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英語のマジか!?ホント

英語で卵を頼んだら「フランス語は話せません」。500年前、「卵」の英単語は地方でちがった

英語で卵を頼んだら「フランス語は話せません」。500年前、「卵」の英単語は地方でちがった

読む前に予想してみよう!

15世紀のイギリスでは、「卵」をどの地方でも egg と言っていた

研究カード(どんな研究?)
対象
キャクストン『Eneydos』序文(1490年)と英語史の研究
規模
原典1点+学術論文・伝記・辞書
研究の種類
文献調査
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

1490年、印刷業者キャクストンが本の序文に書いた話。ケントとみられる岬で商人が「eggys」と頼むと「フランス語は話せない」と言われ、「eyren」と言い直したら通じた。その後、残ったのは eggs のほうだった。

ひとことで言うと昔のイギリスでは、同じ「卵」が地方によってちがう言葉で、通じなかったんだって!

もくじ
  1. 1490年の本の序文に書かれた「卵が通じない」話
  2. egg の語源は北欧の言葉。eyren は南の昔ながらの形
  3. 事件の現場はケントの岬? 商人は北部の人?
  4. キャクストンの悩み:「英語は月のように変わる」
  5. おまけ:負けた ey は、思わぬ所に生きていた
  6. どんでん返し:有名な話だけど、分かっていないことも多い
  7. まとめ

立ち寄った家で「卵をください」と頼んだら、おかみさんに「フランス語は話せません」と言われた。

舞台はイギリス。頼んだのはイギリス人の商人で、話したのはもちろん英語です。それでも「卵」が通じませんでした。

これは、イングランドで初めて印刷所を開いたウィリアム・キャクストンが、1490年に出した本の序文に「自分の時代に起きたこと」として書いた話です。同じ英語でも、地方がちがうと「卵」という単語さえ別の言葉だったのです。この話には、いま私たちが使う egg の語源も関わっています。

011490年の本の序文に書かれた「卵が通じない」話

本の名前は『Eneydos(エネイドス)』。古代ローマの詩人ウェルギリウスの物語のフランス語版を、キャクストンが英語に訳して印刷したものです。本の最後の奥付には、英語に訳し終えた日として1490年6月22日と書かれています。

おかみさんにとって eggys は、聞いたこともない外国語に聞こえたのです。キャクストンは話の最後に、こう嘆いています。

「Loo, what sholde a man in thyse dayes now wryte, egges or eyren(さて、いまどきの人間は egges と eyren のどちらを書けばいいのだろう)」

02egg の語源は北欧の言葉。eyren は南の昔ながらの形

なぜ、こんなことが起きたのでしょう。

中世の言語と地名を研究するアンドリュー・ブリーズ(スペイン・ナバラ大学)は、地名研究の学術誌『Nomina』(2000年)の論文で、これまでの研究をこうまとめています。

  • egg は、古ノルド語(北欧の言葉)から入った北部の形。それがロンドンの人たちにも広まりつつあった。キャクストン自身も使っている
  • 一方、古い英語から続く ey が、南部ではふつうの形だった。おかみさんが知っていたのは、こちらだけ

eyren は、この ey の複数形です。最後の -en は、いまの英語にも oxen(雄牛たち)、children(子どもたち)、brethren(同じ信仰の兄弟たち) に残っている、複数をあらわす語尾と同じ形です(Dictionary.com の「-en」の項)。

お隣のドイツ語では、今も卵は Ei(アイ)、複数形は Eier(アイアー) です(ドイツの辞書 Duden)。eyren とよく似ていますね。英語でも、複数の卵をいまごろ eyren と言っていたかもしれません。

結局、残ったのは北から来た eggs でした。Dictionary.com の語源欄も、egg は古ノルド語から来て、中英語の ey に取って代わった、と説明しています。

船は風がやんで岬で足止めされ、商人たちは上陸して食べ物を探した(キャクストン『Eneydos』序文より)
船は風がやんで岬で足止めされ、商人たちは上陸して食べ物を探した(キャクストン『Eneydos』序文より)

03事件の現場はケントの岬? 商人は北部の人?

