英語の「lose face(メンツを失う)」は中国語の直訳。「brainwash(洗脳)」も同じ

読む前に予想してみよう!
英語の「lose face(面目を失う)」は、中国語の言い方を英語に直訳した表現だ
中国語の「丟臉(ディウリエン)」を直訳したもので、19世紀の終わりごろから英語で使われている。
- 対象
- 英語の辞書・中国語の辞書・19〜20世紀の原文
- 規模
- 1894〜1955年の文献と現代の辞書
- 研究の種類
- 語源調査(文献)
- 確かさ
- ★★★★☆
lose face は中国語「丟臉(顔を失う)」の直訳で19世紀末から英語に。brainwash(洗脳)や paper tiger(張り子の虎)も中国語の直訳。
ひとことで言うと英語の「lose face」は、中国語をそのまま英語にした言葉なんだって!
もくじ
失敗して「メンツがつぶれた」。英語ではこれを lose face(顔を失う) と言います。
日本人には自然な言い方ですが、英語としてはちょっと変だと思いませんか。顔はなくなりません。じつはこれ、中国語の「丟臉(顔を失う)」を、英語に一語ずつ直訳した表現です。19世紀の終わりごろから英語で使われています。
しかも、英語には同じように中国語から“直訳”で入った言葉がほかにもあります。brainwash(洗脳)もその一つです。
01lose face の語源は中国語の「丟臉」
アメリカの『American Heritage Idioms Dictionary』(Dictionary.com 掲載)は、lose face について、この言い方も、もとにある考え方もアジアから来たもので、中国語の tiu lien(丟臉)の翻訳だと説明しています。英語で使われ始めたのは1800年代の終わりごろ。反対の save face(面目を保つ) もあわせて載っています。
日本語の「メンツ」も、じつは中国語です。『日本国語大辞典』によると、「面子(メンツ)」は中国語から入った語で、「体面・面目」の意味の早い例は獅子文六の小説『信子』(1938〜40年)。麻雀で「メンツがそろう」と言うときのメンツも、同じ「面子」です。
中国語の「顔」の考え方は、日本語には「メンツ」という単語ごと、英語には「lose face」という直訳で入ったわけです。
02「洗脳(brainwash)」も中国語の直訳
AHD(『American Heritage Dictionary』)によると、brainwashing は中国語の「洗脳(xǐ nǎo)」の翻訳です。xǐ は「洗う」、nǎo は「脳」。そのまま brain+washing。動詞の brainwash は、brainwashing から後で切り出された形です。
1951年には、ニューヨークでこの言葉を題名にした本『Brain-Washing in Red China(赤い中国の洗脳)』が出ています。著者のエドワード・ハンターは最初の章で、北京郊外の政治教育の学校を出たばかりの学生から話を聞いた場面を書き、中国の人びとが自分たちで「brain-washing(脳を洗う)」「brain-changing(脳を取りかえる)」という言い方を作ったと書いています。Dictionary.com は、英語で brainwashing が最初に記録された時期を1945〜50年としています。
日本語の「洗脳」が記録に出てくるのは、もっと後です。『日本国語大辞典』の最初の例は、火野葦平の『赤い国の旅人』(1955年)。デジタル大辞泉は、日本語の「洗脳」を、中華人民共和国の思想改造を非難した英語の brainwashing に由来するとしています。この説明どおりなら、中国語 → 英語 → 日本語と、漢字の言葉が英語を回って日本に来たことになります。ただし『百科事典マイペディア』は「〈思想改造〉を意味する中国語に由来」とだけ書いていて、英語を通ったかどうかは辞書によって書き方が違います。

03paper tiger・running dog も中国語から
中国語の直訳から生まれた英語は、まだあります。どれも AHD に「Translation of Chinese」と書かれています。
- paper tiger(張り子の虎、見かけだおし):中国語「紙老虎(zhǐ lǎohǔ)」の直訳。毛沢東は1946年8月、アメリカの記者アンナ・ルイーズ・ストロングとの対談で「すべての反動派は張り子の虎だ」「原子爆弾は張り子の虎だ」と語っている(『毛沢東選集』英訳版による)
- running dog(手先、走狗):中国語「走狗(zǒu gǒu)」の直訳。Dictionary.com は、英語での記録を1925〜30年からとし、政治的な意味は中国語 zǒugǒu の翻訳だとしている
