スコットランドの「スコット」は、もとは“アイルランド人”という意味だった

読む前に予想してみよう!
スコットランドの Scot という呼び名は、もともとアイルランドの人々を指していた
米国の英語辞典 AHD によると、もとの後期ラテン語 Scotti の意味は「アイルランド人」。古英語の Scottas も、スコットランド人とアイルランド人の両方を指した。
- 対象
- 中世の歴史書と英語辞書の語源欄
- 規模
- 731年の歴史書1点・辞書4点・考古学の論文2本
- 研究の種類
- 語源・文献の調査
- 確かさ
- ★★★☆☆
スコットランド人を指す英語 Scot。そのもとのラテン語 Scotti は「アイルランド人」という意味だった。731年の歴史書にも「スコット人はアイルランドから来た」とある。
ひとことで言うとスコットランドの「スコット」は、もとはアイルランドの人たちの呼び名だった!
もくじ
イギリスの北の国、スコットランド。英語では Scotland、そこの人は Scot(スコット) と呼ばれます。
ところがこの Scot、もとはアイルランドの人たちを指す言葉でした。
アメリカの英語辞典『American Heritage Dictionary(AHD)』によると、Scot のもとは、ローマ帝国の終わりごろのラテン語(後期ラテン語)の Scotti(スコッティ)。意味は「アイルランド人」です。およそ1100年より前の英語(古英語)の Scottas も、「スコットランド人」と「アイルランド人」の両方を指していました。「スコットランド」は、アイルランドの人たちを指す名前がついた国なのです。
01731年の歴史書「アイルランドこそ本来の祖国」
このことを書き残した人がいます。イングランドの修道士ベーダです。ベーダは731年、ラテン語の歴史書『イギリス教会史』(ラテン語の題は Historia ecclesiastica gentis Anglorum)を書き上げました。イングランドの古い歴史を知るための大事な資料です(AHD の「Bede」の項)。
その第1巻第1章に、ブリテン島(いまのイングランドやスコットランドがある島)にどんな民族が住んでいたかが書かれています。要点をまとめると、こうです。
- 島にはまずブリトン人がいて、次にピクト人が北部に住みついた
- そこへ3番目の民族としてスコット人が加わり、ピクト人の土地の一部に住んだ
- スコット人は、レウダ(Reuda)という指導者に率いられてヒベルニア(アイルランド)からやってきた
- だから今もこの指導者の名をとって「ダルレウディニ(Dalreudini)」と呼ばれている。名前の前半の daal は、彼らのことばで「部分、分け前」という意味だ
そしてアイルランドの説明のなかで、ベーダはこう書いています。
「ここ(アイルランド)こそ、本来スコット人の祖国である」(Haec autem proprie patria Scottorum est。ベーダ『イギリス教会史』第1巻第1章、筆者訳)
同じ章には、こんな話もあります。ピクト人は妻にする女性がいなかったので、スコット人に頼んだ。スコット人は「王を選ぶときに迷ったら、男性の家系より女性の家系から選ぶ」という条件で認めた。そのしきたりは今もピクト人の間で守られている――。歴史書というより、昔話に近い書き方です。
02海をまたいだ王国。アーガイル柄の「アーガイル」もここ
ベーダの書いた「ダルレウディニ」の王国とされるのが、ダルリアダ(Dalriada) です。コリンズ英語辞典によると、5〜9世紀にあったゲール人の王国で、いまのスコットランド西部のアーガイル、その沖の島々の一部、そしていまの北アイルランドのアントリムの一部にまたがっていました。海をはさんで、両岸に領地を持つ王国だったのです。
靴下やセーターでおなじみの、ひし形を並べた「アーガイル柄」。英語では argyle と書きます。オックスフォードの学習辞典によると、この柄はスコットランドの名家キャンベル家のうち、アーガイル家のタータン(格子柄)がもとです。アーガイル地方は、まさにダルリアダがあった土地でした。
- I bought a pair of argyle socks.(アーガイル柄の靴下を1足買った)
その後、9世紀にスコット人とピクト人がひとつになり、のちにスコットランドとなる王国ができました(AHD の「Pict」の項)。ピクト人の Pict は、ラテン語 pictus(色をぬった、描いた)の複数形 pictī から。英語の picture(絵) と同じ仲間の言葉です。

03イングランドもブルターニュも、海を渡ってきた人たちの名前
