81%が氷なのに「緑の土地」。グリーンランドは人を集めるための名前と伝わる

読む前に予想してみよう!
グリーンランドという名前は、島が一年中緑におおわれていたからついた
島の81%は氷。12世紀の『アイスランド人の書』は、赤毛のエイリークが人を呼ぶために「よい名前」をつけたと書いている。
- 対象
- 中世アイスランドの記録と現代の統計
- 規模
- 『アイスランド人の書』(1122〜33年ごろ)ほか
- 研究の種類
- 歴史資料(サガ・年代記)の記述+辞書・統計
- 確かさ
- ★★★☆☆
島の81%が氷のグリーンランド。12世紀アイスランドの記録『アイスランド人の書』は、赤毛のエイリークが「よい名前なら人が来る」と考えて名づけたと書く。アイスランドは逆に、流氷を見た男がつけた名前と伝わる。
ひとことで言うとグリーンランドは「人が来たくなるように」つけた名前だと、昔の記録に書いてあるんだって!
もくじ
島の面積の81%が氷。それなのに、名前は Greenland(グリーンランド)=「緑の土地」。
地図を見て「名前と中身が逆では?」と思ったことはありませんか。
じつはこの名前には、12世紀のアイスランドの記録に、はっきり理由が書いてあります。名づけた男は、「よい名前がついていれば、人が行きたがるから」と言ったというのです。千年前の“キャッチコピー”でした。
01島の81%が氷。いちばん厚い所は3キロ超え
まず、どれくらい「緑じゃない」のかを確かめておきます。
グリーンランド統計局の資料『Greenland in Figures 2017』によると、島の面積は2,166,086平方キロメートルで、世界一大きな島です。そのうち81%が氷におおわれています。アメリカの国立雪氷データセンター(NSIDC)も、氷床(陸をおおう巨大な氷のかたまり)が島の約80%をおおい、いちばん厚いところは3キロメートルを超えると説明しています。
人が暮らしているのは、氷のない海岸ぞいの町や集落です。統計局の資料では、人口は55,860人(2017年1月)でした。
02「よい名前なら、人が行きたがる」
では、だれがこの名前をつけたのでしょう。
手がかりは、アイスランドの学者アリ・ソルギルソンが書いた『アイスランド人の書(Íslendingabók)』です。イギリスのヴァイキング北方研究協会(ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ)が出した英訳(グレンリー訳、2006年)の解説によると、書かれたのは1122〜1133年ごろ。
その第6章に、こうあります(英訳からの筆者訳)。
「(赤毛のエイリークは)その土地に名前をつけ、グリーンランドと呼んだ。土地によい名前がついていれば、人々がそこへ行く気になるだろう、と言った」
赤毛のエイリーク(英語では Erik the Red)は、アイスランド西部のブレイザフィヨルズから来た男として書かれています。入植を始めたのは、アイスランドにキリスト教が入る14〜15年前。グレンリー訳の年表では、985年か986年にあたります。
ただし、この「宣伝のための名前」という話は、エイリークの入植から約140年後に書かれた記録によるものです。本人の言葉が残っているわけではありません。「サガ(中世アイスランドの記録や物語)にそう書かれている」と受け取るのが正確です。

03アイスランドは、流氷を見た男がつけた名前
グリーンランドの名前が“宣伝”なら、Iceland(アイスランド)=「氷の土地」は、その正反対です。
アイスランド環境庁は、『植民の書』の話として、次のように紹介しています。ノルウェーのヴァイキング、フローキ・ヴィルゲルザルソンは、アイスランドで冬を越した最初の北欧の男とされます。ところが彼と仲間は入り江で魚をとるのに夢中になり、羊のための干し草を集めるのを忘れてしまいました。羊はその冬に全部死んでしまいます。
春になってフローキが山に登り、北を見わたすと、流氷でいっぱいの入り江が見えました。そこで、この国をアイスランドと名づけた――というのです。同庁は、この話が本当なら、フローキがいたのは860〜870年のあいだだろうとしています。
羊を死なせて、流氷を見て「氷の国」。 人を呼ぶための名前と、こりごりした男がつけた名前。北の海の2つの島は、まったく逆の気持ちで名づけられたと伝わっているのです。
ちなみにアリは『アイスランド人の書』で、入植のころのアイスランドは山と海岸のあいだが森におおわれていたとも書いています。フローキは船から3羽のカラス(アイスランド語で hrafnar)を放って陸地を探したので、「カラスのフローキ(Hrafna-Flóki)」とも呼ばれました。