ブリーズの論文の本題は、この話の場所さがしです。

キャクストンの原文は、地名も小文字で書くので、forlond が「岬」というふつうの言葉なのか、地名なのか分かりにくい。それまでは、ケントかエセックスの海岸のどこか、と考えられていました。ブリーズは、テムズ川からゼーラントへ向かう船の道すじや、昔の地名の記録をもとに、ケント州の北東の端にある岬ノース・フォアランドだろうと考えました。当時そのあたりはサネット島と呼ばれ、本土とは海で隔てられた本当の島でした。おかみさんの言葉はケントの、それも島の方言だったはずだ、というわけです。

商人のほうはどうでしょう。別の研究者は、シェフィールドという名前から、彼は北部の出身で北部の方言を話したのでは、と考えています。おかみさんがフランス語だと思ったことも、それと合います。

ちなみに、書いたキャクストン自身もケントの生まれでした。伝記作家のゴードン・ダフ(1905年)によると、キャクストンは最初に印刷した本の序文で、自分はケントのウィールド地方で生まれて英語を覚えた、そこではイングランドのどこにも負けないくらいなまりの強い英語が話されている、と書いています。しかもキャクストンは若いころ、ロンドンの有力な織物商のもとで修業し、織物商の組合に入った人でした。卵で困った商人と、同じ商売の出身です。

04キャクストンの悩み:「英語は月のように変わる」

じつはこの卵の話は、キャクストンの愚痴の一部です。同じ序文で、彼はこんなことを書いています。

  • ある紳士たちからは「あなたの訳は言葉が難しすぎて、ふつうの人には分からない。昔ながらのやさしい言葉を使ってほしい」と責められた
  • そこで古い本を読んでみたら、英語が粗っぽすぎて自分でもよく読めなかった
  • ウェストミンスターの修道院長に古い英語の文書を見せられたが、「英語というより dutche(オランダ語やドイツ語)に近い」ほどで、今の英語に直せなかった
  • 「私たちイギリス人は、満ち欠けして決して落ち着かない月の支配のもとに生まれている」。英語は、自分が生まれたころからもずいぶん変わったし、州ごとにもちがう
  • 一方で、学者たちは「いちばん凝った言葉で書いてくれ」と言う。「やさしすぎる言葉と凝りすぎた言葉のあいだで、私は途方にくれている」

結局キャクストンは、「やさしすぎず、凝りすぎず、分かってもらえる言葉」で訳すことにした、と書いています。全国の人に同じ本を売る印刷業者は、どの英語で書くかを決めなければならない最初の人たちでした。卵の話は、その苦労を一言で伝える例だったのです。

05おまけ:負けた ey は、思わぬ所に生きていた

負けた ey は、完全に消えたわけではありません。アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)によると、ロンドンの下町ことば cockney(コックニー) は「おんどりの卵」という意味の古い言葉 cokenei から来ていて、後ろの ei が、あの ey と同じ「卵」です(辞書によって説明は分かれます。くわしくは別記事「ロンドン下町の英語」で)。

もう1つ、卵とまぎらわしい egg があります。egg someone on(人をけしかける、あおる)の egg です。

  • His friends egged him on.(友だちが彼をけしかけた)

これは卵とは無関係。AHD と Dictionary.com によると、古ノルド語の eggja(けしかける)から来た語で、Dictionary.com は、そのもとが「へり、刃」を意味する egg だと説明しています。卵ではなく「刃先でつつく」と考えると覚えやすいでしょう。

06どんでん返し:有名な話だけど、分かっていないことも多い

この卵の話は、英語の歴史の本に必ずと言っていいほど出てきます。ブリーズも「くり返し語られている」と書いています。でも、確かなことは意外に少ないのです。

まず、事件の年は分かりません。キャクストンは「私の時代に」と書いただけです。1490年は、この話が載った本が出た年です。

次に、商人が北部の人だったかどうか。これは名前からの推測です。別の研究者が、1450年代に修業を終えたジョン・シェフィールドという織物商の記録を見つけています。ブリーズは、その師匠の名字がシェフィールドの近くの地名と同じだと指摘しました。ただ、この人が卵の商人と同じ人物だという証拠はありません。

場所の「ノース・フォアランド」も、ブリーズの推理です。おかみさんが本当にフランス語だと思ったのか、ただ聞きなれない言葉にとまどったのかも、本人に聞くことはできません。

