No Religion? Then How Do You Teach Right and Wrong?(武士道――宗教なしで道徳を教えるには)の挿絵

No Religion? Then How Do You Teach Right and Wrong?

武士道――宗教なしで道徳を教えるには

  • 📖 846 words
  • ⏱ 約8分
  • 🔊 4:52
  • YL 2.5–3.4
  • 英検2級目安
  • 📝 全訳つき

あらすじ「宗教教育がない? では日本ではどうやって道徳を教えるのですか」。ベルギーの学者に問われて答えられなかった新渡戸稲造。その答えを探して書いたのが、英語の名著『武士道』でした。

新渡戸稲造『武士道』(Bushido: The Soul of Japan, 1900年)序文と第1〜5章をもとに

キーワード(10語)本文の点線の語はタップで意味が出ます
  • scholar学者
  • morals道徳
  • nativeその土地に固有の
  • virtues徳、美徳
  • rectitude義、正しさ
  • hesitationためらい
  • spine背骨
  • benevolence仁、思いやり
  • loyalty忠義
  • fragrance香り
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In the late 1880s, a young Japanese scholar named Nitobe Inazo was staying with a famous Belgian professor of law, Emile de Laveleye. One day, as they walked together, they began to talk about religion. The old professor asked, "Do you mean to say that you have no religious education in your schools?" When Nitobe said no, the professor stopped walking in surprise. "No religion!" he said. "How do you teach morals?"

1880年代の終わりごろ、若い日本人学者の新渡戸稲造は、ベルギーの有名な法学者エミール・ド・ラヴレー教授の家に滞在していました。ある日、二人で散歩をしているうちに、話が宗教のことになりました。老教授はたずねました。「では、あなたの国の学校では、宗教の教育をしていないというのですか」。新渡戸が「はい、していません」と答えると、教授は驚いて立ち止まりました。「宗教がない!それでは、どうやって道徳を教えるのですか」

Nitobe could not answer. The question shocked him. The lessons about right and wrong that he had learned as a child had not come from school. When he began to think carefully about where his ideas of good and bad had come from, he realized that they had been breathed into him by Bushido, the way of the samurai.

新渡戸は答えられませんでした。その問いに、強い衝撃を受けたのです。子どものころに身につけた善悪の教えは、学校で習ったものではありませんでした。自分の善悪の考えはいったいどこから来たのか。じっくり考えてみて、新渡戸は気づきました。それは武士道、つまり侍の道が、自分の中に吹きこんでくれたものだったのです。

His American wife, Mary, also often asked him why certain ideas and customs were common in Japan. To answer both her and the professor, Nitobe wrote a book in English while he was resting from a long illness. It was published in 1900 with the title Bushido: The Soul of Japan. It quickly became famous around the world. Many readers in America and Europe got their first deep look at Japanese ways of thinking from it. Much later, Nitobe's face appeared on the Japanese five-thousand-yen note.

アメリカ人の妻メアリーも、日本ではどうしてこういう考え方や習わしが当たり前なのかと、よく新渡戸にたずねました。妻にも教授にも答えるために、新渡戸は長い病気の療養中に、英語で一冊の本を書きました。それが1900年に出版された『武士道――日本の魂』です。この本はたちまち世界中で有名になりました。アメリカやヨーロッパの多くの読者は、この本で初めて、日本人のものの考え方を深く知ったのです。ずっとのちには、新渡戸の顔が日本の五千円札に描かれました。

Nitobe begins his book with a beautiful image. Bushido, he says, is a flower as native to the soil of Japan as its symbol, the cherry blossom. It is not a dried flower kept in an old history book. It is still alive. The society that created the samurai had disappeared, but like the light of a distant star that still reaches us long after the star itself is gone, the light of Bushido still showed Japanese people the way.

新渡戸は、美しいイメージで本を書きはじめています。武士道は、日本の象徴である桜と同じように、日本の土から生まれた花だというのです。古い歴史の本にはさまれて干からびた押し花ではありません。今も生きている花なのです。侍を生んだ社会は、すでに消えていました。けれども、星そのものがなくなったあとも、その光は長いあいだ地球に届き続けます。それと同じように、武士道の光は、今もなお日本人の進む道を照らしていたのです。

What exactly was Bushido? Nitobe explains that it was a code of moral principles that samurai were expected to follow. It was not written in one book by one person. It grew over many centuries, from the lives and words of warriors and from the teachings of Buddhism, Shinto, Confucius and Mencius.

