本館「マジカ!?サイエンス」科学の雑学とニュースを論文でウラ取り読みに行く →
英語のマジか!?ホント

「Wi-Fi」は何の略でもない? 名付けにかかわった創設メンバーの証言

「Wi-Fi」は何の略でもない? 名付けにかかわった創設メンバーの証言

読む前に予想してみよう!

「Wi-Fi」はもともと Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティ)の略として作られた名前だ

研究カード(どんな研究?)
対象
Wi-Fi と Bluetooth の名前の由来
規模
業界団体の公式資料2件・当事者の証言1件・辞書3種
研究の種類
文献調査(公式資料・証言・辞書の照合)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

名前選びの中心にいた創設メンバーの証言では、Wi-Fi はブランド会社が考えた、何の略でもない名前。Wireless Fidelity は後から足した宣伝文句だった。ただ、辞書には今も「略」と書くものがある。

ひとことで言うと名前選びにかかわった人によると、Wi-Fi は何の言葉の略でもない「作られた名前」なんだって!

もくじ
  1. Wi-Fi は何の略? 名付けた側の答えは「何の略でもない」
  2. 「Wireless Fidelity」はどこから来た?
  3. どんでん返し:辞書には今も「略」と書くものがある
  4. おまけ:Bluetooth は「仮の名前」のはずだった
  5. まとめ

カフェでもホテルでも、まず探すのが「Wi-Fi」。では、この Wi-Fi は何の略でしょう?

「Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティ)!」と答えた人。名付けにかかわった人によると、答えは「何の略でもない。意味はない」です。

その人によると、Wireless Fidelity は名前が決まった後から、一部のメンバーが不安がったために足した宣伝文句でした。しかもその宣伝文句について、本人は「失敗だった。忘れてほしい」とまで言っています。

01Wi-Fi は何の略? 名付けた側の答えは「何の略でもない」

まず、Wi-Fi という名前が生まれた流れを、業界団体 Wi-Fi Alliance の公式サイトで確かめます。

  • 1999年:6つの会社が「Wireless Ethernet Compatibility Alliance(WECA)」という団体を作った。目的は、いろいろなメーカーの無線LAN製品が、おたがいにちゃんとつながるようにすること
  • 2000年:団体は「Wi-Fi」を、扱う技術の正式な呼び名として採用し、団体の名前も Wi-Fi Alliance になった。同じ年に、最初の「Wi-Fi CERTIFIED(認定)」製品が発表された

では、Wi-Fi という言葉はだれが考えたのか。創設メンバーの一人で、名前選びの中心にいたフィル・ベランジャー(Phil Belanger)が、2005年にブログメディア「Boing Boing」に寄せた説明があります。

「IEEE 802.11b Direct Sequence 対応の店です」では、だれも覚えられません。そこで、意味より響きの覚えやすさで名前を作ったわけです。ベランジャーによると、Interbrand は抗うつ薬の Prozac(プロザック)や、パソコンメーカーの Compaq(コンパック)の名前も手がけた会社です。

02「Wireless Fidelity」はどこから来た?

では、なぜ「Wi-Fi=Wireless Fidelity」という説明がこれほど広まったのでしょう。ベランジャーの説明はこうです。

名前が決まった後、メンバーの中に不安がる人たちがいました。「Wi-Fi」という名前を、意味の説明なしに使うのが想像できなかったのです。そこで妥協して、名前に「The Standard for Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティの標準)」という宣伝文句を添えることにしました。

この宣伝文句は、最初の1年ほど(2000年ごろ)は団体のすべての宣伝物に入っていました。ベランジャーは2005年の時点で、この文句が入った帽子とゴルフシャツをまだ持っている、と書いています。その後、大企業の宣伝担当者が理事に加わると、団体はこの文句を使うのをやめました。

ベランジャー自身の評価は手きびしいものです。「Wireless Fidelity とは何か。何の意味もない。Wi と Fi に合う2つの単語をむりやりひねり出しただけだ」。さらに、Wi-Fi Alliance は規格(standard)を作る団体ではないので、「The Standard」という言葉も正しくない、と指摘しています。

