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英語のマジか!?ホント

オックスフォード英語辞典に何万もの例文を送った人は、精神科病院に入院中の元軍医

オックスフォード英語辞典に何万もの例文を送った人は、精神科病院に入院中の元軍医

読む前に予想してみよう!

オックスフォード英語辞典の編集長マレーは、マイナー博士を訪ねて初めて、彼が病院の患者だと知った

研究カード(どんな研究?)
対象
OED の記録・出版社の資料・辞書史の研究
規模
1861〜1920年の記録
研究の種類
歴史研究(文献・アーカイブ)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

オックスフォード英語辞典(OED)に、本から書き写した例文を何万も送ったマイナー博士は、病院に入院中の元米軍医。編集長が訪ねて初めて正体を知った、という有名な話は、のちに広まった作り話とされる。

ひとことで言うと有名な英語の辞書を手伝った人は、病院に入院しながら何万も例文を送ったんだって!

もくじ
  1. オックスフォード英語辞典は「みんなで読んで作った」
  2. マイナー博士はどんな人だったか
  3. 病室から届いた「1冊ごとの単語索引」
  4. 「頼まれたら届く」協力者として
  5. どんでん返し:「訪ねて初めて知った」は作り話
  6. まとめ

英語の単語の歴史を調べるとき、世界中の研究者が頼るのが『オックスフォード英語辞典』(OED)です。この辞書は、単語の意味ごとに、実際の本でその単語が使われた文を書き写して古い順に並べます。この例文を用例と呼びます。

その用例の多くは、一般のボランティアが本を読み、手書きのカードに書き写して送ったものでした。中でも編集部がとくに頼りにした一人が、アメリカ人のW・C・マイナー博士です。

博士の手紙の住所は「Broadmoor, Crowthorne, Berkshire」。ブロードムーアは、罪を犯した精神障害のある人を収容する病院でした。博士は殺人事件のあと、ここに入院していた元軍医だったのです。

01オックスフォード英語辞典は「みんなで読んで作った」

OED の第1版は、ジェイムズ・マレーを編集長として、1884年から分冊で出版が始まりました。オックスフォード大学ハートフォード・カレッジの研究サイト「Examining the OED」によると、マレーは1879〜80年に、英語を話し、英語を読むすべての人に向けて「本を読んで用例を送ってほしい」と呼びかけています。

辞書の後ろには、家族ぐるみの作業と、何百人ものボランティアがいたわけです。

02マイナー博士はどんな人だったか

オックスフォード大学出版局(OUP)のアーカイブ、辞書史の研究サイト、書評誌の記事によると、マイナー博士は1834年、セイロン(いまのスリランカ)で、アメリカ人の宣教師の家に生まれました。アメリカのイェール大学で医学を学び、南北戦争では陸軍の軍医を務めています。

OUP の記事は、戦場での経験から、博士が強い妄想に苦しむようになったと書いています。療養のためにロンドンに来ていた1872年2月17日、「誰かが部屋に入ろうとしている」と思いこんだ博士は、通りを歩いていた男性を撃ち、命を奪いました。男性は近くのビール工場に出勤する途中でした。博士は精神の病のため無罪とされ、ブロードムーアの病院に送られます。

じつは博士は、OED の前にも辞書に関わっていました。OUP のブログで、辞書好きで知られる作家アモン・シーが書いたところによると、1861〜64年、博士はアメリカのウェブスター辞典(メリアム社)の自然科学の項目を手伝い、1864年版の辞書には名前も載ったそうです。アメリカとイギリスを代表する辞書の両方に関わっていたことになります。

03病室から届いた「1冊ごとの単語索引」

ブロードムーアでは、博士が古い珍しい本を2つ目の部屋に置くことが許されていました。博士の仕事のやり方は、ほかのボランティアと違っていました。

  • 本を1冊読むごとに、小さな冊子をつくる
  • その中に、気になる単語や使い方をアルファベット順に並べ、ページ番号を書きこむ
  • 編集部から「この単語の用例がほしい」と頼まれたら、索引から探してすぐに送る

OUP のアーカイブには、博士の単語索引が42冊残っています。そのほぼ半分は、旅行や外国についての本でした。ジョン・フライヤーが1672〜81年の旅を記したインド・ペルシャ旅行記は、OED の1,000近い項目の用例に使われています。インドの長さの単位 guz(ガズ)を書き写した博士のカードも残っています。

書評家ジョン・グロスが1998年に書いた記事によると、編集部が試しに art(芸術)という単語の用例を頼んだとき、ほかの協力者が1〜2件だったのに対し、博士は27件を送り返しました。

マイナー博士は本を1冊読むごとに単語の索引をつくり、頼まれた用例をすぐ送れるようにしていた(OUP アーカイブには42冊が残る)
マイナー博士は本を1冊読むごとに単語の索引をつくり、頼まれた用例をすぐ送れるようにしていた(OUP アーカイブには42冊が残る)

04「頼まれたら届く」協力者として

ハートフォード・カレッジのサイトによると、1888年の第1巻の序文では、博士の送った用例は「5,000〜8,000件」。その後も1902年に体調をくずすまで送り続けました。1899年には、その年だけで1万2,000件にのぼり、マレーは「この種の語なら、博士の用例だけで過去400年をたどれる」と話したといいます。

マレーは辞書の第5巻の序文で、博士の貢献を「フィッツエドワード・ホールに次ぐもの」と書きました(OUP アーカイブ)。ホールもまた、マレーと一度も会わないまま、1日4時間の校正と用例集めを続けたアメリカ生まれの学者です。

