「5W1H」を“6人の召使い”と呼んだ詩。作者は『ジャングル・ブック』のキプリング

読む前に予想してみよう!
「5W1H」は、近代の新聞記者が考え出した文章の型だ
13世紀のトマス・アクィナスの本に、だれが・何を・どこで・何を使って・なぜ・どのように・いつ、を並べたラテン語の詩の1行が引かれている。キプリングが1902年の本に載せた英語の詩より、600年以上前のことだ。
- 対象
- 1902年のキプリングの本、13世紀の神学書、アリストテレス、植民地時代のアメリカの新聞を調べた論文
- 規模
- 疑問詞6つ(5W1H)の歴史
- 研究の種類
- 原典の確認+学術論文
- 確かさ
- ★★★★☆
5W1H を「6人の召使い」と呼ぶ英語の詩は、『ジャングル・ブック』のキプリングが1902年の本に載せたもの。でも同じ問いは、13世紀のキリスト教の学者アクィナスの本に、ラテン語の詩の1行として出てくる。
ひとことで言うと5W1H は『ジャングル・ブック』の作者の詩にも、700年以上前の本にもある!
もくじ
When? Where? Who? What? Why? How?
作文や英語の授業で、「5W1H を入れて書きましょう」と言われた人は多いはずです。いつ・どこで・だれが・何を・なぜ・どのように。黒板の左はしに、6つの疑問詞がたてに並んでいた教室もあったかもしれません。
この6つを、「6人の正直な召使い」 と呼んだ英語の詩があります。書いたのは、『ジャングル・ブック』の作者 ラドヤード・キプリング。しかも6つの問いそのものは、700年以上前のキリスト教の学者の本に、ラテン語の詩の1行としてもう出てくる のです。
01キプリングの「6人の正直な召使い」
1902年、キプリングは子ども向けのお話集『Just So Stories(ジャスト・ソー・ストーリーズ)』を出しました。その中の「ゾウの子(The Elephant's Child)」の話の後ろに、こんな詩がついています。
I keep six honest serving-men
(They taught me all I knew);
Their names are What and Why and When
And How and Where and Who.
(私は正直な召使いを6人使っている。知っていることは全部、彼らに教わった。名前は「何」「なぜ」「いつ」、そして「どのように」「どこ」「だれ」)
ロンドンのマクミラン社の版(1916年刷)の本文です。What・Why・When・How・Where・Who。 日本でいう5W1H と、ぴったり同じ6つです。
詩の続きでは、召使いたちを陸や海へ、東へ西へと送り出し、仕事が終わったら休ませる、と書きます。そして最後に、こんな人が出てきます。「1000万人の召使いを使っていて、少しも休ませない、小さな人」。その人は、目を開けたその瞬間から、How を100万、Where を200万、Why を700万 送り出すのです。
02「なぜ?」が止まらないゾウの子
詩の前の話も、5W1H にぴったりです。主人公のゾウの子は、質問ばかりしている子 として登場します。
ダチョウのおばさんには「しっぽの羽はどうしてそんなふうに生えてるの?」。キリンのおじさんには「どうして皮がまだらなの?」。聞くたびにおしりをたたかれても、質問は止まりません。そしてある朝、それまで一度もしたことのない、新しい質問をします。
- What does the Crocodile have for dinner?(ワニは晩ごはんに何を食べるの?)