もとになった「hi-fi」

Wi-Fi の響きのもとは、オーディオの hi-fi(ハイファイ) です。Dictionary.com によると、hi-fi は high fidelity(高い忠実度) を縮めた言葉で、1945〜50年ごろから記録があります。録音した音を、どれだけもとの音に忠実に再生できるか、という意味です。

fidelity(フィデリティ)は「忠実さ」。音なら「再現の正確さ」です。ところが「wireless fidelity(無線の忠実さ)」と言われても、何に忠実なのか分かりません。ベランジャーが「意味がない」と言うのは、このことです。

03どんでん返し:辞書には今も「略」と書くものがある

ここまで読むと「Wireless Fidelity 説は完全にまちがい」と言いたくなります。ところが、英語の辞書を引くと話は単純ではありません。

  • Cambridge Dictionary:サイトに載っているビジネス英語辞典の項で、wi-fi を「abbreviation for wireless fidelity(wireless fidelity の略)」と説明している(一般向けの項は「商標」とだけ書き、略とは書いていない)
  • Dictionary.com:語源を「wi(reless)-fi(delity)、hi-fi にならって作られた」とし、記録は1995〜2000年ごろからとしている
  • American Heritage Dictionary:「無線ネットワークの規格に合った製品を認定する商標」とだけ書き、略語とは書いていない

辞書は、言葉が実際にどう使われ、どう理解されてきたかを記録するものでもあります。2000年ごろの宣伝物に「Wireless Fidelity」と大きく書かれていた以上、そう理解した人が多かったのは自然です。

もう一つ、注意したいことがあります。「何の略でもない」という話の主な根拠は、ベランジャー一人の証言です。団体の公式サイトの年表には、名前の意味についての説明は見当たりませんでした。名付けの現場にいた人のはっきりした証言ではありますが、公式文書で確かめられたわけではないことも覚えておきましょう。

04おまけ:Bluetooth は「仮の名前」のはずだった

Wi-Fi と並ぶ無線の名前、Bluetooth(ブルートゥース)。直訳すると「青い歯」です。こちらは業界団体 Bluetooth SIG の公式サイトに、由来がくわしく書かれています。

  • 名前のもとは、10世紀の王ハーラル・「青歯王」・ゴームソン。公式サイトの説明では、958年にデンマークとノルウェーを統一したこと、そして暗い青灰色の死んだ歯から「青歯(Bluetooth)」とあだ名されたことで知られる
  • 1996年、インテル・エリクソン・ノキアの3社が、近い距離をつなぐ無線技術の標準化を話し合った。その席で、インテルのジム・カーダック(Jim Kardach)が仮のコードネームとして Bluetooth を提案した。北欧を一つにまとめた王のように、パソコンと携帯電話の業界をつなぎたい、という思いからだった
  • 正式な名前の本命は「PAN(Personal Area Networking)」、次が「RadioWire」だった。ところが PAN は、調べるとインターネット上ですでに何万件もヒットするありふれた言葉だった。RadioWire は、発表までに商標の調査が終わらなかった
  • 結局 Bluetooth しか残らなかった。そして名前は、変える前に業界中に広まってしまった
  • ロゴは、ハーラル王の頭文字を表す2つのルーン文字(ᚼ と ᛒ)を組み合わせたもの

Dictionary.com の語源欄にも、Bluetooth は「10世紀のデンマーク王 Harald Blatand(青歯王ハーラル)にちなむ」とあります。「本番の名前が決まるまでの仮の名前」が、そのまま世界中のスマホに載ったのです。

Bluetooth の名前のもとは、10世紀の北欧の王ハーラル「青歯王」。最初は仮のコードネームだった(Bluetooth SIG 公式サイト)
Bluetooth の名前のもとは、10世紀の北欧の王ハーラル「青歯王」。最初は仮のコードネームだった(Bluetooth SIG 公式サイト)

05まとめ

名前選びの中心にいたベランジャーの証言では、Wi-Fi はブランド会社 Interbrand が出した候補から選ばれた、意味のない覚えやすい名前でした。Wireless Fidelity は、一部のメンバーの不安に押されて後から足した説明で、ベランジャーは「忘れてほしい」と言っています。

