Mujina, the Faceless Ghost(のっぺらぼう(むじな))の挿絵

Mujina, the Faceless Ghost

のっぺらぼう(むじな)

  • 607 words
  • 約8分
  • 3:27
  • YL 1.0–1.4
  • 英検3級目安
  • 全訳つき

あらすじ夜の紀伊国坂。お堀のそばで、若い娘がひとり、袖で顔をかくして泣いていました。心やさしい商人が声をかけると、娘はゆっくりとふり向いて……。

小泉八雲『怪談』(1904年)の「むじな」をもとに再話

ORIGINAL TEXT

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この話は原文でも読めます。原文は省略なし・一字一句そのまま、全訳つき。やさしい版で筋をつかんでから原文へ進むと、作者の言葉をじっくり味わえます。

Mujinaむじな(小泉八雲『怪談』)・原文 594語・全訳つき
キーワード(10語)本文の点線の語はタップで意味が出ます
  • slope坂
  • moat堀
  • badgerアナグマ
  • merchant商人
  • sleeve袖
  • strokedなでた
  • smoothつるりとした
  • firefly蛍
  • lanternちょうちん
  • steam湯気
音声に合わせて文が光ります0:00 / 3:27

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日本語訳の一部には生成AIを使っており、AIによる3重のチェックと人の目で確かめています。まだ人の目を通っていない訳もあるため、ニュアンスがずれている所があるかもしれません。日本語訳について

Long ago, in the city of Edo, there was a long, dark slope called Kii-no-kuni-zaka. On one side of the slope was an old moat, deep and wide and full of black water. On the other side stood the high walls of a great lord's house. There were no street lights in those days. After the sun went down, nobody wanted to walk up that slope alone.

昔、江戸の町に、紀伊国坂(きのくにざか)という長く暗い坂がありました。坂の片側には古いお堀があり、深くて広く、黒い水をたたえていました。反対側には、大名屋敷の高い塀がそびえていました。そのころは、まだ街灯というものがありませんでした。日が沈んでしまうと、誰も一人でこの坂を上ろうとはしませんでした。

People said that a mujina walked there at night. A mujina looks like a badger, but it can take any shape it wants.

夜になると、この坂にはむじなが出ると言われていました。むじなはアナグマに似た動物ですが、どんな姿にでも化けられるのです。

One night, an old merchant was going home very late. He was hurrying up the slope, and his footsteps sounded loud in the quiet. There was no moon, and the only sounds were the wind in the trees and the water moving in the moat. Then he heard something else. Someone was crying.

ある晩のこと、年取った商人が、ずいぶん遅くなって家へ帰るところでした。商人は急ぎ足で坂を上っていきました。静まり返った中に、自分の足音ばかりが大きく響きます。月は出ていませんでした。聞こえるのは、木々を揺らす風の音と、お堀の水の動く音だけです。そのとき、別の音が聞こえてきました。誰かが泣いているのです。

By the edge of the moat, a young woman was sitting all alone. She was wearing a beautiful kimono, and she wore her hair like a girl from a good family. She was crying and crying, and she was hiding her face behind her long sleeve.

お堀のふちに、若い娘がたった一人で座っていました。美しい着物を着て、良家のお嬢さんのように髪を結い上げていました。娘は長い袖で顔を隠して、いつまでも、いつまでも泣いていました。

The merchant was a kind man. "Is she going to jump into the water?" he thought. He was worried, so he went to her. "Miss," he said gently, "please don't cry like that. What is the matter? Tell me, and I will help you."

商人は心の優しい人でした。「まさか、お堀に身を投げるつもりではあるまいな」と思うと、心配でたまらなくなり、娘のそばへ行きました。「もし、お嬢さん」と、商人は優しく声をかけました。「そんなに泣くものではありませんよ。どうなさったのです。わけを話してごらんなさい。力になりますから。」

The woman did not answer. She just kept crying behind her sleeve.

娘は返事をしませんでした。袖の陰で、ただ泣き続けるばかりです。

"Miss," he said again, "this is not a safe place for a young woman at night. Please let me help you." Slowly, she stood up. But she turned her back to him and went on crying.

「お嬢さん」と、商人はもう一度言いました。「夜にこんなところにいては、若い娘さんには危ないですよ。どうか、私に手助けをさせてください。」娘はゆっくりと立ち上がりました。けれども商人に背を向けたまま、泣きやもうとはしませんでした。

The merchant put his hand on her shoulder. "Miss! Miss! Please listen to me, just for a moment! Miss!"

