The Wine Worm(酒虫)の挿絵

The Wine Worm

酒虫

  • 927 words
  • 約8分
  • YL 1.5–2.4
  • 英検準2級目安
  • 全訳つき

あらすじどれだけ酒を飲んでも決して酔わない、中国の大金持ちの劉。ある日、西の国から来たふしぎな僧があらわれ、「あなたの腹の中には酒虫がいる」と言います。

芥川龍之介『酒虫』(1916年)をもとに再話

ORIGINAL TEXT

まずは原文をチェック

この話は日本語の原文(青空文庫)でも読めます。青空文庫の本文を、そのまま載せています。やさしい版で筋をつかんでから原文へ進むと、作者の言葉をじっくり味わえます。

『酒虫』芥川龍之介の日本語の原文を読む →

青空文庫の本文(新字旧仮名・約6,700字)。

キーワード(10語)本文の点線の語はタップで意味が出ます
  • threshing floor打麦場(穀物を打って実を落とす広場)
  • fly whiskほっす(ハエを追うはらい道具)
  • squattingしゃがんでいる
  • go碁(ボードゲーム)
  • insultedばかにされた
  • creepingはうように動く
  • salamanderサンショウウオ
  • fortune財産/幸運
  • spadeすき(土を掘り起こす農具)
  • didacticism教訓主義(教えを説きたがること)

音声は準備中です。もうしばらくお待ちください。

日本語訳の一部には生成AIを使っており、AIによる3重のチェックと人の目で確かめています。まだ人の目を通っていない訳もあるため、ニュアンスがずれている所があるかもしれません。日本語訳について

It was the hottest summer in many years. The roofs shone dully in the sun like lead, and in the fields every plant hung its head. On a threshing floor under the burning noon sun, three men were waiting in silence. Of course, this is not a story of Japan. It happened long ago in a place called Changshan, in China.

近年にない暑さだった。屋根は鉛のように鈍く日の光をはね返し、畑の作物はどれも、ぐったりと頭をたれていた。じりじりと照りつける真昼の打麦場で、三人の男がだまって何かを待っていた。もちろん、これは日本の話ではない。昔、中国の長山という所で起こった出来事である。

One man was lying on his back with no clothes on, his hands and feet tied with rope. He was short and as fat as a pig. By his head stood a clay jar. The second man was a dark-skinned monk from far to the west, in a yellow robe, with bronze rings in his ears. He was squatting by the jar with a fly whisk in his hand. The third man, a scholar with a thin beard and a white feather fan, stood in the shade of a hut.

一人は、すっぱだかで地面にあおむけに寝ころび、手も足もなわでしばられていた。背が低く、豚のように太った男である。その枕もとには、素焼きのかめが一つ置いてあった。もう一人は、黄色い衣を着て、耳に青銅の輪をさげた、肌の黒い僧だった。ずっと西の国から来た人らしい。手にほっすを持って、かめのそばにしゃがんでいる。あとの一人は、うすいあごひげを生やし、白い羽のうちわを持った学者で、小屋の日かげに立っていた。

The naked man was Liu Dacheng, one of the richest men in Changshan. His only pleasure was drinking. People said that each time he drank alone, he finished a whole jar of wine. But he owned so much land that there was no danger of drinking away his fortune.

はだかの男は劉大成といって、長山でも指おりの大金持ちだった。この男の楽しみは、酒を飲むことだけである。ひとりで飲むたびに、かめ一つを飲みほすといわれていた。もっとも、田畑をたくさん持っていたので、酒のために財産をなくす心配などまるでなかった。

That day, Liu had been playing go in a cool room with his drinking friend, Mr. Sun, the scholar. Then a famous monk from the western lands came to see him. He was tall, with strange eyes like purple crystals. "You are the one who likes wine, aren't you?" he said. "You never get drunk, however much you drink." Liu stared at him. It was true. He had never once been drunk.

その日、劉は、飲み仲間の孫先生と、風通しのよい部屋で碁を打っていた。孫先生というのが、あの学者である。そこへ、西の国から来た評判の僧がたずねてきた。背が高く、紫水晶のような不思議な目をしていた。「酒がお好きなのは、あなたですな。いくら飲まれても、お酔いになりますまい」と僧は言った。劉は、まじまじと相手を見た。そのとおりだった。劉は一度も酔ったことがないのである。

"That is the sign of a rare illness," said the monk. "There is a wine worm in your stomach. Unless it is taken out, you will not get better. I have come to cure you." "Will you use medicine?" asked Mr. Sun. He loved wine too, and he was a little worried about his own stomach. "There is no need for medicine," the monk answered coldly. Mr. Sun felt insulted and went back to his game in silence.

