英語のクマ bear は「茶色いの」というあだ名らしい。本当の名前は Arctic(北極)に残る

読む前に予想してみよう!
「Arctic(北極)」という言葉は、北極にシロクマがいることから名づけられた
Arctic のもとはギリシャ語 arktos(クマ)。アメリカン・ヘリテージ英語辞典などによると、このクマは北の空の星座「おおぐま座」のこと。シロクマから名づけたのではない。
- 対象
- インド・ヨーロッパ語族の諸言語のクマの呼び名
- 規模
- 英語・ロシア語・ギリシャ語・ラテン語など
- 研究の種類
- 比較言語学(語源の比較)・辞書
- 確かさ
- ★★★☆☆
bear のもとは「茶色いもの」という説が有力。古い本当の呼び名はギリシャ語 arktos として Arctic(北極)に残る。怖くて名前を呼べなかったというタブー説もあるが、確定ではない。
ひとことで言うと英語の bear は「茶色いの」というあだ名だったらしい。昔の名前は「北極」に残ってるよ!
もくじ
英語でクマは bear。英語を習い始めてすぐに出会う単語です。
でもこの bear、もとをたどると「クマ」という意味ではなかったようです。有力な説では、意味は「茶色いやつ」。つまり、あだ名です。
では、クマの“本当の名前”はどこへ行ったのか。じつは、ニュースや地図でおなじみの言葉に残っています。Arctic(北極)です。
01bear のもとの意味は「茶色いもの」
英語・ドイツ語・ギリシャ語・ラテン語・ロシア語・ヒンディー語などは、もとは1つの言葉から分かれた親戚で、まとめて「インド・ヨーロッパ語族」と呼ばれます。アメリカン・ヘリテージ英語辞典には、この親戚の言葉に共通する古い“言葉のもと”(語根)をまとめた付録があります。
その付録は、bear のもとを、英語やドイツ語の祖先にあたるゲルマン語の berō( は記録に残っておらず、学者が復元した形の印)とし、その意味を "the brown animal"(茶色い動物) と説明しています。同じ「茶色・光る」を表す“言葉のもと”からは、次の語も生まれました。
- brown(茶色)
- bruin(クマ):中世の動物物語『狐のレナード(Reynard the Fox)』に出てくるクマの名前。オランダ語の bruun(茶色)から(同じ辞典の「bruin」の項)
- beaver(ビーバー):こちらも "the brown animal"。オックスフォードの学習辞典も「“茶色”を意味する語根から」としています
英語では、クマもビーバーも「茶色いの」と呼ばれていたことになります。
02クマの“本名”は Arctic に残っていた
では、あだ名に置きかえられる前の名前は何だったのでしょうか。
ギリシャ語の arktos から生まれた英語が Arctic です。オックスフォードの学習辞典によると、Arctic はギリシャ語 arktikos から来ていて、もとの arktos の意味は「クマ、おおぐま座、北極星」。
Arctic が指していたのは、北極にすむシロクマではなく、北の空に見える星座の「おおぐま座」でした。「クマ(の星座)が見える方角」=北、というわけです。
- Antarctic(南極):ant-(反対)+arktikos。もとの意味は「北の反対」(オックスフォード学習辞典)
- Arcturus(アークトゥルス):うしかい座の明るい星。「クマの番人」の意味で、おおぐま座の後ろにいる位置から(アメリカン・ヘリテージ英語辞典)
- ursine(クマの、クマのような):ラテン語 ursus から。おおぐま座のラテン語の名前 Ursa Major(英語でもこう呼ぶ)は「大きな雌グマ」
03なぜ北の言葉だけ“あだ名”になったのか
論文がくらべた、ほかの言語のクマの呼び名も見てみましょう。
- ロシア語 медведь:「ハチミツを食べるもの」。「ハチミツ」と「食べる」を組み合わせた古いスラブ語から(ポーランド語の niedźwiedź も同じ語)
- リトアニア語 lokys:「なめるもの」
- アイルランド語 mathúin:「よい子牛」
- ウェールズ語 mochyn mêl:「ハチミツのブタ」
本名ではなく、色や好物、ほめ言葉で呼んでいます。
そこで出てくるのがタブー説です。危険な動物の名前を口にすると、本当にやって来てしまう。だから遠回しに呼んだ、という考え方です。
