カメラの「レンズ」の語源は“豆”。ドイツ語では今もレンズと豆が同じ単語

読む前に予想してみよう!
「レンズ豆」という豆の名前は、ガラスのレンズに形が似ているからついた
日本語の「レンズマメ」は凸レンズに似た形からの名前。でも英語の lens は、もともとこの豆のラテン語名だった。名づけの向きが逆。
- 対象
- 英・独・仏・日の辞書と百科事典、人類学の論文
- 規模
- 4言語の辞書+多言語比較の論文1本
- 研究の種類
- 語源調査(文献)
- 確かさ
- ★★★★☆
lens はラテン語で「レンズ豆」。両面がふくらんだ豆の形に凸レンズが似ていたから。ドイツ語の Linse は今も豆とレンズの両方。瞳の pupil は「小さな人形」、のどちんこの uvula は「小さなブドウ」。
ひとことで言うとカメラのレンズの名前は、まるくて平たい「豆」からとったんだって!
もくじ
カメラ、メガネ、コンタクト。毎日のように目にする「レンズ」。
この lens(レンズ) という英単語、もとの意味は「豆」です。ラテン語で、スープやカレーに入れるレンズ豆のことを lens と言いました。
ガラスのレンズが、まるくて両面がふくらんだ豆の形にそっくりだったから、豆の名前がそのままついたのです。しかもドイツ語では、いまも同じ1語 Linse(リンゼ)で「豆」と「レンズ」の両方を表します。
01レンズの語源は「レンズ豆」のラテン語
アメリカの辞書 American Heritage Dictionary(AHD)の語源欄には、lens は「ラテン語 lens(レンズ豆)から。両面が凸のレンズの形による」とあります。オックスフォードの学習辞典も、英語に入ったのは17世紀後半で、レンズ豆に「形が似ているため」と説明しています。
つまり英語では、lens(レンズ)と lentil(レンズ豆)は同じ単語の親子です。豆の名前が先で、ガラスの道具はあとから名前を借りました。
02日本語の「レンズ豆」は、名づけの向きが逆
日本語の「レンズ豆(レンズマメ)」という呼び名は、反対の向きでできています。
同じ『世界大百科事典』の「ヒラマメ」の項目は、さやの中に凸レンズのような種が2つ入っていて、この形からレンズマメともいうと書いています。日本語では、先に知っていたガラスの「レンズ」に似ているから、豆を「レンズ豆」と呼んだわけです。
ラテン語の感覚で言いかえると、「レンズ豆」は「豆豆」のような名前になります。豆にちなんで道具に名前をつけ、その道具にちなんで豆に名前をつける。名前が一周して戻ってきました。

03ドイツではレンズも豆も Linse、フランスでは lentille
ヨーロッパの言葉では、豆とレンズが今も同じ単語のままのことがあります。
ドイツ語の辞書 Duden で Linse を引くと、たとえば次の意味が並びます。
- 野菜としてのレンズ豆(植物)
- 食べる豆としてのレンズ豆(Linsen kochen=レンズ豆を煮る)
- 光を集めたり広げたりするガラスのレンズ。「レンズ豆に似た形から」と注記がある
- 目の水晶体
くだけた言い方では、jemanden vor die Linse bekommen(だれかをレンズの前にとらえる=写真に撮れる)という表現もあります。Duden には、コンタクトレンズを短く Linse と呼ぶ使い方も載っています。台所で煮る豆と、カメラの「レンズ」は、文字の上では同じ Linse です。
フランス語も同じです。フランス語の辞書 Larousse では、lentille はレンズ豆と、ガラスのレンズの両方。コンタクトレンズは lentille de contact。直訳すると「接触する豆」です。
04目の中にも「豆」がある
人間の目の中にも、レンズがあります。日本語では「水晶体」。英語ではそのまま lens と呼びます。AHD の lens の5番目の意味は「目の、両面が凸の透明な組織」です。
日本語の辞書もこれを受けています。『日本国語大辞典』の「レンズ」には「水晶体」の意味があり、夏目漱石の『吾輩は猫である』(1905〜06年)の「蛙の眼球のレンズ」が例に挙がっています。
日本語は「水晶」、英語はたどっていくと「豆」。同じ目の部品の名前が、片方は宝石から、片方は豆から来ているわけです。
05瞳は「小さな人形」、のどちんこは「小さなブドウ」
