この指導案の特色

中教審の審議まとめ(2026年10月5日)で示された、数学の新しい見方・考え方(案)「事象や言説を数理の視点から捉え、論理的、統合的・発展的、批判的に考察すること」と、「データと確からしさ」の分野で、標本調査は全体の傾向を推測できる一方で予測や判断に誤りが生じる可能性があることを理解し、判断の妥当性を吟味するという方向性を先取りした試案である。次期学習指導要領はまだ告示前であり、本案は審議まとめの方向性をふまえた一つの例である。現行の第3学年「標本調査」の内容(標本調査の方法や結果を批判的に考察し表現すること)を、身の回りにあふれる「調査によると」という言説を確かめる場面で学ぶ。「批判的」とは相手を否定することではなく、よりよい判断のために確かめることだと生徒と共有する。
| 次期の方向性 | この指導案での具体化 |
|---|---|
| 新しい見方・考え方(案)では、扱う対象を「事象や言説」とし、「論理的、統合的・発展的、批判的に考察すること」とする方向。メディアリテラシーの観点も意識したもので、「批判的」はあくまで建設的な目的でのものであることを解説で示すとされている P167P169資料(算③)P183 | 本時の題材を、教師が作った架空の記事・広告などの「調査によると」という主張にし、うのみにせず標本の取り方から確かめる。最後に「よりよい調査にするにはどうするか」を考えさせ、否定で終わらない考察にする。 |
| 小学校から高校の数学Ⅰまでの内容を6つの「分野」で整理する方向。「データと確からしさ」の中学校の「統合的な理解」のイメージに、「標本調査は、一部のデータに基づいて全体の傾向を推測できるとともに、予測や判断に誤りが生じる可能性があることを理解する」が示されている(現時点のイメージ) P170資料(算⑤-4)P188 | 第3時の表計算ソフトによる標本の取り出し(標本の大きさによる推定のばらつき)の結果を本時の根拠として使い、適切に取った標本でも「およそ」としか言えない理由まで確かめる。 |
| 同じく中学校の「総合的な発揮」のイメージとして、「目的に応じてデータを収集、整理し、データの分布に着目して分析し、判断するとともに、その妥当性について吟味する」が示されている(現時点のイメージ) 資料(算⑤-4)P188 | 第5・6時に学校図書館の蔵書について実際に標本調査を行い、報告書には推定の結果だけでなく、標本の取り方・大きさ・推定の限界を書かせる。 |
| 1人1台端末・クラウド環境・デジタル教材等のデジタル学習基盤を前提とした学習指導要領・解説とし、表計算ツールを活用したデータ処理などの効果的な活用事例を国が周知する P177 | 第3時に表計算ソフトの乱数で無作為抽出を繰り返し、学級全員の標本平均をクラウド上の共有シートに集めて、標本の大きさごとのばらつきを箱ひげ図で比べる。 |
| 分散学習・検索練習など認知心理学や学習科学の知見をふまえた指導(既習事項の習得状況(レディネス)の確認を含む)、帰納的な指導と演繹的な指導のバランス、「間違っても良い」「分からないと言える」心理的安全性の確保が有効とされている P174 | 単元の始めに第2学年で学んだ四分位範囲と箱ひげ図を短い問題で確かめ、各時の導入でも前時の内容を思い出す小問を出す。本時は意見が分かれやすいので、最初の直感をそのまま書いてよいこととし、根拠とともに考えを出し合える雰囲気をつくる。 |
1 単元名・単元の目標
単元名:標本調査 ~その「調査によると」、信じていい?~(全6時間(本時は第4時))
単元の目標:【目標】①標本調査の必要性と意味を理解し、コンピュータなどの情報手段を用いるなどして無作為に標本を取り出し、整理することができる。②標本調査の方法や結果を批判的に考察し表現したり、簡単な場合について標本調査を行い、母集団の傾向を推定し判断したりすることができる。③標本調査のよさに気付いて粘り強く考え、学んだことを生活や学習に生かそうとしたり、標本調査を活用した問題解決の過程を振り返って評価・改善しようとしたりする。
2 単元の評価規準
| 知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
|---|---|---|
| 標本調査の必要性と意味を理解している。コンピュータなどの情報手段を用いるなどして無作為に標本を取り出し、整理することができる。 | 標本調査の方法や結果を批判的に考察し表現することができる。簡単な場合について標本調査を行い、母集団の傾向を推定し判断することができる。 | 標本調査のよさに気付いて粘り強く考え、標本調査について学んだことを生活や学習に生かそうとしたり、標本調査を活用した問題解決の過程を振り返って評価・改善しようとしたりしている。 |
