英語の「I」「thou」「mother」は1万5000年前の“氷河期の言葉”の子孫? 割れる評価

読む前に予想してみよう!
1万5000年前の言葉が、英語の中にほぼ同じ発音のまま残っている
研究が言うのは「同じ祖先から分かれた親せきの単語」という意味で、発音は大きく変わっている。しかもその判定のしかた自体に強い批判がある。
- 対象
- ユーラシア7語族の再構成された祖語
- 規模
- 200の基本語義(分析は188語義)
- 研究の種類
- 系統解析・統計モデル(観察研究)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
よく使う単語ほど変わりにくい。そこからthou・I・motherなど23の基本語は約1万5000年前の言葉の名残だとする説が出たが、言語学者から強い反論も。
ひとことで言うと今はほぼ使わない英単語「thou(なんじ)」。この「あなた」を表す言葉は、調べた7つの言語グループすべてで、同じ祖先から来たと判定されていた!
I(わたし)、who(だれ)、mother(母)、そして thou(なんじ)。
この4つの英単語は、約1万5000年前、氷河期の終わりごろの言葉の「子孫」かもしれない——。2013年、そんな論文がアメリカの科学誌『PNAS』に載りました。
カギは「よく使う単語ほど、なかなか変わらない」という発見です。ただし、この説には言語学者からかなり強い反論が出ています。
01「よく使う単語ほど変わらない」という発見
まず、2007年に『Nature』に載った研究から。
たとえば「しっぽ」。英語は tail、ドイツ語は Schwanz、フランス語は queue と、言語ごとにバラバラです。ところが「2」は、英語の two をはじめ、この語族のどの言語でも同じ祖先から来た形を使っています。
研究チームの見積もりでは、ふつうの単語は2000〜4000年ほどで、別の単語に入れかわっている確率が50%に達します。ところが I や who のような単語は、そこまでに数万年かかる計算になりました。
027つの語族に共通する「23語」
2013年、ペイゲルさんらはこの考えを広げ、インド・ヨーロッパ、ウラル、アルタイ、イヌイット・ユピック、チュクチ・カムチャツカ、ドラヴィダ、カルトヴェリの7つの語族について、言語学者が再構成した「祖先の単語」をデータベースから集めました。
そして、どの語族どうしで「同じ祖先から来た単語(同源語)」と判定されているかを数えると、4つ以上の語族で共通と判定された意味が23個見つかりました。
- 7語族すべて:thou(あなた・単数)
- 6語族:I
- 5語族:not, that, we, give, who
- 4語族:this, what, man, ye, old, mother, hear, hand, fire, pull, black, flow, bark, ashes, spit, worm
日常の話し言葉で1000語に1回以上使われる単語は、それより使われない単語にくらべて、こうした「深い祖先」を示す確率が7〜10倍高い。系統樹をつくると、7語族の共通祖先は約1万4450年前と推定されました。氷河期が終わるころです。
ここで、ちょっと笑えるネタを。7語族すべてで同源と判定された唯一の意味は thou(あなた・単数)でした。ところが英語の thou は、今では聖書や古い詩などでしか見かけないほぼ使われない単語です。「あなた」の役目は you に取って代わられました。その you も、もとは ye の変化形(目的格)で、リストの ye と同じ一族の単語です。

03「形を変えずに残った」わけではない
研究が言っているのは「同じ祖先から分かれた親せき」という意味で、発音が昔のままという意味ではありません。
たとえば英語の father とラテン語の pater は、見た目はかなり違いますが、p が f に、t が th に変わる規則的な変化で結ばれた同源語です。
また、23項目は英単語ではなく「意味」のリストで、同源かどうかは各語族の祖語どうしで判定されています。英語の mother は、辞書(American Heritage Dictionary)をたどると印欧祖語の māter- にさかのぼり、ラテン語 māter の親せきです。一方、「手」にあたる英語 hand は、同じ辞書では古英語までしかたどられていません。英語の単語がそのまま全部「氷河期生まれ」なわけではないのです。
04どんでん返し:言語学者たちの猛反論
この論文には、同じ年のうちに『PNAS』で反論が2本出ました。
反論1:そもそもデータが「データ」ではない言語学者ヘガティ(Heggarty)さんは、使われたデータベースの「祖先の単語」は研究者の主観的な解釈で、第三者が検証できないと批判しました。よく使う単語はもともと再構成しやすいので、データにその偏りが最初から入っている。いわば、「よく使う単語ほど古い」という答えを最初からデータに入れておいたから、その答えが出てきただけだ、というのです。
さらに、意味が残っても音はずっと速く崩れると指摘します。ラテン語の aquam(水)は、たった2000年ほどでフランス語の eau(オー)になりました。年代の推定に使った基準点が2つしかないことも問題視しています。
反論2:短い単語は偶然似るMITのマホウォルド(Mahowald)さんとギブソン(Gibson)さんは、よく使う単語ほど短い点を突きました。短い単語どうしは、偶然そっくりになりやすい。ランダムに作った文字列なら、3文字の単語は4文字の単語より、1文字違いのペアになる確率が約20倍も高いといいます。
ペイゲルさんらは「祖先の単語では、長さと同源判定に関係は見られなかった」と再反論しました。ただ、たくさんの語族を1つの「超語族」にまとめる提案は、もともと批判が多い分野で、論争は決着していません。
05まとめ
「よく使う単語ほど変わりにくい」——ここまでは、大規模なデータで支えられたかなり確かな話です。
でも、「だから1万5000年前の言葉が英語に残っている」となると、話は一気に論争中になります。thou や mother を見かけたら、「この単語、氷河期から来たって説があるんだよ。ただし大反論つきでね」と話してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy do some words last for thousands of years while others disappear quickly?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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Some English words are very old. Words like "I," "who" and "two" have changed very slowly. Scientists think this is because people use them every day.