国や地方の名前が「よそから来た人たちの名前」なのは、スコットランドだけではありません。どれも AHD で確かめられます。
- England(イングランド):1000年ごろに Englaland という形で初めて出てくる名前で、意味は「アングル人の土地」。アングル人は、いまのデンマークやドイツ北部から海を渡ってきたゲルマン系の民族です。言葉としては、国の名前より English(英語) の方が先に記録に出てきます
- Brittany(ブルターニュ):フランス北西部の地方。500年ごろ、アングロ・サクソン人に故郷を追われたブリテン島のブリトン人が住みつきました。ブルターニュの人を表す英語 Breton(ブルトン) も、AHD によると Briton(ブリトン人)と同じ語から来ています
- Scots-Irish(スコッツ・アイリッシュ):時代が下ると、今度はスコットランドの人たちがアイルランド北部のアルスター地方に移り住みます。その人たちと子孫、とくにそこから北アメリカへ移民した人たちを、英語でこう呼びます
アイルランドから来た人がスコットランドの名前になり、そのスコットランドの人がまたアイルランドへ渡り、さらにアメリカへ。人が動くと、名前もいっしょに動いてきました。
04どんでん返し:「大移住」は本当にあった?
ここまで読むと、「アイルランドから大勢が海を渡ってスコットランドを作った」と思いたくなります。でも、それを疑う研究者もいます。
考古学者のユアン・キャンベルは、2001年に考古学の専門誌『Antiquity』に「スコット人はアイルランド人だったのか?(Were the Scots Irish?)」という論文を書きました。その要旨によると、アイルランドからアーガイルへの移住を裏づける考古学の証拠は見つからない。移住の話は、王家など上流の人たちが自分たちの出身を語るための「家系の物語」だった、とキャンベルは考えています。
これに反論する論文もあります。マクスパロンとウィリアムズは、スコットランド古物協会の論文集(第141巻、2011年)で、「移住はなかった」という考えは、昔の記録を狭く読みすぎていると論じました。細かい点は違っても、いくつもの古い記録が「スコットランドのダルリアダのもとはアイルランド」という点では一致している。移住の跡は、スコットランドではなくアイルランド側の集落や出土品に残っている、というのが2人の考えです。
もうひとつ、分かっていないことがあります。そもそも Scotti というラテン語自体が、どこから来た言葉なのか。オックスフォードの学習辞典は、その先の語源を「不明(of unknown ultimate origin)」としています。
つまり、確かなのは「Scot という呼び名がアイルランドの人たちの名前だった」こと。「どれくらいの人が、本当に海を渡ったのか」は、今も研究者の間で意見が分かれています。
05まとめ
Scot はもともと「アイルランド人」。731年の歴史書も、スコット人の祖国をアイルランドとしていました。イングランドは「アングル人の土地」、ブルターニュは「海を渡ったブリトン人の土地」。英語の地名には、人の移動の記憶がそのまま残っています。
ただし、「本当に大勢が海を渡ったのか」は、考古学の論文どうしで意見がぶつかったままです。名前は確かにアイルランドから来た。人の動きは、まだ調べている途中。次にアーガイル柄の靴下をはくとき、海をまたいだ王国のことを思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerToday "Scot" means a person from Scotland.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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Scotland is in the north of Great Britain, and a person from Scotland is called a Scot. But the word did not start there. It comes from the Latin word "Scotti," and that word meant "Irish people."
In 731, an English monk named Bede finished a history book in Latin. He wrote that the Scots came over the sea from Ireland, and he called Ireland the real homeland of the Scots.
