「colonel」に r はないのに“カーネル”。昔のつづり coronel の発音が残っていた

読む前に予想してみよう!
英語の colonel(大佐)は、つづりのとおり「コロネル」と発音する
発音はアメリカ英語で /ˈkɜːrnl/、イギリス英語で /ˈkɜːnl/。kernel(穀物の粒)と同じ音。昔のつづり coronel の発音が残った。
- 対象
- 16〜17世紀の英語とフランス語・イタリア語からの借用
- 規模
- 1540〜50年ごろの初出から17世紀半ばまで
- 研究の種類
- 辞書の語源記述の照合(英語史)
- 確かさ
- ★★★★☆
colonel(大佐)を「カーネル」と読むのは、昔 colonel と coronel の2つの形があり、発音は coronel、つづりは colonel が残ったから。
ひとことで言うとcolonel を「カーネル」と読むのは、昔の形 coronel のなごり!
もくじ
日本でもおなじみの「カーネル・サンダース」。この「カーネル」を英語で書くと、こうなります。
colonel
r はどこにもありません。むしろ l が2つもあります。ローマ字読みなら「コロネル」です。それなのに、英語の発音はアメリカ英語で /ˈkɜːrnl/、つまり kernel(穀物の粒)とまったく同じ音です。
じつはこれ、16〜17世紀の英語に colonel と coronel という2つの形があり、発音とつづりで「勝ったほう」がちがったために起きたズレなのです。
01colonel は「小さな隊列」だった
colonel は、陸軍や空軍の大佐のこと(ケンブリッジの英和辞典)。アメリカの辞書 AHD によると、アメリカ陸軍などで lieutenant colonel のすぐ上、brigadier general のすぐ下の階級です。
この単語のふるさとはイタリアです。辞書の語源欄をつなぐと、こうなります。
- ラテン語 columna(柱)
- → イタリア語 colonna(柱;兵士の縦の列)
- → イタリア語 colonnello(colonna に「小さい」を表す語尾がついた形)
- → フランス語 → 英語 colonel
英語の column(縦の列、円柱)も、同じラテン語 columna から来た、いわば親戚です(AHD)。
Dictionary.com(ランダムハウス英語辞典)によると、colonel という名前は、この役職の士官が連隊の最初の縦隊(column)を率いていたことから来ています。英語での初出は1540〜50年ごろです。
02なぜ「カーネル」と発音する? 16世紀の英語には「2つの colonel」があった
Dictionary.com の発音の注記によると、英語はフランス語から、同じ単語の2つの形を借りました。
- colonel:l を2回発音する形
- coronel:最初の l が r に変わった形
Oxford の学習辞典も、英語の colonel はフランス語の coronel(colonel の古い形で、今は使われない)から来たと書いています。そしてこの coronel こそが今の発音のもとで、17世紀の半ばまではこちらがふつうの形だったといいます。
2つの形はしばらく競り合いました。その結果、
- 発音では、r の入った coronel 側が勝った
- つづりでは、colonel が標準になった
こうして「つづりは colonel、発音は“カーネル”」という、ちぐはぐな組み合わせが残りました。Dictionary.com はこれを、英語のつづりが気まぐれに見える理由の1つを示す例として挙げています。
03l が r に変わる「異化」という変化
では、そもそもなぜ l が r に変わったのでしょう。
Dictionary.com は、coronel を異化(dissimilation)の結果だと説明しています。異化とは、1つの単語の中に同じような音が2回出てくるとき、片方を別の音に変えてしまう変化のことです。
colonel には l が2回出てきます。そのうち最初の l が r に変わって、coronel になったわけです。日本語では l と r を区別しないのでピンときにくいのですが、英語やフランス語ではまったく別の音です。
r と l の入れかわりは、ほかの英単語の歴史にも見られます。AHD の語源欄から2つ紹介します。
- pilgrim(巡礼者):ラテン語 peregrīnus(よそ者)が、後期ラテン語で pelegrīnus に変わった形から。こちらは r が l に
- marble(大理石):中英語では marbre とも書いた。古フランス語 marbre、ラテン語 marmor から。今の英語では最後の r が l に
スペイン語の coronel は、フランス語の colonel から来たと RAE の辞書は書いています。スペイン語は r の形を、つづりごと選んだことになります。

04つづりだけ「元の言葉」に寄せる、英語のクセ
発音はそのままで、つづりだけが変わる。英語では、これはそれほど珍しくありません。
たとえば debt(借金)。b は読みません。Oxford によると、中英語では dette と書いていました。ところが、もとのラテン語 debitum(借りているもの)に引っぱられて、フランス語でも英語でも、つづりが b の入った形に変わったのです。発音は dette のままでした。
colonel も、今のつづりはイタリア語の colonnello と同じく l を2つ持っています。発音は coronel のまま、つづりは元の言葉に近い形。debt とよく似た「ちぐはぐ」です。
05colonel のまわりの英語
colonel を覚えたら、まわりの単語もいっしょに押さえておきましょう。
- lieutenant colonel:colonel のすぐ下の階級。lieutenant は、フランス語の lieu tenant(場所を預かる)という言い方から来ています(Dictionary.com)。しかも発音は、アメリカ英語で /luːˈtenənt/、イギリス英語では /lefˈtenənt/(レフテナント)(Oxford)。こちらも、つづりと音がずれています
- Kentucky colonel:アメリカのケンタッキー州が贈る名誉称号。軍の階級ではありません(AHD・Dictionary.com)
- kernel:colonel と同じ発音(Oxford)。でも語源は古英語の cyrnel で、まったく別の単語です(AHD)
ケンタッキー州務長官の公式サイトによると、ケンタッキー・カーネルの任命は、州知事が署名する行政命令によって行われます。ニューハンプシャー大学ポール・カレッジの起業家紹介ページによると、ハーランド・サンダースがこの称号を受けたのは1935年、当時の州知事ルビー・ラフーンからでした。日本で「カーネル・サンダース」と呼ばれているのは、軍の階級ではなく、この名誉称号の colonel なのです。
06どんでん返し:なぜつづりだけ colonel に戻ったのかは、よく分からない