この質問のせいで、ゾウの子は大冒険に出ることになり、鼻が長くなって帰ってきます。ゾウの鼻が長い理由を説明する、ほら話です。

0313世紀にはもう「ラテン語の詩」だった
では、キプリングが5W1H を考え出したのでしょうか。答えはノーです。
13世紀の神学者(キリスト教の教えを研究する学者)トマス・アクィナスの『神学大全』に、人の行いの「状況」を論じる部分があります。
「何を使って」を除けば、5W1H がまるごと入っています。しかも、キプリングより600年以上前に、もう覚えやすい詩の形になっていた のです。
04さらにさかのぼると、アリストテレス
アクィナスが名前を出したアリストテレスの『ニコマコス倫理学』第3巻にも、似たリストがあります。知らずにやってしまった行いを考えるところで、細かい点として次のものを並べます。
- だれがするのか、何をしているのか、何に対して(または何の中で)、ときには何を使って、何の結果をめざして、どのように(そっとか、乱暴にか)
ただし、ここには「いつ」と「どこで」がありません。それでも、2010年に古代ギリシャ・ローマを研究する学術誌『Classical Philology』に出たマイケル・スローンの論文は、題名で 「7つの状況」の元祖はアリストテレスの『ニコマコス倫理学』だ と打ち出しています。
05アメリカの新聞も、植民地時代から6つの問いを意識していた
この6つの問いがよく使われてきた場所の一つが、新聞記事です。ジャーナリズム史の学術誌『Journalism History』に2011年に出たリサ・パーセルの論文は、1690年からアメリカ独立戦争の終わりまでの、植民地時代の新聞を調べました。
その要旨によると、当時の新聞の印刷業者は、読者が記事から少なくとも who, what, when, where, why, how の基本情報を知りたがっていると分かっていました。限られた紙面で、役に立つ記事をできるだけ短く伝えようとした書き方で、物資の不足や検閲への不安も、その書き方を形づくったとされています。
今の英語では、医学の論文の題にさえ The five Ws of 〜(〜の5つのW)という形が使われています。
06なぜ学校では5W1H を教えるのか
5W1H は、だれかに出来事を伝えるときの ぬけ落ちチェック表 です。
- 「いつ」がないと、昨日の話か去年の話か分からない
- 「なぜ」がないと、読んだ人は「それで?」と思う
- 6つを順に確かめるだけで、作文の材料がそろう
アクィナスが7つの状況を数えたのも、行いの良し悪しを正しく判断するためでした。何百年たっても、「大事なことを落とさないための質問リスト」 という役目は同じです。
07テストや英作文ではどうする?
08どんでん返し:本当の元祖はだれ?
ここで一つ注意があります。アクィナスは「キケロが7つをあげている」と書き、その中身を1行の詩で示しました。でも、その詩の1行をキケロ本人が書いたとは言っていません。「だれが最初にまとめたか」は、はっきり決まっていない のです。スローンの論文は、題名で「元祖はアリストテレス」と打ち出しています。
キプリングについても、今回たどった記録を見るかぎり、「5W1H を考えた人」ではありません。古くからある問いのリストと同じ6つを、英語の覚えやすい詩にした人 と言うのが正確です。キプリングがアクィナスのラテン語の1行を知っていたかどうかは分かりません。
もう一つ、本の版による違いもあります。1902年にニューヨークのダブルデイ社から出た版では、この行が What and Where and When / And How and Where and Who と印刷されていて、Where が2回、Why がありません。詩の最後には Whys が出てくるので、刷りのまちがいかもしれません。1911年と1916年のロンドンのマクミラン社の版では、上で引いたように Why が入っています。1902年のロンドンの初版がどちらの形だったかは、今回は確かめられていません。
09まとめ
作文で習う5W1H を「6人の正直な召使い」と呼んだのは、『ジャングル・ブック』の作者キプリングが1902年の本に載せた詩でした。けれども6つの問いはもっと古く、13世紀のアクィナスの本にはラテン語の1行の詩として、さらにさかのぼればアリストテレスの本にも似たリストがあります。アメリカの植民地時代の新聞も、同じ問いを意識して記事を書いていました。
5W1H は、2000年以上かけて受けつがれてきた「質問のチェック表」。 次に作文を書くときは、6人の召使いを1人ずつ呼び出してみてください。
よくある質問
5W1H とは何ですか?
いつ(When)・どこで(Where)・だれが(Who)・何を(What)・なぜ(Why)・どのように(How)の6つの疑問詞のことです。出来事を伝えるときに、大事なことを落とさないための質問のチェック表として、作文や英語の授業で使われています。
5W1H の由来は何ですか?
6つの問いは、13世紀の本にもう出てきます。トマス・アクィナスの『神学大全』に、だれが・何を・どこで・何を使って・なぜ・どのように・いつ、を並べたラテン語の詩の1行が引かれています。「何を使って」を除けば5W1H がまるごと入っています。同じ6つを英語の詩にしたのが1902年のキプリングです。
5W1H を考えたのは誰ですか?
はっきり決まっていません。アクィナスは「キケロが7つをあげている」と書きましたが、詩の1行をキケロ本人が書いたとは言っていません。2010年のスローンの論文は、題名で「7つの状況」の元祖はアリストテレスの『ニコマコス倫理学』だと打ち出しています。
キプリングの「6人の正直な召使い」とはどんな詩ですか?
1902年のお話集『Just So Stories』の「ゾウの子」の後ろについている詩です。I keep six honest serving-men で始まり、召使いの名前は What・Why・When・How・Where・Who(ロンドンのマクミラン社の版)。日本でいう5W1H と同じ6つです。
5W1H の中で、いちばん大事なのはどれですか?
