vaccine(ワクチン)の vacc はラテン語の「牛」。どのワクチンも名前の中に牛がいる

読む前に予想してみよう!
vaccine(ワクチン)という語は、ラテン語の「牛」から来ている
ラテン語 vacca(牛)、vaccīnus(牛の)から。ジェンナーが牛痘を使って天然痘を防いだことに由来する。
- 対象
- ジェンナーの1798年の本と辞書・医学史の研究
- 規模
- 1796年の接種記録(8歳ほどの男の子1人)ほか
- 研究の種類
- 一次資料・辞書の語源記述・医学史の論文
- 確かさ
- ★★★★☆
vaccine の語源はラテン語 vacca(牛)。ジェンナーが1798年の本で牛痘を variolae vaccinae と呼び、のちにパスツールが vaccination(ワクチン接種)の意味をほかの予防接種にも広げた。
ひとことで言うと「ワクチン」のもとの意味は「牛の」。牛の病気から生まれた言葉なんだ!
もくじ
インフルエンザのワクチン、子どものころに受けた予防接種。英語では vaccine(ヴァクスィーン) です。
語源をたどると、この単語の前半 vacc- は、ラテン語の vacca(ワッカ)=牛 から来ています。つまり vaccine は、もともと 「牛の」 という意味の言葉。
牛と関係のないワクチンでも、名前の中にはみんな牛がいるのです。
01vaccine の語源は? vacca は「牛」
アメリカの『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』は、vaccine の語源を「ラテン語 vaccīnus(牛の)から。さらに vacca(牛)から」と説明しています。
イギリスのオックスフォードの学習辞典も同じで、語源は「18世紀後半、ラテン語 vaccinus から。vacca は『牛』」。そして理由も書いています。天然痘を防ぐために、初めは牛痘(ぎゅうとう)のウイルスが使われたからです。
牛痘は牛の病気で、乳房のあたりに発疹(ほっしん)が出ます。人にうつることもあり、うつった人は天然痘にかからなくなることがある――。この性質を使ったのが、イギリスの医師エドワード・ジェンナーでした。
021796年、乳しぼりの女性の手から
ジェンナーが1798年に出した本の題名は、An Inquiry into the Causes and Effects of the Variolæ Vaccinæ(牛痘の原因と効果についての研究)。副題には「イングランド西部のいくつかの州、特にグロスターシャーで見つかり、cow pox(牛痘)の名で知られる病気」とあります。
variolae vaccinae の variola は天然痘、vaccinae は「牛の」。直訳すると 「牛の天然痘」 です。アメリカの辞書サイト Dictionary.com は、vaccine という語はこの本の題名にある言葉から来たと説明しています。
今の目で見ると、子どもを使った危険な実験です。けれども、この記録が「牛の病気で天然痘を防ぐ」方法の出発点になりました。

03「牛の」がすべてのワクチンの名前になるまで
牛痘を植える方法は vaccination(ワクチン接種) と呼ばれるようになりました。パスツールの伝説と実像を調べた、カヴァイヨンとルグーの2022年の論文によると、この語を作ったのはジェンナーの友人の医師リチャード・ダニングで、1800年のことでした。
この時点では、vaccination はあくまで「牛痘を植えること」。名前のとおり、牛の病気を使っていたのです。
意味を大きく広げたのが、フランスの科学者ルイ・パスツールでした。パスツールは、ニワトリコレラや狂犬病などのワクチンを手がけました。そして 1881年、ロンドンの国際医学会議でニワトリコレラと炭疽(たんそ)のワクチンについて報告したとき、「私は vaccination という言葉に広い意味を与えた。これをジェンナーの功績へのささげものにしたい」という趣旨のことを述べています(同じ論文の引用による)。
こうして、牛痘とは関係のない予防接種まで、まとめて「牛の」という名前で呼ばれるようになったのです。
04牛のいとこ:vaquero と buckaroo
ラテン語の vacca は、スペイン語では vaca(バカ)=牛 になりました。そこから生まれたのが vaquero(バケーロ)、牛を追う「カウボーイ」です。
『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』によると、アメリカ西部の英語 buckaroo(バッカルー) も、この vaquero が形を変えたもの。辞書は「語源から見れば、buckaroo と vaquero は実は同じ語」と書いています。
つまり vaccine と buckaroo は、どちらも「牛」の親戚。注射とカウボーイが、ラテン語の牛でつながっているわけです。
05どんでん返し:その「牛」、じつは「馬」かもしれない
ここで話がひっくり返ります。
じつはジェンナー自身、1798年の本で、牛痘のもとは馬の病気だと考えていました。馬のかかとが腫れる「グリース(the Grease)」という病気を世話した人が、手を洗わずに牛の乳をしぼると、牛に病気がうつる。本には「こうして病気は馬から牛の乳首へ、牛から人へ進む」と書かれています。
そして現代の研究が、この話に新しい手がかりを加えました。2017年に学術誌『Vaccine』に載ったエスパルザらの論文によると、
- ジェンナーの本から150年近くのあいだ、牛痘ウイルスこそが天然痘ワクチンだと考えられていた
- ところが1939年、ワクチンのウイルス(ワクシニアウイルス)は牛痘ウイルスと近いが別ものだとわかった
- 19世紀のヨーロッパでは、牛痘を植える vaccination と並んで、馬痘を植える方法も使われていた
- 1902年にアメリカで製造された市販の天然痘ワクチンを調べたら、遺伝子が馬痘ウイルスにとてもよく似ていた
つまり、名前は「牛」なのに、中身のウイルスは「馬」の系統だったかもしれないのです。論文は、19世紀のワクチン作りでウイルスが混ざった可能性も挙げています。ワクチンのウイルスがどこから来たかは、まだ完全には決着していません。
06日本語の「ワクチン」はドイツ語から
『日本国語大辞典』は、日本語の「ワクチン」のもとの語を、英語の vaccine ではなくドイツ語の Vakzin(ヴァクツィーン) としています。用例として挙げているのは、1928年の新語辞典です。デジタル大辞泉も、ワクチンは「牝牛(めうし)の意のラテン語に由来し、牛痘の意」と説明しています。
英語で使うときは、こんな形がよく出ます。
- Have you had your flu vaccine this year?(今年はインフルエンザのワクチンを打った?)
