「皮肉」の英語 sarcasm、語源は「肉を引き裂く」。石の棺は「肉を食べる石」

読む前に予想してみよう!
石の棺を表す英語 sarcophagus は、もとは「肉を食べる」という意味だ
Oxford の学習辞典によると、ギリシャ語 sarkophagos は sarx(肉)+ -phagos(食べる)で「肉を食べる」。古代ローマのプリニウスは、遺体を40日で歯以外すっかり消してしまう石だと書いた。
- 対象
- 英語・ギリシャ語・ドイツ語の辞書と古代の文献
- 規模
- 辞書5種と古代の著作2点(プリニウス・パウサニアス)
- 研究の種類
- 辞書の語源欄と古典の原文(英訳)の照合
- 確かさ
- ★★★★☆
sarcasm の語源はギリシャ語 sarkazein(肉を引き裂く)。同じ sarx(肉)から sarcophagus(石棺)=「肉を食べる石」も生まれた。
ひとことで言うと「皮肉」の英語 sarcasm は、もとは「肉を引き裂く」っていう意味!
もくじ
雨の日、傘を家に忘れて、びしょぬれ。友だちがひと言。
"Oh, great. Perfect weather for a walk."(あら最高。お散歩びより)
これが sarcasm(サーキャズム)、英語の「皮肉」です。この単語のもとになったギリシャ語の動詞は、「肉を引き裂く」という意味でした。
しかも同じ「肉」から生まれた英単語には、「肉を食べる石」まであります。英語の「皮肉」まわりの言葉は、語源をたどるとなかなか物騒です。
01sarcasm=「犬のように肉を引き裂く」
オックスフォードの学習辞典によると、sarcasm は16世紀半ばに英語に入った言葉です。もとはギリシャ語の sarkazein。意味は「肉を引き裂く」で、のちのギリシャ語では「歯ぎしりする、苦々しく言う」になりました。sarkazein のもとは sarx(肉) です。
古代ギリシャ語の大辞典(リデル&スコット)を開くと、使われ方がもっとくわしく分かります。
- 犬のように肉を引き裂く:喜劇作家アリストファネスの『平和』の例
- 馬が草を食べるときのように、唇で草をむしる:医者ヒポクラテスの著作の例
- 怒って唇をかむ → そこから「苦々しく言う、あざける」
辞書に並ぶ意味を順に読むと、犬が肉を食いちぎる → 怒って唇をかむ → 相手にいやみを言う。言葉で相手の心を「かじる」のが sarcasm、というわけです。American Heritage 辞典も、語源を「怒って唇をかむ」としています。
日本語の「皮肉」も、字を見ると「皮」と「肉」。『日本国語大辞典』によると、もとの意味は「皮と肉、からだ」。それが「うわべ、理解の浅いところ」になり、さらに「骨身にこたえるような痛烈な非難、あてこすり」になりました。日本語でも英語でも、「皮肉」には「肉」が入っているのです。ただし、たどった道はちがいます。
02肉を食べる石、sarcophagus
同じ sarx(肉)から生まれたのが sarcophagus(サーコファガス)。エジプトのミイラが入っているような、石でできた棺のことです。
オックスフォードの学習辞典によると、ギリシャ語の sarkophagos は sarx(肉)+ -phagos(食べる)。つまり「肉を食べる」です。
なぜ棺が「肉を食べる」のか。古代ローマの博物学者プリニウスが、『博物誌』にこう書いています。
トロアス地方(今のトルコ西部)の町アッソスで取れる石は「sarcophagus」と呼ばれる。この石に葬られた遺体は、40日で、歯だけを残してすっかり消えてしまう。

この「肉を食べる石」は、ドイツ語にも入りこんでいます。ドイツ語の大辞典 DWDS(ベルリン・ブランデンブルク科学アカデミー)によると、ドイツ語で棺を表すふつうの単語 Sarg(ザルク) は、ラテン語 sarcophagus を短くした形から借りた言葉で、9世紀の古いドイツ語にすでに sarc として出てきます。ドイツ語のふつうの「棺」の中に、「肉を食べる」がかくれているわけです。
03シニカル(cynical)の正体は「犬」?