オックスフォード大学出版局のブログで、英語の語源辞典の著者でもある語源学者アナトリー・リバーマンは、こう説明しています。クマは名前を呼ばれると「招かれた」と思って来るかもしれない。そこでゲルマン語の世界では名前を変えた。「茶色いの」と言っていれば、クマは自分の話だと気づかない――。一方、北欧で男の子に Björn(ビョルン=クマ) と名づけるのは、強さを授けることだった、とも書いています。
クマやオオカミの名前が置きかえられたのは、主にゲルマン語とバルト・スラブ語の地域でした。論文は、この地域でこれらの動物がより大事な信仰の対象だったからかもしれない、と考えています。そして、昔のインド・ヨーロッパ語の話し手は、その土地でいちばん重要な肉食の獣の名前を避けた、とまとめています。北ヨーロッパではそれがクマで、もっと南ではオオカミだった、というわけです。

04日本の猟師は、クマを「クロゲ」と呼んだ
これ、遠い国の話だけではありません。
日本の東北地方などの猟師(マタギなど)は、山の中だけで使う特別な言葉「山言葉(やまことば)」を持っていました。平凡社の『百科事典マイペディア』によると、山言葉は70〜80語が知られ、仲間以外には秘密にされていました。
その中で、クマは「くろげ(黒毛)」「山の人」。オオカミは「やせ」、米は「くさのみ」です。理由は、本当の名前で呼ぶと獲物に感づかれるから、と同じ事典は説明しています。
英語のご先祖は「茶色いの」、日本の猟師は「黒毛」。色で呼んでごまかすという発想が、遠く離れた2つの文化で重なっています。
05どんでん返し:「茶色」も「タブー」も、確かではない
ここまでの話には、はっきりした証拠がない部分があります。
まず、「bear=茶色いもの」自体が説です。論文は、ゲルマン語の bear のもとは 「はっきりせず、議論がある」 としたうえで、「ふつうは“茶色”の語根から来たとされる」と書いています。オックスフォードの学習辞典の bear の語源欄も、オランダ語 beer やドイツ語 Bär と同じ系統だと書くだけで、「茶色」には触れていません。
タブー説も、ゲルマン語やバルト・スラブ語に古い語が「ない」ことから逆算した推測です。論文自身はタブー説に立っていますが、置きかえがあったことは「想定(assumption)」だと書いています。論文によると、古代インドのサンスクリット語にも madhvád(ハチミツを食べるもの)という呼び名がありました。古い名前が残っている言語でも、あだ名は使われていたのです。リバーマンも、タブーで言葉がわざとゆがめられると語源はたどりにくくなり、「正しく言い当てた保証はない」と認めています。
さらに論文は、古い名前の *h₂ŕ̥tḱo- そのものも、のどを鳴らすような音から「うなるもの」を表した遠回しの呼び名だったかもしれない、という見方にも触れています。もしそうなら、クマの“本名”さえ、あだ名だったことになります。
06まとめ
英語の bear は、有力な説では「茶色いもの」というあだ名でした。クマの古い“本名”は、ギリシャ語の arktos として、星座を通って Arctic(北極)に残っています。
名前を呼ぶと来てしまうから、あだ名で呼んだ――このタブー説はまだ推測の段階です。ただ、日本の猟師がクマを「黒毛」と呼んだことを思うと、怖いものの名前を口にしない気持ちは、時代も場所もこえて似ているのかもしれません。
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音声
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原田英語の English Corner
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"Bear" is an easy English word. But it may be a nickname. Many experts think it first meant "the brown one."
The old name for the animal was different. In Greek, it was "arktos." This word gave English the word "Arctic."
But the Arctic was not named after polar bears. It was named after a group of stars in the north, the Great Bear. Russian has a nickname for bears too. It means "honey eater."