In 2013, a team said that 23 basic words may come from a language spoken about 15,000 years ago. One of them is "thou," an old word for "you." But many language experts did not agree. They said short words can look alike by chance.
71 words ・ CEFR A2
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英語の単語の中には、とても古いものがあります。「I」「who」「two」のような単語は、とてもゆっくりとしか変化してきませんでした。科学者たちは、人々がそれらを毎日使うからだと考えています。
2013年、ある研究チームは、23の基本的な単語が約1万5000年前に話されていた言語から来ているかもしれないと言いました。その1つが、「you」を意味する古い単語「thou」です。しかし、多くの言語の専門家は賛成しませんでした。短い単語は偶然似て見えることがある、と彼らは言いました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
古い単語(I, who, two, thou)と、それに専門家が反対したことが書かれているので B。
Q2. How many basic words did the team talk about?
23 basic words may come from a language spoken about 15,000 years ago とあるので C。
Q3. What does "by chance" mean in the last sentence?
by chance は「偶然に」。短い単語は偶然似ることがある、という意味なので B。
Why do some words last for thousands of years while others disappear quickly? In 2007, a British team compared 200 basic meanings across 87 Indo-European languages. They found that words used often in everyday speech are replaced much more slowly.
For example, "tail" is expressed by unrelated words in English, German and French, but the word for "two" comes from the same old form in all of these languages. In 2013, the same group studied seven language families across Europe and Asia. They said 23 words, including "thou," "I" and "mother," may share roots going back about 15,000 years. Other researchers strongly disagreed. They argued that the old word lists were subjective and that short, common words can sound similar by accident.
122 words ・ CEFR B1
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なぜ何千年も残る単語もあれば、すぐに消えてしまう単語もあるのだろうか。2007年、イギリスの研究チームは、インド・ヨーロッパ語族の87言語で200の基本的な意味を比較した。その結果、日常の会話でよく使われる単語ほど、別の単語に入れかわるのがずっと遅いことがわかった。
たとえば「しっぽ」は英語・ドイツ語・フランス語で互いに無関係な単語で表されるが、「2」を表す単語はこれらすべての言語で同じ古い形から来ている。2013年、同じグループはヨーロッパとアジアにまたがる7つの語族を調べた。彼らは、「thou」「I」「mother」を含む23の単語が、約1万5000年前にさかのぼる共通の根をもつかもしれないと述べた。ほかの研究者たちは強く反対した。古い単語のリストは主観的なものであり、短くてよく使う単語は偶然似た音になることがある、と彼らは主張した。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the 2007 study?
words used often in everyday speech are replaced much more slowly とあるので B。
Q2. How many Indo-European languages did the 2007 team compare?
compared 200 basic meanings across 87 Indo-European languages とあるので C。200 は意味の数。
Q3. Why did other researchers disagree with the 2013 claim?
the old word lists were subjective and that short, common words can sound similar by accident とあるので C。
English speakers rarely say "thou" anymore, yet in a 2013 study it was the only meaning whose words were judged related in all seven language families studied. Mark Pagel and his colleagues had earlier shown, using 87 Indo-European languages, that how often a word is used explains about half of the variation in how quickly it gets replaced. They then gathered reconstructed ancestral words for Indo-European, Uralic, Dravidian and four other families.
Words used more than once per 1,000 spoken words were seven to ten times more likely to show deep ancestry, and their family tree placed the common ancestor about 14,450 years ago. Critics answered within months. Paul Heggarty argued that the reconstructions were subjective and that sounds wear away too fast to be traced that far back; Latin "aquam" became French "eau" in roughly two thousand years.
