この指導案の特色

中央教育審議会教育課程部会の審議まとめ(2026年10月5日)で示された、情報Ⅰの科目構成を維持しつつ内容項目を「データ分析とモデル化・シミュレーション」などに組み替え、最後に「PBLによる課題解決の実践」を置く方向(いずれも仮称)と、プログラミング的思考を、AIへの指示も含め、生成・作成したものを論理的・批判的に評価・改善し責任を持って活用するまでを含む考え方に捉え直す方向を先取りした試案である。次期学習指導要領はまだ告示前であり、本案は審議まとめの方向性をふまえた一つの例である。現行の情報Ⅰ「コンピュータとプログラミング」のモデル化とシミュレーションを扱い、昼休みの購買の待ち時間を表計算ソフトでシミュレーションして、キャッシュレス決済の利用が増えた場合などの効果を比べる。生成AIが示したモデルの誤りを見つけて直す活動も入れる。
| 次期の方向性 | この指導案での具体化 |
|---|---|
| 情報Ⅰ(共通必履修)・情報Ⅱ(選択)の構成は維持し、情報Ⅰの内容項目を「情報の仕組みと社会との関わり」「情報デザインとデザイン思考」「データ分析とモデル化・シミュレーション」「アルゴリズムとシステム開発」「PBLによる課題解決の実践」とする方向(すべて仮称) P242P255資料(情技㊶)P180 | 現行の「コンピュータとプログラミング」で扱うモデル化とシミュレーションを、実測データの整理・可視化(第2時)とつなげて一つの単元にし、「データ分析とモデル化・シミュレーション」(仮称)のまとまりを先取りした。 |
| 「データ分析とモデル化・シミュレーション」(仮称)の学習内容のイメージとして、現実の事象を単純化してモデルとして表現し、条件や仮定を設定してシミュレーションを行い、結果を比較・検討してモデルの妥当性や活用の在り方を考えること、分析結果の妥当性や限界をふまえ、根拠を示して論理的に説明することが示されている 資料(情技㊷)P182 | 到着の間隔と会計時間という要素にしぼって単純化し、仮定(到着間隔は実測の範囲の一様な乱数など)を明示してシミュレーションする。現金のみと半数キャッシュレスの2条件を比べ、実測とのずれからモデルの限界も考えさせる。 |
| AIが生成したコードには誤りが含まれる場合もあることから、「プログラミング的思考」を、目的や課題を構想し、AIへの指示やプログラミングを通じて解決策を実現するとともに、生成・作成したものを論理的・批判的に評価・改善し、責任を持って活用するまでを含む一連の考え方として捉え直し、中学校・高校でも育成する P249 | 教師が事前に生成AIに作らせた待ち行列の表計算モデル(前の人の会計が終わるのを待つ処理が抜けている)を示し、3人分を手で追跡して誤りを見つけ、正しい式に直させる。そのうえで、自分たちで作ったモデルで実験する。 |
| AIを使いこなす力を、単なる操作技能ではなく、AIを適切かつ効果的に活用して問題を発見・解決したり考えを形成したりする力と捉える。特性やリスクの理解が不十分なまま使うと、過度な依存や学習過程の省略(いわゆる認知的オフロード)を招くとの指摘がある。情報Ⅰでは、AIに関する独立した内容項目を設けず、すべての内容項目でAIの特性や適切な取扱いを扱う P248資料(情技㊶)P180 | モデルを考える最初の段階(要素の洗い出しと仮定の設定)は生徒自身が行い、生成AIの出力はそれと比べて吟味する対象として扱う。生成AIは教師の操作による提示にとどめ、学校のガイドラインに沿って扱う。 |
| 情報Ⅰの最後に「PBLによる課題解決の実践」(仮称)を置き、各内容項目で学んだ情報技術を総合的に活用して課題解決のプロセスを実践する機会を充実する。評価では課題解決の過程を重視し、あらかじめ評価の観点を生徒と共有したり、ルーブリックなどで到達度を分かりやすく示したりすることが重要とされている P255P261 | 単元の終わりに、シミュレーションの結果を、根拠と限界を明示した提案資料にまとめ、生徒会と購買に提案する。評価の観点とルーブリックは第1時に示し、学年後半のPBLでも同じ観点を使えるようにした。 |