評価規準は現行の3観点で書いた。審議まとめでは、毎時間の記録に追われる評価を見直して単元を見通した総括的評価の場面を精選し、学習の途中で「目標と現在地の差分」を見取ってフィードバックする形成的評価を充実する方向が示されている(本体P63、本体P70)。そこで本試案では、第1〜5時を指導に生かす評価(○)とし、記録に残す評価(◎)は第6時の調査報告書と確認問題に絞った。評価規準は単元の目標をそのまま用いる方向も示されている(本体P69)。「学びに向かう力」は、次期は「思考・判断・表現」の過程で特に表れた場合に「◯」を付記する方向で、その着眼点となる「見取る姿」の中学校数学の例として「事象に知的好奇心や目的意識をもって問題を見いだし、数学を活用しようとしている」「問題発見・解決の過程を振り返って評価・改善しようとしている」などが挙げられている(本体P64〜P65)。本試案では、現行制度に基づき態度の評価規準を置いたうえで、本時のように主張を確かめようとする姿や調査方法を見直そうとする姿を、単元をこえて長い期間で書きためる観察メモにも残す。単元計画の◎は記録に残す評価、○は指導に生かす評価を表す。
3 単元の指導と評価の計画
| 時 | 主な学習活動 | 評価 |
|---|---|---|
| 1 | 国勢調査、テレビの視聴率、食品の品質検査などの例から、全数調査と標本調査の違いと、標本調査が必要になる場面を考える。母集団・標本・標本の大きさの用語を知る。第2学年で学んだ四分位範囲と箱ひげ図を短い問題で確かめる。 | ○知:標本調査の必要性と意味を理解しているか(ワークシート・確認の小問) |
| 2 | 「くじで選ぶ」「出席番号の初めから選ぶ」「希望者を選ぶ」などの選び方を比べ、無作為に抽出することの意味を考える。乱数さいや表計算ソフトの乱数を使って、標本を無作為に取り出す方法を知る。 | ○知:無作為に標本を取り出す方法を理解しているか(行動観察) |
| 3 | 教師が作った架空の「全校生徒400人の1週間の読書時間」のデータ(母集団)から、表計算ソフトで大きさ5・20・50の標本を無作為に繰り返し取り出し、標本平均をクラウド上の共有シートに集める。標本の大きさによって推定のばらつきが変わることを箱ひげ図で確かめる。 | ○知・思:無作為に標本を取り出して整理し、標本の大きさと推定のばらつきの関係を説明しているか(共有シート・ワークシート) |
| 4(本時) | 架空の記事・広告などの「調査によると」という4つの主張を、母集団・標本の選び方・標本の大きさ・主張の言い方に着目して吟味し、言い過ぎかどうかを判断する。偏りのある調査の改善案を考える。 | ○思:標本調査の方法や結果を批判的に考察し表現しているか(ワークシート) |
| 5 | 学校図書館の蔵書のうち「出版から20年以上たった本」の割合を推定する計画を立てる(母集団、標本の選び方、標本の大きさ)。グループで分担し、無作為に選んだ本の出版年を奥付で調べる。 | ○思:目的に応じた標本調査の計画を立てているか(計画書) |
| 6 | 結果をまとめて全体の割合を推定し、図書館担当の先生への報告書を書く。報告には推定の結果だけでなく、標本の選び方と大きさ、推定に誤差が生じうることを書く。図書館の管理システムで全数が分かる場合は、推定と比べる。単元を振り返る。 | ◎知・思:標本調査を行って母集団の傾向を推定し、方法と限界をふまえて判断を説明しているか(報告書・確認問題)/◎態:調査の過程を振り返って改善点を考えようとしているか(報告書の振り返り欄。現行制度に基づく評価。次期の方向では「学びに向かう力」は単元ごとに記録を集めず、長い期間を通して見取る) |
4 本時の展開(50分)
本時の目標:「調査によると」という主張について、母集団、標本の選び方、標本の大きさに着目して批判的に考察し、主張が妥当かどうかを判断するとともに、よりよい調査の方法を表現することができる。
| 過程・時間 | 学習活動 | 指導上の留意点・支援 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 導入 5分 | 前時の共有シートの箱ひげ図を見て、標本の大きさが大きいほど標本平均のばらつきが小さかったことを振り返る。 主な発問:大きさ5の標本の平均と、大きさ50の標本の平均。どちらをより信用できますか。それはなぜですか。 | 結論だけでなく、「ばらつきが小さい」「母集団の平均の近くに集まっている」など、箱ひげ図の言葉で説明させる。 | |