04「ブドウの国」ヴィンランドも名前の謎
北欧の人々は、1000年ごろにはさらに西の北アメリカまで船を出していました(アメリカン・ヘリテージ英語辞典)。その土地につけられた名前が Vínland(ヴィンランド) です。
グレンリー訳の注によると、『アイスランド人の書』に出てくるのが、アイスランドの言葉で書かれた「ヴィンランド」のいちばん古い例です。場所はラブラドル南東部か、ニューファンドランド北部の可能性が高いとされます。名前は、そこに生えていると信じられた野生のブドウ(vínber)から来た、とブレーメンのアダム(ドイツの年代記作者)や後のサガは説明しています。アメリカン・ヘリテージ英語辞典も、ブドウがたくさん生えていたことから名づけられた、と書いています。
ただし同じ注は、「草地」を表す古い言葉 vin から来たという説や、「ベリー(木の実)」全般を表す言葉から来たという説もあり、研究者の意見が分かれていると書いています。
05現地の言葉では「グリーンランド人の国」
エイリークたちより前から、この島には人が住んでいました。グリーンランド統計局によると、北アメリカ大陸から来た先住の人々が4,500年以上前にグリーンランドに住みつきました。約1,000年前には、今のグリーンランド人の祖先(チューレ文化の人々)が北部に住みつき、北欧のヴァイキングが南部に来たのもほぼ同じころです。
『アイスランド人の書』は、エイリークたちが島の東と西で皮の舟のかけらや石の道具を見つけたとも書いています。グレンリー訳の注によると、これは紀元前700年から紀元200年ごろに東西の海岸に住んでいたドーセット文化の人々のものと考えられます。
そして今、この島の名前は Kalaallit Nunaat(カラーリット・ヌナート)。統計局の説明では「グリーンランド人の国」という意味です。
06どんでん返し:じつは「ウソの宣伝」でもなかった?
ここまで読むと、エイリークは「氷の島を緑と言いはったウソつき」に見えるかもしれません。でも、話はそう単純ではありません。
グレンリー訳の注は、グリーンランドの南部は、最初の入植者にとって草の斜面と低い木のしげみがある土地だったはずで、名前はアリが思うほど“宣伝”ではないかもしれない、という歴史家ジョーンズ(1964年)の見方を紹介しています。
アメリカン・ヘリテージ英語辞典も「まったくの誇大広告というわけではなかった」と書いています。10世紀のグリーンランドは今より暖かく、フィヨルドの奥には草やヤナギ、ネズ(ヒノキの仲間の低木)、カバノキ、野生のベリーが茂る広い草地があった、というのです。入植地はその後300年の大半のあいだ栄えましたが、14世紀半ばから北大西洋が寒くなり、15世紀の初めには消えてしまったと同辞典は説明しています。
名前の由来にも、別の説明があります。ブレーメンのアダムは、グリーンランドという名前は島をとりまく海の色から来た、と書きました(グレンリー訳の注)。
年代にも疑問があります。アリにこの話を伝えたのはソルケル・ゲリソンという人で、エイリークといっしょに行った男から聞いたとされます。でもソルケルは早くても1030年生まれで、グリーンランドに行ったのは1050〜60年ごろより前ではなさそうです。そうすると、話をした男はかなりの高齢だったことになります。注は、入植が記録より遅かった可能性もあると書いています。
07まとめ
グリーンランドは、島の81%が氷なのに「緑の土地」。12世紀の記録によると、その理由は「よい名前なら人が来る」でした。一方のアイスランドは、羊を死なせた男が流氷を見てつけた名前と伝わります。
ただし10世紀の南グリーンランドには、本当に草地がありました。ウソの宣伝というより、いちばん良いところを名前にした“キャッチコピー”。次に地図でグリーンランドを見たら、千年前の不動産広告を思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAbout 81 percent of Greenland is covered with ice.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Greenland is the world's biggest island, but about 81 percent of it is covered with ice. So why is it called Greenland? An old book from Iceland gives the answer.
