「セレンディピティ」は1754年の手紙で生まれた造語。“セレンディップ”はスリランカの古い名前

読む前に予想してみよう!
serendipity は、ラテン語やギリシャ語から自然にできた古い言葉だ
英国の作家ホレス・ウォルポールが1754年の手紙で作った造語。おとぎ話『セレンディップの三人の王子』にちなみ、セレンディップはスリランカの古い名前。
- 対象
- 18世紀の手紙と辞書の語源記述
- 規模
- 1754年1月28日の手紙1通+辞書・研究書
- 研究の種類
- 歴史的な用例調査・辞書の照合
- 確かさ
- ★★★★☆
serendipity(思いがけない発見)は、作家ウォルポールが1754年の手紙で作った言葉。もとはスリランカの古い名前が出てくるおとぎ話だった。
ひとことで言うと「セレンディピティ」は、270年ほど前に1人の作家が手紙で作った言葉!
探していないものを、たまたま見つける。そんな「思いがけない幸運な発見」を、英語で serendipity(セレンディピティ) と言います。日本語でも、カタカナで「セレンディピティ」と言いますね。
ところがセレンディピティの語源をたどると、昔から自然にあった言葉ではないことが分かります。1754年1月28日、イギリスの作家ホレス・ウォルポールが、友人への手紙の中で作った言葉です。
しかも元になったのは、本人いわく「くだらないおとぎ話」。その舞台の「セレンディップ」は、スリランカの古い名前でした。
01セレンディピティの意味は?
まずは辞書で意味を確かめましょう。
- オックスフォードの学習辞典:何かおもしろいこと・うれしいことが偶然起きること
- アメリカの辞書 AHD:偶然に幸運な発見をする能力。また、そうした発見そのもの
形容詞は serendipitous(偶然の、思いがけず幸運な)です。
- Finding that old photo in a library book was pure serendipity.(図書館の本からあの古い写真が出てきたのは、まったくの偶然の幸運だった)
- It was a serendipitous meeting.(それは思いがけない、うれしい出会いだった)
021754年1月28日、友人への手紙で生まれた
言葉を作ったホレス・ウォルポール(1717〜1797年)は、イギリスの作家です。AHD によると、手紙や回想録で当時のようすを伝え、1764年の小説『オトラント城』でゴシック小説というジャンルを広めた人物です。
1754年1月28日、ウォルポールは友人のホレス・マンに手紙を書きました。マンから贈られた、ビアンカ・カペッロ(メディチ家のトスカーナ大公の妃)の肖像画のお礼です。額縁には、メディチ家とカペッロ家の紋章を飾るつもりでした。
その手紙で、ウォルポールはちょっとした自慢をします。ヴェネツィアの家々の紋章を集めた古い本をめくっていたら、カペッロ家の紋章に、メディチ家ゆかりの印が加わったものを見つけた。これは大公家と結ばれた記念にちがいない――という発見です。
そして、こう続けます。この発見は、わたしが「セレンディピティ」と呼んでいるものに近い、と。
03元ネタは「右目の見えないラバ」の推理
ウォルポールが紹介したのは、『セレンディップの三人の王子(The Three Princes of Serendip)』というおとぎ話。本人は「a silly fairy tale(くだらないおとぎ話)」と呼んでいます。
王子たちは旅の途中、探してもいないものを、偶然と賢さ(accidents and sagacity)によって次々に見つけていきます。手紙に書かれた例はこうです。
道の左側の草だけが食べられていた。左側の草は、右側の草よりまずい。だから、右目の見えないラバが最近この道を通ったにちがいない。
おいしい右側の草が見えていれば、そちらを食べたはず。小さな手がかりから、見たこともないラバの姿を言い当てたわけです。

では「セレンディップ」とはどこか。AHD の語源欄によると、ペルシャ語でスリランカを指す Sarandīp から。その前はアラビア語の Sarandīb で、もとをたどるとサンスクリット語の Siṃhaladvīpaḥ(シンハラの島) に行き着きます。セレンディピティの「セレンディップ」は、スリランカのことだったのです。
04どんでん返し:本来は「ただのラッキー」ではなかった
今の学習辞典は、serendipity を「偶然起きること」と説明しています。でも、ウォルポールの手紙を読むと、もともとの意味は少しちがいます。
1つ目は、偶然だけでなく「賢さ」も入っていること。ウォルポールは accidents and sagacity(偶然と賢さ)、さらに accidental sagacity(偶然の中の賢さ)と書いています。草の食べあとに気づいて推理する力がなければ、ラバのことは分かりません。
2つ目は、探していたものを見つけても、セレンディピティとは呼ばないこと。ウォルポールはわざわざ、「探しているものの発見は、これに当てはまらない」と念を押しています。
日本の『図書館情報学用語辞典』も、セレンディピティはすべてが偶然や幸運によるのではなく、気づくための知識や集中力、観察力、洞察力が必要だと説明しています。「たまたまラッキー」だけでは、本来のセレンディピティにならないのです。
なお、この語の歩みは、社会学者マートンとバーバーが本1冊にまとめています。出版社によると、この本は1950年代に書かれたのに、長いあいだわざと出版されませんでした。英語版がプリンストン大学出版局から出たのは2004年です。セレンディピティを調べた本そのものが、何十年も世に出なかったのです。
05まとめ
serendipity は、1754年の冬、ウォルポールが友人への手紙で作った言葉でした。名前のもとは、スリランカの古い名前「セレンディップ」です。
本来の意味は「偶然」と「賢さ」のセットでした。ウォルポールの考えでは、思いがけない発見も、小さな手がかりに気づく目があってこそセレンディピティになるのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOn January 28, 1754, the English writer Horace Walpole wrote to his friend Horace Mann.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Serendipity means finding something good when you are not looking for it. It is not a very old word. A British writer, Horace Walpole, made it up in 1754. He used it in a letter to a friend.
