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英語のマジか!?ホント

「言い間違い」の英単語になった先生、本人はほとんど言い間違えていなかったらしい

「言い間違い」の英単語になった先生、本人はほとんど言い間違えていなかったらしい

読む前に予想してみよう!

「スプーナリズム」の有名な例は、ほとんどがスプーナー本人の言い間違いとして記録に残っている

研究カード(どんな研究?)
対象
言い間違いの記録と実験
規模
ドイツ語の言い間違い約4,400例・オランダ語話者17人など
研究の種類
辞書の語源記述+伝記資料+言い間違いの記録の分析+脳画像実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

頭の音を入れ替える言い間違い「スプーナリズム」は、オックスフォードのスプーナー先生の名前。ところが本人の言い間違いと認められている例はごくわずかだ。

ひとことで言うと言い間違いに名前を使われた先生、実はほとんど言い間違えていなかったかも!

もくじ
  1. スプーナー先生は、こんな人だった
  2. 本人のものとされる代表は、聖歌の題名の読み間違い
  3. 言い間違いを集めすぎて嫌われた学者
  4. 実験室で、わざと言い間違いをさせる
  5. おまけ:malapropism と、日本語の「さざんか」
  6. どんでん返し:本人が言ったと保証される例は、数件だけ
  7. まとめ

ホテルの人が言うはずだった Let me show you to your seat.(お席にご案内します)。

ところが口から出たのは Let me sew you to your sheet.(あなたをシーツに縫いつけます)。

show と sew、seat と sheet の頭の音が入れ替わっただけで、怖い一言のできあがりです。こういう言い間違いを、英語で spoonerism(スプーナリズム) と呼びます(この例はアメリカの辞書『アメリカン・ヘリテージ英語辞典(AHD)』にのっています)。名前のもとは、オックスフォード大学のスプーナー先生。ところが、先生が本当に言ったと認められている言い間違いは、ごくわずかなのです。

01スプーナー先生は、こんな人だった

ウィリアム・アーチボルド・スプーナー(1844〜1930)。オックスフォードシャー州のブルー・プラーク委員会(歴史上の人物ゆかりの家に記念の銘板をつける団体)の紹介によると、

アメリカの Dictionary.com によると、spoonerism という語の記録は1895〜1900年から。スプーナー先生が50代のころです。先生は、自分の名前が「言い間違い」の意味の英単語になってから、30年ほど生きたことになります。2024年10月には、先生が1882〜1903年に住んだオックスフォードの家に、記念の銘板がつけられました。

02本人のものとされる代表は、聖歌の題名の読み間違い

ブルー・プラーク委員会は、こう書いています。本人の口から出た確かな例を突き止めるのは、昔から難しい。面白い例の多くは、学生たちなどの作り話と考えられている、と。

たとえば、2学期をむだにした(wasted two terms)学生に、先生が You have tasted two worms.(きみは虫を2匹味わった)と言った――という話。有名ですが、委員会はこれも作り話の側に入れています。

委員会が、本人のものとしてふつう受け入れられていると書くのは、1878年の一件です。礼拝の講壇で、聖歌「Conquering Kings Their Titles Take(征服の王たちは称号を受ける)」の題を、Kinquering Congs Their Titles Take と読み上げてしまった、というものです。

本人の言い間違いとしてふつう受け入れられている代表が、聖歌の題名を読み上げたときの一件
本人の言い間違いとしてふつう受け入れられている代表が、聖歌の題名を読み上げたときの一件

イギリスのオックスフォード大学出版局の学習辞典も、spoonerism の語源を、こういう間違いをたくさんしたと言われたスプーナーの名前から、と書いています。「した」ではなく「したと言われた」。辞書も慎重なのです。

03言い間違いを集めすぎて嫌われた学者

スプーナー先生の名前が英単語になったころ、ウィーンでは、言い間違いを本気で集めている言語学者がいました。ルドルフ・メリンガーです。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学者マッケイが1970年に学術誌『Neuropsychologia』に書いた論文によると、メリンガーが1895年(共著)と1908年に出した本には、ふだんの会話の言い間違いがおよそ4,400例のっています。そのうち、頭の音などが入れ替わる「スプーナリズム」は124例。話し手の多くはウィーン大学の教授たちでした。

メリンガーは、言い間違いを聞くたびに、話し手の名前と生年月日、時刻、疲れぐあい、話す速さ、本人が思う原因まで書きとめました。マッケイの論文は、言語学者スターテヴァントの本を引いて、メリンガーはあまりにしつこく集めて問いただしたので、ウィーン大学の知り合いの間ですっかり嫌われたと紹介しています。