1 単元名・単元の目標
単元名:シミュレーションで改善策を試す ~購買の待ち時間を予測しよう~(全7時間(本時は第4時))
単元の目標:【目標】①モデル化とシミュレーションの考え方、乱数を用いた確率的なモデルの扱い方を理解し、表計算ソフトを用いてモデルを作成・実行する技能を身に付ける。②購買の待ち時間という身近な問題について、要素を取り出して単純化したモデルを作成し、条件を変えたシミュレーションの結果を比較・検討して、モデルの妥当性や限界をふまえて改善策を提案する。③生成AIの出力を含め、作成したモデルや結果を批判的に見直し、よりよい解決に向けて改善しようとする。
2 単元の評価規準
| 知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
|---|---|---|
| モデル化とシミュレーションの意義や方法、乱数を用いた確率的なモデルの考え方を理解している。表計算ソフトの関数やセルの参照を用いて待ち行列のモデルを作成・実行し、結果を集計・可視化している。 | 購買の待ち時間という問題について、目的に応じて要素を取り出し、仮定を明示してモデルを作成するとともに、条件を変えたシミュレーションの結果を比較・検討し、モデルの妥当性や限界をふまえて、根拠を示して改善策を提案している。 | 生成AIの出力を含め、作成したモデルや結果を批判的に見直し、試行錯誤しながらよりよい解決に向けて改善しようとしている。 |
審議まとめでは、国が「内容のまとまりごとの評価規準例」を示して各学校の作成は不要とし、単元の目標をそのまま評価規準として用いる方向が示されている(本体P69)。情報科では、探究的・実践的な学習の中で課題解決の過程を重視し、あらかじめ評価の観点を生徒と共有したり、ルーブリックなどで到達度を分かりやすく示したりすることが重要とされている(本体P261)。本試案の評価規準は現行の3観点で書き、モデル作成の過程はクラウド上のファイルで記録して形成的評価に用い、記録に残す評価は第6時の提案資料と第7時の発表にしぼった(本体P70)。次期は「学びに向かう力」を総合所見欄での個人内評価と「思考・判断・表現」への「○」の付記で扱う方向で(本体P63、本体P64)、情報科の「見取る姿」や効果的な形成的評価の例などは改訂後に速やかに検討するとされている(本体P260)。本試案では現行制度に基づき「主体的に学習に取り組む態度」を置いた。単元計画の◎は記録に残す評価、○は指導に生かす評価を表す。
3 単元の指導と評価の計画
| 時 | 主な学習活動 | 評価 |
|---|---|---|
| 1 | モデルとは何かを身近な例(地図・天気予報・路線図など)で考え、モデルの分類(物理モデル・図的モデル・数式モデル、確定的モデル・確率的モデル)を学ぶ。生徒会のアンケートから「購買の待ち時間が長い」という問題を確かめ、単元のゴール(改善策の提案)と評価の観点・ルーブリックを共有する。 | ○知:モデルの意義や分類を理解しているか(ワークシート) |
| 2 | 生徒会と購買の協力を得て事前に記録した昼休みのデータ(客の到着時刻・会計時間・支払い方法。個人は特定しない)を表計算ソフトで整理し、到着間隔と会計時間の分布をヒストグラムで確かめる。 | ○知:データを整理・可視化して特徴を捉えているか(ファイル) |
| 3 | 乱数の性質を学び、表計算ソフトの乱数でサイコロを模したシミュレーションを行う。試行回数を増やすと結果が安定することを確かめ、確率的モデルの考え方を理解する。 | ○知:乱数を用いたシミュレーションの方法を理解しているか(ファイル) |