では、武士道とはいったい何だったのでしょうか。新渡戸の説明では、侍が守るべきものとされた道徳のおきてです。誰か一人が一冊の本に書きあげたものではありません。武士たちの生き方や言葉、そして仏教や神道、孔子や孟子の教えから、何百年もかけて育ってきたものなのです。

He also explains that the education of a samurai aimed first of all at building character. Cleverness, smooth speaking and clever arguments were thought to be less important. A young samurai was expected to become a person of action and of strong heart, not just a person who knew many facts.

新渡戸はまた、侍の教育は何よりもまず、人柄をきたえることを目指していたと説明しています。頭の回転の速さや、口のうまさ、巧みな理屈は、それほど重んじられませんでした。若い侍に求められたのは、物知りになることではなく、行動のできる、心の強い人間になることだったのです。

Then Nitobe describes the main virtues of Bushido, one chapter for each. The first is rectitude, or justice. A samurai was expected to decide what was right and to do it without hesitation. Nitobe quotes a samurai who compared rectitude to the bones of the body. Without bones, the head cannot rest on the top of the spine, the hands cannot move, and the feet cannot stand. In the same way, without rectitude, no talent or learning can make a true samurai.

続いて新渡戸は、武士道の主な徳を、一章に一つずつ説明していきます。最初は「義」、つまり正しさです。侍は、何が正しいかを見きわめ、ためらわずにそれを行うことを求められました。新渡戸は、義を体の骨にたとえた、ある侍の言葉を引いています。骨がなければ、頭は背骨の上に乗っていられず、手も動かず、足で立つこともできません。それと同じで、義がなければ、どんな才能や学問があっても、本物の侍にはなれないのです。

The second is courage. But Nitobe explains that courage was not just bravery in battle. Following Confucius, he says that to see what is right and not to do it shows a lack of courage. Rushing into danger and being killed is easy; anyone can do that. True courage is to live when it is right to live, and to die only when it is right to die. A truly brave person is also calm. He does not lose his peace of mind even in great danger.

二つ目は「勇」です。けれども新渡戸は、勇気とは戦場で勇ましいことだけではないと説明します。孔子にならって、「義を見てせざるは勇なきなり」、つまり正しいと分かっていながらそれをしないのは勇気がないからだ、と言うのです。危険に飛びこんで死ぬのはたやすいことで、誰にでもできます。本当の勇気とは、生きるべきときには生き、死ぬべきときにだけ死ぬことです。本当に勇敢な人は、落ち着いてもいます。どんなに危ない目にあっても、心の平静を失わないのです。

The third is benevolence, which means love, kindness and sympathy for others. Nitobe says the samurai valued the tenderness of a warrior, called bushi no nasake. Strength without kindness, they believed, was not true strength. Those who had the most power had the greatest duty to be gentle to the weak.

三つ目は「仁」です。人を愛し、いつくしみ、思いやることです。新渡戸によれば、侍は「武士の情け」と呼ばれる、武人のやさしさを大切にしていました。やさしさのない強さは、本当の強さではない、と考えていたのです。大きな力を持つ者ほど、弱い者にやさしくする重い務めを負っていました。

Then come politeness, truthfulness, honor, loyalty and self-control. For each one, Nitobe gives stories, poems and comparisons with the knights of Europe and with Christian teachings. He wanted Western readers to see that Japan had a moral tradition as deep and noble as their own.

そのあとに、「礼」「誠」「名誉」「忠義」「克己」が続きます。新渡戸は一つひとつについて、物語や詩を紹介し、ヨーロッパの騎士やキリスト教の教えとも比べています。日本にも、西洋に負けないほど深く気高い道徳の伝統がある。西洋の読者にそのことを知ってほしかったのです。

Nitobe did not think Bushido was perfect, and he did not want Japan to return to the past. Near the end of the book, he admits that Bushido as a system might disappear. Like the cherry blossom, it might fall at the first wind of morning. But its spirit, he hoped, would never completely die. Like the fragrance of flowers that stays in the air after the petals have gone, its virtues would continue to bless human life.