「それが、めずらしい病気のしるしですよ」と僧は言った。「腹の中に酒虫がいる。それを取りのぞかないと、この病気は治りません。わたしは、あなたの病気を治しに来たのです。」「何か、薬でも使われるのか」と孫先生がたずねた。先生も酒好きなので、自分の腹の中も少し心配になったのである。「薬など使うまでもありません」と、僧は無愛想に答えた。孫先生はばかにされたような気がして、またむっつりと碁を打ちはじめた。

"Needles, then? Or a magic spell?" asked Liu. "Neither," said the monk. The cure was simply to lie naked in the sun and keep still. That sounded easy, and Liu was curious too. So he bowed his head and said, "Then please cure me."

「では、はりですかな。それとも、まじないですかな」と劉はたずねた。「どちらでもありません」と僧は言った。治し方は、ただはだかになって、日なたでじっとしていればよいというのである。それならたやすいことだし、劉は好奇心も少し動いた。そこで頭を下げて、「では、どうか治していただきましょう」と言った。

The monk tied Liu up so that he could not move, and he had a servant put a jar of wine by Liu's head. Nobody but the monk knew what the jar was for. It may seem foolish of Liu to lie in the sun without knowing anything. But most people who go to school are doing much the same thing.

僧は、劉が動かないように、なわでしばりあげた。そして召し使いに言いつけて、酒を入れたかめを劉の枕もとへ置かせた。そのかめを何に使うのか、知っているのは僧のほかにだれもいない。何も知らずに炎天に寝ている劉は、ずいぶんまぬけに思えるかもしれない。だが、ふつうの人間が学校の教育を受けるのも、たいていは、これと同じようなことをしているのである。

It was hot. Sweat ran into Liu's eyes, but with his hands tied, he could not wipe it away. Soon his skin began to burn all over, and he became terribly thirsty. The smell of wine from the jar kept coming to his nose, stronger every minute. He imagined the golden wine inside and licked his cracked lips.

暑かった。汗が目に流れこんできたが、手をしばられていたので、ふくこともできなかった。やがて体じゅうの皮膚がひりひりと痛みだし、のどがひどくかわいてきた。かめの口からは、酒の香りがたえず鼻をおそってきた。それも一分ごとに強くなっていくようだった。劉は、かめの中の金色の酒を思いうかべて、ひびわれた唇をなめた。

His head ached, and he felt dizzy. Why had he believed that monk? He could not stand it any longer. Gasping, he opened his mouth to tell the monk to stop.

頭はずきずきと痛み、めまいがした。なぜ自分は、あんな坊主の言うことを信じたのだろう。もうがまんできなかった。劉はあえぎながら、治療をやめてくれと言うために、口を開いた。

At that very moment, he felt something soft creeping up from his chest into his throat. It wriggled like an earthworm and crawled like a lizard. Then, slippery as a little fish, it jumped out of his mouth. Plop! Something fell into the wine jar.

まさにそのときだった。何かやわらかいものが、胸からのどへはいあがってくるのを、劉は感じた。それはミミズのようにうごめき、ヤモリのようにじりじりと進んできた。そして、小さな魚のようにぬるりと、口から飛び出した。ぽちゃり。かめの酒の中に、何かが落ちた。

The monk began to untie the ropes. "The wine worm is out," he said. The three men looked into the jar. A little creature like a salamander, the color of red clay and about ten centimeters long, was swimming in the wine. It had a mouth and eyes, and it seemed to be drinking as it swam. When Liu saw it, he suddenly felt sick.

僧はなわをほどきはじめた。「酒虫が出ましたぞ。」三人がそろってかめをのぞきこむと、赤い土のような色をした、サンショウウオに似た小さな生き物が、酒の中を泳いでいた。長さは十センチほどだろうか。口もあれば、目もある。どうやら泳ぎながら、酒を飲んでいるらしい。劉はそれを見ると、急に気分が悪くなった。

The cure worked at once. From that day on, Liu could not drink at all. Even the smell of wine made him sick. But strangely, his health began to fail. Now, three years later, the fat man is gone. His face is thin and dull, his hair is gray, and he is often sick in bed. His fortune has fallen too. Most of his land has passed to other people, and Liu himself now has to work in the fields with a spade.