体の部分には、形や見た目が似ている物の名前がついたものがたくさんあります。AHD の語源欄で確かめたものを並べます。
- pupil(瞳孔、ひとみ)=ラテン語 pupilla「小さな人形」。相手の瞳をのぞきこむと、自分の小さな姿が映って見えるから。「生徒」の pupil も同じ一族の言葉で、もとは「小さな男の子」
- uvula(口蓋垂、のどちんこ)=ラテン語 uva(ブドウ)に「小さい」がついた形。つまり「小さなブドウ」(オックスフォードの学習辞典も同じ説明)
- cochlea(耳の奥の蝸牛)=ラテン語で「カタツムリの殻」
- pineal(脳の松果体の)=ラテン語で「松かさ(松ぼっくり)」
- retina(網膜)=ラテン語 rete「網」から
- gland(腺)=ラテン語 glans「どんぐり」に「小さい」がついた形から
日本語の名前を並べると、蝸牛(かぎゅう)はカタツムリの漢語、松果体は「松かさ(松ぼっくり)」の形、網膜は「網」の膜。日本語も英語と同じものにたとえています。デジタル大辞泉も、蝸牛を「カタツムリの殻状をした」器官、松果体を「松かさ状の小器官」と説明しています。
06多くの言語で、瞳は「目の子ども」
瞳を「人形」や「子ども」にたとえるのは、ラテン語だけではありません。
アメリカのノーザンイリノイ大学の人類学者セシル・ブラウンとスタンリー・ウィトコウスキーは、1981年の論文で、多くの言語の体の部分の名前を集めて比べました。その結果、
- 瞳を「目の子ども」と呼ぶ
- 親指を「手のお母さん」と呼ぶ
- 力こぶを「腕のネズミ」と呼ぶ
といった言い方が、偶然では説明できないほど高い割合で、いろいろな言語に出てくることが分かりました。しかも、こうした言い方は、系統(言葉の親戚関係)も地域も離れた言語に、とびとびに現れます。そこで2人は、1か所から広まったのではなく、あちこちで別々に同じたとえが何度も生まれたと考えました。
2人はその理由を、人間に共通する名づけ方のくせにあると説明しています。

07どんでん返し:古代ローマ人はガラスを lens と呼んでいない
ここまで「lens はラテン語」と書いてきました。ただし、古代ローマの人がガラスのレンズを lens と呼んでいたわけではありません。
AHD は lens の出どころを、古代のラテン語ではなく「New Latin(近代ラテン語)」としています。近代ラテン語とは、ルネサンスのころから、ヨーロッパの学者が学問の共通語として使い続けたラテン語のことです。古代のラテン語の lens は、食べる豆の名前でした。それを光学の道具の名前に使ったのは、ずっとあとの時代の学問の言葉でした。英語に入ったのも17世紀後半です。
もう一つ。ドイツ語の Linse とラテン語の lens はよく似ています。平凡社の『世界大百科事典』は Linse も lentille も共通のラテン語から来たと書いていますが、ドイツ語の辞書 Duden は、豆の Linse の語源を「Herkunft ungeklärt(はっきりしない)」としています。ドイツ語の豆の名前がどこから来たのかは、辞書によって見方が分かれているのです。
08まとめ
カメラの「レンズ」は、ラテン語でレンズ豆のこと。ガラスの形が豆に似ていたから、そのまま名前をもらいました。ドイツ語の Linse やフランス語の lentille は、今も豆とレンズの両方を指します。
瞳の pupil は「小さな人形」、のどちんこの uvula は「小さなブドウ」、耳の cochlea は「カタツムリ」。次にカメラをのぞくときは、レンズの向こうに豆が1粒あると思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEnglish got the word "lens" in the late 1600s.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Look at a magnifying glass from the side. The glass is thin at the edges and thick in the middle. A lentil, a small flat bean, has the same shape. That is where the word "lens" comes from.
