ロンドン下町の英語では、apples(リンゴ)が「階段」、loaf(パン)が「頭」の意味

読む前に予想してみよう!
ロンドン下町の押韻スラングでは、ふつう韻をふむ部分まで全部言う
apples and pears(stairs=階段)なら、ふつうは apples だけ。韻をふむ後ろ半分を捨てるので、知らない人には意味が分からない(AHD・Ashley 1977)。
- 対象
- 俗語辞典の用例・英語辞書・言語学の論文
- 規模
- 1850年代〜現在の用例
- 研究の種類
- 語彙研究(辞書の用例と論文の照合)
- 確かさ
- ★★★☆☆
ロンドン下町の英語には、言葉を、韻をふむ別の言葉に置きかえる遊び(押韻スラング)がある。stairs(階段)と韻をふむ apples and pears が「階段」で、しかも後ろを略して apples だけ言う。「頭を使え」の use your loaf も、head と韻をふむ loaf of bread から。
ひとことで言うとロンドンの下町では「リンゴ」と言ったら「階段」のこと!
もくじ
ロンドンの下町で「I'm going up the apples.」と言われたら、どういう意味でしょう?
「リンゴに登る」ではありません。答えは「階段を上がる」です。
ロンドンの下町ことば「コックニー」には、ある言葉を、それと韻をふむ別の言葉に置きかえる遊びがあります。stairs(ステアーズ=階段)と韻をふむのは pears(ペアーズ=梨)。そこで「階段」は apples and pears(リンゴと梨)。しかも話すときは後ろを切って、apples(リンゴ)だけ。これが「押韻スラング(rhyming slang)」です。
01仕組みは2段階。「韻をふむ」→「韻の部分を捨てる」
オックスフォード大学出版局の学習辞典(Oxford Learner's Dictionaries)は、rhyming slang の項目でまさにこの例を出しています。「言いたい語の代わりに、それと韻をふむ語や句を使う話し方。たとえばコックニーの押韻スラングでは apples and pears は stairs の意味」。
アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)は、さらに「韻をふむ語は省かれることが多い」と書き足しています。
つまり、作り方はこうです。
- 言いたい語:stairs(階段)
- 韻をふむ句を作る:apples and pears
- 韻をふむ部分を捨てる:apples
3段目で韻が消えるので、知らない人には、もう何の話か分かりません。
Oxford Learner's Dictionaries にも、use your loaf(頭を使え)、have a butcher's(ちょっと見る)、porky(うそ)がイギリスのくだけた言い方として載っています。辞書に入るほど、ふつうの英語になっているのです。

02舌を鳴らす「ラズベリー」は、おならの言いかえ?
英語で、舌を出して「ブーッ」と鳴らし、相手をばかにすることを blow a raspberry(ラズベリーを吹く) と言います(Oxford Learner's Dictionaries)。なぜ果物のラズベリーなのでしょう。
AHD は、この意味の raspberry を「raspberry tart(ラズベリーのタルト)を短くしたものかもしれない。fart(おなら)の押韻スラング」と説明しています。tart と fart が韻をふむのです。舌を鳴らす音を、おならの音に見立てた、という説明です。
ニューヨーク市立大学ブルックリン校のレナード・アシュリー(Leonard R. N. Ashley)も、1977年に学術誌『Names』に載せた押韻スラングの論文で、raspberry=fart(raspberry tart から)と書いています。アメリカ人は「Bronx cheer(ブロンクスの声援)」と呼ばれるこの音を raspberry とも言うが、由来には気づいていない、とも。
お金を意味する俗語の bread(パン)にも、同じ説があります。AHD は、bread の「お金」の意味について「コックニーの押韻スラング bread and honey(money と韻をふむ)から来たかもしれない」と書いています。
03押韻スラングは、今も新しく生まれている
押韻スラングは古い言葉だけではありません。
- dog and bone(phone=電話):グリーンの辞典が引く1961年の『押韻スラング辞典』は、「第二次世界大戦のあとにできたらしい。電話が増えたためだろう」と書いている
- Brahms and Liszt(ブラームスとリスト。酔っぱらった、の意味):作曲家2人の名前で、「酔っぱらった」を意味する下品な俗語と韻をふむ。1971年の新聞から記録がある