治療は、たちまちききめをあらわした。その日から、劉は酒がまったく飲めなくなったのである。においをかぐのもいやだという。ところが不思議なことに、劉の体は弱っていった。三年たった今、あの太った男の面影はどこにもない。顔はやせてつやがなく、髪は白くなり、たびたび床につく。財産もかたむいた。田畑の多くは人手に渡り、今では劉自身が、しかたなく、すきを持って畑で働いている。

Why did this happen? Everyone in Changshan asked this question, and there were many answers. Here are three of them.

なぜ、こんなことになったのか。長山の人々は、だれもがこの問いをくり返し、さまざまな答えを出した。ここに、そのうちの三つをあげる。

The first answer: The wine worm was Liu's good fortune, not his illness. By meeting a foolish monk, he threw away a gift from heaven.

第一の答え。酒虫は劉の福であって、病ではない。愚かな僧に出会ったために、天から授かった福を捨ててしまったのである。

The second answer: The worm was Liu's illness, not his good fortune. No normal person could drink a whole jar at a time. Without the cure, Liu would have died before long. So being poor and sick is really lucky for him.

第二の答え。酒虫は劉の病であって、福ではない。一度にかめ一つを飲みほすなど、ふつうの人間には考えられないことだ。治療を受けなければ、劉はまもなく死んでいたにちがいない。してみれば、貧しく病気がちなのも、劉にとってはむしろ幸せなのである。

The third answer: The worm was neither his illness nor his good fortune. Liu had done nothing but drink all his life. Without wine, nothing is left of him. So Liu was the wine worm, and the wine worm was Liu. When he got rid of the worm, he got rid of himself. If the old Liu was already gone, it is only natural that his health and fortune were gone too.

第三の答え。酒虫は劉の病でもなければ、福でもない。劉は一生、酒ばかり飲んできた。酒をのぞけば、劉には何も残らない。してみれば、劉はすなわち酒虫であり、酒虫はすなわち劉である。酒虫を取りのぞいたとき、劉は自分自身を取りのぞいてしまったのだ。昔の劉がすでにいなくなっていたのなら、その体や財産が失われたのも、しごく当然な話であろう。

Which answer is correct? I do not know myself. I have only followed the didacticism of Chinese storytellers, who liked to teach lessons, and listed these moral judgments at the end.

どの答えが正しいのか。それは、わたし自身にもわからない。わたしはただ、教訓を好む中国の物語作者たちの「教訓主義」にならって、こうした道徳的な判断を、最後にならべてみたまでである。

全訳をまとめて読む 読み終わってからの答え合わせに

近年にない暑さだった。屋根は鉛のように鈍く日の光をはね返し、畑の作物はどれも、ぐったりと頭をたれていた。じりじりと照りつける真昼の打麦場で、三人の男がだまって何かを待っていた。もちろん、これは日本の話ではない。昔、中国の長山という所で起こった出来事である。

一人は、すっぱだかで地面にあおむけに寝ころび、手も足もなわでしばられていた。背が低く、豚のように太った男である。その枕もとには、素焼きのかめが一つ置いてあった。もう一人は、黄色い衣を着て、耳に青銅の輪をさげた、肌の黒い僧だった。ずっと西の国から来た人らしい。手にほっすを持って、かめのそばにしゃがんでいる。あとの一人は、うすいあごひげを生やし、白い羽のうちわを持った学者で、小屋の日かげに立っていた。

はだかの男は劉大成といって、長山でも指おりの大金持ちだった。この男の楽しみは、酒を飲むことだけである。ひとりで飲むたびに、かめ一つを飲みほすといわれていた。もっとも、田畑をたくさん持っていたので、酒のために財産をなくす心配などまるでなかった。

その日、劉は、飲み仲間の孫先生と、風通しのよい部屋で碁を打っていた。孫先生というのが、あの学者である。そこへ、西の国から来た評判の僧がたずねてきた。背が高く、紫水晶のような不思議な目をしていた。「酒がお好きなのは、あなたですな。いくら飲まれても、お酔いになりますまい」と僧は言った。劉は、まじまじと相手を見た。そのとおりだった。劉は一度も酔ったことがないのである。

「それが、めずらしい病気のしるしですよ」と僧は言った。「腹の中に酒虫がいる。それを取りのぞかないと、この病気は治りません。わたしは、あなたの病気を治しに来たのです。」「何か、薬でも使われるのか」と孫先生がたずねた。先生も酒好きなので、自分の腹の中も少し心配になったのである。「薬など使うまでもありません」と、僧は無愛想に答えた。孫先生はばかにされたような気がして、またむっつりと碁を打ちはじめた。