In Latin, "lens" was the name of this bean. In German, one word, "Linse," still means both "lentil" and "lens." So every time you take a photo, you look through a glass bean.
71 words ・ CEFR A2
和訳を見る
虫めがねを横から見てみましょう。ガラスはふちが薄く、真ん中が厚くなっています。小さくて平たい豆、レンズ豆も同じ形です。「lens」という言葉はここから来ています。
ラテン語では「lens」はこの豆の名前でした。ドイツ語では「Linse」という1つの単語が、今も「レンズ豆」と「レンズ」の両方を意味します。だから写真をとるたびに、あなたはガラスの豆をのぞいているのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
That is where the word "lens" comes from とあり、lens という語の由来の話なので B。
Q2. What did "lens" mean in Latin?
In Latin, "lens" was the name of this bean とあるので C。
Q3. In the passage, what does "edges" mean?
thin at the edges and thick in the middle と「真ん中」と対比されているので、edges は「ふち、外側の部分」。A。
English got the word "lens" in the late 1600s. It came from Latin, where "lens" meant "lentil," a small, flat bean. A piece of glass that curves out on both sides has the same shape as the bean, so it took the bean's name.
The English word "lentil" comes from the same Latin word. In Japanese, the story goes the other way. The bean is called "renzu mame," or "lens bean," because it looks like a glass lens.
German keeps the old link today, and "Linse" means both the bean and the lens. Some parts of the body got their names in a similar way. "Pupil" comes from a Latin word for "little doll," because you can see a tiny image of yourself in another person's eye.
127 words ・ CEFR B1
和訳を見る
英語が「lens」という語を得たのは1600年代の後半だ。この語はラテン語から来ていて、ラテン語の「lens」は、小さく平たい豆「レンズ豆」のことだった。両面が外にふくらんだガラスはこの豆と同じ形なので、豆の名前をもらった。
英語の「lentil」も同じラテン語から来ている。日本語では、話の向きが逆になる。この豆は、ガラスのレンズに似ているので「レンズ豆」と呼ばれる。ドイツ語は今も昔のつながりを残していて、「Linse」は豆とレンズの両方を意味する。
体の部分にも、同じようにして名前がついたものがある。「pupil(瞳)」は「小さな人形」を意味するラテン語から来ている。ほかの人の目をのぞくと、自分の小さな姿が見えるからだ。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did a piece of glass get the name "lens"?
A piece of glass that curves out on both sides has the same shape as the bean, so it took the bean's name とあるので B。
Q2. How is the Japanese name "renzu mame" different from the English word "lens"?
In Japanese, the story goes the other way. The bean is called ... because it looks like a glass lens とあり、日本語はレンズにちなんで豆に名前をつけたので A。
Q3. What can we guess about the word "pupil"?
you can see a tiny image of yourself in another person's eye とあり、目の中に見えるものから名づけられたと分かるので C。
Every camera, telescope and pair of glasses carries the name of a bean. In Latin, "lens" meant "lentil," and a piece of glass curved outward on both sides looked enough like the seed for scholars to borrow the word. Those scholars were writing in New Latin, the Latin that European scholars kept using long after the Roman Empire, and the word shows up in English in the late 1600s.
In ancient Latin it was simply the name of the food. German still uses one word, "Linse," for the beans in soup and the glass in a camera, and French does much the same with "lentille." Many body parts got their names the same way. "Uvula" is Latin for "little grape," "cochlea" means "snail shell," and the "pupil" of the eye comes from a word for "little doll."
In 1981, two American anthropologists compared body-part names in many languages. Phrases like "child of the eye" for the pupil and "mother of the hand" for the thumb turned up far more often than chance would allow. They also appeared in unrelated languages far apart from each other, so the researchers think people came up with the same pictures on their own.