71 words ・ CEFR A2
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スコットランドはグレートブリテン島の北にあり、スコットランドの人は Scot と呼ばれます。でも、この言葉はそこで始まったのではありません。ラテン語の「Scotti」から来ていて、その言葉は「アイルランドの人々」という意味でした。
731年、ベーダという名のイングランドの修道士が、ラテン語の歴史書を書き上げました。彼は、スコット人はアイルランドから海を渡ってきたと書き、アイルランドをスコット人の本当の祖国と呼びました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
Scot という言葉がアイルランドの人々を指すラテン語から来た、という話なので A。
Q2. What did the Latin word "Scotti" mean?
that word meant "Irish people" とあるので B。
Q3. In the passage, what does "homeland" mean?
he called Ireland the real homeland of the Scots は「アイルランドがスコット人のもとのふるさと」という意味なので C。
Today "Scot" means a person from Scotland. But the Late Latin word it comes from, "Scotti," was a name for the people of Ireland. In Old English, "Scottas" could mean either Scottish or Irish people. In 731, the English monk Bede finished a history written in Latin. He said the Scots had come from Ireland with a leader called Reuda, and he called Ireland their true homeland.
Their kingdom, Dalriada, had land on both sides of the sea, in western Scotland and in part of what is now Northern Ireland. Other place names in Britain work the same way. England means "land of the Angles," a people who came over from the area of today's Denmark and northern Germany.
119 words ・ CEFR B1
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今日、「Scot」はスコットランドの人を意味する。だが、そのもとになった後期ラテン語の「Scotti」は、アイルランドの人々を指す名前だった。古英語では「Scottas」はスコットランドの人とアイルランドの人のどちらも意味しえた。731年、イングランドの修道士ベーダはラテン語で書いた歴史書を書き上げた。彼は、スコット人はレウダという指導者とともにアイルランドから来たと述べ、アイルランドを彼らの本当の祖国と呼んだ。
彼らの王国ダルリアダは、海の両側、つまりスコットランド西部と、今の北アイルランドの一部に領地を持っていた。ブリテン島のほかの地名も同じ仕組みだ。イングランドは「アングル人の土地」という意味で、アングル人は今のデンマークやドイツ北部のあたりから渡ってきた人々だった。
4択リーディングクイズ
Q1. Who was Reuda, according to Bede?
the Scots had come from Ireland with a leader called Reuda とあるので C。
Q2. Where was the kingdom of Dalriada?
had land on both sides of the sea, in western Scotland and in part of what is now Northern Ireland とあるので B。
Q3. Why does the writer mention England at the end?
Other place names in Britain work the same way. のあと、海を渡ってきたアングル人の土地という例を出しているので D。
When the monk Bede finished his history of the English church in 731, he described the peoples of Britain one by one. The third group, he wrote, were the Scots, who had crossed from Ireland under a leader named Reuda and settled in land held by the Picts. For Bede, Ireland was simply the Scots' homeland. Dictionaries agree on the word itself.
"Scot" comes from Old English "Scottas," which could mean Scottish or Irish people, and that in turn comes from Late Latin "Scotti," the Irish. Where "Scotti" came from before that, nobody knows. The story of the people is harder to pin down. In a 2001 paper, the archaeologist Ewan Campbell argued that nothing dug up in Argyll supports the story of a move from Ireland.
In his view, the migration was a story that ruling families told about their own roots. Names often travel with people. England is "the land of the Angles," and Brittany in France was settled around 500 by Britons pushed out of their island. Centuries later, Scots who settled in Ulster, and their children who sailed on to North America, became known as the "Scots-Irish."
