「Wi-Fi」は何の略でもない? 名付けにかかわった創設メンバーの証言

読む前に予想してみよう!
「Wi-Fi」はもともと Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティ)の略として作られた名前だ
創設メンバーのフィル・ベランジャーによると、Wi-Fi はブランド会社 Interbrand が出した10の候補から選んだ名前で、何の略でもない。Wireless Fidelity は後から足した宣伝文句。
- 対象
- Wi-Fi と Bluetooth の名前の由来
- 規模
- 業界団体の公式資料2件・当事者の証言1件・辞書3種
- 研究の種類
- 文献調査(公式資料・証言・辞書の照合)
- 確かさ
- ★★★☆☆
名前選びの中心にいた創設メンバーの証言では、Wi-Fi はブランド会社が考えた、何の略でもない名前。Wireless Fidelity は後から足した宣伝文句だった。ただ、辞書には今も「略」と書くものがある。
ひとことで言うと名前選びにかかわった人によると、Wi-Fi は何の言葉の略でもない「作られた名前」なんだって!
もくじ
カフェでもホテルでも、まず探すのが「Wi-Fi」。では、この Wi-Fi は何の略でしょう?
「Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティ)!」と答えた人。名付けにかかわった人によると、答えは「何の略でもない。意味はない」です。
その人によると、Wireless Fidelity は名前が決まった後から、一部のメンバーが不安がったために足した宣伝文句でした。しかもその宣伝文句について、本人は「失敗だった。忘れてほしい」とまで言っています。
01Wi-Fi は何の略? 名付けた側の答えは「何の略でもない」
まず、Wi-Fi という名前が生まれた流れを、業界団体 Wi-Fi Alliance の公式サイトで確かめます。
- 1999年:6つの会社が「Wireless Ethernet Compatibility Alliance(WECA)」という団体を作った。目的は、いろいろなメーカーの無線LAN製品が、おたがいにちゃんとつながるようにすること
- 2000年:団体は「Wi-Fi」を、扱う技術の正式な呼び名として採用し、団体の名前も Wi-Fi Alliance になった。同じ年に、最初の「Wi-Fi CERTIFIED(認定)」製品が発表された
では、Wi-Fi という言葉はだれが考えたのか。創設メンバーの一人で、名前選びの中心にいたフィル・ベランジャー(Phil Belanger)が、2005年にブログメディア「Boing Boing」に寄せた説明があります。
「IEEE 802.11b Direct Sequence 対応の店です」では、だれも覚えられません。そこで、意味より響きの覚えやすさで名前を作ったわけです。ベランジャーによると、Interbrand は抗うつ薬の Prozac(プロザック)や、パソコンメーカーの Compaq(コンパック)の名前も手がけた会社です。
02「Wireless Fidelity」はどこから来た?
では、なぜ「Wi-Fi=Wireless Fidelity」という説明がこれほど広まったのでしょう。ベランジャーの説明はこうです。
名前が決まった後、メンバーの中に不安がる人たちがいました。「Wi-Fi」という名前を、意味の説明なしに使うのが想像できなかったのです。そこで妥協して、名前に「The Standard for Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティの標準)」という宣伝文句を添えることにしました。
この宣伝文句は、最初の1年ほど(2000年ごろ)は団体のすべての宣伝物に入っていました。ベランジャーは2005年の時点で、この文句が入った帽子とゴルフシャツをまだ持っている、と書いています。その後、大企業の宣伝担当者が理事に加わると、団体はこの文句を使うのをやめました。
ベランジャー自身の評価は手きびしいものです。「Wireless Fidelity とは何か。何の意味もない。Wi と Fi に合う2つの単語をむりやりひねり出しただけだ」。さらに、Wi-Fi Alliance は規格(standard)を作る団体ではないので、「The Standard」という言葉も正しくない、と指摘しています。
もとになった「hi-fi」
Wi-Fi の響きのもとは、オーディオの hi-fi(ハイファイ) です。Dictionary.com によると、hi-fi は high fidelity(高い忠実度) を縮めた言葉で、1945〜50年ごろから記録があります。録音した音を、どれだけもとの音に忠実に再生できるか、という意味です。
fidelity(フィデリティ)は「忠実さ」。音なら「再現の正確さ」です。ところが「wireless fidelity(無線の忠実さ)」と言われても、何に忠実なのか分かりません。ベランジャーが「意味がない」と言うのは、このことです。