その記録を分析したマッケイは、入れ替わった音のすぐ前かすぐ後ろに、同じ音があることが多いと気づきました。単語と単語の切れ目も1つの「音」として数えると、ドイツ語のスプーナリズムの約78%がそうで、偶然なら14%ほどのはずでした。切れ目を数えなくても47%で、偶然の9%を大きく上回ります。英語の言い間違い55例を集めた別の記録でも、切れ目を数える方法で約72%でした。同じ音が近くにあると、頭の中で音の順番がずれやすいようです。

04実験室で、わざと言い間違いをさせる

言い間違いは、実験で起こすこともできます。SLIP(スリップ)課題という方法です。

画面に2語の組を次々に出して黙読させ、ときどき合図が出たら、直前の組を声に出して読ませます。前の組で頭の音をわざと逆にしておくと、つい音が入れ替わってしまう。たとえば mad dash が dad mash になるわけです。

2011年に発表された研究では、オランダ語を話す17人にこの課題をやってもらい、脳の活動を MRI で調べました。音が入れ替わると口にしたくない下品な言葉(タブー語)になってしまう組と、ふつうの言葉になる組をくらべると、タブー語になる組では、右脳の前のほう(右下前頭回)がより強く働いていました。この場所は、合図を見て動作を止めるときに働くことが知られている場所です。研究者たちは、「人前で言ってはいけない」という社会のルールが、頭の中のブレーキとして働いているのだろう、と考えています。

1979年に発表された実験では、言い間違いの中身が、そのときの状況で変わりました。電気ショックを意識させる状況に置かれた人は、性に関係する言い間違いより電気に関係する言い間違いを多くし、性的なことを意識させる状況の人は、その逆でした。何を気にしているかが、口のすべり方にあらわれるわけです。

05おまけ:malapropism と、日本語の「さざんか」

言い間違いに名前が残ったのは、スプーナー先生だけではありません。

malapropism(マラプロピズム)は、音の似た別の言葉をまちがって使う言い間違いです。オックスフォード学習辞典によると、もとは1775年の劇『恋がたき(The Rivals)』に出てくるマラプロップ夫人の名前。AHD によると、夫人はワニ(alligator)と言うべきところで寓話(allegory)と言い、極み(pinnacle)と言うべきところでパイナップル(pineapple)と言ってしまいます。名前のもとは、フランス語から来た malapropos「場ちがいな」。作者が「場ちがいさん」と名づけた人物が、そのまま英単語になったのです。こちらは実在の人ではなく、劇の登場人物です。

日本語にも、音の入れ替わりが言葉そのものを変えた例があります。1つの単語の中で音の位置が入れかわることを「音位転換」といい、ブリタニカ国際大百科事典は「アラタシ→アタラシ」を例に挙げています。英語の bird も、中世の英語では brid でした(同)。

冬に咲く花のさざんか(山茶花)も、小学館の『日本国語大辞典』によると、もとは「さんざか」と読まれていました。「さざんか」の形が見えるのは17世紀から。それがいつのまにか、もとの「さんざか」と入れかわったのです。

06どんでん返し:本人が言ったと保証される例は、数件だけ

本人のものとされる聖歌の一件も、ブルー・プラーク委員会の言い方は「ふつう受け入れられている」と控えめです。

マッケイの1970年の論文は、冒頭で「スプーナリズムは、それをめったにしなかった人の名前がついている」と書いています。その根拠として挙げているのが、研究者ロビンズが学術誌『ダルハウジー・レビュー』46巻に書いた論考です(マッケイは1966年としていますが、ダルハウジー大学の記録では1967年)。マッケイはこの論考を、スプーナーのスプーナリズムはうっかりの間違いというより、よく考えた高度な冗談だったと示した研究、と紹介しています。

ところが、ロビンズの論考を開いてみると、スプーナー本人が冗談でわざと言ったとは書いていません。書いてあるのは、次のようなことです。

  • 友人や学生が「本人が言った」と保証する例は数件だけ。しかも聖歌の一件のように、入れ替わってできた語が本当の単語になっていないものが多い
  • 1882年から40年ほど、ほぼ毎日スプーナーに会っていた知人は、本人のものとされる言い間違いを「ほとんど聞いた覚えがない」と証言している
  • 手の込んだ面白い例の多くは、周りの人が作ったもので、のちに「あれは自分が作った」と名乗り出た人もいる

ロビンズは、聖歌の一件の年を、当時を知る人の証言として1879年と書いています。ブルー・プラーク委員会の1878年とは1年ずれています。いずれにしても、言い間違いの代名詞になった先生は、言い間違いをほとんどしていなかったらしいのです。

07まとめ

「スプーナリズム」は、白い髪のやさしいオックスフォードの先生の名前。でも、名前と一緒に語り継がれてきた言い間違いの多くは、先生を慕った学生たちの作り話だったようです。

言い間違いの研究は、そのあとウィーンの“嫌われ者”の記録から実験室の MRI へと進み、私たちの頭の中では、口に出す前に言葉をチェックするブレーキが働いていることまで見えてきました。次に言い間違えたときは、スプーナー先生の顔を思い出して、笑ってすませましょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWilliam Archibald Spooner spent more than sixty years at New College, Oxford, and led the college from 1903… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

William Archibald Spooner spent more than sixty years at New College, Oxford, and led the college from 1903 to 1924. He was an albino with white hair and weak eyes, and his students called him "The Child." Today his name is a word for a mistake in which the first sounds of two words switch, as in "well-boiled icicle" for "well-oiled bicycle." The word was already in use by about 1900, while Spooner was still alive.

