたぐ聞き違いは日本語での伝統がいちばん長いので Soramimi と呼ばれる、と説明しています。
論文には、ほかの国の「空耳」の呼び名も紹介されています。
- ドイツ語:Agathe Bauer(アガーテ・バウアー)。英語の歌の I got the power が、ドイツ人の名前に聞こえることから
- オランダ語:Mama Appelsap(ママ・リンゴジュース)。マイケル・ジャクソンの曲の一節がこう聞こえることから
一度「こう聞こえる」と知ると、そう聞こえやすくなる。参加者の多くも、空耳は一度聞こえると長く続くと話していたそうです。
06どんでん返し:「4割が聞き違える」わけではない
ただし、この実験の数字を「歌の4割は聞き違えられる」と読むのはまちがいです。
- 使われたのは、もともと「聞き間違えやすい」と選ばれた歌だけ
- しかも先に別の歌詞を文字で見せて、聞き違いをわざと起こしやすくしている
- 参加者は23人と少なく、全員がドイツ語を母語とする大人
研究チームのねらいも、「空耳がどれくらい起きるか」を調べることではありませんでした。脳の研究に使える「聞こえ方が切りかわる音」の材料として、空耳が使えるかどうかを確かめることだったのです。
もう1つ、名づけ親のシルヴィア・ライトのエッセイの本文は、今回は確かめられていません。ここで紹介した語源は、辞書と論文の説明にもとづいています。
07まとめ
mondegreen は、「laid him on the green(彼を草の上に横たえた)」を「Lady Mondegreen(モンデグリーン夫人)」と聞き違えたことから、1954年に作家シルヴィア・ライトが名づけた言葉です。いない貴婦人の名前が、いまでは辞書に載っています。
日本語の「空耳」も、ドイツの研究では Soramimi という名前で論文に登場しました。次に歌詞が別の言葉に聞こえたら、I misheard the lyrics! と英語でも言ってみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe word "mondegreen" means a word or phrase that someone mishears, often in a song.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Have you ever heard the wrong words in a song? English has a word for this. It is "mondegreen." The American writer Sylvia Wright gave it that name in 1954. In an old Scottish song, she heard the words "Lady Mondegreen."
But the real words were "laid him on the green." There was no Lady Mondegreen in the song at all. Japanese has a similar word, "soramimi."
67 words ・ CEFR A2
和訳を見る
歌の中で、まちがった言葉が聞こえたことはありますか。英語にはこれを表す言葉があります。「mondegreen」です。アメリカの作家シルヴィア・ライトが1954年にこの名前をつけました。古いスコットランドの歌の中で、彼女には「Lady Mondegreen(モンデグリーン夫人)」という言葉が聞こえました。
でも本当の歌詞は「laid him on the green(彼を草の上に横たえた)」でした。歌の中にモンデグリーン夫人はまったく出てこなかったのです。日本語にも「空耳」という似た言葉があります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
歌の聞き間違いを表す英単語 mondegreen の話なので B。
Q2. When did Sylvia Wright give the word its name?
gave it that name in 1954 とあるので C。
Q3. In the passage, what does "There was no Lady Mondegreen in the song at all" tell us?
本当の歌詞は laid him on the green で、モンデグリーン夫人は聞き間違いの中にしかいなかったので B。
The word "mondegreen" means a word or phrase that someone mishears, often in a song. It comes from an old Scottish ballad about the killing of a young earl in 1592. One line says the killers "laid him on the green," or put his body down on the grass. The American writer Sylvia Wright heard this line as "Lady Mondegreen," so in her version of the song, a second person had died.
In 1954, she wrote about it in an essay for Harper's Magazine called "The Death of Lady Mondegreen." The name of the lady she had imagined became a word for all mistakes of this kind. Japanese has a related term, "soramimi." People use it when they hear foreign song lyrics as Japanese words.
125 words ・ CEFR B1
和訳を見る
「mondegreen」という語は、だれかが聞き間違えた語句のことで、歌の場合が多い。この語は、1592年に若い伯爵が殺された事件を歌った、古いスコットランドの物語歌から来ている。その一節に、殺した者たちが「laid him on the green」、つまり彼の遺体を草の上に横たえた、とある。アメリカの作家シルヴィア・ライトはこの一節を「Lady Mondegreen(モンデグリーン夫人)」と聞いたので、彼女の頭の中の歌では、2人目の人物が死んでいた。
1954年、彼女はこのことを『ハーパーズ・マガジン』の「モンデグリーン夫人の死」というエッセイに書いた。彼女が思い描いていた夫人の名前が、この種の聞き間違いすべてを指す言葉になった。日本語にも「空耳」という関連した言葉がある。外国語の歌詞が日本語に聞こえるときに使われる。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
mondegreen という語の由来を説明している文章なので B。
Q2. What does the real line "laid him on the green" mean?