03どんでん返し:辞書には今も「略」と書くものがある
ここまで読むと「Wireless Fidelity 説は完全にまちがい」と言いたくなります。ところが、英語の辞書を引くと話は単純ではありません。
- Cambridge Dictionary:サイトに載っているビジネス英語辞典の項で、wi-fi を「abbreviation for wireless fidelity(wireless fidelity の略)」と説明している(一般向けの項は「商標」とだけ書き、略とは書いていない)
- Dictionary.com:語源を「wi(reless)-fi(delity)、hi-fi にならって作られた」とし、記録は1995〜2000年ごろからとしている
- American Heritage Dictionary:「無線ネットワークの規格に合った製品を認定する商標」とだけ書き、略語とは書いていない
辞書は、言葉が実際にどう使われ、どう理解されてきたかを記録するものでもあります。2000年ごろの宣伝物に「Wireless Fidelity」と大きく書かれていた以上、そう理解した人が多かったのは自然です。
もう一つ、注意したいことがあります。「何の略でもない」という話の主な根拠は、ベランジャー一人の証言です。団体の公式サイトの年表には、名前の意味についての説明は見当たりませんでした。名付けの現場にいた人のはっきりした証言ではありますが、公式文書で確かめられたわけではないことも覚えておきましょう。
04おまけ:Bluetooth は「仮の名前」のはずだった
Wi-Fi と並ぶ無線の名前、Bluetooth(ブルートゥース)。直訳すると「青い歯」です。こちらは業界団体 Bluetooth SIG の公式サイトに、由来がくわしく書かれています。
- 名前のもとは、10世紀の王ハーラル・「青歯王」・ゴームソン。公式サイトの説明では、958年にデンマークとノルウェーを統一したこと、そして暗い青灰色の死んだ歯から「青歯(Bluetooth)」とあだ名されたことで知られる
- 1996年、インテル・エリクソン・ノキアの3社が、近い距離をつなぐ無線技術の標準化を話し合った。その席で、インテルのジム・カーダック(Jim Kardach)が仮のコードネームとして Bluetooth を提案した。北欧を一つにまとめた王のように、パソコンと携帯電話の業界をつなぎたい、という思いからだった
- 正式な名前の本命は「PAN(Personal Area Networking)」、次が「RadioWire」だった。ところが PAN は、調べるとインターネット上ですでに何万件もヒットするありふれた言葉だった。RadioWire は、発表までに商標の調査が終わらなかった
- 結局 Bluetooth しか残らなかった。そして名前は、変える前に業界中に広まってしまった
- ロゴは、ハーラル王の頭文字を表す2つのルーン文字(ᚼ と ᛒ)を組み合わせたもの
Dictionary.com の語源欄にも、Bluetooth は「10世紀のデンマーク王 Harald Blatand(青歯王ハーラル)にちなむ」とあります。「本番の名前が決まるまでの仮の名前」が、そのまま世界中のスマホに載ったのです。

05まとめ
名前選びの中心にいたベランジャーの証言では、Wi-Fi はブランド会社 Interbrand が出した候補から選ばれた、意味のない覚えやすい名前でした。Wireless Fidelity は、一部のメンバーの不安に押されて後から足した説明で、ベランジャーは「忘れてほしい」と言っています。
それでも、辞書にはまだ「wireless fidelity の略」と書くものがあります。ことばの「本当の由来」と「みんながそう思っている由来」は、ずれることがある。Wi-Fi はそのいい見本です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAsk people what "Wi-Fi" means, and many will say "wireless fidelity." Phil Belanger, one of the founding…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people think "Wi-Fi" is short for "wireless fidelity." But one of the people who chose the name says it is not short for anything. Around 2000, a group of companies needed an easy name for their new wireless technology. Its technical name was "IEEE 802.11b Direct Sequence." Nobody could remember that!