商人は娘の肩に手をかけました。「お嬢さん! お嬢さん! ほんの少しでいいから、私の話を聞いてください! お嬢さん!」

Then the crying stopped. The woman turned around very slowly. She dropped her sleeve, and she stroked her face with her hand.

すると、泣き声がぴたりとやみました。娘はゆっくり、ゆっくりと振り向きました。そして袖を下ろすと、手で顔をなでました。

The merchant looked, and his whole body went cold. She had no eyes. She had no nose. She had no mouth. Her face was white and smooth, with nothing on it at all.

それを見たとたん、商人は体じゅうがぞっと冷たくなりました。娘には目がありませんでした。鼻もありませんでした。口もありませんでした。白くつるりとした顔には、目も鼻も口も、何ひとつなかったのです。

He screamed and ran. He ran up the slope as fast as he could. In front of him, everything was black and empty. He did not stop, and he did not look back, because he was too afraid.

商人は悲鳴をあげて逃げ出しました。力の限り、坂を駆け上がりました。目の前はどこまでも真っ暗で、何もありません。立ち止まりもせず、振り返りもしませんでした。怖くて、とても振り返ることなどできなかったのです。

At last he saw a light far away, so small that it looked like a firefly. He ran toward it. It was the lantern of a soba seller, who sold hot noodles from a little stand by the road.

やっと、遠くに明かりが見えました。蛍の光かと思うほどの、小さな明かりです。商人はそこを目指して走りました。それは、道端に小さな屋台を出して温かいそばを売る、そば屋のちょうちんでした。

The merchant was so happy to see another person that he fell down at the man's feet. "Ah! Ah! Ah!" he cried. He could not say anything more.

人に会えたのがうれしくてたまらず、商人はそば屋の足元に倒れ込みました。「ああ! ああ! ああ!」と叫ぶばかりで、それより先は言葉になりませんでした。

The soba seller did not look up. He was stirring his pot of noodles, and his face was hidden in the white steam. "Hey, hey," he said roughly. "What's wrong with you? Did someone hurt you?"

そば屋は顔を上げませんでした。鍋のそばをかき混ぜていて、その顔は白い湯気に隠れていました。「おい、おい」と、そば屋はぶっきらぼうに言いました。「一体どうしたんだい。誰かにやられたのかい。」

"No, nobody hurt me," said the merchant. He was breathing hard. "But... ah... ah!"

「いや、誰にもやられちゃいない」と、商人は言いました。ハアハアと息を切らしています。「ただ……ああ……ああ!」

"Robbers, then?" asked the soba seller. He still did not look up.

「じゃあ、追いはぎかい」と、そば屋は尋ねました。やはり顔は上げないままです。

"Not robbers. Not robbers," said the merchant. "I saw a woman by the moat. And she showed me her face. Oh, I can't tell you! I can't tell you what I saw!"

「追いはぎじゃない。追いはぎじゃないんだ」と、商人は言いました。「お堀のそばで、女を見たんだ。その女が、私に顔を見せた。ああ、とても言えない! 何を見たかなんて、とても言えやしない!」

The soba seller put down his chopsticks. Slowly, he lifted his head. "Her face?" he said quietly. "Was it like this?"

そば屋は箸を置きました。そして、ゆっくりと顔を上げました。「顔だって?」と、そば屋は静かに言いました。「それは、こんな顔だったかい?」

Then he stroked his own face with his hand, and it became as smooth as an egg. No eyes. No nose. No mouth.

そう言って、そば屋は自分の顔を手でなでました。するとその顔は、卵のようにつるりとなりました。目もない。鼻もない。口もない。

And at that very moment, the light went out.

そして、ちょうどそのとき、明かりがふっと消えました。

全訳をまとめて読む 読み終わってからの答え合わせに

昔、江戸の町に、紀伊国坂(きのくにざか)という長く暗い坂がありました。坂の片側には古いお堀があり、深くて広く、黒い水をたたえていました。反対側には、大名屋敷の高い塀がそびえていました。そのころは、まだ街灯というものがありませんでした。日が沈んでしまうと、誰も一人でこの坂を上ろうとはしませんでした。

夜になると、この坂にはむじなが出ると言われていました。むじなはアナグマに似た動物ですが、どんな姿にでも化けられるのです。

ある晩のこと、年取った商人が、ずいぶん遅くなって家へ帰るところでした。商人は急ぎ足で坂を上っていきました。静まり返った中に、自分の足音ばかりが大きく響きます。月は出ていませんでした。聞こえるのは、木々を揺らす風の音と、お堀の水の動く音だけです。そのとき、別の音が聞こえてきました。誰かが泣いているのです。

