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英語のマジか!?ホント

英語の name は昔「ナーメ」、house は「フース」。イギリス北部では今も「フース」

英語の name は昔「ナーメ」、house は「フース」。イギリス北部では今も「フース」

読む前に予想してみよう!

北イングランドとスコットランドでは、長い母音がどれも動かず、time も今も「ティーム」に近い

研究カード(どんな研究?)
対象
北イングランドの方言(1950〜1961年の調査、地図帳で80地点)と、スコットランド語の古い文書
規模
33語の方言地図・中世の綴りと韻
研究の種類
方言地理学・文献による音の歴史の研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

中世の英語の name は「ナーメ」、house は「フース」に近い音だった。長く伸ばす母音がそろって動いた「大母音推移」で、今の音になった。ところが北イングランドとスコットランドでは、time の「イー」は「アイ」に変わったのに、house の「ウー」は変わらなかった。

ひとことで言うと昔の英語の name や time は、ローマ字読みに近い音だった。イギリス北部では house を今も「フース」に近く言う!

もくじ
  1. 中世の英語は「ローマ字読み」に近かった
  2. 長い母音が、そろって1段ずつ上へ
  3. 北では house が動かなかった
  4. 手がかりは goose と moon。北では13世紀に先に動いていた
  5. 反論:南と北で別々の変化だった?
  6. まとめ
  7. もっと知りたい人へ
  8. よくある質問

name(名前)、time(時間)、house(家)。中学1年で習う単語です。

ところが700年ほど前(1300年ごろ)のイングランドでは、name は「ナーメ」、time は「ティーム」、house は「フース」に近い音でした。name や time は、つづりをローマ字のように読むと、当時の発音にかなり近くなります。

そしてイングランドの北のはずれやスコットランドでは、house の母音は今も「フース」に近いまま。なぜ北では動かなかったのか。そこに、英語史の100年以上続く謎を解く手がかりがあります。

01中世の英語は「ローマ字読み」に近かった

スコットランド語の辞典『Dictionaries of the Scots Language』の歴史解説(言語学者マカフィーとエイトキンの執筆)は、中世の英語の name を /naːmə/ と書いています。「ナー」と長く伸ばし、最後の e も弱い「ェ」として読む音です。

ロンドンなど南のイングランドの英語で、ほかの単語も並べてみます。

| 単語 | 中世の母音 | 中世の発音(目安) | 今の発音 ||---|---|---|---|| time | 長い「イー」 | ティーム | タイム || sheep | 長い「エー」 | シェープ | シープ || name | 長い「アー」 | ナーメ | ネイム || moon | 長い「オー」 | モーン | ムーン || house | 長い「ウー」 | フース | ハウス |

(表の読みは、母音を比べるための目安です。語末の弱い e は、name 以外では省いています。)

表を縦に見てください。長い母音がほぼ全部、別の音に変わっています。こうした変化は1つずつばらばらに起きたのではなく、互いにつながった一続きの変化と考えられてきました。これを 大母音推移(だいぼいんすいい。英語で Great Vowel Shift)と呼びます。

つづりは古い形のまま残り、母音だけが動きました。英語のつづりと発音がずれている理由の一つです。つづりが古い形のまま固まった事情は knight の k の記事 で紹介しています。

02長い母音が、そろって1段ずつ上へ

母音には「高さ」があります。口を大きく開ける「ア」が低い母音、口をせまくする「イ」「ウ」が高い母音です。

マカフィーらの解説によると、イングランドの中部と南部では、14〜15世紀に大母音推移が始まりました。動き方を並べるとこうなります。

  • 前の母音(舌の前のほうで出す母音):「エー」は「イー」へ(sheep)。「アー」は「エー」に近い音へ、のちに「エイ」へ(name)
  • 後ろの母音(舌の後ろのほうで出す母音):「オー」は「ウー」へ(moon)
  • いちばん上の「イー」と「ウー」:上がる代わりに、二重母音(にじゅうぼいん。「アイ」のように、途中で音色が変わる母音)になった。time の「イー」は「アイ」へ、house の「ウー」は「アウ」へ