| 4(本時) | 待ち行列のモデルを考え、生成AIが示したモデルの誤りを見つけて直す。表計算ソフトでシミュレーションし、現金のみと半数キャッシュレスの場合の平均待ち時間を比べる。 | ○思:要素と仮定を明示してモデルを作り、結果を比較・検討しているか(ファイル・ワークシート・行動観察) |
| 5 | 実測の平均待ち時間とシミュレーションの結果を比べ、ずれの原因(4時間目の終了直後に客が集中するなど)を考えて、時間帯によって到着間隔を変えるなどモデルを改善する。 | ○思:実測との比較からモデルの妥当性を検討し、改善しているか(ファイル) |
| 6 | 改善策(キャッシュレス決済の利用促進、レジの追加、販売時間の分散など)の効果をシミュレーションで比べ、グラフと根拠、モデルの限界を明示した提案資料をまとめる。 | ◎思:結果を比較・検討し、妥当性や限界をふまえて根拠を示した提案をしているか(提案資料) |
| 7 | 生徒会・購買の担当者(または代理の教員)に向けて提案を発表し、質問に答える。ルーブリックで自己評価・相互評価し、単元を振り返る。 | ◎知・思:モデルと結果を正しく説明し、質問に根拠をもって答えているか(発表・質疑)/◎態:モデルや結果を見直して改善しようとしたか(ファイルの改善の履歴・振り返り。現行制度に基づき評価) |
4 本時の展開(50分)
本時の目標:購買の待ち時間を表すモデルを要素と仮定を明示して作成し、生成AIが示したモデルの誤りを見つけて直したうえで、条件を変えたシミュレーションの結果を比較して、改善策の効果を根拠を示して説明することができる。
| 過程・時間 | 学習活動 | 指導上の留意点・支援 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 導入 5分 | 前時までに整理した実測データ(平均の到着間隔、支払い方法別の平均会計時間)を振り返り、本時の問いを確かめる。 主な発問:キャッシュレス決済を使う人が増えたら、待ち時間はどれくらい短くなるだろうか。実際に試さずに確かめるには、どうすればよいか。 | 実測値はスライドで示し、前時のヒストグラムと結び付ける。予想(何分くらい短くなるか)をワークシートに書かせておく。 | |
| 展開 8分 | 【モデル化】待ち時間を決める要素(客の到着間隔・会計時間・レジの数)を出し合い、単純化と仮定を決める(レジは1台、客は来た順に並ぶ、到着間隔は実測の範囲の一様な乱数、会計時間は支払い方法ごとに実測の範囲の一様な乱数)。1人目〜3人目の到着・会計開始・会計終了・待ち時間の関係を、紙の上で時刻の線(タイムライン)に表す。 主な発問:2人目の会計は、いつ始まるだろうか。どんなときに待ち時間が生じるのか。 | 「会計開始は、到着時刻と前の人の会計終了時刻のうち遅いほう」という関係に、タイムラインの図から気付かせる。仮定は板書に残し、後で妥当性を検討する材料にする。 | |
| 展開 7分 | 【生成AIのモデルを検証する】教師が事前に生成AIに作らせた表計算モデル(会計開始時刻を到着時刻と同じにしている)を提示し、その結果(待ち時間がいつも0)と、自分たちのタイムラインを比べて誤りを見つける。誤りの箇所と正しい式を、班で説明し合う。 主な発問:生成AIのモデルでは、なぜ待ち時間がいつも0になるのか。どこをどう直せばよいか。 | 生成AIの出力は教師の操作で提示し、学校の生成AIの利用ガイドラインに沿って扱う。もっともらしく見える出力でも、自分で手順を追って確かめる必要があることを押さえる。 | ○思:モデルの誤りを論理的に見つけ、修正点を説明しているか(行動観察・ワークシート) |