- rabbit(しゃべる):rabbit and pork(talk と韻をふむ)から。Oxford Learner's Dictionaries には rabbit on(どうでもいいことをしゃべり続ける)が載っている
- scarper(ずらかる):Oxford Learner's Dictionaries によると、おそらくイタリア語の scappare(逃げる)から来て、押韻スラングの Scapa Flow(go と韻をふむ)の影響を受けた。スカパ・フローは、イギリス北部のオークニー諸島にあり、2つの世界大戦でイギリス海軍の船が停泊した湾の名前
2020年には、研究者アントニオ・リージョ(Antonio Lillo)が、イギリスとアイルランドのサッカー界で使われる押韻スラングを調べた論文を出しています。サッカーでの押韻スラングは比較的新しい現象で、論文の終わりには、言葉やあだ名の一覧がついています。その多くは、まだ辞書に載っていないものです。
04「コックニー」の語源は、辞書で言うことが違う
ところで、Cockney という言葉そのものはどこから来たのでしょう。ここは、辞書によって説明が分かれます。
- AHD:中英語の cokenei(オンドリの卵)から。そこから「甘やかされた子」「都会の人」と意味が移った
- Oxford Learner's Dictionaries:もとは「甘やかされた子」の意味で、語源ははっきりしない。「オンドリの卵(小さくていびつな卵)」を指した cokeney とは、どうやら別の語らしい。のちに「気取った、ひ弱な都会の人」の意味になり、17世紀初めに今の意味(ロンドン下町の人)になった
今の意味については、どちらの辞書も「ロンドンのイーストエンド(東の下町)の人、またその人たちの話し方」としています。
05どんでん返し:「泥棒の暗号」とは言い切れず、「リンゴと梨」もあまり言わない
押韻スラングは「泥棒が警察に分からないように作った暗号」とよく言われます。
アシュリーの論文も、仲間うち以外の人や役人に聞かれても分からないように、という動機で始まった可能性は高いと書いています。けれども同時に、この「秘密の暗号」という面は強調されすぎてきたとも指摘しています。使う人の楽しみは、言葉の機転を見せることにあり、それには聞き手が分かってくれないと始まらないからです。
始まった時期もはっきりしません。アシュリーによると、1859年にロンドンで出た俗語辞典の匿名の著者(「ロンドンの古物研究家」と名乗った)は、押韻スラングが「12〜15年ほど前に始まった」と書いていました。つまり1840年代ごろ、という当時の証言です。
そして、いちばん有名な apples and pears。アシュリーは、ふつうは apples だけを使い、apples and pears と全部言うことはあまりないと書いています。グリーンの辞典が引く1953年の本『Cockney』には、「コックニーの女性は、よほど親しくて冗談が通じる相手でないかぎり、apples and pears を上がる、とは言わない」とあります。
教科書に出てくるいちばん有名な例が、地元ではそのままの形ではあまり言われないのです。
06まとめ
コックニーの押韻スラングは、言いたい言葉を韻で置きかえ、さらに韻の部分を捨てる、という2段階の言葉遊びでした。apples が「階段」、loaf が「頭」。舌を鳴らす raspberry も、おならの言いかえから来たという説があります。
イギリス映画やドラマで、急に果物やパンの話が出てきたら、それは押韻スラングかもしれません。use your loaf で、韻をふむ相手を探してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCockney rhyming slang comes from the East End of London.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In the East End of London, people have a fun way of talking. They change a word into a phrase that rhymes with it. "Stairs" rhymes with "pears," so stairs become "apples and pears."
Then they often drop the last part. So "I'm going up the apples" means "I'm going upstairs." "Use your loaf" means "Use your head," because "loaf of bread" rhymes with "head."