ここまでの話で、まだ答えが出ていない問いがあります。なぜつづりは、17世紀半ばまでふつうだった coronel ではなく、colonel に落ち着いたのか、です。
今回調べた辞書は、そこまでは書いていません。Dictionary.com も「しばらく競り合った末に」と書くだけです。イタリア語の colonnello に近いつづりが好まれた、と考えたくなりますが、それを示す資料は今回は確かめられませんでした。
もう1つ注意したいのは、イギリス英語では r を発音しないことです。Oxford の発音記号はイギリス英語が /ˈkɜːnl/。「r が残った」と言えるのは、正確には /ˈkɜːrnl/ と r を響かせるアメリカ英語の方です。
07まとめ
colonel を「カーネル」と読むのは、英語の“気まぐれ”ではありません。16世紀にフランス語から colonel と coronel の2つの形が入り、発音は coronel、つづりは colonel がそれぞれ勝ち残った結果でした。
次に「カーネル」という言葉を見かけたら、そのうしろに「小さな隊列」を率いた士官と、消えたつづり coronel が隠れていることを思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe word "colonel" names a high-ranking army officer, and it sounds exactly like "kernel." Its story starts…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
An army officer called a "colonel" has a strange name. The word is spelled with two l's, but it sounds just like "kernel."
Why is that? In the 1500s, English took two forms of the word from French. One was "colonel." The other was "coronel," with an r. Until the middle of the 1600s, people usually used "coronel." In the end, English kept the spelling "colonel" but the sound of "coronel."
71 words ・ CEFR A2
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「colonel(大佐)」と呼ばれる軍の士官は、変わった名前をしています。この単語は l を2つ使ってつづるのに、発音は「kernel」とまったく同じです。
なぜでしょう。1500年代に、英語はこの単語の2つの形をフランス語から取り入れました。1つは「colonel」。もう1つは r の入った「coronel」でした。1600年代の半ばまで、人々はたいてい「coronel」を使っていました。最終的に英語は、「colonel」というつづりと、「coronel」の音を残したのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
colonel が kernel と同じ発音になる理由を説明しているので B。
Q2. Until when did people usually use "coronel"?
Until the middle of the 1600s, people usually used "coronel." とあるので B。
Q3. In the passage, "kept" is closest in meaning to ...
keep は「持ち続ける、残す」。English kept the spelling は「つづりを残した」なので C の held on to。
The word "colonel" names a high-ranking army officer, and it sounds exactly like "kernel." Its story starts in Italy. The Italian word "colonnello" came from "colonna," a column of soldiers, and the officer got the name because he led the first column.
French passed the word on to English in the mid-1500s in two forms. One kept both l's. In the other, "coronel," the first l had changed to r. Until the middle of the 1600s, "coronel" was the usual form.
Then the spelling "colonel" took over, but people went on saying the word the old way. Spanish made a different choice. Its word for this rank is still "coronel."
110 words ・ CEFR B1
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「colonel」という単語は軍の高い階級の士官を指し、発音は「kernel」とまったく同じだ。その物語はイタリアから始まる。イタリア語の「colonnello」は「colonna(兵士の縦の列)」から来ていて、その士官は最初の縦隊を率いていたためにこの名がついた。
フランス語は1500年代半ばに、この単語を2つの形で英語に伝えた。1つは l を2つとも残していた。もう1つの「coronel」では、最初の l が r に変わっていた。1600年代の半ばまでは「coronel」がふつうの形だった。
その後「colonel」というつづりが取って代わったが、人々は古い言い方のまま発音し続けた。スペイン語は別の道を選んだ。この階級を表すスペイン語は今も「coronel」だ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
colonel のつづりと発音がどうしてずれたかを説明しているので B。
Q2. Why was the officer called "colonnello" in Italian?
the officer got the name because he led the first column とあるので C。
Q3. What does "Spanish made a different choice" suggest?