| 導入 5分 | 主張カードA〜D(教師が作った架空のもの)を読み、本時の課題を確かめる。A「本校の生徒は読書好き!9割が『本が好き』と回答」(昼休みに図書室にいた生徒と図書委員の計30人に聞いた)。B「市内の中学生の平均睡眠時間は8時間」(市内のある中学校の1学級から選んだ5人に聞いた)。C「利用者の95%が満足!」(店に置いたアンケート用紙に、自分から答えた20人の結果)。D「全校生徒480人から、生徒番号を表計算ソフトの乱数で選んだ60人に聞いた家庭学習の平均時間は約55分。全校の平均もおよそこのくらいと考えられる」。 主な発問:4つの主張のうち、そのまま信じてよさそうなものはありますか。まず直感で選び、そのあと理由を数学で確かめましょう。 | 主張カードは教師が作った架空のものであることを伝える。最初の直感をワークシートに記録させ、授業の最後に比べられるようにする。 | |
| 展開 12分 | 個人で考えた後、グループで各主張を表に整理する(母集団は何か/標本はどう選ばれたか/標本の大きさ/主張は言い過ぎか)。 主な発問:この主張の「母集団」は何でしょう。その標本は、母集団を代表していると言えますか。 | 表の観点を示し、まず一人で考える時間を3分とる。Bのように、主張している母集団(市内の中学生)と標本を選んだ範囲(1学級)がずれていることに気付かない場合は、「この5人はどこから選ばれた?」と問い返す。 | ○思:標本の選び方や大きさに着目して主張を考察しているか(行動観察) |
| 展開 12分 | 全体で共有し、偏りの原因を「選び方の偏り」「標本の大きさ」「自分から答えた人だけが集まる偏り」などに整理する。Dについて、適切な選び方でも推定には誤差があることを前時の結果から確かめ、「およそ」という言い方の意味を考える。 主な発問:Dは信じてよいと言えますか。それでも「全校の平均はちょうど55分だ」と言えないのはなぜですか。 | 前時の箱ひげ図を再び示し、大きさ50の標本でも標本によって平均が変わったことを根拠にさせる。意見が分かれたら、どちらの根拠のほうが説得力があるかを比べさせる。 | |
| 展開 10分 | 主張Aの調査をよりよくする計画を書く(母集団、無作為に選ぶ方法、標本の大きさ、結果の伝え方)。 主な発問:全校生徒のうち「本が好き」な生徒の割合を知りたいなら、どう調べ直しますか。結果をどう言えば、言い過ぎにならないでしょう。 | 改善案は否定で終わらず「よりよく確かめる方法」を示すことを強調する。早く終わった生徒には、Cの店のアンケートの改善案も考えさせる。 | ○思:標本調査の方法を批判的に考察し、改善案を表現しているか(ワークシート) |
| まとめ 6分 | 「『調査によると』を見たら確かめること」を学級でまとめ、最初の直感と比べて振り返りを書く。次時は学校図書館の本で実際に標本調査をすることを知る。 主な発問:これから「調査によると」という言葉を見たら、どこを確かめますか。 | まとめは生徒の言葉で板書する(例:だれに聞いた?何人?どう選んだ?言い過ぎていない?)。 |
5 板書計画・準備物
- めあて:「調査によると」という主張を、標本の取り方から確かめよう
- 前時の箱ひげ図(標本の大きさ5・20・50の標本平均のばらつき)
- 主張カードA〜D(架空の記事・広告)
- 吟味の表:母集団/標本の選び方/標本の大きさ/言い過ぎか
- 偏りの原因:選び方の偏り・標本が小さい・自分から答えた人だけが集まる
- Dの考察:適切に選んでも標本平均は標本ごとに変わる → 「およそ」と言う
- まとめ(生徒の言葉で):だれに聞いた?何人?どう選んだ?言い過ぎていない?
- 主張カードA〜D(教師が作った架空の記事・広告。グループ数分)
- 吟味の表のワークシート
- 前時の共有シート(標本平均の箱ひげ図)
- 端末・大型提示装置
- 振り返りシート
6 授業後のふり返り
ワークシートの表から、①母集団と標本を取った範囲のずれ(主張B)に気付けたか、②自分から答えた人だけが集まる偏り(主張C)に気付けたか、③適切な調査(主張D)にも誤差があることを説明できたか、を確かめ、つまずきの多かった点を次時の計画づくりの冒頭で扱う。改善案が「人数を増やす」だけになっている生徒が多い場合は、選び方の偏りは人数を増やしても解消しないことを、主張Aを例に再確認する。最初の直感と最後の判断が変わった生徒の振り返りを紹介し、確かめることの価値を学級で共有する。第6時の報告書で推定の限界まで書けているかを見て、本時の学びが生きたかを判断する。
※ この指導案は、次期学習指導要領の告示前に、審議まとめ(2026年10月5日)の方向性をふまえて原田英語.comが作成した試案です。評価規準は現行の3観点で書いています。