So they asked a company, Interbrand, for ideas. Interbrand gave them ten names, and they chose "Wi-Fi." It sounded like "hi-fi," a word for good sound systems.
79 words ・ CEFR A2
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多くの人は、Wi-Fi は wireless fidelity の略だと思っています。でも、名前を選んだ人の一人は、Wi-Fi は何の略でもないと言っています。2000年ごろ、ある会社のグループが、新しい無線技術のための分かりやすい名前を必要としていました。その技術の専門的な名前は「IEEE 802.11b Direct Sequence」。だれも覚えられません!
そこで彼らは、Interbrand という会社にアイデアを頼みました。Interbrand は10の名前を出し、彼らは Wi-Fi を選びました。それは、音のよいオーディオ機器を表す hi-fi に似た響きでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
Wi-Fi が何の略でもなく、Interbrand の候補から選ばれた名前だという話なので B。
Q2. How many names did Interbrand give the group?
Interbrand gave them ten names とあるので C。
Q3. In the passage, what does "short for" mean?
"Wi-Fi" is short for "wireless fidelity" は「Wi-Fi は wireless fidelity を短くした言い方だ」という意味なので B。
Ask people what "Wi-Fi" means, and many will say "wireless fidelity." Phil Belanger, one of the founding members of the Wi-Fi Alliance, says that answer is wrong. In 2005 he explained that the group had hired a branding company, Interbrand, to create a name that was easier to remember than "IEEE 802.11b Direct Sequence." The members picked "Wi-Fi" from a list of ten. After that, some members got nervous about using a name with no meaning.
So they added the tagline "The Standard for Wireless Fidelity." It appeared in all of the group's materials for about a year, and in 2005 Belanger still had a hat with those words on it. He later called the tagline a mistake.
118 words ・ CEFR B1
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Wi-Fi の意味を人にたずねると、多くは「wireless fidelity」と答えるだろう。Wi-Fi Alliance の創設メンバーの一人、フィル・ベランジャーは、その答えはまちがいだと言う。2005年に彼が説明したところでは、グループはブランド会社 Interbrand をやとい、「IEEE 802.11b Direct Sequence」より覚えやすい名前を作ってもらった。メンバーは10の候補のリストから Wi-Fi を選んだ。その後、何人かのメンバーが、意味のない名前を使うことに不安になった。
そこで彼らは「The Standard for Wireless Fidelity」という宣伝文句を足した。それは約1年間、グループのあらゆる資料に載り、2005年の時点でベランジャーはまだその言葉が入った帽子を持っていた。彼は後に、その宣伝文句は失敗だったと言った。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
名前を選んだ後に(After that)宣伝文句として wireless fidelity を足した、という流れなので A。
Q2. Why did some members want to add the tagline?
some members got nervous about using a name with no meaning とあるので C。
Q3. What does Belanger probably think about the phrase "wireless fidelity" today?
He later called the tagline a mistake とあり、Wi-Fi の意味として扱われるのを望んでいないと推測できるので B。
In 2005, Phil Belanger, a founding member of the Wi-Fi Alliance, tried to correct a popular belief. "Wi-Fi," he wrote, does not stand for anything. The group had asked the branding agency Interbrand for something catchier than the technical label "IEEE 802.11b Direct Sequence," and chose "Wi-Fi" from ten proposals.
Only afterward did some nervous members of the group insist on a literal explanation, which led to the tagline "The Standard for Wireless Fidelity." It ran for about a year around 2000 before the alliance dropped it. Belanger says the phrase was just an awkward attempt to find two words starting with "Wi" and "Fi." Dictionaries have not fully caught up.