変化には長い時間がかかりました。2014年の論文が、1500〜1700年の英語の発音を調べたドブソンの研究書(1968年の第2版)などをもとにまとめたところでは、name の「アー」が上がり始めたのは15世紀。17世紀に「エー」が現れて18世紀にはそれが標準になり、今の「エイ」の形になったのは1800年ごろです。

03北では house が動かなかった

プリチャードの地図で「ウー」が残っていたのは、ノーサンバーランド、カンバーランドとウェストモーランドの北部、ヨークシャーの東部、リンカンシャーの北部の一部。おおよそ、西のリブル川と東のハンバー川の河口を結んだ線より北です。この線は リブル=ハンバー線と呼ばれ、昔から北と南の方言を分ける境目として知られています。

国境の北のスコットランド語(スコットランドで話される、英語ときょうだいの言葉)も同じです。マカフィーらによると、スコットランド語では後ろの長い母音は大母音推移で動きませんでした。一方で、前の長い母音は15〜16世紀に動き、time のような「イー」も二重母音になりました。

スコットランド語の辞典『Scottish National Dictionary』は、house のスコットランド語の形として hoose を、スコットランド全体で使われるつづりとしてあげています。2004年のエディンバラの用例はこうです。

  • Oor hoose is up a stair oan the second flair.(うちは階段を上がった3階です)

our が oor、on が oan、floor が flair。house は hoose です。

つまり北では、大母音推移のうち、前の母音の変化は起きたのに、後ろの母音の変化はほとんど起きなかったことになります。

house の母音が「ウー」のまま残ったのは、おおよそ西のリブル川と東のハンバー川を結ぶ線より北(Prichard 2014 の地図による)
house の母音が「ウー」のまま残ったのは、おおよそ西のリブル川と東のハンバー川を結ぶ線より北(Prichard 2014 の地図による)

04手がかりは goose と moon。北では13世紀に先に動いていた

なぜ北では house の母音が取り残されたのか。この問いは、大母音推移が「どの母音から動き始めたか」という大論争につながっています。

主な説は2つです。

  • 引き上げ説(drag chain):デンマークの言語学者イェスペルセンが1909年に唱えた。まず一番上の「イー」「ウー」が二重母音になって空きができ、その空きに下の母音が順に上がっていった
  • 押し上げ説(push chain):英語学者ルイックが1896年に唱えた。まず中ほどの「エー」「オー」が上がり、上にいた「イー」「ウー」を押し出した

ルイックの考えはこうです。もし一番上の母音から動き始めたのなら、北で time は二重母音になったのに house はならなかった理由を説明できない。そこで注目したのが、house の母音のすぐ下にいた goose や moon の母音(長い「オー」)です。

北では、この「オー」が大母音推移より前に、前の母音へ移っていました。マカフィーらの解説によると、この変化は13世紀の後半。北イングランドの文書では1296年から、つづりにその証拠が出てきます。スコットランド語で good が gude、moon が muin とつづられるのは、この変化のなごりです。

こうなると、北の house の「ウー」の下は空いています。押し上げる母音がいないので、「ウー」は押し出されずにその場に残った――というのが押し上げ説の説明です。マカフィーらも、スコットランド語の後ろの母音には押し上げの圧力がなかったと書いています。

北イングランドやスコットランドで house が今も「フース」に近いのは、すぐ下にいた goose の母音が、13世紀のうちに前へ移っていたから――そう説明されているのです。

プリチャードの地図でも、goose や moon の母音が前に移った地域の境目は、リブル=ハンバー線にほぼ沿っていました。論文はこの重なりを、押し上げ説を支持する証拠と見ています。

05反論:南と北で別々の変化だった?