お堀のふちに、若い娘がたった一人で座っていました。美しい着物を着て、良家のお嬢さんのように髪を結い上げていました。娘は長い袖で顔を隠して、いつまでも、いつまでも泣いていました。

商人は心の優しい人でした。「まさか、お堀に身を投げるつもりではあるまいな」と思うと、心配でたまらなくなり、娘のそばへ行きました。「もし、お嬢さん」と、商人は優しく声をかけました。「そんなに泣くものではありませんよ。どうなさったのです。わけを話してごらんなさい。力になりますから。」

娘は返事をしませんでした。袖の陰で、ただ泣き続けるばかりです。

「お嬢さん」と、商人はもう一度言いました。「夜にこんなところにいては、若い娘さんには危ないですよ。どうか、私に手助けをさせてください。」娘はゆっくりと立ち上がりました。けれども商人に背を向けたまま、泣きやもうとはしませんでした。

商人は娘の肩に手をかけました。「お嬢さん! お嬢さん! ほんの少しでいいから、私の話を聞いてください! お嬢さん!」

すると、泣き声がぴたりとやみました。娘はゆっくり、ゆっくりと振り向きました。そして袖を下ろすと、手で顔をなでました。

それを見たとたん、商人は体じゅうがぞっと冷たくなりました。娘には目がありませんでした。鼻もありませんでした。口もありませんでした。白くつるりとした顔には、目も鼻も口も、何ひとつなかったのです。

商人は悲鳴をあげて逃げ出しました。力の限り、坂を駆け上がりました。目の前はどこまでも真っ暗で、何もありません。立ち止まりもせず、振り返りもしませんでした。怖くて、とても振り返ることなどできなかったのです。

やっと、遠くに明かりが見えました。蛍の光かと思うほどの、小さな明かりです。商人はそこを目指して走りました。それは、道端に小さな屋台を出して温かいそばを売る、そば屋のちょうちんでした。

人に会えたのがうれしくてたまらず、商人はそば屋の足元に倒れ込みました。「ああ! ああ! ああ!」と叫ぶばかりで、それより先は言葉になりませんでした。

そば屋は顔を上げませんでした。鍋のそばをかき混ぜていて、その顔は白い湯気に隠れていました。「おい、おい」と、そば屋はぶっきらぼうに言いました。「一体どうしたんだい。誰かにやられたのかい。」

「いや、誰にもやられちゃいない」と、商人は言いました。ハアハアと息を切らしています。「ただ……ああ……ああ!」

「じゃあ、追いはぎかい」と、そば屋は尋ねました。やはり顔は上げないままです。

「追いはぎじゃない。追いはぎじゃないんだ」と、商人は言いました。「お堀のそばで、女を見たんだ。その女が、私に顔を見せた。ああ、とても言えない! 何を見たかなんて、とても言えやしない!」

そば屋は箸を置きました。そして、ゆっくりと顔を上げました。「顔だって?」と、そば屋は静かに言いました。「それは、こんな顔だったかい?」

そう言って、そば屋は自分の顔を手でなでました。するとその顔は、卵のようにつるりとなりました。目もない。鼻もない。口もない。

そして、ちょうどそのとき、明かりがふっと消えました。

日本語訳の一部には生成AIを使っており、AIによる3重のチェックと人の目で確かめています。まだ人の目を通っていない訳もあるため、ニュアンスがずれている所があるかもしれません。日本語訳について

日本語訳:多読ベスト

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理解度チェック Quick Quiz

読み終わったら、3問だけ。間違えても大丈夫。多読は「だいたいわかる」で十分です。

Q1. Where was the young woman crying?

Q2. What did the merchant see when the woman dropped her sleeve?

Q3. Why did the merchant run toward the small light?

この話の単語 CEFR-JA2・B1・B2の語 33語/タップで意味・単語帳へ
  • A1中学基礎 86%
  • A2高校入門 4.1%
  • B1受験コア 3.6%
  • B2難関大 1.3%
  • リストにない語 5%

本文の語の割合(人名などは数えていません)。「リストにない語」は固有名詞・古い言い方・やさしい複合語などです。

B2難関大の語 4語

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  3. 耳だけで聞く 聞くだけモードで、文字を見ずに内容がわかるか試す。1文リピートで音読・シャドーイングも。

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