- I got vaccinated last week.(先週ワクチンを打ったよ)
- a vaccine against measles(はしかのワクチン)。「〜を防ぐワクチン」は against を使う
07まとめ
vaccine の vacc はラテン語の「牛」。ジェンナーが牛痘で天然痘を防いだことから生まれ、パスツールがジェンナーをたたえて、ほかの予防接種の名前にも広げました。だから、インフルエンザのワクチンにも、名前の上では牛がいます。
ところが中身のウイルスは、馬の系統かもしれない――。ワクチンの名前には、200年以上の「牛と馬の物語」がつまっているのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEvery vaccine has a cow hidden in its name.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Do you know where the word "vaccine" comes from? It comes from "vacca," the Latin word for "cow." In 1796, an English doctor named Edward Jenner took some liquid from a cowpox sore on a young woman's hand.
She worked with cows on a farm. He put it into a boy's arm. Later, Jenner tested the boy with smallpox, but the boy did not get sick.
66 words ・ CEFR A2
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「vaccine(ワクチン)」という語がどこから来たか知っていますか?「牛」を意味するラテン語の「vacca」から来ています。1796年、エドワード・ジェンナーというイギリスの医師が、若い女性の手にできた牛痘のできものから液を少しとりました。
彼女は農場で牛の世話をしていました。ジェンナーはそれを男の子の腕に入れました。その後、ジェンナーが男の子に天然痘を植えて確かめても、男の子は病気になりませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
vaccine の語源(ラテン語 vacca=牛)と、それが生まれたジェンナーの話なので B。
Q2. What does the Latin word "vacca" mean?
"vacca," the Latin word for "cow." とあるので C。
Q3. In the passage, what is a "sore"?
a cowpox sore on a young woman's hand は「手にできた牛痘のできもの」。sore は皮膚の痛む所・できものなので A。
Every vaccine has a cow hidden in its name. The word comes from the Latin "vacca," meaning "cow." In 1796, the English doctor Edward Jenner took material from a cowpox sore on the hand of a dairymaid, Sarah Nelmes, and put it into the arm of a boy of about eight. About seven weeks later, he gave the boy material from a smallpox sore, and the boy stayed healthy.
In 1798, Jenner wrote about his work in a book on "variolae vaccinae," or cowpox. At first, "vaccination" meant giving people cowpox. Then, in 1881, Louis Pasteur said he had given the word a much wider meaning to honor Jenner. That is why a flu shot is still, in name, "of cows."
121 words ・ CEFR B1
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どのワクチンも、名前の中に牛が隠れている。この語は「牛」を意味するラテン語の「vacca」から来ている。1796年、イギリスの医師エドワード・ジェンナーは、乳しぼりの女性サラ・ネルムズの手にできた牛痘のできものからとったものを、8歳くらいの男の子の腕に入れた。約7週間後、彼は男の子に天然痘のできものからとったものを入れたが、男の子は健康なままだった。
1798年、ジェンナーはこの研究を「variolae vaccinae」、つまり牛痘についての本に書いた。初めのうち「vaccination」は、人に牛痘を植えることを意味していた。その後1881年に、ルイ・パスツールが、ジェンナーをたたえてこの語にずっと広い意味を与えたと述べた。だからインフルエンザの予防接種も、名前の上では今も「牛の」なのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
第1・2文の Every vaccine has a cow hidden in its name. The word comes from the Latin "vacca" が主旨なので B。
Q2. What did Louis Pasteur do in 1881?
in 1881, Louis Pasteur said he had given the word a much wider meaning とあるので C。
Q3. Why does the writer say a flu shot is "of cows"?