75 words ・ CEFR A2
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「bear」はやさしい英単語です。でも、あだ名かもしれません。多くの専門家は、もとは「茶色いもの」という意味だったと考えています。
この動物の古い名前は違いました。ギリシャ語では「arktos」でした。この語から英語の「Arctic(北極)」ができました。
でも北極はシロクマにちなんで名づけられたのではありません。北の空の星の集まり、おおぐま座にちなんで名づけられました。ロシア語にもクマのあだ名があります。意味は「ハチミツを食べるもの」です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
bear のもとの意味と、古い名前 arktos から Arctic ができた話なので B。
Q2. What was the Arctic named after?
It was named after a group of stars in the north, the Great Bear. とあるので C。
Q3. In the passage, what is a "nickname"?
nickname は「本当の名前の代わりに使う呼び名、あだ名」。bear が「茶色いもの」というあだ名だったという流れなので B。
Ask an English speaker what "bear" means and they will say "a big furry animal." Ask a historian of language and you may hear "the brown one." The word probably comes from an old Germanic name for the animal that described its color.
The beaver got its name in the same way. Many other old languages in Europe and Asia kept an older word for bear. Greek had "arktos," which later gave English "Arctic," and Latin had "ursus."
But this old word is missing from the Germanic and Slavic languages. Russians call the bear "medved," or "honey eater." Some scholars think people in the north were afraid to say the real name, in case the bear heard it and came.
120 words ・ CEFR B1
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英語を話す人に「bear」の意味をたずねると、「毛の生えた大きな動物」と答えるだろう。ことばの歴史の研究者にたずねると、「茶色いもの」という答えが返ってくるかもしれない。この語はおそらく、その動物の色を言い表した古いゲルマン語の呼び名から来ている。
ビーバーも同じようにして名前がついた。ヨーロッパやアジアのほかの古い言語の多くは、クマを表すもっと古い語を残していた。ギリシャ語には「arktos」があり、これがのちに英語の「Arctic(北極)」になった。ラテン語には「ursus」があった。
ところが、この古い語はゲルマン語やスラブ語には見当たらない。ロシア人はクマを「medved(ハチミツを食べるもの)」と呼ぶ。北方の人々は、クマが聞きつけてやって来ないように、本当の名前を口にするのを恐れたのだと考える研究者もいる。
4択リーディングクイズ
Q1. Which animal got its name in the same way as the bear?
The beaver got its name in the same way. とあるので C。
Q2. Which language group does NOT have the old word for bear?
this old word is missing from the Germanic and Slavic languages とあるので C。
Q3. Why might people in the north have avoided the real name?
afraid to say the real name, in case the bear heard it and came とあるので A。
Across most of the early Indo-European world, the bear had one name. Linguists reconstruct it as something like "h2rtko-," and it survives in eight branches of the family, from Hittite "hartaggas" to Greek "arktos" and Latin "ursus." The Greek form reached English through "Arctic," though the link runs through the sky.
"Arktos" also meant the Great Bear constellation, which marks the north. Two branches broke the pattern. Germanic and Balto-Slavic speakers used descriptions in place of the name. English "bear" is usually traced to a word for "brown," and Russian "medved" means "honey eater."
The popular explanation is a hunters' taboo, a belief that saying a dangerous animal's name could call it. The evidence is thinner than the story suggests. The origin of the Germanic word is disputed, and the taboo is inferred mostly from a missing word.
Sanskrit, which kept the old name, also had a "honey eater" term, so nicknames for the bear were not only a northern habit. Even so, the habit turns up far from Europe. Some hunters in the mountains of Japan called bears "kuroge," or "black fur."
