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英語のマジか!?ホント

1755年の英語辞書:オート麦は「イングランドでは馬が、スコットランドでは人が食べる」

1755年の英語辞書:オート麦は「イングランドでは馬が、スコットランドでは人が食べる」

読む前に予想してみよう!

1755年のジョンソンの辞書を作った6人の助手は、全員イングランド人だった

研究カード(どんな研究?)
対象
1755年のジョンソンの英語辞典と同時代の記録
規模
辞典の見出し語十数語、ボズウェルの伝記、1872年の学術誌への短い投稿
研究の種類
歴史言語学(辞書・文献調査)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

1755年のジョンソンの英語辞典は、oats を「イングランドでは馬に、スコットランドでは人に食べさせる穀物」と定義。年金は「国を裏切った雇われ者への給料」と書き、7年後に自分が年金をもらった。

ひとことで言うと昔の有名な英語の辞書には、作った人の悪口や冗談が書いてあった!

もくじ
  1. サミュエル・ジョンソンの「意地悪な定義」
  2. 辞書づくりの仲間は、ほとんどスコットランド人
  3. 「年金=裏切り者への給料」、そして7年後
  4. 難しすぎる定義、まちがった定義、自分への悪口
  5. どんでん返し:「馬のえさ」はジョンソンの発明ではなかった?
  6. まとめ

朝ごはんのオートミール。オート麦(oats)は、いまや健康食の代表です。

ところが1755年、イギリスで出た有名な英語辞典は、oats をこう定義しました。

「イングランドではふつう馬に与えられるが、スコットランドでは人々を養っている穀物」

つまり、「イングランドでは馬のえさ、スコットランドでは人の食べ物」。辞書の定義で、隣の国をからかっていたのです。

01サミュエル・ジョンソンの「意地悪な定義」

この辞書は、文学者サミュエル・ジョンソン(Samuel Johnson)がつくった『英語辞典(A Dictionary of the English Language)』。セントラルフロリダ大学が公開している電子版で、今でも1755年の本文を読めます。

oats の項目には、続けて植物学者の説明が引かれています。「穂は花びらのない花がまばらにつく。粒は食べられる。その粉からはまずまずのパンができる」。最後の一言は、ちょっとほめているようにも読めます。

ジョンソンの伝記を書いたボズウェル(James Boswell)は、こうした「私情の入った定義」として、oats のほかに次の語を挙げています。

  • pension(年金):「見返りなしに誰かに与えられる手当。イングランドでは、ふつう、国に雇われた者が国を裏切ったことに払う給料のことと理解されている」
  • excise(物品税):「品物にかけられる憎むべき税。ふつうの裁判官ではなく、税を受け取る側に雇われたろくでなしが判定する」
  • Whig(ホイッグ党):意味の1番目は「乳清(ホエー)」。政党の意味は2番目で、「ある派閥の名前」としか書いていない

ボズウェルは「これらは十分には弁護できない。気まぐれと、ふざけ心のせいにするしかない」と書いています。

02辞書づくりの仲間は、ほとんどスコットランド人

「スコットランドでは人の食べ物」と書いたジョンソン。ところが、その辞書を一緒につくった人たちの顔ぶれは意外なものでした。

ボズウェルによると、ジョンソンは作業のために6人の助手をやといました。そのうち5人がスコットランド人です。ボズウェルはわざわざ「スコットランドの人々は、このことを覚えておいてほしい」と書き添えています。

ボズウェル自身もスコットランドの出身でした。1763年、ロンドンの本屋で初めてジョンソンに会ったとき、ボズウェルは「たしかにスコットランドから来ました(come from)。でも、それはどうしようもないことで」と言いました。するとジョンソンは、come from を「スコットランドから抜け出してくる」の意味にとって、こう返したそうです。

「それは、あなたの国の大勢の人が、どうしようもなくやっていることですな」

1763年、ボズウェルが初めてジョンソンに会った日。「スコットランドから来た」という一言を、ジョンソンは冗談で切り返した(ボズウェル『ジョンソン伝』)
1763年、ボズウェルが初めてジョンソンに会った日。「スコットランドから来た」という一言を、ジョンソンは冗談で切り返した(ボズウェル『ジョンソン伝』)

03「年金=裏切り者への給料」、そして7年後

辞書で pension(年金)を「国を裏切った雇われ者への給料」とまで書いたジョンソン。ところが1762年、国王ジョージ3世から年300ポンドの年金を与えられることになります。

ボズウェルによると、ジョンソンは画家レノルズ(Joshua Reynolds)を訪ね、「自分の辞書であんな定義をしたのに、受け取っていいものか」と相談しました。レノルズは「文学の功績へのほうびなのだから問題ない。辞書の定義はあなたには当てはまらない」と答え、ジョンソンは年金を受け取りました。

