この指導案の特色

中央教育審議会教育課程部会の審議まとめ(2026年10月5日)で示された、話や文章が社会で果たす主な機能を「話や文章の機能」(仮称)として整理し、読む・書く・話すの学習を関連付ける方向性と、必履修科目を「現代の国語Ⅰ」(仮称)とし、実社会で必要な論理的思考力やコミュニケーション能力を中心に育成する方向を先取りした試案である。次期学習指導要領はまだ告示前であり、本案は審議まとめの方向性をふまえた一つの例である。現行の「現代の国語」の「書くこと」を中心に、同じテーマで立場と構成の異なる2つの意見文(自作)を読み比べて根拠の確かさを吟味し、生徒会への提案文と短い提案スピーチにつなげる。
| 次期の方向性 | この指導案での具体化 |
|---|---|
| 「論説を読む」「意見文を書く」「提案のスピーチをする」など異なる領域の学習を、「考えや主張の理由付けと吟味」(仮称)などの「話や文章の機能」によって関連付けた指導計画を構想しやすくする方向 P131P134P139 | 単元全体を「考えや主張の理由付けと吟味」の機能でまとめ、意見文を読む(本時)→意見文を書く→提案スピーチをする、と領域をまたいで「主張と根拠の関係」を繰り返し使う構成にした。 |
| 必履修科目は現行の枠組みを維持しつつ、実社会で必要な論理的思考力やコミュニケーション能力を中心に育成する「現代の国語Ⅰ」(仮称、4新単位)とし、「話すこと・聞くこと」「書くこと」の指導の充実を引き続き図る方向 P137資料(国⑫)P138 | 題材を学校生活という身近な実社会の課題(文化祭のごみ)にし、生徒会という実際の相手に提案する目的を設定した。書いた提案文は生徒会に届け、1分間の提案スピーチも行う。 |
| 「思考力、判断力、表現力等」を、扱う文章の種類と思考・判断・表現の要素を一体にした「一括りの事項」として示す方向(例:「意見を述べる文章」と、主張を明確にする・根拠を検討する・論理の展開を考える・表現を工夫する)。学習過程は、書く=「考えの形成/表現・推敲」、読む=「構造と内容の理解・解釈/考えの形成」にそろえる P134P138 | 本時は読む学習(構造と内容の理解・解釈→考えの形成)だが、観点を「主張・根拠・理由付け」「根拠の確かさ」「論理の展開」にしぼり、次時以降に意見文を書くときの観点(主張を明確にする・根拠を検討する・論理の展開を考える)と同じ言葉で示した。 |
| 教材の役割を明確にし、資質・能力の育成を主に担う「基幹教材」と、学校や生徒の状況に応じて弾力的に使う「関連教材」を位置付けることが考えられる(例:主張と根拠の関係が比較的明確な論説等を基幹教材に、同じテーマで構成が異なる論説等を関連教材に) P139 | 主張→根拠→反論への応答→結論の構成が明確な意見文Aを基幹教材、同じテーマで逆の立場をとり、体験談から始まって主張が最後に来る意見文Bを関連教材として自作し、読み比べる。時間が足りない学級ではBの整理を家庭学習に回せるようにした。 |
| 情報の扱い方は「情報と情報との関係を吟味し整理する力」と「情報の信頼性や妥当性を見極める力」を発達段階に応じて系統的に示す方向。生成AIの出力も比較・吟味の対象とし、初発の思考を文章化する活動や文章の構成を検討する活動など、目標に直結する場面では不用意に使うことに慎重になるべきとされている P136P140 | 根拠の確かさを「出典は明らかか」「数や範囲は十分か」「いつの情報か」「主張とつながっているか」の4観点で吟味させる。本時と構成を考える第4時は生成AIを使わず、書き上げた後の推敲の段階(第5時)で、教師が用意した生成AIの出力例を自分の文章と比べて吟味する活動に限って扱う。 |
1 単元名・単元の目標
単元名:根拠を確かめて提案しよう ~文化祭のごみを減らす意見文を書く~(全6時間(本時は第2時))