65 words ・ CEFR A2
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ロンドンのイーストエンドでは、人々はおもしろい話し方をします。ある単語を、それと韻をふむ言葉に変えるのです。「stairs(階段)」は「pears(梨)」と韻をふむので、階段は「apples and pears(リンゴと梨)」になります。そして、後ろの部分をよく省きます。
だから「I'm going up the apples」は「階段を上がる」という意味です。「Use your loaf」は「頭を使え」という意味です。「loaf of bread(パンのひとかたまり)」が「head(頭)」と韻をふむからです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
単語を韻をふむ言葉に変える話し方(押韻スラング)の説明なので B。
Q2. What does "I'm going up the apples" mean?
"I'm going up the apples" means "I'm going upstairs." とあるので C。
Q3. In the passage, what does "drop" mean in "they often drop the last part"?
and pears を言わずに apples だけにする、という意味なので「省く」=A。
Cockney rhyming slang comes from the East End of London. To make a new expression, you take a word, such as "head," and find a phrase that rhymes with it, such as "loaf of bread."
Then you usually drop the rhyming part and keep only "loaf." That is why "use your loaf" means "use your head." The last step makes the slang hard for outsiders to follow. Some examples have been around for a long time.
"Apples and pears," meaning "stairs," appeared in a slang book in 1857. Others are newer. "Dog and bone," meaning "phone," seems to have come into use after the Second World War, when more homes got telephones.
112 words ・ CEFR B1
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コックニーの押韻スラングは、ロンドンのイーストエンドから生まれた。新しい言い方を作るには、たとえば「head(頭)」のような単語を取り、「loaf of bread」のように、それと韻をふむ句を見つける。
それから、たいてい韻をふむ部分を落として「loaf」だけを残す。だから「use your loaf」は「頭を使え」という意味になる。この最後の段階のせいで、仲間でない人にはこのスラングが分かりにくくなる。昔からある例もある。
「stairs(階段)」を意味する「apples and pears」は、1857年に俗語の本に載った。もっと新しいものもある。「phone(電話)」を意味する「dog and bone」は、電話のある家が増えた第二次世界大戦のあとに使われるようになったらしい。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does "use your loaf" mean "use your head"?
find a phrase that rhymes with it, such as "loaf of bread" とあり、head と韻をふむから。B。
Q2. When did "apples and pears" appear in a slang book?
"Apples and pears," meaning "stairs," appeared in a slang book in 1857. とあるので A。
Q3. What does the example of "dog and bone" show?
電話が増えた戦後に dog and bone が使われ始めたので、暮らしの変化に合わせて新しい押韻スラングが作られたと分かる。B。
Ask someone from London's East End to "have a butcher's," and you are asking them to take a look. The phrase is short for "butcher's hook," which rhymes with "look." This is Cockney rhyming slang. A word is replaced by a rhyming phrase, and the rhyme itself is then usually dropped, so outsiders can easily get lost. The system has left marks on wider English.
The American Heritage Dictionary says that "raspberry," the rude noise made with the tongue, may come from "raspberry tart," meaning "fart." People often say the slang began as a thieves' code for fooling the police. In a 1977 paper, the scholar Leonard Ashley agreed that hiding meaning from outsiders was probably part of the start. He also argued that this secret side had been overstressed, because much of the fun lies in showing off a clever twist that the listener is meant to catch.
Even the best-known example is not used the way textbooks suggest. A 1953 book on Cockney life noted that a local woman would not say she was going up the "apples and pears" unless she knew the listener well enough to joke.