マレーは編集仲間クレイギーへの手紙の中で、「孤独で悲しい立場」にいる博士を励まし、ときどき病院へ会いに行くのも自分の仕事のうちだった、と書き残しています。

グロスの書評によると、1910年4月、70代半ばになった博士はアメリカへ帰りました。家族が帰国を働きかけ、当時イギリスの内務大臣だったウィンストン・チャーチルも賛成したのです。出発の直前、マレーは最後の面会に訪れています。博士は1920年に亡くなりました。

05どんでん返し:「訪ねて初めて知った」は作り話

マイナー博士の話には、よく語られる名場面があります。編集長マレーが博士に会おうとクロウソーン駅に降り、馬車で立派な建物に案内され、書斎に通されて初めて、ここが病院で、博士は殺人の罪で入院している患者だと知らされる――という話です。

ところが、グロスによると、これは1915年に、ロンドンにいたアメリカ人記者が書いた2本の記事から広まった作り話です。マレーはしばらくのあいだ博士を病院の医師だと思いこんでいましたが、実際には初めて会う数年前に事情の説明を受けていた。初めての訪問は1891年でした。ベストセラーになったサイモン・ウィンチェスターの本(1998年)もこの話をくわしく否定しています。ただグロスは、その本が冒頭ではこの場面を本当のことのように語っている、と注文をつけています。

もう1つ、「最大の協力者」という言い方にも注意が必要です。1888年の記録で比べると、博士の5,000〜8,000件に対し、トマス・オースティンは16万5,000件。OUP は博士の合計を「何万件」としています。一方で、K・M・E・マレーが1977年に書いた編集長マレーの伝記には「博士の合計を超えたのはファーニヴァルだけ」とあり、数え方や時期で順位は変わります。確かなのは、何万もの用例と、頼まれたらすぐ届く仕組みで、博士が辞書づくりを支えたことです。

06まとめ

オックスフォード英語辞典は、何百人ものボランティアが本を読んで書き写したカードから生まれました。その中でも、病院の一室で本を1冊ずつ索引にし、頼まれた用例をすぐ送り返したのがマイナー博士です。

辞書に並ぶ用例の1行1行の裏には、それを読んで書き写した誰かがいる。英語の辞書で古い用例を見かけたら、その向こうにいた読み手のことを思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1879, James Murray, the editor of the Oxford English Dictionary, asked the public to read books and send… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1879, James Murray, the editor of the Oxford English Dictionary, asked the public to read books and send in quotations that showed how words were used. One of the people who answered was Dr. William Chester Minor, a former US Army surgeon. His address was Broadmoor, a hospital in Berkshire for people who had committed crimes while mentally ill.

Minor had been sent there in 1872 after he shot a man in London. He was allowed to keep his rare books in a second room, and he made a small word list for every book he read. Because of these lists, he could send quotations quickly whenever the editors asked. The OUP archives still hold 42 of his lists.

120 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1879年、オックスフォード英語辞典の編集長ジェイムズ・マレーは、人々に本を読んで、単語がどう使われているかを示す用例を送ってほしいと呼びかけた。それに応えた一人が、元アメリカ陸軍の軍医ウィリアム・チェスター・マイナー博士だった。博士の住所はブロードムーア、精神の病を抱えて罪を犯した人のためのバークシャーの病院だった。

マイナーは、ロンドンで男性を撃ったあと、1872年にそこへ送られていた。彼は珍しい本を2つ目の部屋に置くことを許され、読んだ本ごとに小さな単語リストを作った。このリストのおかげで、編集者に頼まれるといつでもすぐに用例を送ることができた。OUP のアーカイブには、今も彼のリストが42冊残っている。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. What did Minor make for every book he read?

Q3. Why could Minor answer the editors' requests so quickly?

重要単語

  • quotationB1
    名詞引用、(辞書の)用例Each quotation shows how the word was used in a real book. quote(引用する)の名詞形。辞書学では citation とも言う。会話では quote を名詞に使うことも多い。
  • volunteerB1
    名詞・動詞ボランティア;自分から進んで申し出るHundreds of volunteers read books for the dictionary. アクセントは最後の -teer。volunteer to do「進んで〜すると申し出る」。
  • editorB1
    名詞編集者、編集長The editor wrote a letter to thank him. edit(編集する)+-or(人)。chief editor / editor in chief で「編集長」。
  • indexB2
    名詞索引He made an index of interesting words for every book. 複数形は indexes(数学などでは indices)。index finger は「人さし指」。
  • asylumC1
    名詞(亡命者の)保護;保護施設The country gave him political asylum. もとはギリシャ語の「侵されない場所」。いまは political asylum(政治亡命者の保護)の意味でよく使う。マイナー博士のいた病院は Broadmoor Asylum と呼ばれた。
  • contributeB2
    動詞貢献する、(原稿などを)寄せるHe contributed thousands of quotations. 名詞は contribution。contribute to 〜「〜に貢献する」。アクセントは -tri- の位置。
  • surgeonB2
    名詞外科医;軍医He worked as an army surgeon during the war. army surgeon で「軍医」。内科医は physician。
オックスフォード英語辞典の大事な協力者マイナー博士の住所は「ブロードムーア」。罪を犯した精神障害のある人のための病院だった。読んだ本ごとに単語の索引を作り、病室から何万もの例文を送った元米軍医。その前はウェブスター辞書の仕事もしていた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Brewer, Examining the OED「Individual readers」(オックスフォード大学ハートフォード・カレッジ)oed.hertford.ox.ac.uk
  2. OUP Archives「#EYACrime」(オックスフォード大学出版局アーカイブ)archives.oup.com
  3. Shea (2008) The Merriams and the Madman, OUPblog(オックスフォード大学出版局)blog.oup.com
  4. Gross (1998) The Case of the Loony Lexicographer, The New York Review of Booksnybooks.com

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