183 words ・ CEFR B2
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初期のインド・ヨーロッパ語の世界のほとんどで、クマの名前は一つだった。言語学者はそれを「h2rtko-」のような形に再構し、この語はヒッタイト語の「hartaggas(ハルタッガシュ)」からギリシャ語の「arktos」、ラテン語の「ursus」まで、語族の8つの語派に残っている。ギリシャ語の形は「Arctic(北極)」を通じて英語に入ったが、そのつながりは空を経由している。
「arktos」はおおぐま座も意味し、この星座が北の目じるしになるからだ。2つの語派はこのパターンを破った。ゲルマン語とバルト・スラブ語の話し手は、名前の代わりに描写を使った。英語の「bear」はふつう「茶色」を表す語にさかのぼるとされ、ロシア語の「medved」は「ハチミツを食べるもの」という意味だ。
よく知られた説明は狩人のタブーで、危険な動物の名前を口にするとそれを呼び寄せてしまうという信仰である。ただ、証拠はこの話から受ける印象よりも乏しい。ゲルマン語の語の由来には議論があり、タブーは主に「語がない」ことから推測されている。
古い名前を残したサンスクリット語にも「ハチミツを食べるもの」という語があったので、クマのあだ名は北の地域だけの習慣ではなかった。それでも、この習慣はヨーロッパから遠く離れた場所にも見られる。日本の山の猟師の中には、クマを「くろげ(黒い毛)」と呼んだ人たちがいた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
古い名前 h2rtko-、ゲルマン語などの言いかえ、そしてタブー説の証拠の弱さまで述べているので B。
Q2. According to the passage, how is "Arctic" connected to bears?
"Arktos" also meant the Great Bear constellation, which marks the north. とあるので C。
Q3. What does the Sanskrit example suggest?
古い名前を残したサンスクリット語にも「ハチミツを食べるもの」があり、nicknames for the bear were not only a northern habit とあるので B。
重要単語
- bearA1名詞クマA bear was looking for food near the cabin.
動詞の bear(耐える、運ぶ)とは別の語。発音は bare(はだかの)と同じ。like a bear with a sore head「ひどく機嫌が悪い」。 - ArcticB1名詞・形容詞北極(地方);北極のPolar bears live in the Arctic.
名詞は the Arctic と the をつける。南極は the Antarctic(ant-「反対」+arctic)。発音は「アークティック」。最初の c を読まない「アーティック」も辞書に載っている。 - tabooB2名詞・形容詞禁忌、口にしてはいけないこと;禁じられたIn some places, there was a taboo on saying the animal's name.
トンガ語から英語に入った語。a taboo on ~ で「~に対する禁忌」。break a taboo「タブーを破る」。 - euphemismC1名詞遠回しな言い方、婉曲語"Pass away" is a euphemism for "die."
eu-(よい)+pheme(言うこと)。言いにくいことをやわらげる言い方。 - beaverB2名詞ビーバーThe beaver built a dam across the stream.
bear と同じく「茶色」を表す語根から。動詞 beaver away は「せっせと働く」。 - constellationB2名詞星座The Great Bear is one of the best-known constellations.
con-(いっしょに)+stella(星)。おおぐま座は the Great Bear または Ursa Major。 - nicknameB1名詞あだ名、愛称His real name is Robert, but his nickname is Bob.
give someone a nickname「あだ名をつける」。
公式・一次情報をチェック
- bear(Oxford Learner's Dictionaries・名詞)oxfordlearnersdictionaries.com
- beaver(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- Mair (2022) Revisiting ursine terminology in light of Sinitic cognates, Language Log(ペンシルベニア大学)languagelog.ldc.upenn.edu
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英語の bear(クマ)は、もとは「茶色いもの」という意味のあだ名とされる。クマの古い“本名”はギリシャ語 arktos で、これが Arctic(北極)の語源。ロシア語のクマは「ハチミツを食べるもの」。名前を呼ぶと来てしまうから避けた、というタブー説がある。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Wacewicz-Chorosz (2024) Taboo zoonyms: What do 'bear', 'lynx' and 'wolf' have in common?, Beyond Philology 20(4)doi.org
- American Heritage Dictionary「Appendix I: Indo-European Roots」(bher-² ・ r̥tko-)ahdictionary.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「Arctic」「Antarctic」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- Liberman (2016) "Vulpes vulpes," or foxes have holes. Part 1, OUPblog(オックスフォード大学出版局)blog.oup.com
- 世界大百科事典・百科事典マイペディア(平凡社)・ブリタニカ国際大百科事典「山言葉」(コトバンク掲載)kotobank.jp
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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