Kyle Mahowald and Edward Gibson added that frequent words tend to be short, and short words resemble one another by chance more easily. Pagel's team replied that word length did not predict which ancestral words were judged related. The link between frequency and slow change has strong support, while the ice-age family tree is contested.
194 words ・ CEFR B2
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英語話者は今ではめったに「thou」と言わないが、2013年のある研究では、調べた7つの語族すべてで単語が同源と判定された唯一の意味だった。マーク・ペイゲルらは以前、87のインド・ヨーロッパ語を使って、単語の使用頻度が、その単語が入れかわる速さのばらつきの約半分を説明することを示していた。次に彼らはインド・ヨーロッパ語族、ウラル語族、ドラヴィダ語族とほか4つの語族について、再構成された祖先の単語を集めた。
話し言葉で1000語に1回以上使われる単語は、深い祖先を示す確率が7〜10倍高く、彼らの系統樹は共通の祖先を約1万4450年前に置いた。批判者たちは数か月のうちに反論した。ポール・ヘガティは、再構成は主観的であり、音はあまりにも速くすり減るのでそこまでさかのぼってたどることはできないと主張した。ラテン語の「aquam」はおよそ2000年でフランス語の「eau」になった。
カイル・マホウォルドとエドワード・ギブソンは、よく使う単語は短い傾向があり、短い単語どうしは偶然により似やすいとつけ加えた。ペイゲルのチームは、どの祖先の単語が同源と判定されるかを単語の長さは予測しなかったと応じた。頻度と変化の遅さの結びつきには強い裏づけがあるが、氷河期にさかのぼる系統樹はいまも争われている。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the writer mention that English speakers rarely say "thou"?
めったに使わないのに、7語族すべてで同源と判定された唯一の意味だった、という皮肉(yet 以下)なので B。
Q2. What example does Heggarty's argument use to show how fast sounds change?
Latin "aquam" became French "eau" in roughly two thousand years とあるので B。
Q3. Which statement best matches the writer's view?
最終文 The link between frequency and slow change has strong support, while the ice-age family tree is contested より C。
重要単語
- cognateC1名詞・形容詞同源語(同じ祖先から分かれた語);同源のThe English word "father" is a cognate of the Latin "pater."
co-(共に)+gnatus(生まれた)。英語の mother とラテン語の mater のように、つづりが違っても同源のことがある。 - ancestorB1名詞祖先These languages may share a common ancestor.
形容詞は ancestral(祖先の)、名詞 ancestry(家系、祖先)。common ancestor「共通の祖先」は進化の話の定番表現。 - frequencyB2名詞頻度Words with a high frequency tend to change slowly.
形容詞 frequent、副詞 frequently。high-frequency words は「よく使う単語」。単語学習でもよく出る。 - archaicC1形容詞古風な、今は使われない"Thou" is an archaic word for "you."
archae-(古い)は archaeology(考古学)と同じ。辞書で archaic と表示された語は、今の会話では使わない合図。 - reconstructB2動詞再構成する、復元するLinguists reconstruct ancient words by comparing modern languages.
re-(再び)+construct(組み立てる)。事故や事件を「再現する」の意味でもよく使う。 - replaceB1動詞取って代わる、置き換えるIn English, "thou" was replaced by "you."
replace A with B「A を B に取り替える」。受け身 be replaced by ~ の形で長文に頻出。 - by chanceB1熟語偶然にTwo short words can sound alike by chance.
by accident とほぼ同じ。Do you know him, by any chance?(ひょっとして彼を知ってる?)も便利。
公式・一次情報をチェック
- 英語の thou の語源(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- 英語の mother の語源(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- 英語の you の語源(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
4コマでわかる

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英語の I、thou、mother は1万5000年前の氷河期の言葉の「子孫」かも…という論文がある。よく使う単語ほど変わりにくいからだそう。でも言語学者からは「短い単語が偶然似ているだけでは?」と猛反論も。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Pagel, Atkinson & Meade (2007) Frequency of word-use predicts rates of lexical evolution throughout Indo-European history, Naturedoi.org
- Pagel, Atkinson, Calude & Meade (2013) Ultraconserved words point to deep language ancestry across Eurasia, PNASdoi.org
- Heggarty (2013) Ultraconserved words and Eurasiatic? The "faces in the fire" of language prehistory, PNASdoi.org
- Mahowald & Gibson (2013) Short, frequent words are more likely to appear genetically related by chance, PNASdoi.org
- Pagel, Atkinson, Calude & Meade (2013) Reply to Mahowald and Gibson and to Heggarty: No problems with short words, and no evidence provided, PNASdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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