日本語の「走狗」も同じ漢字です。『日本国語大辞典』によると、もとは狩りで獲物を追い立てる犬で、そこから「人の手先」をののしる言葉に。中国の古典『戦国策』にも見える古い言葉で、1929年の小林多喜二の小説には「資本家の走狗だ」という例があります。英語で running dog が政治の悪口になったのと同じころ、日本語でも「走狗」が同じ使われ方をしていたのです。
04chopsticks(お箸)は「はやい棒」
毎日使うお箸の英語 chopsticks にも、中国語の“翻訳”がかくれています。
オックスフォードの学習辞典によると、chopstick は17世紀後半の語で、中国沿岸で使われたピジン英語(取引のための混成語)の chop(はやい)+ stick(棒)。中国語の方言の「筷子(kuàizi、すばやいもの)」を訳したものです。
AHD はさらに先まで書いています。中国語ではもともと箸を zhù(箸) と言っていた。ところが zhù は、「止まる」という意味の zhù(住)と同じ音。船乗りたちが「止まる」と同じ音を口にするのを避けて、「快(はやい)」に言いかえた。それが今の中国語の「筷子」だ、というのです。いわゆる忌みことばです。
日本語は今も、昔の字の「箸」を使っています。英語の chopsticks は、言いかえたあとの「はやい」のほうを訳しました。急がせるときの chop-chop(早く早く) も、同じピジン英語の chop です(Dictionary.com)。
05どんでん返し:「long time no see」は中国語から?
「久しぶり!」の Long time no see. も、中国語の「好久不見(長いこと見ない)」の直訳だとよく言われます。『American Heritage Idioms Dictionary』も、中国人と西洋人のやりとりで使われたピジン英語から生まれた、片言の英語をおどけてまねた言い方だとしています。
ところが、1900年に出たアメリカ西部の回想記『Thirty-One Years on the Plains and in the Mountains』には、アメリカ先住民の男性が「Good mornin. Long time no see you」とあいさつする場面があります。中国人とのやりとりとは関係のない場面です。この回想記の中身がどこまで事実かは別にして、1900年に出た本にこの言い方が印刷されていることは確かです。
英語を母語にしない人のことばを“まねた”こうした言い方は、中国語の話し手のほかにも当てはめられていました。long time no see が本当に中国語から来たのかは、はっきりしていないと考えたほうがよさそうです。
もう一つ、言葉が生まれた時代にも注意が必要です。スミスの1894年の本は、中国人を外から決めつける書き方が多い本です。『日本大百科全書』も、「洗脳」は中国外の反対者が非難の意味をこめて呼んだ言葉だと説明しています。直訳の言葉には、それを訳した人の見方もいっしょに入っているのです。
06まとめ
lose face は「丟臉」、brainwash は「洗脳」、paper tiger は「紙老虎」、chopsticks は「快(はやい)」。英語は、中国語の言い回しを一語ずつ英語に置きかえて取り入れてきました。
日本人にとっては、漢字のおかげで中身がすぐ分かる英語です。次に I don't want to lose face. と聞いたら、「あ、メンツの話だ」と、ちょっとうれしくなるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you make a big mistake in front of your classmates, you might "lose face." English took this idiom from…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In English, people say "lose face" when they feel embarrassed in front of others. This phrase comes from Chinese. Chinese speakers put the words "lose" and "face" together, and English speakers copied the phrase word for word. They started doing this in the late 1800s.
The word "brainwash" has a similar story. It comes from two Chinese words, "wash" and "brain." Even the English word "chopsticks" has Chinese roots. It means "quick sticks."