皮肉っぽい態度を表す英語は、ほかにもあります。日本語でもよく聞く「シニカル」。英語の cynical、名詞の cynic です。
American Heritage 辞典によると、cynic はギリシャ語 kunikos から来ていて、もとは kuōn(犬)。「徳だけが善であり、自分をおさえることだけがそこへ至る道だ」と考えた古代ギリシャの哲学者の一派(キュニコス派、犬儒派)の名前です。
sarcasm の語源に「犬のように肉を引き裂く」があったのを思い出すと、英語の皮肉には犬が2匹いることになります。
04サードニック(sardonic)は「サルデーニャ島の毒草」
もう1つ、sardonic(サードニック)という形容詞があります。「冷笑的な、人を見下した」という意味で、a sardonic smile(冷ややかな笑い)のように使います。
オックスフォードの学習辞典によると、この語のもとはギリシャ語 sardonios、「サルデーニャ島の」。古代の詩人ホメロスが、苦々しい笑い・あざけりの笑いを表すのに使った sardanios という語が変わった形です。
なぜサルデーニャなのか。古代ギリシャの旅行作家パウサニアスは、『ギリシア案内記』にこう書いています。
サルデーニャ島には、ある1つの植物をのぞけば毒のあるものがない。その毒草はセロリに似ていて、食べた人は笑いながら死ぬと言われる。だからホメロスやのちの人々は、不健全な笑いを sardonic と呼ぶのだ――。
「冷笑」の語源が、「笑いながら死ぬ毒草の島」。sardonic という1語の裏には、こんな話がかくれていました。
05どんでん返し:語源の話も、まるごと信じてはいけない
ここまでの話には、それぞれ「ただし」がつきます。
まず cynic と犬。オックスフォードの学習辞典は、名前はおそらく、哲学者アンティステネスが教えていた運動場「キュノサルゲス(Kunosarges)」から来たもので、それが世間では「犬のような、無作法な」という意味に受け取られ、「犬」がこの学派の人のあだ名になった、と説明しています。American Heritage 辞典も、語源欄では「犬」としながら、くわしい解説(Word History)ではキュノサルゲス説と、アンティステネスの弟子ディオゲネスがアテネの人々に「犬」とあだ名されていたことから来たという説の2つを挙げています。学派の名前と「犬」がどうつながったのかは、はっきりしていないのです。
次に sardonic とサルデーニャ。American Heritage 辞典は、サルデーニャには触れず、「歯をむき出してあざ笑う」という意味のギリシャ語の動詞と関係があるかもしれない、としています。オックスフォードの学習辞典も、ホメロスが使ったのは sardanios で、「サルデーニャの」sardonios はそれが変わった形だとしています。ホメロスの時代の言葉が、はじめからサルデーニャを指していたとは限らないのです。
そして sarcophagus。プリニウスの「40日で消える」は、古代の言い伝えです。DWDS は、この名前はもともと動物の死がいにかけて溶かす「生石灰」の呼び名で、それが石灰岩に移ったのだろう、という研究者の説を紹介しています。
06まとめ
sarcasm は「肉を引き裂く」、sarcophagus は「肉を食べる石」、cynical は「犬」、sardonic は「笑いながら死ぬ草の島」。英語で皮肉を言うための単語には、古代ギリシャの肉と犬と毒草が詰まっています。
日本語の「皮肉」にも「肉」が入っていますが、これは偶然の一致で、たどった道は別です。英語で sarcasm と言うたびに、2,000年以上前のギリシャ語の「肉」を口にしていることになります。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe Greek verb behind "sarcasm" is "sarkazein," from "sarx," meaning "flesh." A large dictionary of ancient…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
You forget your umbrella, and it starts to rain. Your friend says, "Oh, great." That is sarcasm. The word comes from an old Greek verb. At first it meant "to tear flesh," like a dog eating meat.
Later it meant "to speak in a bitter way." The Greek word for "flesh" is also in "sarcophagus," a stone box for a dead body. Its name means "flesh-eating."