単元の目標:【目的・場面・相手】文化祭のごみを減らすために(目的)、生徒会が来年度の文化祭の運営方針を決める前に(場面)、生徒会役員と全校生徒に向けて(相手)、根拠を示した提案文を書き、短いスピーチで提案する。【目標】①主張と根拠、根拠と理由付けなど情報と情報との関係を理解し、情報の信頼性や妥当性を確かめる方法を身に付ける。②集めた情報の確かさを吟味して自分の主張を明確にし、読み手の納得が得られるよう論理の展開を考えて意見文を書き、それを基に提案する。③根拠の確かさを粘り強く確かめ、他者の文章や意見と比べながら、自分の文章をよりよくしようとする。
2 単元の評価規準
| 知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
|---|---|---|
| 主張と根拠、根拠と理由付けなど情報と情報との関係について理解している。情報の出典・数や範囲・時期などを確かめ、情報の信頼性や妥当性を吟味する方法を理解し使っている。 | 「書くこと」において、集めた情報の信頼性や妥当性を吟味して、伝えたい主張を明確にしている。「書くこと」において、読み手の納得が得られるよう、根拠の示し方や反論への応答など論理の展開を考えて、文章の構成を工夫している。 | 根拠の確かさを粘り強く確かめ、他者の文章や意見と比べながら、自分の提案文をよりよくしようとしている。 |
審議まとめでは、国が「内容のまとまりごとの評価規準例」を示して各学校の作成は不要とし、単元の目標をそのまま評価規準として用いる方向が示されている(本体P69)。国語では、「思考力、判断力、表現力等」は学習の過程で形成的評価を行い、単元の成果としてのパフォーマンス(書き上げた文章など)で総括的評価を行うこと、「運用しながら深める」知識・技能は複数の単元を経てから総括的評価を行うことなどが考えられるとされている(本体P142、資料編m2 P141(国⑮))。本試案の評価規準は現行の3観点で書いた。そのうえで、記録に残す評価を完成した提案文(第5時)と提案スピーチ(第6時)にしぼり、本時を含む前半は形成的評価を中心にした(本体P70)。知識・技能は本単元では指導に生かす評価にとどめ、同じ機能を扱う次の単元の後に記録に残す評価を行う計画とした。次期は「学びに向かう力」を総合所見欄での個人内評価と「思考・判断・表現」への「○」の付記で扱う方向である(本体P63、本体P64)が、本試案では現行制度に基づき「主体的に学習に取り組む態度」を置いた。単元計画の◎は記録に残す評価、○は指導に生かす評価を表す。
3 単元の指導と評価の計画
| 時 | 主な学習活動 | 評価 |
|---|---|---|
| 1 | 単元のゴール(生徒会への提案文とスピーチ)を確かめる。昨年度の文化祭の片付けの様子(写真)と、生徒会からの依頼文(教師と生徒会で作成)を読み、問題を捉える。「模擬店の使い捨て容器をやめるべきか」について最初の考えを自分の言葉で書く(生成AIは使わない)。 | ○思:問題を捉え、最初の考えをもっているか(ワークシート) |
| 2(本時) | 同じテーマで立場の異なる意見文A(基幹教材)・B(関連教材)を読み比べ、主張・根拠・理由付けの関係と論理の展開を整理する。根拠の確かさを4つの観点で吟味し、自分の仮の立場と、足りない情報を書き出す。 | ○知:主張と根拠の関係を捉えているか(構成図)/○思:根拠の確かさを観点に沿って吟味しているか(ワークシート・行動観察) |
| 3 | 情報を集める。生徒会・環境委員会への聞き取り、市のごみの分け方の資料、学校図書館の本や新聞などから根拠を集め、情報カードに出典・発信者・日付を記録する。インターネットの情報は発信元を確かめ、検索結果の上に出る要約をそのまま使わない。 | ○知:情報の出典・時期・発信者を確かめて記録しているか(情報カード) |