ここまでの話は、きれいに見えます。でも、言語学者の意見はそろっていません。

まず、北には「つじつまの合わない」地域もあります。プリチャードの地図には、goose の母音が前に移っているのに、house の母音が二重母音になっている帯状の地域がありました。こうした例は、ルイックの説や、大母音推移を1つのつながった変化と見る考えそのものを疑う材料として、以前から使われてきました。プリチャードは、これを大母音推移のあとに南から発音が広まった結果と解釈しています。

次に、大母音推移という見方そのものへの批判です。プリチャードによると、ストックウェルとミンコヴァは1988年、方言ごとに変化の進み方が違うことなどを挙げ、大母音推移を「言語学者があとから作り上げたもの」とまで批判しました。スミスは2007年の本で、北と南で別々の推移が起き、それぞれ違うきっかけがあったという説を出しています。プリチャードは、その根拠は弱いと反論しています。

そして一番の謎、そもそもなぜ長い母音がそろって動いたのか。プリチャードの論文は、原因・順番・しくみのどれについても、100年以上の議論で一致した答えは出ていないと書いています。

06まとめ

name は「ナーメ」、time は「ティーム」、house は「フース」。中世の英語の name や time は、つづりをローマ字のように読んだ音に近いものでした。そこから長い母音がそろって動き、今の英語の音ができました。

ただ、北では house の母音が動きませんでした。その理由として、すぐ下の goose の母音が13世紀に先に移っていたことがあげられています。北の方言の「フース」は、大母音推移がどの母音から始まったかを考える手がかりになっているのです。

07もっと知りたい人へ

  • 大母音推移(Great Vowel Shift):15世紀前後から数百年かけて、英語の長い母音が1段ずつ上がり、いちばん上の母音が二重母音になった一連の変化
  • 連鎖推移(chain shift):押し上げ(push chain)と引き上げ(drag chain)の2つの考え方がある
  • 北部の前舌化(Northern fronting / ME /oː/-fronting):北イングランドとスコットランドで、13世紀に goose・moon の長い「オー」が前の母音に移った変化
  • リブル=ハンバー線(Ribble–Humber line):北イングランドの方言を南と分ける、たくさんの方言の境目が重なった線
  • 文献:Luick (1896) Untersuchungen zur englischen Lautgeschichte / Jespersen (1909) A Modern English Grammar on Historical Principles, vol. 1 / Stockwell & Minkova (1988) "The English Vowel Shift: problems of coherence and explanation" / Smith (2007) Sound Change and the History of English / Prichard (2014) "Northern dialect evidence for the chronology of the Great Vowel Shift", Journal of Linguistic Geography 2

よくある質問

大母音推移とは何ですか?

英語の長い母音がほぼ全部、別の音に変わった変化を、一続きのものとしてとらえた呼び名です。英語では Great Vowel Shift と言います。たとえば name は「ナーメ」から「ネイム」へ、house は「フース」から「ハウス」へ変わりました。

大母音推移はいつ起きたのですか?

イングランドの中部と南部では、14〜15世紀に始まりました。変化には長い時間がかかり、name の「アー」は15世紀に上がり始め、今の「エイ」の形になったのは1800年ごろです。

英語のつづりと発音がずれているのはなぜですか?

理由の一つが大母音推移です。つづりは古い形のまま残り、母音だけが動きました。そのため name、time、moon のつづりは、中世の発音に近い形を今も残しています。

大母音推移で、母音はどう変わったのですか?

長い母音が1段ずつ上がりました。「エー」は「イー」へ(sheep)、「オー」は「ウー」へ(moon)。いちばん上の「イー」と「ウー」は二重母音になり、time は「アイ」、house は「アウ」になりました。

なぜ大母音推移が起きたのですか?

はっきりした答えは出ていません。プリチャードの2014年の論文は、原因・順番・しくみのどれについても、100年以上の議論で一致した答えは出ていないと書いています。

押し上げ説と引き上げ説の違いは何ですか?

どの母音から動き始めたかの違いです。引き上げ説(イェスペルセン、1909年)は、一番上の「イー」「ウー」が先に二重母音になり、空いた所に下の母音が上がったと考えます。押し上げ説(ルイック、1896年)は、中ほどの「エー」「オー」が先に上がったと考えます。

イギリス北部では house を今も「フース」と言うのですか?