66 words ・ CEFR A2
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あなたが傘を忘れて、雨が降り出します。友だちが「あら、最高」と言います。それが sarcasm(皮肉)です。この語は古いギリシャ語の動詞から来ています。最初は、犬が肉を食べるように「肉を引き裂く」という意味でした。
のちに「苦々しく話す」という意味になりました。「肉」を表すギリシャ語は、sarcophagus(死者を入れる石の箱)にも入っています。その名前は「肉を食べる」という意味です。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
sarcasm がギリシャ語の「肉を引き裂く」から来た話なので B。
Q2. What did the Greek verb mean at first?
At first it meant "to tear flesh" とあるので A。
Q3. In the passage, what is a "sarcophagus"?
"sarcophagus," a stone box for a dead body とあるので C。
The Greek verb behind "sarcasm" is "sarkazein," from "sarx," meaning "flesh." A large dictionary of ancient Greek lists several uses. It could describe dogs tearing at meat, or a horse pulling up grass with its lips. It could also mean biting your lips in anger, and from there, speaking bitterly.
English took the word in the mid-1500s. The same "sarx" appears in "sarcophagus," from a Greek word meaning "flesh-eating." The Roman writer Pliny the Elder described a stone found at Assos, in the region of Troas.
He wrote that bodies buried in it disappeared within forty days, except for the teeth. The word even reached German. "Sarg," the ordinary German word for a coffin, comes from a shortened form of the Latin word.
123 words ・ CEFR B1
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sarcasm のもとにあるギリシャ語の動詞は sarkazein で、「肉」を意味する sarx から来ている。古代ギリシャ語の大きな辞書は、いくつかの使い方を挙げている。犬が肉を引き裂く様子や、馬が唇で草を引き抜く様子を表すことができた。また、怒って唇をかむこと、そしてそこから、苦々しく話すことも意味しえた。
英語はこの語を1500年代半ばに取り入れた。同じ sarx は sarcophagus にも現れ、これは「肉を食べる」を意味するギリシャ語から来ている。ローマの著述家、大プリニウスは、トロアス地方のアッソスで見つかる石について書いている。
その中に葬られた遺体は、歯を除いて40日以内に消えてしまったという。この語はドイツ語にまで届いた。ドイツ語で棺を表すふつうの語 Sarg は、そのラテン語を短くした形から来ている。
4択リーディングクイズ
Q1. Which of these is NOT listed as a use of "sarkazein"?
犬が肉を裂く、馬が唇で草を抜く、怒って唇をかむ、の3つは本文にあるが、「おかしな話に笑う」はないので D。
Q2. According to Pliny, what happened to bodies buried in the stone from Assos?
bodies buried in it disappeared within forty days, except for the teeth とあるので B。
Q3. What does the German word "Sarg" show?
ドイツ語のふつうの「棺」Sarg が sarcophagus を短くした形なので、日常語にまで広がったことを示している。A。
English has a small family of words for mocking people, and most of them have odd Greek roots. "Sarcasm" comes from a verb that meant tearing flesh, then biting one's lips in anger, and finally speaking bitterly. "Cynic" is linked to the Greek word for "dog," but nobody is sure how.
Oxford says the name probably came from Kunosarges, a gymnasium where the philosopher Antisthenes taught, and that people later heard "dog" in it. American Heritage gives that idea too, along with another one: people in Athens called his student Diogenes "the dog." "Sardonic" has an even stranger story. Oxford traces it to a Greek word meaning "of Sardinia," a changed form of a word Homer used for bitter laughter.
The Greek travel writer Pausanias explained it with a local plant. He said that Sardinia had only one poisonous herb, which looked like celery, and that people who ate it died laughing. American Heritage, however, connects the word to a Greek verb for showing the teeth in a mocking grin. Then there is "irony," which goes back to a Greek word for pretending not to know.