191 words ・ CEFR B2
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修道士ベーダが731年にイングランド教会の歴史を書き上げたとき、彼はブリテン島の民族を一つずつ説明した。3番目の集団はスコット人で、レウダという指導者のもとアイルランドから渡り、ピクト人の土地に住みついた、と彼は書いた。ベーダにとって、アイルランドは当然スコット人の祖国だった。言葉そのものについては、辞書の説明は一致している。
「Scot」は古英語の「Scottas」から来ており、これはスコットランドの人もアイルランドの人も意味しえた。そしてそれはさらに、アイルランド人を指す後期ラテン語「Scotti」にさかのぼる。「Scotti」がそれ以前にどこから来たのかは、誰も知らない。人々の歴史のほうは、つかむのがもっと難しい。2001年の論文で、考古学者ユアン・キャンベルは、アーガイルで掘り出されたものの中に、アイルランドからの移住の話を裏づけるものは何もないと論じた。
彼の考えでは、その移住は、支配層の一族が自分たちのルーツについて語った物語だった。名前は、人とともに移動することが多い。イングランドは「アングル人の土地」であり、フランスのブルターニュには、500年ごろ、島を追われたブリトン人が住みついた。何世紀も後、アルスターに移り住んだスコットランドの人々と、そこからさらに北アメリカへ渡ったその子孫は、「Scots-Irish」と呼ばれるようになった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
言葉の由来は辞書で一致するが、The story of the people is harder to pin down として移住の規模は確かでないと述べているので A。
Q2. What did Ewan Campbell argue?
nothing dug up in Argyll supports the story of a move from Ireland とあるので C。
Q3. What can be inferred about the term "Scots-Irish"?
Scots who settled in Ulster, and their children who sailed on to North America, became known as the "Scots-Irish" とあり、アイルランドのアルスターに移ったスコットランド系の人々を指すと分かるので B。
重要単語
- originallyB1副詞もともとはThe word "Scot" originally meant a person from Ireland.
origin(起源)+-al+-ly。語源の話で必ず出る語。original「最初の、独創的な」とセットで覚える。 - migrateB2動詞移住するMany families migrated from Scotland to Ireland.
名詞は migration(移住)。immigrate(よそから移り住む)・emigrate(よそへ移り住む)との区別は入試頻出。 - homelandB2名詞故郷、祖国Bede called Ireland the true homeland of the Scots.
home+land。国や民族のもとの土地を言うときに使う。 - kingdomB1名詞王国The old kingdom had land on both sides of the sea.
king+-dom(領域・状態)。the United Kingdom(イギリス)の Kingdom もこれ。 - descendantB2名詞子孫She is a descendant of Scottish farmers.
descend(下りる)から「下の世代」。反対語は ancestor(祖先)。 - evidenceB1名詞証拠Archaeologists found little evidence of a large migration.
数えられない名詞なので an evidence や evidences とは言わない。a piece of evidence で「1つの証拠」。 - archaeologistC1名詞考古学者The archaeologist studied old houses in western Scotland.
archaeo-(古い)+-logist(研究者)。アメリカ式では archeologist とも書く。
公式・一次情報をチェック
- Brittany(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- English の Word History(American Heritage Dictionary)ahdictionary.com
- Dalriada(Dictionary.com/Collins English Dictionary)dictionary.com
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スコットランド人を表す英語 Scot。もとのラテン語 Scotti は「アイルランド人」のことだった。731年の歴史書には「アイルランドこそスコット人の本来の祖国」とある。
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出典・参考文献(6件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「Scot」「Scots-Irish」「Pict」「Bede」ahdictionary.com
- Dictionary.com(Random House Unabridged/Collins English Dictionary)「Scot」dictionary.com
- Bede, Historia ecclesiastica gentis Anglorum, Book 1(ラテン語原文, The Latin Library)thelatinlibrary.com
- Campbell (2001) Were the Scots Irish?, Antiquity 75(288)doi.org
- McSparron & Williams (2011) ‘… and they won land among the Picts by friendly treaty or the sword’, Proceedings of the Society of Antiquaries of Scotland 141doi.org
- Oxford Learner's Dictionaries「Scot」「argyle」oxfordlearnersdictionaries.com
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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