13世紀のアクィナスの答えは「なぜ」です。『神学大全』で、行いの状況7つのうち、いちばん大事なのは「なぜ」、2番目は「何を」としました。「なぜ」が行いの目的にあたるからです。
5W1H は英語で何と言いますか?
英語では the five Ws(5つのW)という言い方が使われていて、医学の論文の題にも The five Ws of 〜 の形が出てきます。6つの疑問詞は who, what, when, where, why, how です。
新聞記事はいつから5W1H を意識しているのですか?
アメリカでは、植民地時代の新聞がもう意識していました。2011年のパーセルの論文によると、1690年からアメリカ独立戦争の終わりまでの新聞の印刷業者は、読者が少なくとも who, what, when, where, why, how を知りたがっていると分かっていました。
英作文で5W1H はどう使えばいいですか?
書く前に、6つの疑問詞でメモを作ります。例えば Last Sunday(いつ)、I(だれが)、went to a concert(何を)、in Osaka(どこで)、by train(どのように)、because my sister had an extra ticket(なぜ)。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTeachers often tell students to check the "5W1H" before they write.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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この研究を英語で読もう
Many students learn the "5W1H" for writing. They are who, what, when, where, why, and how. In a book from 1902, Rudyard Kipling, the writer of "The Jungle Book," included a short poem about these six words. He called them his "six honest serving-men."
At the end of the poem, someone small sends out seven million Whys. But the six questions are much older. A book from the 13th century lists almost the same questions in one line of Latin.
80 words ・ CEFR A2
和訳を見る
多くの生徒が、作文のために「5W1H」を習います。だれが・何を・いつ・どこで・なぜ・どのように、の6つです。1902年の本で、『ジャングル・ブック』の作者ラドヤード・キプリングは、この6つの言葉についての短い詩を載せました。彼はそれらを「6人の正直な召使い」と呼びました。
詩の終わりでは、ある小さな人が700万の「なぜ」を送り出します。でも、6つの問いはもっとずっと古いのです。13世紀の本に、ほとんど同じ問いがラテン語の1行で並んでいます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
キプリングの詩と、6つの問いがもっと古いことの両方を述べているので B。
Q2. What did Kipling call the six question words?
He called them his "six honest serving-men." とあるので B。
Q3. In the passage, what does "much older" mean?
13世紀の本にすでにあるので、1902年よりずっと前から使われていたという意味。A。
Teachers often tell students to check the "5W1H" before they write. A famous poem uses the same six words. In 1902, Rudyard Kipling, the author of "The Jungle Book," published "Just So Stories."
After the story of a young elephant who asks too many questions, he added a poem about his "six honest serving-men." In most editions, they are named What, Why, When, How, Where and Who.
But Kipling did not invent the list. In the 13th century, Thomas Aquinas quoted a single line of Latin poetry naming who, what, where, by what means, why, how and when. He also wrote that "why" was the most important of them. And in the 1700s, American newspaper printers already knew their readers wanted these basic facts.
124 words ・ CEFR B1
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先生はよく、書く前に「5W1H」を確かめなさいと生徒に言う。同じ6つの言葉を使った有名な詩がある。1902年、『ジャングル・ブック』の作者ラドヤード・キプリングは『Just So Stories』を出版した。
質問ばかりする子ゾウの話のあとに、彼は、自分の「6人の正直な召使い」についての詩をつけた。多くの版では、召使いの名前は What、Why、When、How、Where、Who となっている。
しかし、キプリングがこのリストを考え出したわけではない。13世紀に、トマス・アクィナスは、だれが・何を・どこで・何を使って・なぜ・どのように・いつ、を挙げるラテン語の詩の1行を引いた。彼はまた、その中で「なぜ」がいちばん大事だとも書いた。そして1700年代には、アメリカの新聞の印刷業者が、読者はこうした基本的な事実を知りたがっているとすでに分かっていた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
キプリングの詩に6つの問いが出てくるが、Kipling did not invent the list とあり、13世紀や1700年代の例が続くので B。
Q2. According to the passage, which question did Aquinas think was the most important?
He also wrote that "why" was the most important of them. とあるので D。
Q3. Why does the writer mention American newspaper printers?
1700年代にすでに同じ基本情報が意識されていた例として挙げているので A。
Kipling's lines about "six honest serving-men" close "The Elephant's Child," a story in his 1902 book "Just So Stories." The young elephant in the story is spanked by his relatives for asking so many questions, and the poem ends with a "person small" who keeps ten million serving-men busy from the moment she opens her eyes. The list itself has a far longer history. Thomas Aquinas, writing in the 13th century, credited the Roman orator Cicero with seven circumstances of an action and gave them as a single line of Latin verse: who, what, where, by what means, why, how and when. He judged "why" to be the most important.