But it has always been hard to find slips that he really made. The Oxfordshire Blue Plaques Board says that many of the funniest ones are thought to have been made up by students. One slip usually accepted as real is a hymn title he mixed up in church in 1878.

127 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ウィリアム・アーチボルド・スプーナーは、オックスフォード大学のニュー・カレッジで60年以上を過ごし、1903年から1924年までカレッジの長を務めた。彼は白い髪で目の弱いアルビノで、学生たちは彼を「坊や」と呼んだ。今日、彼の名前は、「well-oiled bicycle(よく油をさした自転車)」を「well-boiled icicle(よくゆでたつらら)」と言うように、2つの単語の最初の音が入れ替わる間違いを表す言葉になっている。この言葉は、スプーナーがまだ生きていた1900年ごろにはすでに使われていた。

しかし、彼が本当にした言い間違いを見つけるのは昔から難しかった。オックスフォードシャー州のブルー・プラーク(記念銘板)委員会によると、とても面白い例の多くは学生たちが作ったものと考えられているという。本物としてふつう受け入れられている例の一つが、1878年に教会で彼が取り違えた聖歌の題名だ。

4択リーディングクイズ

Q1. When was the word "spoonerism" already in use?

Q2. Which slip is usually accepted as really his?

Q3. What does the writer suggest about the famous spoonerisms?

重要単語

  • spoonerismC1
    名詞スプーナリズム(頭の音を入れ替える言い間違い)"Well-boiled icicle" is a spoonerism for "well-oiled bicycle." W. A. Spooner の名前+-ism。記録は1895〜1900年から。
  • slip of the tongueB2
    名詞句言い間違いSorry, that was a slip of the tongue. I meant Tuesday. slip は「すべること」。舌がすべる、という日本語の「口がすべる」と似た発想。
  • malapropismC2
    名詞似た音の別の語を使う言い間違いSaying "allegory" when you mean "alligator" is a malapropism. 劇の登場人物 Mrs. Malaprop から。その名前はフランス語 mal à propos(場ちがいに)から。例文の allegory(寓話)と alligator(ワニ)は、この夫人の有名な言い間違い。
  • authenticB2
    形容詞本物の、確かなOnly a few of the stories are authentic. an authentic painting「本物の絵」。反対は fake(にせの)。
  • make upB1
    句動詞(話などを)でっち上げるThe students made up funny stories about their teacher. make up には「化粧する」「仲直りする」などの意味もある。made-up story「作り話」。
  • tabooB2
    名詞・形容詞タブー、口にしてはいけない(こと)Some words are taboo in polite conversation. トンガ語から英語に入った語。taboo words は「下品・失礼で人前で言わない言葉」。
  • hymnB2
    名詞(教会の)聖歌、賛美歌We sang a hymn at the end of the service. 発音は「ヒム」。最後の n は読まない(autumn、column と同じ)。
英語で「お席にご案内します」が「あなたをシーツに縫いつけます」に。頭の音が入れ替わる言い間違いを英語で spoonerism と呼ぶのは、オックスフォードのスプーナー先生の名前から。でも有名な例の多くは、学生の作り話とされている。

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出典・参考文献(7件)タップで表示
  1. Oxfordshire Blue Plaques Board「Revd W. A. SPOONER (1844–1930)」oxonblueplaques.org.uk
  2. Oxford Learner's Dictionaries「spoonerism」「malapropism」(Word Origin)oxfordlearnersdictionaries.com
  3. The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「spoonerism」「Malaprop」(Word History)ahdictionary.com
  4. MacKay (1970) Spoonerisms: The structure of errors in the serial order of speech, Neuropsychologia 8(3)doi.org
  5. Severens et al. (2011) Functional mechanisms involved in the internal inhibition of taboo words, Social Cognitive and Affective Neuroscience 7(4)doi.org
  6. Motley & Baars (1979) Effects of Cognitive Set Upon Laboratory Induced Verbal (Freudian) Slips, Journal of Speech and Hearing Research 22(3)doi.org
  7. Robbins, R. H. (1966) The Warden's Wordplay: Toward a Redefinition of the Spoonerism, Dalhousie Review 46(4)(ダルハウジー大学リポジトリ)dalspace.library.dal.ca

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