のちに年金のことで世間がうるさいと言われると、ジョンソンは笑ってこう言ったそうです。「年金がこの倍なら、みんなも倍さわいでくれるだろうに」。

patron(後援者、パトロン) の定義もきびしいものでした。「支える人、守る人。たいていは、横柄な態度で援助し、お世辞で報われる、ろくでなし」。辞書の出版直前の1755年2月、ジョンソンは、辞書づくりを助けてくれなかったチェスターフィールド伯爵に手紙を書き(手紙には「一度の援助もなく」とあります)、「パトロンとは、おぼれかけている人を平気で眺め、岸にたどり着いたところで手助けを押しつける人のことではありませんか」と皮肉っています。

04難しすぎる定義、まちがった定義、自分への悪口

毒のある定義だけではありません。今から見ると首をかしげる定義もあります。

  • network(ネットワーク、網):「等しい間隔で網目状または交差状になっており、交差点の間にすき間があるもの」。原文は reticulated(網状の)、decussated(交差した)、interstices(すき間)と難しい語だらけ。ボズウェルは「それ自体はとても分かりやすい物を分かりにくくしている」と、からかい半分によく引用された定義だと書いています
  • cough(せき):「何か鋭い漿液(しょうえき。体の中の水っぽい液)にくすぐられて起こる肺のけいれん」
  • lunch(ランチ):「片手でつかめるくらいの量の食べ物」
  • pastern(馬の足の、ひづめのすぐ上の部分):「馬のひざ」と書いてしまった。ある女性に理由を聞かれ、ジョンソンは言い訳をせず「無知です、奥さま。まったくの無知です」と答えた(ボズウェル)
  • windward(風上へ) と leeward(風下へ):正反対の言葉なのに、どちらも「Towards the wind(風の方へ)」。ボズウェルも「定義がまったく同じ」と認めています

自分の仕事への悪口も書いています。

  • lexicographer(辞書編集者):「辞書を書く人。無害な、こつこつ働くだけの人。言葉の起源をたどり、意味をこまごまと書く」
  • Grub-street(グラブ・ストリート):「ロンドンの通りの名前。小さな歴史書や辞書や、その場かぎりの詩を書く人がたくさん住んでいた。そこから、つまらない作品をこう呼ぶ」
  • dull(退屈な):用例は「辞書をつくるのは退屈な仕事だ」

ボズウェルによると、ジョンソンはもう一つ、自分の私情が入りすぎた例を後で打ち明けています。renegado(裏切り者)の項目に「ときに、ゴワー(という貴族の名前)とも言う」と書き足した。でも、それは印刷屋が気をきかせて消してくれたのだそうです。

05どんでん返し:「馬のえさ」はジョンソンの発明ではなかった?

oats の名定義は、ジョンソンひとりのひらめきだったのでしょうか。

1872年、ケンブリッジの英語学者スキート(Walter W. Skeat)が、研究者や愛好家が質問や発見を投稿する雑誌『Notes and Queries』に短い記事を書きました。ジョンソンは、ロバート・バートンの『憂鬱の解剖(The Anatomy of Melancholy)』(1621年初版)を「起きるつもりの時間より2時間も早く、自分をベッドから引っぱり出した唯一の本」と言ったと伝えられる。その本に、oats の定義とよく似た一節がある、というのです。

実際に『憂鬱の解剖』(17世紀の版にもとづく電子テキスト)を読むと、こう書かれています。

  • 『スコットランド史』を書いたジョン・メイジャーは、オート麦のパンは体によいと強く主張した
  • パリにいたとき、「お前の国の人はオート麦のような粗末な穀物を食べている」と恥のように言われた
  • それでもメイジャーは、スコットランド、ウェールズ、そしてイングランドの3分の1でも、たいていそのパンを食べていたと正直に認めた
  • 一方で、ある医学者は古代の医者ガレノスを引いて、オート麦を「馬の食べ物で、人より荷物を運ぶ動物にふさわしい」と呼んでいる

「オート麦は馬のもの」「スコットランド人はそれを食べている」という見方は、ジョンソンより100年以上前の本にもう出ていたわけです。しかも同じ一節には、メイジャーの言い分として、イングランドでも3分の1の地域ではオート麦のパンを食べていたとあります。ジョンソンの定義は、まったく新しい思いつきというより、昔から本に書かれていた見方とよく似ていたのです。

ただし、ジョンソンが本当にバートンのこの一節を下敷きにしたのかどうかは、スキートも「よく似ている」と言うだけで、証拠は示していません。

06まとめ

1755年のジョンソンの英語辞典は、oats を「イングランドでは馬のえさ、スコットランドでは人の食べ物」と書き、年金を「裏切り者への給料」と書きました。そして7年後には本人が年金を受け取り、辞書づくりの仲間はほとんどスコットランド人でした。

辞書は、作った人の顔が見える本でもあります。次にオートミールを食べるときは、270年前の辞書のひと言を思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerSamuel Johnson's dictionary came out in 1755, and it still makes people laugh. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Samuel Johnson's dictionary came out in 1755, and it still makes people laugh. His entry for "oats" says the grain is given to horses in England but feeds the people in Scotland. He wrote that in England, a pension usually meant pay for betraying your country.