パスツールが vaccination の意味を広げたので、牛と無関係なワクチンにも「牛の」という名前が残っている。B。
In May 1796, Edward Jenner took fluid from a cowpox sore on the hand of a dairymaid and put it into two small cuts on the arm of a boy of about eight. On July 1, he gave the boy material from a smallpox sore. Nothing happened. Two years later, Jenner published his results in a book about "variolae vaccinae," Latin for "smallpox of cows." That phrase gave English the word "vaccine," from "vacca," meaning "cow."
The word "vaccination," coined by Jenner's friend Richard Dunning in 1800, first meant giving people cowpox, and in 1881 Louis Pasteur said he had widened it to include his own vaccines against other diseases. The cow in the name may be a little misleading, though. Jenner himself believed that cowpox started as a horse disease and passed from horses to cows to people.
In 1939, scientists showed that the virus used in smallpox vaccines was related to cowpox but not the same. A 2017 paper reported that a smallpox vaccine made for sale in the United States in 1902 was genetically very close to horsepox. So the name says "cow," but the virus may have a horse in its family tree.
197 words ・ CEFR B2
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1796年5月、エドワード・ジェンナーは乳しぼりの女性の手にできた牛痘のできものから液をとり、8歳くらいの男の子の腕につけた2本の小さな切り傷に入れた。7月1日、彼は男の子に天然痘のできものからとったものを入れた。何も起きなかった。2年後、ジェンナーは「variolae vaccinae」、ラテン語で「牛の天然痘」についての本で結果を発表した。この語句から英語の「vaccine」が生まれた。
「牛」を意味する「vacca」からである。ジェンナーの友人リチャード・ダニングが1800年に作った「vaccination」という語は、初めは人に牛痘を植えることを意味したが、1881年にルイ・パスツールは、ほかの病気に対する自分のワクチンも含むように意味を広げたと述べた。ただ、名前の中の牛は少し誤解を招くかもしれない。ジェンナー自身は、牛痘は馬の病気として始まり、馬から牛、牛から人へうつったと考えていた。
1939年、科学者たちは、天然痘ワクチンに使われていたウイルスが牛痘と近い仲間だが同じではないことを示した。2017年の論文は、1902年にアメリカで製造された市販の天然痘ワクチンが、遺伝的に馬痘にとても近かったと報告した。名前は「牛」と言っているが、ウイルスの家系図には馬がいるのかもしれない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
vaccine の語源(牛)と、ウイルスは馬の系統かもしれないという話なので B。
Q2. What did scientists show in 1939?
the virus used in smallpox vaccines was related to cowpox but not the same とあるので B。
Q3. Why does the writer call the cow in the name "a little misleading"?
the virus may have a horse in its family tree とあり、ウイルスは馬に由来するかもしれないから。C。
重要単語
- vaccineB2名詞ワクチンHave you had your flu vaccine this year?
ラテン語 vacca(牛)から。a vaccine against measles のように「〜を防ぐ」は against。 - vaccinateC1動詞ワクチンを接種するMost children are vaccinated against measles.
受け身でよく使う。get vaccinated「ワクチンを打ってもらう」。名詞は vaccination。 - cowpoxC1名詞牛痘Dairymaids sometimes caught cowpox from the cows they milked.
cow(牛)+ pox(発疹の出る病気)。ラテン語では variolae vaccinae。 - smallpoxB2名詞天然痘Smallpox killed millions of people in the past.
ラテン語の医学用語では variola。chickenpox(水ぼうそう)とは別の病気。 - immuneC1形容詞免疫があるPeople who had cowpox seemed to be immune to smallpox.
be immune to 〜「〜に免疫がある」。immune system「免疫系」もよく出る。 - dairyB1名詞・形容詞乳製品(の)、酪農(の)My uncle runs a dairy farm with fifty cows.
dairymaid は昔の「乳しぼりの女性」。diary(日記)とつづりを混同しやすい。 - coinC1動詞(新しい語を)作るWho coined the word "vaccination"?
名詞の coin(硬貨)と同じ語。coin a word / coin a phrase で「新語・言い回しを作る」。
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vaccine(ワクチン)の vacc はラテン語の vacca=牛。ジェンナーが牛痘(牛の天然痘)で天然痘を防いだことから生まれた語で、パスツールがほかの予防接種の名前にも広げた。インフルのワクチンも、名前の上では「牛の」。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「vaccine」「vaccinia」「variola」「vaquero」「buckaroo」ahdictionary.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「vaccine」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Cavaillon & Legout (2022) Louis Pasteur: Between Myth and Reality, Biomolecules 12(4)doi.org
- Esparza, Schrick, Damaso & Nitsche (2017) Equination (inoculation of horsepox): An early alternative to vaccination (inoculation of cowpox) and the potential role of horsepox virus in the origin of the smallpox vaccine, Vaccine 35(52)doi.org
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「ワクチン」(小学館、コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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