The business English section of the Cambridge Dictionary website still calls wi-fi an abbreviation for wireless fidelity, and Dictionary.com traces it to "wireless" and "fidelity," modeled on "hi-fi." It is worth knowing where the no-meaning story comes from, though. It rests mainly on Belanger's own account, since the alliance's official history does not discuss the name. Bluetooth has a similar history. Its name began as a temporary code name taken from a tenth-century Danish king.
186 words ・ CEFR B2
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2005年、Wi-Fi Alliance の創設メンバーであるフィル・ベランジャーは、広く信じられている考えを正そうとした。彼によれば、Wi-Fi は何の略でもない。グループはブランド会社 Interbrand に、「IEEE 802.11b Direct Sequence」という技術的な呼び名より覚えやすいものを頼み、10の案から Wi-Fi を選んだ。
その後になって、不安を感じた何人かのメンバーが文字どおりの説明を求め、それが「The Standard for Wireless Fidelity」という宣伝文句につながった。この文句は2000年ごろの約1年間使われ、その後、団体は使うのをやめた。ベランジャーによると、この言葉は Wi と Fi で始まる2つの単語をむりに見つけようとしただけのものだった。辞書はまだ完全には追いついていない。
ケンブリッジ辞典のサイトのビジネス英語の項は今も wi-fi を wireless fidelity の略と呼び、Dictionary.com は hi-fi にならって wireless と fidelity から作られたとしている。ただし、「意味はない」という話の出どころは知っておく価値がある。それは主にベランジャー自身の説明にもとづいており、団体の公式の歴史は名前について語っていないからだ。Bluetooth にも似た歴史がある。その名前は、10世紀のデンマーク王からとった仮のコードネームとして始まった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
名前の本当の成り立ちと、wireless fidelity の略だという広く信じられた考え(辞書にも残る)のずれを述べているので B。
Q2. According to the passage, what is true about the tagline?
It ran for about a year around 2000 before the alliance dropped it とあるので B。
Q3. Why does the writer point out that the story "rests mainly on Belanger's own account"?
公式の歴史が名前に触れていないため、根拠が主にベランジャー一人の証言であることに注意をうながしている。うそだと言っているわけではないので C。
重要単語
- abbreviationB2名詞略語"TV" is an abbreviation of "television."
動詞は abbreviate(省略する)。頭文字を読む略語は acronym とも言う(NASA など)。 - stand forB1動詞句(略語が)〜を表すWhat does "DIY" stand for?
答え方は It stands for "do it yourself." 略でないときは It doesn't stand for anything. - taglineC1名詞(広告の)宣伝文句The company changed its tagline last year.
slogan もほぼ同じ意味。映画ポスターのひと言も tagline と言う。 - fidelityC1名詞忠実さ;(音の)再現の正確さOld records don't have the fidelity of modern recordings.
hi-fi は high fidelity の略。保険会社などの社名にも「誠実さ」の意味でよく使われる。 - placeholderC1名詞仮のもの、仮置き"Project X" was just a placeholder name.
place(場所)+holder(押さえておくもの)。Bluetooth は最初、正式名が決まるまでの placeholder だった。 - brandB1名詞銘柄、ブランドWhich brand of headphones do you use?
branding は「ブランドづくり」。Interbrand はその専門会社。
公式・一次情報をチェック
- Who we are(Wi-Fi Alliance)wi-fi.org
- Origin of the name(Bluetooth SIG)bluetooth.com
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「Wi-Fi」は何の略? 名付けにかかわった創設メンバーの答えは「何の略でもない。意味はない」。Wireless Fidelity は名前を決めた後に足した宣伝文句。Bluetooth も本当は“仮の名前”だった。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Wi-Fi Alliance「History」「Who we are」(公式サイト)wi-fi.org
- Belanger, Phil (2005) 創設メンバーの証言、Boing Boing「WiFi isn't short for "Wireless Fidelity"」(Cory Doctorow 掲載)boingboing.net
- Cambridge Dictionary「wi-fi」dictionary.cambridge.org
- Dictionary.com「Wi-Fi」「hi-fi」「Bluetooth」dictionary.com
- Bluetooth SIG「Origin of the name」(公式サイト)bluetooth.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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