直後に Its word for this rank is still "coronel." とあり、スペイン語はつづりにも r を残したと分かるので A。
If you read "colonel" letter by letter, you get something like "ko-lo-nel." The real pronunciation is the same as "kernel." Dictionary.com uses the word as an example of spelling and sound going separate ways. It comes from the Italian "colonnello," the title of the officer who led the first column of a regiment.
When it reached English through French in the mid-1500s, it came in two forms. One had two l's. In the other, the first l had turned into r, a change called dissimilation. It happens when a word has two similar sounds and one of them shifts to something different.
According to Oxford, "coronel" was the usual form until the mid-1600s, and it gave us the modern pronunciation. The spelling "colonel" won in the end, though none of these dictionaries explains why. English has done something similar with other words.
"Debt" was once spelled "dette," and its b was added to match the Latin word "debitum," while the sound stayed the same. Spanish went the other way and spells its word for the rank "coronel."
177 words ・ CEFR B2
和訳を見る
「colonel」を1文字ずつ読むと、「コ・ロ・ネル」のようになる。本当の発音は「kernel」と同じだ。Dictionary.com はこの単語を、つづりと音が別々の道を進んだ例として挙げている。語源はイタリア語の「colonnello」で、連隊の最初の縦隊を率いた士官の呼び名だった。
1500年代半ばにフランス語を通じて英語に入ったとき、この語は2つの形でやってきた。1つは l が2つある形。もう1つは、最初の l が r に変わった形で、この変化を異化という。1つの単語に似た音が2つあり、そのうちの1つが別の音に変わるときに起きる。
Oxford によると、「coronel」は1600年代半ばまでふつうの形で、これが今の発音のもとになった。最終的につづりは「colonel」が勝ったが、その理由はどの辞書にも書かれていない。英語はほかの単語でも似たことをしている。
「debt」はかつて「dette」とつづられていたが、ラテン語の「debitum」に合わせて b が加えられ、音は同じままだった。スペイン語は逆の道を選び、この階級を表す語を「coronel」とつづる。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
colonel のつづりと発音が分かれた経緯を説明しているので A。
Q2. According to the passage, what is dissimilation?
It happens when a word has two similar sounds and one of them shifts to something different. とあるので C。
Q3. Why does the writer mention the word "debt"?
debt は b が加えられたが音は同じままだった例で、colonel と同じく「つづりだけ変わった」例として挙げているので B。
重要単語
- colonelB2名詞(陸軍・空軍の)大佐The colonel gave orders to his officers.
発音は kernel と同じ /ˈkɜːrnl/。名前の前では Colonel Smith のように大文字。略は Col.。 - columnB1名詞縦の列;円柱;(新聞の)コラムThe soldiers marched in a long column.
colonel と同じくラテン語 columna から。n は読まない(カラム)。 - kernelC1名詞(穀物・木の実の)粒、仁;核心A popcorn kernel pops when it gets hot.
colonel と同じ発音の同音異義語。語源は古英語の cyrnel で、colonel とは無関係。 - pronunciationB1名詞発音The pronunciation of "colonel" surprises many learners.
動詞 pronounce とつづりがちがう(-nounce → -nunci-)点に注意。 - borrowA2動詞借りる;(言葉を)取り入れるEnglish borrowed many words from French.
言語学では「借用する」。借りた語は loanword(借用語)。 - silentB1形容詞静かな;(文字が)発音されないThe "b" in "debt" is silent.
silent letter「黙字」。knife の k、debt の b など。 - rankB2名詞階級、地位A colonel has a higher rank than a major.
動詞では「順位をつける」。rank high「上位に入る」。
公式・一次情報をチェック
- colonel(Cambridge English–Japanese Dictionary)dictionary.cambridge.org
- Executive Journal(Kentucky Secretary of State)sos.ky.gov
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カーネル・サンダースの「カーネル」は colonel。r がないのに“カーネル”と読むのは、16世紀に colonel と coronel の両方が入り、発音は coronel、つづりは colonel が勝ったから。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- Oxford Advanced Learner's Dictionary "colonel"(Word Origin・発音・Homophones)oxfordlearnersdictionaries.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.(HarperCollins)"colonel"ahdictionary.com
- Dictionary.com(Random House Unabridged)"colonel"(Pronunciation の注記・Origin)dictionary.com
- Real Academia Española, Diccionario de la lengua española "coronel"dle.rae.es
- Kentucky Secretary of State「Executive Journal」(Kentucky Colonel commissions are authorized by executive orders signed by the governor)sos.ky.gov
- University of New Hampshire, Paul College「Harland "Colonel" Sanders」(1935年、ルビー・ラフーン知事から名誉称号)paulcollege.unh.edu
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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