Erik the Red gave the land its name. He said people would want to go there if it had a good name. Iceland's name has a different story. A Viking lost all his sheep one winter. Then he saw a fjord full of ice and named the country Iceland.
79 words ・ CEFR A2
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グリーンランドは世界でいちばん大きな島ですが、その約81%は氷におおわれています。では、なぜグリーンランドと呼ばれるのでしょう。アイスランドの古い本に、その答えが書いてあります。
赤毛のエイリークがこの土地に名前をつけました。よい名前がついていれば、人々はそこへ行きたがるだろう、と彼は言いました。アイスランドの名前には、別の話があります。あるヴァイキングが、ある冬に羊を全部失いました。そのあと彼は、氷でいっぱいの入り江を見て、この国をアイスランドと名づけたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
グリーンランドとアイスランドがどうやって名前をもらったかの話なので B。
Q2. How much of Greenland is covered with ice?
about 81 percent of it is covered with ice とあるので C。
Q3. In the passage, what does "a good name" mean?
people would want to go there if it had a good name から、人が行きたくなるような、聞こえのよい名前という意味なので B。
About 81 percent of Greenland is covered with ice. The oldest Icelandic account of the name is the Book of the Icelanders, written by Ari Thorgilsson between 1122 and 1133. Ari says that Erik the Red called the land Greenland because people would be more willing to move there if it had a good name. Iceland's name comes with a sadder story.
According to the Book of Settlements, a Viking named Floki was so busy fishing that he forgot to gather hay, and his sheep died over the winter. In spring he climbed a mountain, saw a fjord full of ice, and named the country Iceland. Erik's name may not have been a total lie. Southern Greenland had grassy slopes when the settlers arrived.
124 words ・ CEFR B1
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グリーンランドの約81%は氷におおわれている。この名前について伝える、アイスランドでいちばん古い記録は、アリ・ソルギルソンが1122年から1133年のあいだに書いた『アイスランド人の書』である。アリによると、赤毛のエイリークは、よい名前がついていれば人々がもっと移り住む気になるだろうと考えて、その土地をグリーンランドと呼んだ。アイスランドの名前には、もっと悲しい話がついている。
『植民の書』によると、フローキというヴァイキングは魚とりに夢中で干し草を集めるのを忘れ、羊がその冬に死んでしまった。春になって彼は山に登り、氷でいっぱいの入り江を見て、この国をアイスランドと名づけた。エイリークのつけた名前は、まったくのウソではなかったかもしれない。入植者が着いたころ、グリーンランドの南部には草の斜面があったのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. Who wrote the Book of the Icelanders?
the Book of the Icelanders, written by Ari Thorgilsson とあるので C。
Q2. Why did Floki's sheep die?
he forgot to gather hay, and his sheep died over the winter とあるので A。
Q3. What does the writer suggest in the last two sentences?
Southern Greenland had grassy slopes when the settlers arrived から、到着時に島の一部は本当に緑だったと言いたいので B。
Greenland is the largest island on Earth, and roughly 81 percent of it lies under ice that is more than three kilometers thick in places. The name sounds like a sales trick, and that is how one medieval writer explained it. In the Book of the Icelanders, written between 1122 and 1133, Ari Thorgilsson reports that Erik the Red named the land Greenland because a good name would encourage people to go there. Ari places the settlement fourteen or fifteen years before Iceland became Christian, which works out to about 985.
But he was writing about 140 years after the events, and his chain of informants raises doubts. The man who passed the story to him was born in 1030 at the earliest, so Erik's companion would have been very old when they met.