新渡戸は、武士道を完璧なものだとは考えていませんでしたし、日本が昔にもどることも望んでいませんでした。本の終わり近くで、しくみとしての武士道は消えてしまうかもしれない、と認めています。桜の花のように、朝いちばんの風で散ってしまうかもしれない、と。それでも、その心が完全に死に絶えることはないだろう、と新渡戸は願っていました。花びらが散ったあとも、あたりに香りが残るように、武士道の徳はこれからも人の暮らしをうるおし続けるだろう、というのです。

Reading Bushido today, we may not agree with everything. Some parts reflect the world of the samurai, which was very different from ours. But Nitobe's question remains important for everyone. Where do our ideas of right and wrong come from? And how will we pass them on to the next generation?

今『武士道』を読むと、何もかもにうなずけるわけではないかもしれません。中には、私たちの世界とはまるでちがう侍の世界を映し出しているところもあります。けれども、新渡戸の問いは、今も誰にとっても大切なものです。私たちの善悪の考えは、どこから来たのでしょうか。そして私たちは、それをどうやって次の世代に伝えていくのでしょうか。

Try this today. Think about one value you believe in deeply, such as honesty, kindness or courage. Where did you learn it? From a parent, a teacher, a book, a sport, a story? Write down the source, and think about how you could pass that value on to someone younger than you.

今日、ためしてみましょう。正直さ、やさしさ、勇気など、心から大切にしている価値を一つ思い浮かべてください。それは、どこで身につけたものでしょうか。親からでしょうか。先生、本、スポーツ、それとも物語からでしょうか。その出どころを書き出して、自分より年下の誰かにその価値をどう伝えられるか、考えてみましょう。

📖 全訳をまとめて読む 読み終わってからの答え合わせに

1880年代の終わりごろ、若い日本人学者の新渡戸稲造は、ベルギーの有名な法学者エミール・ド・ラヴレー教授の家に滞在していました。ある日、二人で散歩をしているうちに、話が宗教のことになりました。老教授はたずねました。「では、あなたの国の学校では、宗教の教育をしていないというのですか」。新渡戸が「はい、していません」と答えると、教授は驚いて立ち止まりました。「宗教がない!それでは、どうやって道徳を教えるのですか」

新渡戸は答えられませんでした。その問いに、強い衝撃を受けたのです。子どものころに身につけた善悪の教えは、学校で習ったものではありませんでした。自分の善悪の考えはいったいどこから来たのか。じっくり考えてみて、新渡戸は気づきました。それは武士道、つまり侍の道が、自分の中に吹きこんでくれたものだったのです。

アメリカ人の妻メアリーも、日本ではどうしてこういう考え方や習わしが当たり前なのかと、よく新渡戸にたずねました。妻にも教授にも答えるために、新渡戸は長い病気の療養中に、英語で一冊の本を書きました。それが1900年に出版された『武士道――日本の魂』です。この本はたちまち世界中で有名になりました。アメリカやヨーロッパの多くの読者は、この本で初めて、日本人のものの考え方を深く知ったのです。ずっとのちには、新渡戸の顔が日本の五千円札に描かれました。

新渡戸は、美しいイメージで本を書きはじめています。武士道は、日本の象徴である桜と同じように、日本の土から生まれた花だというのです。古い歴史の本にはさまれて干からびた押し花ではありません。今も生きている花なのです。侍を生んだ社会は、すでに消えていました。けれども、星そのものがなくなったあとも、その光は長いあいだ地球に届き続けます。それと同じように、武士道の光は、今もなお日本人の進む道を照らしていたのです。

では、武士道とはいったい何だったのでしょうか。新渡戸の説明では、侍が守るべきものとされた道徳のおきてです。誰か一人が一冊の本に書きあげたものではありません。武士たちの生き方や言葉、そして仏教や神道、孔子や孟子の教えから、何百年もかけて育ってきたものなのです。