「では、はりですかな。それとも、まじないですかな」と劉はたずねた。「どちらでもありません」と僧は言った。治し方は、ただはだかになって、日なたでじっとしていればよいというのである。それならたやすいことだし、劉は好奇心も少し動いた。そこで頭を下げて、「では、どうか治していただきましょう」と言った。

僧は、劉が動かないように、なわでしばりあげた。そして召し使いに言いつけて、酒を入れたかめを劉の枕もとへ置かせた。そのかめを何に使うのか、知っているのは僧のほかにだれもいない。何も知らずに炎天に寝ている劉は、ずいぶんまぬけに思えるかもしれない。だが、ふつうの人間が学校の教育を受けるのも、たいていは、これと同じようなことをしているのである。

暑かった。汗が目に流れこんできたが、手をしばられていたので、ふくこともできなかった。やがて体じゅうの皮膚がひりひりと痛みだし、のどがひどくかわいてきた。かめの口からは、酒の香りがたえず鼻をおそってきた。それも一分ごとに強くなっていくようだった。劉は、かめの中の金色の酒を思いうかべて、ひびわれた唇をなめた。

頭はずきずきと痛み、めまいがした。なぜ自分は、あんな坊主の言うことを信じたのだろう。もうがまんできなかった。劉はあえぎながら、治療をやめてくれと言うために、口を開いた。

まさにそのときだった。何かやわらかいものが、胸からのどへはいあがってくるのを、劉は感じた。それはミミズのようにうごめき、ヤモリのようにじりじりと進んできた。そして、小さな魚のようにぬるりと、口から飛び出した。ぽちゃり。かめの酒の中に、何かが落ちた。

僧はなわをほどきはじめた。「酒虫が出ましたぞ。」三人がそろってかめをのぞきこむと、赤い土のような色をした、サンショウウオに似た小さな生き物が、酒の中を泳いでいた。長さは十センチほどだろうか。口もあれば、目もある。どうやら泳ぎながら、酒を飲んでいるらしい。劉はそれを見ると、急に気分が悪くなった。

治療は、たちまちききめをあらわした。その日から、劉は酒がまったく飲めなくなったのである。においをかぐのもいやだという。ところが不思議なことに、劉の体は弱っていった。三年たった今、あの太った男の面影はどこにもない。顔はやせてつやがなく、髪は白くなり、たびたび床につく。財産もかたむいた。田畑の多くは人手に渡り、今では劉自身が、しかたなく、すきを持って畑で働いている。

なぜ、こんなことになったのか。長山の人々は、だれもがこの問いをくり返し、さまざまな答えを出した。ここに、そのうちの三つをあげる。

第一の答え。酒虫は劉の福であって、病ではない。愚かな僧に出会ったために、天から授かった福を捨ててしまったのである。

第二の答え。酒虫は劉の病であって、福ではない。一度にかめ一つを飲みほすなど、ふつうの人間には考えられないことだ。治療を受けなければ、劉はまもなく死んでいたにちがいない。してみれば、貧しく病気がちなのも、劉にとってはむしろ幸せなのである。

第三の答え。酒虫は劉の病でもなければ、福でもない。劉は一生、酒ばかり飲んできた。酒をのぞけば、劉には何も残らない。してみれば、劉はすなわち酒虫であり、酒虫はすなわち劉である。酒虫を取りのぞいたとき、劉は自分自身を取りのぞいてしまったのだ。昔の劉がすでにいなくなっていたのなら、その体や財産が失われたのも、しごく当然な話であろう。

どの答えが正しいのか。それは、わたし自身にもわからない。わたしはただ、教訓を好む中国の物語作者たちの「教訓主義」にならって、こうした道徳的な判断を、最後にならべてみたまでである。

日本語訳の一部には生成AIを使っており、AIによる3重のチェックと人の目で確かめています。まだ人の目を通っていない訳もあるため、ニュアンスがずれている所があるかもしれません。日本語訳について

日本語訳:多読ベスト

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理解度チェック Quick Quiz

読み終わったら、3問だけ。間違えても大丈夫。多読は「だいたいわかる」で十分です。

Q1. What was strange about Liu and wine?

Q2. What did the monk tell Liu to do to get the wine worm out?

Q3. What happened to Liu after the wine worm came out?

この話の単語 CEFR-JB1・B2の語 41語/タップで意味・単語帳へ
  • A1中学基礎 79.6%
  • A2高校入門 9.4%
  • B1受験コア 6.5%
  • B2難関大 2.2%
  • リストにない語 2.2%

本文の語の割合(人名などは数えていません)。「リストにない語」は固有名詞・古い言い方・やさしい複合語などです。

B2難関大の語 12語

B1受験コアの語 29語

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