07まとめ

500年あまり前のイギリスでは、「卵」は北では eggs、南では eyren。同じ英語なのに、卵1つ頼むのにも、言い直してくれる人が必要でした。

印刷の時代になり、どちらかを選ばなければならなくなります。キャクストン自身も迷いながら、最後に残ったのは北から来た eggs でした。いま私たちが学ぶ英語のつづりや単語の多くも、こうした「どれを選ぶか」のくり返しの結果なのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1490, William Caxton, the first printer in England, told a short story in the preface to one of his books. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1490, William Caxton, the first printer in England, told a short story in the preface to one of his books. A group of merchants sailing for Zeeland, in what is now the Netherlands, were stuck near the coast, probably in Kent, because there was no wind. One of them, a cloth dealer named Sheffield, went into a house and asked for "eggys."

The woman answered that she could not speak French. That made him angry, since he could not speak French either. When someone else explained that he wanted "eyren," she understood at once. "Egg" was a northern word from Old Norse, while "ey," with its plural "eyren," was the usual word in the south. Caxton then asked which one a writer should use.

125 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1490年、イングランド最初の印刷業者ウィリアム・キャクストンは、自分の本の1冊の序文に短い話を書いた。今のオランダにあるゼーラントへ向かっていた商人の一行が、風がなかったため、おそらくケントの海岸近くで足止めされた。その1人、シェフィールドという織物商がある家に入り、「eggys」をくれと頼んだ。

女性は、フランス語は話せないと答えた。彼もフランス語は話せなかったので、腹を立てた。別の人が、彼は「eyren」がほしいのだと説明すると、女性はすぐに分かった。「egg」は古ノルド語から来た北部の言葉で、一方「ey」とその複数形「eyren」は南部でふつうに使われる言葉だった。そのうえでキャクストンは、物書きはどちらを使えばよいのかと問いかけた。

4択リーディングクイズ

Q1. Who wrote down this story?

Q2. Why was the merchant angry?

Q3. What can be inferred about the woman?

重要単語

  • dialectB2
    名詞方言My grandmother speaks a strong dialect. 地域だけでなく社会集団ごとのことばの差も指す。accent は「発音のなまり」で、dialect は単語や文法も含む。
  • merchantB1
    名詞商人、貿易商The merchant was waiting for the wind to change. merchandise(商品)と同じ仲間。シェイクスピアの『ヴェニスの商人』は The Merchant of Venice。
  • pluralB1
    名詞・形容詞複数形;複数のThe plural of "ox" is "oxen." 反対は singular(単数)。-en で複数を作る語は oxen・children・brethren など少数だけ残っている。
  • printerA2
    名詞印刷業者;印刷機、プリンターCaxton was the first printer in England. print(印刷する)+-er(人・物)。歴史の文脈では「印刷業者」の意味が多い。
  • egg ... onC1
    句動詞(人を)けしかける、あおるHis friends egged him on to jump into the river. 卵の egg とは別語で、古ノルド語の eggja(けしかける)から。egg him on to do で「彼をあおって〜させる」。
  • misunderstandB1
    動詞誤解する、取りちがえるShe misunderstood his word for "eggs." mis-(まちがって)+understand。過去形は misunderstood。名詞は misunderstanding。
  • prefaceB2
    名詞(本の)序文、前書きCaxton told the story in the preface to his book. 発音は「プレフィス」。foreword もほぼ同じ意味。
500年あまり前のイギリス。商人が立ち寄った家で「eggys(卵)をください」と頼むと、おかみさんは「フランス語は話せません」。別の人が「eyren」と言い直したら通じた。イングランド初の印刷業者キャクストンが1490年の本に書いた、英語どうしが通じない話。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Caxton (1490) Prologue to Eneydos, ed. Culley & Furnivall (1890) Caxton's Eneydos, Early English Text Society, Extra Series 57archive.org
  2. Breeze (2000) Caxton's Tale of Eggs and the North Foreland, Kent, Nomina 23, pp. 87–88snsbi.org.uk
  3. Duff (1905) William Caxton, The Caxton Club(Project Gutenberg #55919)gutenberg.org
  4. American Heritage Dictionary「egg」「cockney」ahdictionary.com
  5. Dictionary.com「egg」「-en」(語源欄)dictionary.com

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