The idea came from a fairy tale about three princes from Serendip. Serendip is an old name for Sri Lanka. In the story, the princes find things by chance, but they are also very clever.
73 words ・ CEFR A2
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セレンディピティとは、探していないときに何かよいものを見つけることです。これはあまり古い言葉ではありません。イギリスの作家ホレス・ウォルポールが1754年に作りました。彼はそれを友人への手紙の中で使いました。
この言葉のもとになったのは、セレンディップから来た三人の王子のおとぎ話です。セレンディップはスリランカの古い名前です。物語の中で、王子たちは偶然にものを見つけますが、とても賢くもあるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
serendipity という語をだれがいつ、何から作ったかの話なので B。
Q2. When did Horace Walpole make up the word?
made it up in 1754 とあるので C。
Q3. What is "Serendip"?
Serendip is an old name for Sri Lanka. とあるので B。
On January 28, 1754, the English writer Horace Walpole wrote to his friend Horace Mann. He was thanking Mann for a painting, and he mentioned a small discovery he had made while looking through an old book of family coats of arms. He said it was almost the kind of thing he called "serendipity."
Then he explained where the word came from. He had once read a fairy tale, which he called silly, about three princes of Serendip, an old name for Sri Lanka. On their travels, the princes kept discovering things they were not looking for. In one example, one of them figured out that a mule blind in its right eye had walked down a road, because only the grass on the left side had been eaten.
129 words ・ CEFR B1
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1754年1月28日、イギリスの作家ホレス・ウォルポールは友人のホレス・マンに手紙を書いた。彼はマンに絵のお礼を述べ、家々の紋章を集めた古い本をめくっていて見つけた、小さな発見のことを書いた。彼はそれを、自分が「セレンディピティ」と呼んでいるものに近いと言った。
それから彼は、その言葉がどこから来たのかを説明した。彼は以前、スリランカの古い名前であるセレンディップの三人の王子についてのおとぎ話を読んだことがあり、それを「くだらない」と呼んでいた。旅の途中、王子たちは探していないものを次々に見つけた。ある例では、王子の1人が、道の左側の草だけが食べられていたことから、右目の見えないラバがその道を歩いていったことを見抜いた。
4択リーディングクイズ
Q1. Why was Walpole writing to Horace Mann?
He was thanking Mann for a painting とあるので B。
Q2. How did the princes know that the mule was blind in its right eye?
because only the grass on the left side had been eaten とあるので C。
Q3. What can we guess about Walpole's opinion of the fairy tale?
which he called silly とおとぎ話を低く見ながらも、言葉の説明に使っているので B。
Many dictionaries today define serendipity as something good that happens by chance. The man who invented the word had a narrower idea in mind. Horace Walpole coined it in a letter dated January 28, 1754, after spotting an unexpected detail in an old book of Venetian coats of arms. To explain it, he retold a fairy tale he had once read about three princes of Serendip, an old name for Sri Lanka.