それでも、辞書にはまだ「wireless fidelity の略」と書くものがあります。ことばの「本当の由来」と「みんながそう思っている由来」は、ずれることがある。Wi-Fi はそのいい見本です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAsk people what "Wi-Fi" means, and many will say "wireless fidelity." Phil Belanger, one of the founding… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Ask people what "Wi-Fi" means, and many will say "wireless fidelity." Phil Belanger, one of the founding members of the Wi-Fi Alliance, says that answer is wrong. In 2005 he explained that the group had hired a branding company, Interbrand, to create a name that was easier to remember than "IEEE 802.11b Direct Sequence." The members picked "Wi-Fi" from a list of ten. After that, some members got nervous about using a name with no meaning.

So they added the tagline "The Standard for Wireless Fidelity." It appeared in all of the group's materials for about a year, and in 2005 Belanger still had a hat with those words on it. He later called the tagline a mistake.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

Wi-Fi の意味を人にたずねると、多くは「wireless fidelity」と答えるだろう。Wi-Fi Alliance の創設メンバーの一人、フィル・ベランジャーは、その答えはまちがいだと言う。2005年に彼が説明したところでは、グループはブランド会社 Interbrand をやとい、「IEEE 802.11b Direct Sequence」より覚えやすい名前を作ってもらった。メンバーは10の候補のリストから Wi-Fi を選んだ。その後、何人かのメンバーが、意味のない名前を使うことに不安になった。

そこで彼らは「The Standard for Wireless Fidelity」という宣伝文句を足した。それは約1年間、グループのあらゆる資料に載り、2005年の時点でベランジャーはまだその言葉が入った帽子を持っていた。彼は後に、その宣伝文句は失敗だったと言った。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. Why did some members want to add the tagline?

Q3. What does Belanger probably think about the phrase "wireless fidelity" today?

重要単語

  • abbreviationB2
    名詞略語"TV" is an abbreviation of "television." 動詞は abbreviate(省略する)。頭文字を読む略語は acronym とも言う(NASA など)。
  • stand forB1
    動詞句(略語が)〜を表すWhat does "DIY" stand for? 答え方は It stands for "do it yourself." 略でないときは It doesn't stand for anything.
  • taglineC1
    名詞(広告の)宣伝文句The company changed its tagline last year. slogan もほぼ同じ意味。映画ポスターのひと言も tagline と言う。
  • fidelityC1
    名詞忠実さ;(音の)再現の正確さOld records don't have the fidelity of modern recordings. hi-fi は high fidelity の略。保険会社などの社名にも「誠実さ」の意味でよく使われる。
  • placeholderC1
    名詞仮のもの、仮置き"Project X" was just a placeholder name. place(場所)+holder(押さえておくもの)。Bluetooth は最初、正式名が決まるまでの placeholder だった。
  • brandB1
    名詞銘柄、ブランドWhich brand of headphones do you use? branding は「ブランドづくり」。Interbrand はその専門会社。
「Wi-Fi」は何の略? 名付けにかかわった創設メンバーの答えは「何の略でもない。意味はない」。Wireless Fidelity は名前を決めた後に足した宣伝文句。Bluetooth も本当は“仮の名前”だった。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Wi-Fi Alliance「History」「Who we are」(公式サイト)wi-fi.org
  2. Belanger, Phil (2005) 創設メンバーの証言、Boing Boing「WiFi isn't short for "Wireless Fidelity"」(Cory Doctorow 掲載)boingboing.net
  3. Cambridge Dictionary「wi-fi」dictionary.cambridge.org
  4. Dictionary.com「Wi-Fi」「hi-fi」「Bluetooth」dictionary.com
  5. Bluetooth SIG「Origin of the name」(公式サイト)bluetooth.com

本館

マジカ!?サイエンスで読む、ことばの研究

論文でウラ取りした科学の「マジか!?」。言語・脳・学習の研究も

マジカ!?サイエンスのトップへ →