新渡戸はまた、侍の教育は何よりもまず、人柄をきたえることを目指していたと説明しています。頭の回転の速さや、口のうまさ、巧みな理屈は、それほど重んじられませんでした。若い侍に求められたのは、物知りになることではなく、行動のできる、心の強い人間になることだったのです。

続いて新渡戸は、武士道の主な徳を、一章に一つずつ説明していきます。最初は「義」、つまり正しさです。侍は、何が正しいかを見きわめ、ためらわずにそれを行うことを求められました。新渡戸は、義を体の骨にたとえた、ある侍の言葉を引いています。骨がなければ、頭は背骨の上に乗っていられず、手も動かず、足で立つこともできません。それと同じで、義がなければ、どんな才能や学問があっても、本物の侍にはなれないのです。

二つ目は「勇」です。けれども新渡戸は、勇気とは戦場で勇ましいことだけではないと説明します。孔子にならって、「義を見てせざるは勇なきなり」、つまり正しいと分かっていながらそれをしないのは勇気がないからだ、と言うのです。危険に飛びこんで死ぬのはたやすいことで、誰にでもできます。本当の勇気とは、生きるべきときには生き、死ぬべきときにだけ死ぬことです。本当に勇敢な人は、落ち着いてもいます。どんなに危ない目にあっても、心の平静を失わないのです。

三つ目は「仁」です。人を愛し、いつくしみ、思いやることです。新渡戸によれば、侍は「武士の情け」と呼ばれる、武人のやさしさを大切にしていました。やさしさのない強さは、本当の強さではない、と考えていたのです。大きな力を持つ者ほど、弱い者にやさしくする重い務めを負っていました。

そのあとに、「礼」「誠」「名誉」「忠義」「克己」が続きます。新渡戸は一つひとつについて、物語や詩を紹介し、ヨーロッパの騎士やキリスト教の教えとも比べています。日本にも、西洋に負けないほど深く気高い道徳の伝統がある。西洋の読者にそのことを知ってほしかったのです。

新渡戸は、武士道を完璧なものだとは考えていませんでしたし、日本が昔にもどることも望んでいませんでした。本の終わり近くで、しくみとしての武士道は消えてしまうかもしれない、と認めています。桜の花のように、朝いちばんの風で散ってしまうかもしれない、と。それでも、その心が完全に死に絶えることはないだろう、と新渡戸は願っていました。花びらが散ったあとも、あたりに香りが残るように、武士道の徳はこれからも人の暮らしをうるおし続けるだろう、というのです。

今『武士道』を読むと、何もかもにうなずけるわけではないかもしれません。中には、私たちの世界とはまるでちがう侍の世界を映し出しているところもあります。けれども、新渡戸の問いは、今も誰にとっても大切なものです。私たちの善悪の考えは、どこから来たのでしょうか。そして私たちは、それをどうやって次の世代に伝えていくのでしょうか。

今日、ためしてみましょう。正直さ、やさしさ、勇気など、心から大切にしている価値を一つ思い浮かべてください。それは、どこで身につけたものでしょうか。親からでしょうか。先生、本、スポーツ、それとも物語からでしょうか。その出どころを書き出して、自分より年下の誰かにその価値をどう伝えられるか、考えてみましょう。

日本語訳:多読ベスト

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このお話の教訓 Moral

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True courage is doing what is right, not just being brave.

真の勇気とは、正しいと知ったことを行うこと。

理解度チェック Quick Quiz

読み終わったら、3問だけ。間違えても大丈夫。多読は「だいたいわかる」で十分です。

Q1. What question shocked Nitobe?

Q2. What did a samurai compare rectitude to?

Q3. What is true courage, according to the reading?

この読み物の使い方 3ステップ

  1. 聞きながら読む 音声に合わせて光る文を目で追う(聞き読み)。わからない語は飛ばしてOK。
  2. 音声なしで読む ⏱計測ボタンで読む速さ(WPM)を測ってみる。
  3. 耳だけで聞く 🎧聞くだけモードで、文字を見ずに内容がわかるか試す。🔁1文リピートで音読・シャドーイングも。

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