186 words ・ CEFR B2
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英語には人をからかうための小さな単語の一族があり、その多くは奇妙なギリシャ語の根を持っている。sarcasm は、肉を引き裂く、次に怒って唇をかむ、そして最後に苦々しく話す、という意味になった動詞から来ている。cynic は、「犬」を表すギリシャ語と結びついているが、どう結びついたのかはだれにも確かではない。
Oxford は、この名前はおそらく哲学者アンティステネスが教えていた運動場キュノサルゲスから来ていて、のちに人々がそこに「犬」を聞き取った、としている。American Heritage もその説を挙げ、さらに別の説も挙げている。アテネの人々が、彼の弟子ディオゲネスを「犬」と呼んでいた、というものだ。sardonic にはもっと奇妙な話がある。Oxford はこの語を「サルデーニャの」を意味するギリシャ語にさかのぼらせ、それはホメロスが苦々しい笑いに使った語が変わった形だとしている。
ギリシャの旅行作家パウサニアスは、これを土地の植物で説明した。サルデーニャには毒のある草が1つしかなく、それはセロリに似ていて、食べた人は笑いながら死んだ、というのだ。しかし American Heritage は、この語を、あざけって歯を見せることを表すギリシャ語の動詞と結びつけている。それから irony があり、これは知らないふりをすることを表すギリシャ語にさかのぼる。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
sarcasm・cynic・sardonic・irony のギリシャ語の起源と、辞書による説明の違いを述べているので B。
Q2. According to Pausanias, what happened to people who ate the poisonous herb?
people who ate it died laughing とあるので C。
Q3. What can be inferred about the dictionaries mentioned in the passage?
sardonic の語源で American Heritage と Oxford の説明が分かれている(cynic でも説が1つに決まっていない)ので D。
重要単語
- sarcasmC1名詞皮肉、いやみ"Oh, great," she said with heavy sarcasm.
/ˈsɑːrkæzəm/。with sarcasm「皮肉をこめて」。ギリシャ語 sarkazein(肉を引き裂く)から。 - sarcasticC1形容詞皮肉な、いやみを言うDon't be sarcastic. I'm asking you a real question.
/sɑːrˈkæstɪk/。名詞の sarcasm と強く読む場所が変わる。I was being sarcastic.「今のは皮肉だよ」。 - sarcophagusC1名詞(古代の)石棺The museum has an Egyptian sarcophagus on the second floor.
sarx(肉)+ -phagos(食べる)。複数形は sarcophagi(サーカファガイ)。 - cynicalB2形容詞人の善意を信じない、ひねくれたHe's cynical about anything politicians promise.
名詞は cynic「皮肉屋」。be cynical about ~「~を冷めた目で見る」。 - sardonicC2形容詞冷笑的な、人を見下したShe gave a sardonic smile and said nothing.
/sɑːrˈdɑːnɪk/。a sardonic smile / grin の形でよく使う。語源は「サルデーニャの」。 - ironyB2名詞皮肉、反語;皮肉な成り行きThe irony is that the fire station burned down.
ギリシャ語 eirōneia「知らないふり」から。The irony is that ~「皮肉なことに~」。 - mockB2動詞あざける、からかうThe other kids mocked his old shoes.
make fun of とほぼ同じ。形容詞では mock exam「模擬試験」のように「にせの」。 - bitterB1形容詞苦い;苦々しい、恨みのこもったHe gave a bitter laugh when he heard the news.
味の「苦い」から気持ちの「苦々しい」へ。sarkazein の後の意味「苦々しく言う」はこれ。
公式・一次情報をチェック
- sarcasm(Oxford Learner's Dictionaries)oxfordlearnersdictionaries.com
- Pausanias, Description of Greece 10.17.13(Perseus Digital Library, タフツ大学)perseus.tufts.edu
- 皮肉(コトバンク:精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉)kotobank.jp
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皮肉を英語で sarcasm。語源はギリシャ語の「肉を引き裂く」。同じ「肉」から、石棺 sarcophagus=「肉を食べる石」。シニカル cynical には「犬」説、サードニック sardonic には「食べると笑いながら死ぬ草」が生えるサルデーニャ島の伝説。英語の皮肉、物騒すぎる。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Oxford Learner's Dictionaries「sarcasm」「sarcophagus」「sardonic」「cynic」「irony」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.(HarperCollins)「sarcasm」「sardonic」「cynic」ahdictionary.com
- Liddell, Scott & Jones, A Greek-English Lexicon「σαρκάζω」(Perseus Digital Library, タフツ大学)perseus.tufts.edu
- Pliny the Elder, The Natural History, Book 36, Chap. 27(Bostock & Riley 英訳, Perseus Digital Library)perseus.tufts.edu
- Digitales Wörterbuch der deutschen Sprache(DWDS)「Sarg」(Pfeifer 語源辞典)dwds.de
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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