| 展開 15分 | 【シミュレーション】表計算ソフトで、列に到着間隔(乱数)・到着時刻・支払い方法・会計開始時刻(1人目は到着時刻、2人目からは=MAX(到着時刻, 前の人の会計終了時刻))・会計時間(支払い方法ごとの実測の範囲の乱数)・会計終了時刻・待ち時間をとり、60人分のモデルを作る。①現金のみ ②半数がキャッシュレス(偶数番目の30人をキャッシュレスに固定)の2条件を同じシートに並べ、到着間隔の列は2条件で共用して、キャッシュレスの割合以外の条件をそろえる。再計算を10回行って、2条件の平均待ち時間を記録して比べる。早く終わった班は、レジを2台にした場合のモデルの作り方を考える。 主な発問:2つの条件で、平均待ち時間はどれくらい違ったか。再計算のたびに結果が変わるのはなぜか。 | 列の見出しと、1人目・2人目の行の式(会計開始時刻の式が1人目と2人目以降で違うこと)を入れたテンプレートを配り、3行目以降は式をコピーして作らせる。参照のずれでおかしな値が出た場合は、1人目と2人目の行を手で計算して確かめるよう促す。 | ○知:関数やセルの参照を用いてモデルを作成・実行しているか(ファイル) |
| 展開 10分 | 【比較・検討】班の結果をクラウドの共有シートに入力し、クラス全体の結果を箱ひげ図などで比べる。結果から言える改善策の効果と、モデルの仮定による限界(客の到着は一様ではない、混雑すると買うのをやめる人がいる等)を話し合う。 主な発問:このシミュレーションの結果は、実際の購買にもそのまま当てはまると言えるか。仮定のどこを見直すと、より現実に近づくか。 | クラス全体の結果のばらつきから、確率的モデルでは何回も試行する必要があることを確かめる。出された限界は、次時のモデル改善の課題として板書に残す。 | ○思:結果を比較し、仮定に照らして妥当性や限界を検討しているか(共有シート・行動観察) |
| まとめ 5分 | 振り返りシートに、本時のモデルの仮定のうち最も見直したいものとその理由、生成AIの出力を確かめるときに大切だと思ったことを書く。 主な発問:次の時間にモデルを改善するとしたら、どの仮定を変えたいか。 | 書かれた内容を第5時のモデル改善の出発点にすることを伝える。 |
5 板書計画・準備物
- めあて:シミュレーションで、改善策の効果を確かめよう
- 問い:キャッシュレス決済が増えたら、購買の待ち時間はどれくらい短くなる?
- 要素:到着間隔・会計時間・レジの数/仮定:レジ1台、来た順に並ぶ、到着間隔と会計時間は実測の範囲の一様な乱数
- タイムライン:会計開始=到着時刻と前の人の会計終了時刻のうち遅いほう
- 生成AIのモデルの誤り:会計開始=到着時刻(前の人を待つ処理がない)→ 修正
- 結果:①現金のみ ②半数キャッシュレス の平均待ち時間(共有シートから書き足す)
- モデルの限界・次時に見直す仮定(生徒の発言から書き足す)
- 前時までに整理した実測データ(平均の到着間隔、支払い方法別の会計時間)のスライド
- タイムラインを書き込むワークシート
- 生成AIが作成した表計算モデル(教師が事前に作成・保存したもの。誤りを含む)
- 待ち行列モデルのテンプレート(列の見出しと1人目・2人目の行の式入り。到着間隔の列を2条件で共用する形)
- 1人1台端末・表計算ソフト・クラスの共有シート
- ルーブリック(第1時に配布したもの)・振り返りシート
6 授業後のふり返り
ファイルとワークシートから、会計開始時刻の式(前の人の会計終了時刻との比較)を正しく作れた生徒の割合と、参照のずれでつまずいた生徒を把握し、第5時の冒頭で相対参照・絶対参照を確かめ直すかを判断する。生成AIのモデルの誤りに自力で気付けなかった生徒が多い場合は、タイムラインで手順を追う活動を第5時にも取り入れる。話し合いで出たモデルの限界(到着の集中、途中で列を離れる客など)を第5時の改善課題として整理する。実測データは個人が特定されない形で記録されていることを改めて確かめる。ヒストグラムや箱ひげ図の扱いについては、数学Ⅰ「データの分析」の学習状況を数学科と共有し、用語や表し方をそろえる。
※ この指導案は、次期学習指導要領の告示前に、審議まとめ(2026年10月5日)の方向性をふまえて原田英語.comが作成した試案です。評価規準は現行の3観点で書いています。