73 words ・ CEFR A2
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英語では、人前で恥をかいたときに「lose face(顔を失う)」と言います。この言い方は中国語から来ています。中国語の話し手は「失う」と「顔」という言葉を組み合わせ、英語の話し手はその言い方を一語ずつまねしました。これは1800年代の終わりごろに始まりました。
「brainwash(洗脳する)」という言葉にも似た話があります。「洗う」と「脳」という2つの中国語から来ているのです。英語の「chopsticks(箸)」でさえ、中国語にルーツがあります。意味は「はやい棒」です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
lose face、brainwash、chopsticks が中国語から来た話なので A。
Q2. When did English speakers start saying "lose face"?
They started doing this in the late 1800s. とあるので B。
Q3. In the passage, what does "embarrassed" mean?
人前で lose face するときの気持ちなので「恥ずかしい」。C。
If you make a big mistake in front of your classmates, you might "lose face." English took this idiom from Chinese in the late 1800s by translating a Chinese phrase word for word. In a book printed in 1894, an American missionary who had spent 22 years in China gave a whole chapter to "face." He explained "lose face" and "give him face" to his readers as Chinese ideas, and he put both in quotation marks.
Other English words were made the same way. "Brainwashing" comes from the Chinese "xi nao," which means "wash brain," and "paper tiger" comes from a Chinese phrase for a tiger made of paper. Even "chopsticks" is a kind of translation. It joins a trade word meaning "quick" with the English word "stick."
128 words ・ CEFR B1
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クラスメートの前で大きなミスをしたら、あなたは「lose face(メンツを失う)」かもしれない。英語は1800年代の終わりごろ、中国語の言い回しを一語ずつ訳して、この慣用句を取り入れた。1894年に印刷された本で、中国で22年過ごしたアメリカの宣教師は「face(顔)」に1章をまるごと使った。彼は「lose face」や「give him face」を中国の考え方として読者に説明し、どちらも引用符でくくっていた。
ほかの英語の言葉も同じやり方で作られた。「brainwashing(洗脳)」は「脳を洗う」という意味の中国語「xi nao」から、「paper tiger(張り子の虎)」は紙でできた虎を表す中国語の言い回しから来ている。「chopsticks(箸)」でさえ一種の翻訳だ。「速い」という意味の取引用の言葉と、英語の「stick(棒)」を組み合わせている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
lose face、brainwashing、paper tiger、chopsticks が中国語の直訳だという話なので B。
Q2. What did the missionary do in his 1894 book?
gave a whole chapter to "face" と he put both in quotation marks とあるので D。
Q3. Why does the writer mention the missionary's 1894 book?
He explained "lose face" and "give him face" to his readers as Chinese ideas とあるので、1890年代の英語の読者には中国の考え方として紹介されていたことを示すため。B。
When English speakers worry about losing face, they are borrowing a Chinese way of thinking along with a Chinese phrase. The idiom is a word-for-word translation of "tiu lien," and it has been used in English since the late 1800s. "Brainwashing" followed in the middle of the twentieth century. A 1951 book called Brain-Washing in Red China claimed that ordinary Chinese people had invented the term themselves.
"Paper tiger" and "running dog," two insults from the world of politics, are also direct translations. The story behind "chopsticks" goes further back. The older Chinese word for the utensil sounded the same as a word meaning "stop," so boatmen avoided it and used a word meaning "quick" instead. English speakers translated that replacement with the pidgin word "chop," meaning quick.
Not every claim of Chinese origin holds up, though. "Long time no see" is often called a copy of Chinese, but a memoir of the American West published in 1900 puts the phrase in the mouth of a Native American man. It may simply be one of several phrases that imitated the English of people who were still learning the language.