Another writer had a different idea. Adam of Bremen, a German chronicler, thought the name came from the color of the surrounding sea. Some historians also note that southern Greenland offered grassy slopes and shrubs to the first farmers, so the name may be less of a lie than it seems. Today its Greenlandic name is Kalaallit Nunaat, which means "the Country of the Greenlanders."
199 words ・ CEFR B2
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グリーンランドは地球上で最も大きな島で、その約81%は、ところによって厚さ3キロメートルを超える氷の下にある。この名前は売りこみのための策略のように聞こえるし、中世のある書き手もそのように説明した。1122年から1133年のあいだに書かれた『アイスランド人の書』で、アリ・ソルギルソンは、よい名前は人々をそこへ行く気にさせるだろうという理由で、赤毛のエイリークがその土地をグリーンランドと名づけたと伝えている。アリは入植を、アイスランドがキリスト教国になる14〜15年前としており、これは985年ごろにあたる。
しかし彼は出来事から約140年後に書いており、話を伝えた人々のつながりには疑問がある。アリに話を伝えた男は早くても1030年生まれなので、会ったときエイリークの同行者はかなりの高齢だったことになる。
別の考えを書いた人もいる。ドイツの年代記作者ブレーメンのアダムは、この名前はまわりの海の色から来たと考えた。また一部の歴史家は、グリーンランドの南部は最初の農民たちに草の斜面と低木を与えたので、この名前は見かけほどウソではないかもしれないと指摘している。今日、この島のグリーンランド語の名前はカラーリット・ヌナートで、「グリーンランド人の国」という意味である。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
名前の由来はアリの記録によるもので、年代や理由に疑問がある、という流れなので B。
Q2. Why does Ari's chain of informants raise doubts?
The man who passed the story to him was born in 1030 at the earliest, so Erik's companion would have been very old とあるので B。
Q3. What can be inferred from the passage?
宣伝説と、南部に草の斜面があったという指摘の両方が書かれているので C。
重要単語
- settlerB1名詞入植者、移住者The first settlers arrived in small wooden ships.
settle(住みつく)+-er。settlement は「入植、入植地」。歴史の長文でよく出る。 - ice sheetB2名詞氷床(陸をおおう巨大な氷)The ice sheet is more than three kilometers thick in places.
地球にある氷床はグリーンランドと南極の2つ。iceberg(氷山)、glacier(氷河)と区別しよう。 - attractB1動詞引きつける、呼び寄せるErik hoped the name would attract new farmers.
名詞 attraction は「魅力、呼び物」。tourist attraction「観光名所」。 - fjordB2名詞フィヨルド(氷河が削ってできた細長い入り江)Their farms stood at the head of a long fjord.
ノルウェー語から入った語。発音は「フィヨード」に近い。 - accountB2名詞(出来事の)話、記述The oldest account of the voyage was written a century later.
「口座」だけでなく「説明・記述」の意味も入試頻出。give an account of ~「~を説明する」。 - name afterB1動詞句〜にちなんで名づけるIceland is said to have been named after the ice in a fjord.
受け身 be named after ~ の形でよく使う。アメリカ英語では name for ~ も使う。 - exaggerateB2動詞大げさに言う、誇張するSome people say Erik exaggerated how green the land was.
g を2つ重ねるつづりに注意。名詞は exaggeration。
公式・一次情報をチェック
- Vinland(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- Iceland(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
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島の81%が氷なのに、なぜ「グリーンランド(緑の土地)」? 12世紀アイスランドの記録では、赤毛のエイリークが「よい名前なら人が行きたがる」と名づけた。一方アイスランドは、羊を死なせた男が流氷を見てつけた名前と伝わる。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Grønlie, S. (trans.) (2006) Íslendingabók. Kristni saga: The Book of the Icelanders. The Story of the Conversion. Viking Society for Northern Research, University College Londonvsnrweb-publications.org.uk
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「Greenland」(Word History)ahdictionary.com
- Statistics Greenland (2017) Greenland in Figures 2017stat.gl
- National Snow and Ice Data Center「Ice sheet quick facts」nsidc.org
- Environment Agency of Iceland(アイスランド環境庁)「Hrafna-Flóki and Flókatóftir」ust.is
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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