A similar list appears even earlier in Aristotle's "Nicomachean Ethics," though it leaves out time and place, and a 2010 article in Classical Philology argues in its title that Aristotle was the real starting point. Journalism took up the same questions. A study of colonial American newspapers found that printers between 1690 and the end of the Revolution knew readers wanted at least the who, what, when, where, why and how of a story.
184 words ・ CEFR B2
和訳を見る
「6人の正直な召使い」についてのキプリングの詩の行は、彼の1902年の本『Just So Stories』に収められた話「ゾウの子」をしめくくっている。話の中の子ゾウは、たくさん質問をするせいで親戚たちにおしりをたたかれる。そして詩は、目を開けた瞬間から1000万人の召使いを働かせ続ける「小さな人」で終わる。リストそのものには、ずっと長い歴史がある。13世紀に書いていたトマス・アクィナスは、行いの7つの状況をローマの弁論家キケロに帰し、それをラテン語の詩の1行として示した。だれが、何を、どこで、何を使って、なぜ、どのように、いつ、である。彼は「なぜ」をいちばん大事だと判断した。似たリストは、さらに古いアリストテレスの『ニコマコス倫理学』にも見られる。
ただし、そこには時間と場所が入っていない。そして2010年に学術誌『Classical Philology』に出た論文は、題名で、アリストテレスこそが本当の出発点だと主張している。報道も同じ問いを取り入れた。植民地時代のアメリカの新聞についての研究は、1690年から独立戦争の終わりまでの印刷業者が、読者は記事の少なくとも who, what, when, where, why, how を知りたがっていると分かっていたことを明らかにした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
キプリングの詩から始まり、アクィナス、アリストテレス、新聞へとさかのぼる歴史が中心なので B。
Q2. What does Aristotle's list leave out, according to the passage?
though it leaves out time and place とあるので C。
Q3. What can be inferred from the Latin verse quoted by Aquinas?
13世紀にすでに詩の1行の形になっていたので、キプリングよりずっと前に覚えやすい形があったと推測できる。B。
重要単語
- question wordA2名詞疑問詞"Why" is my favorite question word.
who, what, when, where, why, how など。英語では wh-word とも言う。 - servantB1名詞召使い、使用人The servant brought the king his dinner.
serve(仕える)+-ant(人)。キプリングの serving-man は古風な言い方。 - curiosityB1名詞好奇心The little elephant was full of curiosity.
形容詞は curious。キプリングはわざと 'satiable curtiosity と子どもっぽくつづっている。 - circumstanceB2名詞状況、事情Under the circumstances, we had to cancel the game.
circum(まわり)+stance(立つ)=「まわりに立つもの」。under the circumstances「こういう事情なので」。 - headlineB1名詞(新聞の)見出しThe headline was short, but the story was long.
make (the) headlines「大きなニュースになる」。 - detailA2名詞細かい点Add a few details about when and where it happened.
in detail「くわしく」。英作文の「具体的に書け」は give details。 - oratorC1名詞弁論家、演説家Cicero was a famous orator in ancient Rome.
oral(口の、口頭の)と同じ仲間。
公式・一次情報をチェック
- Kipling, R. (1902) Just So Stories for Little Children, New York: Doubleday, Page(初版, Internet Archive)archive.org
- Kipling, R. (1916) Just So Stories for Little Children, London: Macmillan(Internet Archive)archive.org
- Kipling, R. The Jungle Book(Project Gutenberg)gutenberg.org
- Stone, G. W. & Alfieri, O. (2019) The five Ws of transcatheter mitral valve repair: Who, What, When, Where, and Why, EuroIntervention 15(10)doi.org
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Kipling, R. (1902) Just So Stories「The Elephant's Child」(Project Gutenberg)gutenberg.org
- Thomas Aquinas, Summa Theologiae I-II, q.7, a.3–4(Fathers of the English Dominican Province 訳, New Advent)newadvent.org
- Aristotle, The Nicomachean Ethics, Book III(Project Gutenberg)gutenberg.org
- Sloan, M. C. (2010) Aristotle's Nicomachean Ethics as the Original Locus for the Septem Circumstantiae, Classical Philology 105(3): 236–251doi.org
- Parcell, L. M. (2011) Early American Newswriting Style, Journalism History 37(1): 2–11doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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