189 words ・ CEFR B2
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英語の話し手がメンツを失うことを気にするとき、彼らは中国語の言い回しといっしょに、中国の考え方も借りている。この慣用句は「tiu lien(丟臉)」の逐語訳で、1800年代の終わりごろから英語で使われている。「brainwashing(洗脳)」は20世紀半ばにそれに続いた。1951年の『赤い中国の洗脳』という本は、ふつうの中国の人びとがこの言葉を自分たちで作ったと主張した。
政治の世界の悪口である「paper tiger(張り子の虎)」と「running dog(走狗)」も直訳だ。「chopsticks(箸)」の話はさらにさかのぼる。この食器を表す古い中国語は「止まる」という意味の語と同じ音だったので、船乗りたちはそれを避けて、代わりに「速い」という意味の語を使った。英語の話し手は、その言いかえの語を「速い」を意味するピジン英語の「chop」で訳した。
ただし、中国語起源とされるものがすべて正しいわけではない。「Long time no see」はよく中国語のまねだと言われるが、1900年に出版されたアメリカ西部の回想記では、この言い回しを先住民の男性が口にしている。英語を学んでいる途中の人たちの英語をまねた、いくつかある言い回しの一つにすぎないのかもしれない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
中国語から来た英語の表現と、中国語起源が疑わしい long time no see の話なので C。
Q2. Why did boatmen avoid the older Chinese word for chopsticks?
sounded the same as a word meaning "stop," so boatmen avoided it とあるので A。
Q3. What does the writer suggest about "long time no see"?
Not every claim of Chinese origin holds up の後で、1900年のアメリカ西部の用例を挙げているので、中国語起源は確かではない、という主張。B。
重要単語
- lose faceB2動詞句面目を失う、メンツがつぶれるHe didn't want to lose face in front of his team.
中国語「丟臉」の直訳。反対は save face(面目を保つ)。 - save faceB2動詞句面目を保つShe made a joke to save face after her mistake.
face-saving(面目を保つための)という形容詞でも使う。 - brainwashC1動詞洗脳するSome ads try to brainwash us into buying things we don't need.
名詞 brainwashing(洗脳)から後で作られた動詞。be brainwashed「洗脳される」。 - idiomB2名詞慣用句、熟語"Lose face" is an idiom that came from Chinese.
語の意味を足しても全体の意味にならない表現。idiomatic(慣用的な、自然な)。 - translateB1動詞翻訳する、訳すEnglish speakers translated the Chinese phrase word for word.
word for word は「一語ずつ、直訳で」。名詞は translation。 - embarrassedB1形容詞恥ずかしい、きまりが悪いI felt embarrassed when I called my teacher "Mom."
r と s が2つずつ。embarrassing は「(物事が)恥ずかしい思いをさせる」。 - paper tigerC1名詞張り子の虎、見かけだおしThe rival team turned out to be a paper tiger.
中国語「紙老虎」の直訳。強そうに見えて実は弱いもの。
公式・一次情報をチェック
- lose face(Dictionary.com・The American Heritage Idioms Dictionary)dictionary.com
- Mao Zedong (1946) Talk with the American Correspondent Anna Louise Strong(Selected Works Vol. IV, Marxists Internet Archive)marxists.org
- Drannan (1900) Thirty-One Years on the Plains and in the Mountains(Project Gutenberg・原文全文)gutenberg.org
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英語の lose face(メンツを失う)は中国語「丟臉」の直訳。brainwash(洗脳)、paper tiger(張り子の虎)も中国語の直訳。お箸の chopsticks は「はやい棒」。中国の船乗りが「止まる」と同じ音の「箸(zhù)」を避けて「はやい」と言いかえた、その言いかえを訳したものだという。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「brainwashing」「paper tiger」「running dog」「chopstick」ahdictionary.com
- The American Heritage Idioms Dictionary「lose face」「long time no see」(Dictionary.com 掲載)dictionary.com
- Smith (1894) Chinese Characteristics, Fleming H. Revell(第1章 Face。Internet Archive 収録)archive.org
- Hunter (1951) Brain-Washing in Red China, Vanguard Press(Internet Archive 収録)archive.org
- 精選版 日本国語大辞典「面子」「洗脳」「走狗」・デジタル大辞泉「洗脳」・日本大百科全書「洗脳」(コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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