The princes kept finding things "by accidents and sagacity." In one scene, one of them worked out that a mule blind in its right eye had passed by, because only the poorer grass on the left side of the road had been eaten. For Walpole, luck was only half of it.
You also needed the sharpness to read a small clue, and he added that finding something you were looking for did not count. A Japanese dictionary of library and information science makes a similar point. It says serendipity also takes knowledge, focus and the ability to observe. The sociologists Robert Merton and Elinor Barber traced the word's history in a book written in the 1950s. It did not come out in English until 2004.
197 words ・ CEFR B2
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今日の多くの辞書は、セレンディピティを偶然に起こるよいことと定義している。だが、この語を考え出した人は、もっと狭い意味を考えていた。ホレス・ウォルポールは、ヴェネツィアの紋章を集めた古い本の中に思いがけない細部を見つけたあと、1754年1月28日付の手紙でこの語を作った。説明のために彼は、以前読んだ、スリランカの古い名前であるセレンディップの三人の王子のおとぎ話を語り直した。
王子たちは「偶然と賢さによって」次々にものを見つけた。ある場面では、王子の1人が、道の左側のまずいほうの草だけが食べられていたことから、右目の見えないラバが通ったことを見抜いた。ウォルポールにとって、運は半分にすぎなかった。
小さな手がかりを読み取る鋭さも必要で、さらに彼は、探していたものを見つけてもセレンディピティには入らないと付け加えた。日本の図書館情報学の用語辞典も同じような点を挙げている。セレンディピティには知識や集中力、観察力も必要だというのだ。社会学者のロバート・マートンとエリノア・バーバーは、1950年代に書いた本の中で、この語の歴史をたどった。その本が英語で出版されたのは2004年になってからだった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
The man who invented the word had a narrower idea in mind. と述べ、偶然だけでなく賢さも必要だったと説明しているので B。
Q2. According to Walpole, which of these would NOT count as serendipity?
he added that finding something you were looking for did not count とあるので、探していた鍵を見つけるのは当てはまらない。C。
Q3. Why does the writer mention the Japanese dictionary?
serendipity also takes knowledge, focus and the ability to observe とあり、運だけでなく力も必要だという考えを支える例なので B。
重要単語
- serendipityC1名詞思いがけない幸運な発見(をする力)Finding that old photo in a library book was pure serendipity.
ふつうは数えられない名詞(学習辞典では uncountable)。pure serendipity「まったくの偶然の幸運」。強勢は -dip- に置く。 - serendipitousC1形容詞偶然の、思いがけず幸運なOur meeting at the station was serendipitous.
a serendipitous discovery「思いがけない発見」の形で、研究の話によく出る。 - coinC1動詞(新しい語を)作り出すWalpole coined the word in a letter to a friend.
名詞の coin(硬貨)と同じつづり。「硬貨を鋳造する」から「言葉を作る」の意味に。 - sagacityC2名詞鋭い判断力、賢さIt takes sagacity to notice a small clue.
ウォルポールが serendipity の説明に使った語。形容詞は sagacious(賢明な)。 - by accidentB1熟語偶然にI found the answer by accident.
by chance も同じ意味。反対は on purpose(わざと)。 - fairy taleB1名詞おとぎ話My grandmother told me a fairy tale about three princes.
fairy(妖精)+tale(話)。比喩で「夢のような話」の意味にもなる。 - make upB1句動詞(話・言葉を)作り出す、でっち上げるChildren love to make up new words.
make up a story「話を作る」。過去形は made up。coin よりくだけた言い方。
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- serendipitous(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
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「セレンディピティ(思いがけない発見)」は、英国の作家ウォルポールが1754年の手紙で作った言葉。元ネタは本人いわく「くだらないおとぎ話」。セレンディップはスリランカの古い名前で、もとは「偶然+賢さ」の意味だった。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- Walpole, H. Letter to Sir Horace Mann, Jan. 28, 1754, in The Letters of Horace Walpole, Earl of Orford, Vol. 2 (Letter 90)(Project Gutenberg #4610)gutenberg.org
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「serendipity」(語源・Word History)・「Walpole, Horace」ahdictionary.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「serendipity」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Dictionary.com「serendipity」(Etymology)dictionary.com
- Merton, R. K. & Barber, E. (2011) The Travels and Adventures of Serendipity, Princeton University Press(電子版。英語版の初版は2004年)doi.org
- 『図書館情報学用語辞典 第5版』「セレンディピティ」(丸善出版、コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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