"laid him on the green," or put his body down on the grass とあるので C。
Q3. Why does the passage say that "a second person had died" in Wright's version?
laid him on the green を Lady Mondegreen と聞いたため、歌にいない女性が殺されたことになったので A。
In 1954, the American writer Sylvia Wright gave English a name for misheard lyrics. She had heard a line from an old Scottish ballad, "laid him on the green," as "Lady Mondegreen," a noblewoman who appears nowhere in the song. In a 2014 study, researchers at Germany's University of Tübingen played short clips from 61 songs to 23 native speakers of German. In one round, listeners heard each clip while different lyrics appeared on a screen.
Later, they heard the clips again with no text and rated how strongly they heard those words. German songs were heard as other German words 42.6 percent of the time, and English songs were heard as German words 33.5 percent of the time.
The team called the first kind a mondegreen and the second kind "soramimi," since hearing a foreign song as words in your own language has the longest history in Japan. These figures do not mean people mishear four in ten songs. The songs were picked because they were easy to mishear, and the on-screen lyrics pushed listeners toward the wrong words. Listeners who knew a misheard version before the study were much more likely to hear it.
196 words ・ CEFR B2
和訳を見る
1954年、アメリカの作家シルヴィア・ライトは、聞き間違えた歌詞を表す名前を英語に与えた。彼女は古いスコットランドの物語歌の一節「laid him on the green(彼を草の上に横たえた)」を、「Lady Mondegreen(モンデグリーン夫人)」と聞いていた。歌のどこにも出てこない貴婦人である。2014年に発表された研究で、ドイツのテュービンゲン大学の研究者たちは、ドイツ語を母語とする23人に、61曲の歌の短い一部を聞かせた。ある回では、参加者は別の歌詞を画面で見ながらそれぞれを聞いた。
そのあと文字なしでもう一度聞き、その言葉がどれくらい強く聞こえたかを評価した。ドイツ語の歌が別のドイツ語に聞こえたのは42.6%、英語の歌がドイツ語に聞こえたのは33.5%だった。
研究チームは前者を mondegreen、後者を「soramimi」と呼んだ。外国語の歌を自分の言語の言葉に聞きなすことは、日本でいちばん長い歴史があるからだ。これらの数字は、人が歌の10曲に4曲を聞き間違えるという意味ではない。歌は聞き間違えやすいという理由で選ばれており、画面に出した歌詞が参加者をまちがった言葉へと誘導していた。聞き間違いのバージョンを実験の前から知っていた人は、そう聞こえる可能性がずっと高かった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
前半で mondegreen の由来、後半でテュービンゲン大学の実験を紹介しているので B。
Q2. In the experiment, how often were English songs heard as German words?
English songs were heard as German words 33.5 percent of the time とあるので B。42.6%はドイツ語の歌の数字。
Q3. Why does the writer say the figures do not mean people mishear four in ten songs?
The songs were picked because they were easy to mishear, and the on-screen lyrics pushed listeners toward the wrong words とあるので C。
重要単語
- mondegreenC1名詞聞き間違いで生まれた語句(とくに歌詞の空耳)My little brother still sings that mondegreen instead of the real line.
Lady Mondegreen(モンデグリーン夫人)から。1954年にシルヴィア・ライトが名づけた。 - mishearB2動詞聞き間違えるSorry, I misheard you. Did you say Tuesday or Thursday?
mis-(まちがって)+hear。過去形・過去分詞は misheard(ミスハード)。 - lyricsB1名詞歌詞I know the tune, but I can't remember the lyrics.
歌詞の意味ではふつう複数形。The lyrics are … と複数で受ける。 - balladB2名詞物語歌、バラッドThe old ballad tells the story of a young earl.
昔の出来事を語る歌。現代ではゆっくりしたラブソングの意味でも使う。 - coinC1動詞(新しい語を)作り出すWho coined the word "mondegreen"?
名詞は「硬貨」。coin a word / coin a phrase「新しい言葉を作る」で語源の話によく出る。 - native speakerB1名詞(その言語を)母語とする人All of the listeners were native speakers of German.
a native speaker of English「英語を母語とする人」。native language は「母語」。 - alternativeB2形容詞別の、代わりのThe listeners saw alternative lyrics on a screen while the song played.
名詞で「代わりの手段」の意味も。an alternative to ~「~の代わり」。
公式・一次情報をチェック
- mondegreen(Cambridge Dictionary)dictionary.cambridge.org
- mishear(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- The death of Lady Mondegreen(Harper's Magazine, 1954年11月号・目次ページ)harpers.org
このネタ、誰かに教えたくなった?
歌詞の聞き間違いは英語で mondegreen。古い歌の laid him on the green(彼を草の上に横たえた)を Lady Mondegreen と聞いた作家が1954年に名づけた。いない貴婦人の名が単語に。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「mondegreen」ahdictionary.com
- Dictionary.com(Random House Unabridged Dictionary)「mondegreen」(Origin)dictionary.com
- Percy, T. (ed.) Reliques of Ancient English Poetry, Vol. 2「The Bonny Earl of Murray」(Project Gutenberg)gutenberg.org
- Beck, Kardatzki & Ethofer (2014) Mondegreens and Soramimi as a Method to Induce Misperceptions of Speech Content, PLoS ONE 9(1)doi.org
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「空耳」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
本館
マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究
論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も