191 words ・ CEFR B2
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ロンドンのイーストエンドの人に「have a butcher's」と頼むのは、「ちょっと見て」と頼んでいるということだ。この言い方は「butcher's hook(肉屋のかぎ)」を短くしたもので、それが「look(見ること)」と韻をふむ。これがコックニーの押韻スラングだ。ある単語を韻をふむ句に置きかえ、そのあとたいてい韻の部分そのものを落とすので、仲間でない人は話についていけなくなりやすい。この仕組みは、もっと広い英語にも跡を残している。
アメリカン・ヘリテージ英語辞典は、舌で鳴らす失礼な音を表す「raspberry」が、「fart(おなら)」を意味する「raspberry tart」から来ているかもしれないと説明している。このスラングは、警察をだますための泥棒の暗号として始まったとよく言われる。1977年の論文で、学者のレナード・アシュリーは、仲間以外の人に意味を隠すことが始まりの一部だった可能性は高いと認めた。だが同時に、この秘密の面は強調されすぎてきたとも論じた。楽しさの多くは、聞き手に気づいてもらうための気の利いたひねりを見せびらかすところにあるからだ。
いちばん有名な例でさえ、教科書が思わせるような使われ方はしていない。コックニーの暮らしについての1953年の本は、地元の女性は、冗談を言い合えるほど親しい相手でないかぎり「apples and pears」を上がるとは言わない、と記している。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
押韻スラングの仕組み、英語への影響、暗号説の見直し、実際の使われ方を述べているので B。
Q2. According to the passage, what did Leonard Ashley argue?
He also argued that this secret side had been overstressed とあるので C。A は agreed that hiding meaning ... was probably part of the start と食い違う。
Q3. What can be inferred from the 1953 book?
a local woman would not say ... unless she knew the listener well enough to joke から、全部言うのは親しい相手との冗談のときだけと推測できる。A。
重要単語
- rhymeB1動詞・名詞韻をふむ;韻"Pears" rhymes with "stairs."
rhyme with ~「~と韻をふむ」。発音は「ライム」。h は読まない。 - slangB2名詞俗語、スラングRhyming slang began in the East End of London.
数えられない名詞。「スラングの言葉」1つは a slang word / a slang expression。 - stairsA2名詞階段She ran up the stairs to her room.
ふつう複数形。go upstairs「上の階へ行く」。 - loafB1名詞(パンの)ひとかたまりI bought a loaf of bread at the bakery.
複数形は loaves。Use your loaf!「頭を使え」はイギリスのくだけた言い方。 - glanceB2名詞・動詞ちらっと見ること;ちらっと見るCan I have a quick glance at your notes?
have a butcher's(ちょっと見る)を言いかえるなら have a look / take a glance。 - chatterB2動詞ぺちゃくちゃしゃべるThe kids chattered all the way home.
イギリスのくだけた rabbit on(しゃべり続ける)とほぼ同じ意味。 - outsiderB2名詞部外者、仲間でない人The slang was hard for outsiders to understand.
out+side+-er。反対は insider(内部の人)。
公式・一次情報をチェック
- rhyming slang(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- cockney(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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ロンドン下町の英語では、apples and pears(リンゴと梨)が「階段」。stairs と韻をふむから。しかも韻の部分を捨てて「apples」だけ言う。「頭を使え」の use your loaf も、head と韻をふむ loaf of bread(パンのかたまり)から。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Ashley, L. R. N. (1977) Rhyme and Reason: the Methods and Meanings of Cockney Rhyming Slang, Illustrated with Some Proper Names and Some Improper Phrases, Names 25(3): 124–154doi.org
- Green's Dictionary of Slang「apples (and pears)」「loaf (of bread)」「raspberry tart」「porky (pie)」「butcher's hook」「barnet (fair)」「dog (and bone)」「Brahms (and Liszt)」「rabbit (and pork)」「bread and honey」greensdictofslang.com
- The American Heritage Dictionary「rhyming slang」「cockney」「raspberry」「bread」ahdictionary.com
- Oxford Learner's Dictionaries「rhyming slang」「cockney」「loaf」「butcher」「porky」「rabbit on」「scarper」「raspberry」oxfordlearnersdictionaries.com
- Lillo, A. (2020) A bit o' footy rabbit: Some notes on football rhyming slang, Lebende Sprachen 65(1): 20–48doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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