イングランドの北のはずれやスコットランドでは、今も「フース」に近い音です。1950〜1961年の方言調査では、北部の広い地域で house の母音が「ウー」のままでした。スコットランド語の辞典も、house の形として hoose を挙げています。

なぜ北では house の母音が動かなかったのですか?

すぐ下にいた goose や moon の長い「オー」が、13世紀の後半に先に前の母音へ移っていたから、と説明されています。押し上げる母音がいなかったので「ウー」はその場に残った、というのが押し上げ説の説明です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAbout 700 years ago, English spelling matched speech much better than it does now. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

About 700 years ago, English spelling matched speech much better than it does now. "Time" sounded like "teem," and "moon" sounded close to "mone."

Then, starting in the 1300s or 1400s in the south of England, the long vowels moved one step higher in the mouth. The highest ones, in words like "time" and "house," did not rise. They turned into two-part sounds instead. Scholars call this the Great Vowel Shift. It was slow.

The vowel in "name" only reached its modern sound around 1800. The north went its own way. Maps made from dialect interviews in the 1950s and early 1960s show that the vowel in "house" stayed the same in many northern places. In Scotland, the word is often spelled "hoose."

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

700年ほど前、英語のつづりは今よりずっと話し言葉の音に合っていた。time は「ティーム」、moon は「モーン」に近い音だった。

そして、1300年代か1400年代にイングランドの南部で始まり、長い母音は口の中で1段ずつ高くなった。time や house のようないちばん高い母音は、上がらなかった。代わりに、2つの部分からなる音になった。学者はこれを大母音推移と呼ぶ。変化はゆっくりだった。

name の母音が今の音になったのは1800年ごろだ。北は違う道をたどった。1950年代から60年代初めの方言の聞き取り調査から作った地図を見ると、北の多くの場所で house の母音は変わらなかった。スコットランドでは、この語はよく hoose とつづられる。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened to the long vowels in the south of England?

Q2. When did the vowel in "name" reach its modern sound?

Q3. What happened to the highest vowels, in words like "time" and "house"?

重要単語

  • vowelB1
    名詞母音Japanese has five basic vowels. a, e, i, o, u の文字のことではなく「音」のこと。対になる語は consonant(子音)。
  • pronounceB1
    動詞発音するHow do you pronounce this word? 名詞は pronunciation。pronounciation と書くのはよくあるまちがい。
  • dialectB2
    名詞方言My grandfather speaks a strong local dialect. a strong dialect で「なまりの強い方言」。accent は主に「発音のなまり」。
  • shiftB2
    名詞移り変わり、移動There has been a shift in how young people use the word. 動詞でも使う。shift the desk(机を動かす)。「交代勤務」の意味もあり、night shift は「夜勤」。
  • medievalB2
    形容詞中世のThe town still has a medieval church. medi-(中間の)+ev-(時代)。Middle Ages(中世)と同じ「まんなかの時代」。
  • surveyB1
    名詞調査The survey asked people how they say certain words. 名詞はサーヴェイ、動詞はサヴェイと後ろを強く読むことが多い。carry out a survey で「調査を行う」。
  • stay putB2
    句その場から動かないStay put until I come back. put はここでは「置かれたまま」の意味。会話でよく使う。
中世の英語では name は「ナーメ」、house は「フース」に近い音だった。長い母音がそろって動いて今の「ネイム」「ハウス」に。ところが北イングランドやスコットランドでは、house の母音が動かず、今も「フース」に近い。1950〜60年代の方言調査の地図にも、その境目がはっきり出ている。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Prichard H. (2014) Northern dialect evidence for the chronology of the Great Vowel Shift, Journal of Linguistic Geography 2doi.org
  2. Macafee C. & Aitken A.J. 「A History of Scots to 1700」6. Phonology(Dictionaries of the Scots Language)dsl.ac.uk
  3. Scottish National Dictionary「HOUSE, n., v.」(Dictionaries of the Scots Language)dsl.ac.uk
  4. Smith J.J. (2007) From Middle to Early Modern English, in Sound Change and the History of English, Oxford University Pressdoi.org
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