Then, in 1762, the king offered Johnson a pension of 300 pounds a year. Before saying yes, he asked his friend, the painter Joshua Reynolds, whether he could accept it after writing that definition.

Reynolds told him it was a reward for his writing, so the definition did not apply to him. Johnson took the money. Some of his definitions were simply wrong. He called the pastern the "knee" of a horse. When a lady asked him why, he answered, "Ignorance, madam, pure ignorance."

130 words ・ CEFR B1

和訳を見る

サミュエル・ジョンソンの辞書は1755年に出版され、今でも人々を笑わせている。「oats」の項目には、この穀物はイングランドでは馬に与えられるが、スコットランドでは人々を養っている、とある。彼は、イングランドでは年金とはふつう国を裏切ったことへの報酬のことだ、と書いた。

ところが1762年、国王がジョンソンに年300ポンドの年金を申し出た。受ける前に、彼は友人の画家ジョシュア・レノルズに、あんな定義を書いたあとで受け取ってもよいものかとたずねた。レノルズは、それは彼の文筆へのほうびなのだから、その定義は彼には当てはまらないと答えた。

ジョンソンはそのお金を受け取った。彼の定義の中には、単純にまちがっているものもあった。彼は pastern(馬の足のひづめのすぐ上の部分)を馬の「ひざ」と書いた。ある女性になぜかとたずねられると、彼は「無知です、奥さま。まったくの無知です」と答えた。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. How much was the pension the king offered Johnson?

Q3. Why did Johnson ask Reynolds for advice?

重要単語

  • oatsB1
    名詞オート麦I eat oats with milk for breakfast. ふつう複数形で使う。粉にしたものや、それを煮たかゆは oatmeal。
  • definitionB1
    名詞定義、(辞書の)語義Look up the definition of the word in a dictionary. define(定義する)の名詞形。by definition「定義上、当然」。
  • pensionB1
    名詞年金My grandfather lives on his pension. live on a pension「年金で暮らす」。日本語の「ペンション(宿)」とは意味がずれるので注意。
  • patronC1
    名詞後援者、パトロン;ひいき客The king was a patron of many artists. a patron of the arts「芸術の後援者」。patronize は「後援する」のほか「見下した態度をとる」の意味も。
  • harmlessB2
    形容詞無害なThe snake looks scary, but it's harmless. harm(害)+-less(〜のない)。反対語は harmful。
  • prejudiceB2
    名詞偏見We should not judge people by prejudice. pre-(前もって)+judge(判断する)。ボズウェルもジョンソンの定義を prejudices と呼んだ。
  • assistantA2
    名詞助手The writer hired six assistants. assist(手伝う)+-ant(人)。ALT(外国語指導助手)の A も assistant。
  • ignoranceB2
    名詞無知、知らないことHis mistake came from ignorance, not from bad intentions. 形容詞は ignorant。ignore(無視する)とは意味が違うので注意。
1755年のジョンソンの英語辞典、oats(オート麦)の定義は「イングランドでは馬のえさ、スコットランドでは人の食べ物」。pension(年金)は「国を裏切った雇われ者への給料」。その7年後、本人が国王から年300ポンドの年金をもらった。助手6人のうち5人はスコットランド人。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Johnson, S. (1755) A Dictionary of the English Language「oats」ほか(Johnson's Dictionary Online, セントラルフロリダ大学)johnsonsdictionaryonline.com
  2. Johnson, S. (1755) A Dictionary of the English Language「network」(Johnson's Dictionary Online, セントラルフロリダ大学)johnsonsdictionaryonline.com
  3. Boswell, J. (1791) The Life of Samuel Johnson(G. B. Hill 編の全文版 第1巻、Oxford: Clarendon Press, 1887。Project Gutenberg 電子テキスト #8918。C. G. Osgood 編の抄録版 1917, #1564 でも同じ箇所を確認)gutenberg.org
  4. Skeat, W. W. (1872) Dr. Johnson's definition of "Oats.", Notes and Queries s4-X(251)doi.org
  5. Burton, R. The Anatomy of Melancholy(初版1621年。引用は Part I, Sec. 2, Mem. 2, Subs. 1。19世紀の現代つづり版を1638年版で校訂した Project Gutenberg 電子テキスト #10800)gutenberg.org

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