| 4 | 主張を決め、情報カードを並べ替えて構成メモを作る(予想される反論とそれへの応答も入れる)。ペアで構成メモを説明し合い、根拠と主張のつながりについて質問し合う(生成AIは使わない)。 | ○思:主張を明確にし、論理の展開を考えて構成しているか(構成メモ) |
| 5 | 提案文(600〜800字)を書く。書き上げた後、教師が用意した生成AIの出力例(同じテーマの意見文)と自分の文章を比べ、根拠の示し方や確かさの違いを確かめて推敲する。 | ◎思:【書くこと】情報の確かさを吟味して主張を明確にし、論理の展開を工夫して書いているか(提案文) |
| 6 | 提案文を基に1分間の提案スピーチを行い、生徒会役員(または役員役の生徒)の質問に答える。単元を振り返り、根拠を確かめる自分なりの手順をまとめる。提案文は生徒会に届ける。 | ◎思:【話すこと・聞くこと】根拠を示して提案し、質問に応じて説明を補っているか(スピーチ・質疑)/◎態:根拠を確かめて自分の文章をよりよくしようとしているか(推敲の跡・振り返り。現行制度に基づき評価) |
4 本時の展開(50分)
本時の目標:同じテーマで立場の異なる2つの意見文を読み比べて、主張と根拠の関係や論理の展開を捉え、根拠の確かさを観点に沿って吟味することができる。
| 過程・時間 | 学習活動 | 指導上の留意点・支援 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 導入 5分 | 単元のゴール(生徒会への提案文とスピーチ)と、前時に書いた最初の考えを振り返る。本時のめあてを確かめる。 主な発問:提案を読んだ生徒会の人が「なるほど、やってみよう」と思うのは、どんな文章だろうか。 | 前時の最初の考えを数人に紹介させ、「賛成・反対」だけでなく「なぜそう言えるのか」に目を向けさせる。 | |
| 展開 12分 | 【構造と内容の理解・解釈】意見文A(基幹教材)を読み、主張に赤、根拠に青、理由付け(その根拠がなぜ主張を支えるのか)に緑の線を引く。段落ごとの役割を書き込み、構成図(主張→根拠→反論への応答→結論)に整理する。ペアで確かめる。 主な発問:筆者が一番言いたいことは何か。それを支えている事実やデータはどれか。その事実がなぜ主張の支えになるのか、筆者はどう説明しているか。 | 理由付けが本文に書かれていない箇所は「書かれていないが、筆者が前提にしていること」として補わせる。色分けが難しい生徒には、主張の文だけを先に見つけさせる。 | ○知:主張・根拠・理由付けの関係を捉えているか(構成図) |
| 展開 10分 | 意見文B(関連教材)を同じ方法で整理し、Aと構成を比べる。Bは体験談から始まり、主張が最後に来ることに気付く。 主な発問:AとBでは、主張が出てくる位置がどう違うか。それぞれの書き方は、読み手にどんな効果があるか。 | 構成の違いをワークシートの表(主張の位置・根拠の数と種類・反論への応答の有無)に整理させる。「どちらが正しい書き方か」ではなく、目的や読み手によって選ぶものであることを押さえる。 | |
| 展開 13分 | 【考えの形成】4人グループで、A・Bの根拠を4つの観点(①出典は明らかか ②数や範囲は十分か ③いつの情報か ④主張と理由付けでつながっているか)でチェックし、「確かな根拠」と「確かめが必要な根拠」に分ける。グループの判断を全体で共有する。 主な発問:Bの「SNSで見た」「ほとんどの人が困ると言っていた」という根拠は、どうすれば確かなものにできるか。Aの「一人あたり三十分ほどで済む」は、何を根拠にしているか。 | Bを「だめな文章」として片付けず、衛生面という大切な論点を含んでいることも確かめ、根拠を確かめ直せば説得力のある文章になることに気付かせる。Aにも確かめが必要な根拠があることに目を向けさせる。判断に迷う根拠は「確かめが必要」に分けてよいことを伝える。 | ○思:根拠の確かさを観点に沿って吟味しているか(ワークシート・行動観察) |