199 words ・ CEFR B2
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カメラにも望遠鏡にもメガネにも、ある豆の名前がついている。ラテン語の「lens」は「レンズ豆」のことで、両面が外にふくらんだガラスはこの種に十分よく似ていたので、学者たちがその語を借りた。その学者たちが書いていたのは近代ラテン語、つまりローマ帝国のあとも長くヨーロッパの学者が使い続けたラテン語であり、この語は1600年代後半に英語に現れる。
古代のラテン語では、この語はただの食べ物の名前だった。ドイツ語は今も「Linse」という1つの語を、スープの豆にもカメラのガラスにも使い、フランス語も「lentille」でほぼ同じことをしている。体の部分にも、同じようにして名前がついたものがたくさんある。「uvula(口蓋垂)」はラテン語で「小さなブドウ」、「cochlea(蝸牛)」は「カタツムリの殻」の意味で、目の「pupil(瞳)」は「小さな人形」を表す語から来ている。
1981年、アメリカの2人の人類学者が多くの言語の体の部分の名前を比べた。瞳を「目の子ども」、親指を「手のお母さん」と呼ぶような言い方は、偶然で説明できるよりはるかに多く現れた。こうした言い方は、互いに親戚関係がなく遠く離れた言語にも現れたので、研究者たちは、人々が別々に同じたとえを思いついたと考えている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
lens が豆の形から、uvula・cochlea・pupil も似た物から名づけられたと述べているので B。
Q2. According to the passage, who first used "lens" for a piece of glass?
scholars to borrow the word. Those scholars were writing in New Latin とあるので B。古代ラテン語ではただの食べ物の名前だった。
Q3. What does the 1981 study suggest?
They also appeared in unrelated languages far apart from each other, so the researchers think people came up with the same pictures on their own とあるので B。
重要単語
- lensB1名詞レンズ;(目の)水晶体I cleaned the lens of my camera before the trip.
複数形は lenses。語源はラテン語の「レンズ豆」。contact lens は数えられる名詞なので、ふつう contact lenses と複数で使う。 - lentilB2名詞レンズ豆、ヒラマメMy mom makes a warm lentil soup in winter.
lens に「小さい」を表す語尾がついたラテン語 lenticula から。lens と lentil は親子の関係。 - convexC1形容詞凸状の、外側にふくらんだA magnifying glass has a convex lens.
反対語は concave(凹状の)。理科の英文で convex lens(凸レンズ)・concave lens(凹レンズ)としてよく出る。 - pupilB2名詞瞳孔、ひとみ;生徒Your pupils get bigger in the dark.
瞳の意味はラテン語 pupilla「小さな人形」から。「生徒」の意味もラテン語 pupillus「小さな男の子」から来た同じ一族の語。 - resembleB2動詞~に似ているThe seed resembles a tiny flying saucer.
他動詞なので resemble with とは言わない。名詞は resemblance。入試の語法問題で頻出。 - uvulaC1名詞口蓋垂、のどちんこThe doctor asked me to open my mouth so she could see my uvula.
ラテン語 uva(ブドウ)に「小さい」を表す語尾がついた形で、「小さなブドウ」の意味。読みは「ユーヴュラ」。 - originB1名詞起源、由来The origin of the word "lens" is a kind of bean.
the origin of ~「~の由来」。形容詞 original、動詞 originate も合わせて覚える。
公式・一次情報をチェック
- lentille(Larousse・フランス語辞典)larousse.fr
- lentil(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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カメラの「レンズ(lens)」は、ラテン語で豆のこと。両面がふくらんだレンズ豆に形が似ていたから。ドイツ語では今も Linse 1語で「豆」と「レンズ」。瞳の pupil は「小さな人形」、のどちんこの uvula は「小さなブドウ」が語源。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- American Heritage Dictionary, 5th ed.「lens」「lentil」「pupil」「uvula」「cochlea」「pineal」「retina」「gland」ahdictionary.com
- Oxford Learner's Dictionaries「lens」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Duden「Linse」(ドイツ語辞典)duden.de
- 改訂新版 世界大百科事典「レンズ」・デジタル大辞泉「レンズ」・精選版 日本国語大辞典「レンズ」(コトバンク掲載)kotobank.jp
- Brown & Witkowski (1981) Figurative Language in a Universalist Perspective, American Ethnologist 8(3)doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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