| 展開 6分 | 【考えの形成】自分の仮の立場を決め、A・Bから使えそうな根拠と、まだ足りない情報(次時に調べること)を書き出す。 主な発問:あなたが提案するなら、どちらの立場をとるか。そのために、まだ確かめなければならない情報は何か。 | 考えを形成する段階なので生成AIは使わず、自分の言葉で書かせる。立場を決めかねている生徒には、両方の立場で足りない情報を書き出させる。 | |
| まとめ 4分 | 振り返りシートに、根拠を確かめる4つの観点のうち自分が見落としやすいものと、次時に調べることを書く。次時の情報収集(聞き取り・資料調べ)の予告を聞く。 主な発問:今日の4つの観点のうち、自分が普段見落としやすいのはどれか。 | グループで挙がった「確かめが必要な根拠」を、次時の情報収集の計画に生かすことを伝える。 |
5 板書計画・準備物
- めあて:2つの意見文を読み比べ、根拠の確かさを吟味しよう
- 単元のゴール:生徒会への提案文(600〜800字)と1分間の提案スピーチ
- 主張(赤)・根拠(青)・理由付け(緑)
- Aの構成:主張→根拠→反論への応答→結論/Bの構成:体験談→根拠→主張
- 根拠を確かめる4つの観点:①出典 ②数や範囲 ③時期 ④主張とのつながり
- 確かな根拠/確かめが必要な根拠(グループの判断を書き足す)
- 次時に調べること(生徒の発言から書き足す)
- 意見文A(基幹教材・自作):文化祭の模擬店では、使い捨て容器をやめ、洗って繰り返し使える食器に切り替えるべきだ。生徒会の記録によると、昨年度の文化祭二日間で出た可燃ごみは四十五リットル袋で六十袋あり、その多くが模擬店の容器だった(数値は本教材のための架空のもの)。ごみ袋を運ぶたびに片付けの時間がのび、最後まで残った係の生徒は午後七時まで作業をした。食器を繰り返し使えば、ごみが減るだけでなく、片付けの負担も小さくなる。洗う手間が増えるという反論もあるだろう。しかし、洗い場の当番を各クラスから出せば、一人あたりの負担は三十分ほどで済む。ごみを減らす工夫は、文化祭を楽しむ全員の責任である。
- 意見文B(関連教材・自作):去年の文化祭で、私は友達と焼きそばの店を回った。紙皿は軽くて、歩きながらでも食べやすかった。もし食器を洗って使い回すことになれば、店の前に返却の列ができ、ゆっくり回れなくなるだろう。それに、SNSで「洗い回しの食器は衛生的に心配だ」という投稿を見たことがある。クラスでも、ほとんどの人が使い捨てでないと困ると言っていた。ごみを減らすことは大切だが、来場者が安心して楽しめることのほうが優先されるべきだ。だから、使い捨て容器をやめるべきではない。
- ワークシート(構成図の枠、A・B比較表、4観点チェック表、仮の立場と足りない情報の欄)
- 3色のペン(赤・青・緑)
- 生徒会からの依頼文(教師と生徒会で作成し、第1時に配布したもの)
- 振り返りシート
6 授業後のふり返り
構成図とワークシートから、主張と根拠は捉えられても理由付け(なぜその根拠が主張を支えるのか)を補えていない生徒がどの程度いるかを把握し、第4時の構成メモづくりで「理由付けを一文で書く」手立てを入れるかを判断する。4観点のうち「時期」「数や範囲」を見落とす生徒が多ければ、第3時の情報カードに確認欄を設ける。意見文Bを「悪い例」とだけ受け取った生徒が多い場合は、衛生面の論点が提案の質を高める大切な反論であることを次時の冒頭で確かめる。知識・技能(主張と根拠の関係など)は本単元では指導に生かす評価にとどめ、同じ「考えや主張の理由付けと吟味」に関わる次の単元(論説の読み比べ)の後に記録に残す評価を行う。
※ この指導案は、次期学習指導要領の告示前に、審議まとめ(2026年10月5日)の方向性をふまえて原田英語.comが作成した試案です。評価規準は現行の3観点で書いています。