rule of thumb は「妻をたたく棒は親指の太さまで」の法律から? その説に根拠なし

読む前に予想してみよう!
rule of thumb は、妻をたたく棒の太さを定めたイギリスの法律から生まれた言い回しだ
言い回しは1690年ごろから記録があり、辞書は「親指を物差し代わりにしたこと」から説明する。法の歴史を調べた研究によると、この言い回しが法の歴史に出てきた例はない。
- 対象
- 英語の辞書・法の歴史の研究・19世紀の判決文
- 規模
- 辞書3種+論文紹介+判決1件
- 研究の種類
- 辞書の語源記述・法の歴史の文献調査
- 確かさ
- ★★★☆☆
「経験からの目安(経験則)」という意味の rule of thumb は、親指を物差し代わりにしたことから、と辞書は説明。妻をたたく棒の太さを決めた法律が由来、という説は根拠がない。
ひとことで言うと「ルール・オブ・サム」は、親指でざっくり長さをはかったことから来た、と辞書は説明しているよ。
もくじ
As a rule of thumb, cook a chicken for 20 minutes per pound.(目安として、鶏肉は1ポンドあたり20分焼く)
英語の rule of thumb は「経験からの目安」「経験則」。直訳すると「親指のルール」です。
この言い回しには、ぞっとする“語源”がついて回ります。「昔のイギリスの法律で、夫は親指より細い棒なら妻をたたいてよいとされていた。そこから来た」というものです。
ところが、法の歴史を調べた研究によると、rule of thumb という言い回しは、法の歴史に一度も出てこないのです。辞書の説明は、ずっと地味。親指を物差し代わりにしたことでした。
01rule of thumb の意味は「経験からの目安」
まず、意味を辞書で確かめておきましょう。
- オックスフォード学習辞典:正確な測定ではなく、ふつうは過去の経験にもとづいて物事を行ったり測ったりする、実用的なやり方
- ケンブリッジ英語辞典:物事を行ったり測ったりする、おおよその方法。例は A good rule of thumb is that a portion of rice is two handfuls.(米の1人分はふたつかみ、というのがよい目安だ)
つまり「厳密ではないけれど、だいたい役に立つ」やり方のことです。アメリカン・ヘリテージ英語辞典(AHD)も、「広く使えるが、どんな場合にも正確・確実とは限らない、役に立つ原則」と説明しています。
02由来は「親指を物差しに」
では、なぜ親指なのか。
AHD の、言葉の生い立ちを書いた欄(語源欄)には、大工仕事などで、親指を間に合わせの物差しや測る道具として使ったことからとあります。Dictionary.com も、親指でおおよその長さを見積もったことにちなむ表現だと説明し、最も古い記録を1685〜1695年としています。
親指が長さの単位になるのは、英語だけの話ではありません。フランス語の pouce(プース)は「親指」のことですが、ラルース辞典には長さの単位としての意味も載っています。昔のフランスの単位では27.07ミリ、今は25.4ミリ、つまり1インチ。スマホの画面の「6インチ」は、フランス語では「6プース」、文字どおり「親指6本分」です。

03「親指の法律」説を、研究者が調べた
それでも「妻をたたく棒の法律」説は広まりました。オレゴン大学の心理学者ジェニファー・フレイドらが1998年に書いた解説によると、この言い回しがイギリスの昔からのしきたりにもとづく法(慣習法)から来た、と信じている人が当時もいたそうです。
この説をくわしく調べたのが、ヘンリー・アンスガー・ケリーの論文(1994年、法学教育の学術誌『Journal of Legal Education』)です。フレイドらの紹介によると、ケリーの主張は次のとおりです。
言い回しの最も古い記録が1685〜1695年なのに対し、ケリーが挙げる「親指」の例は、1782年ごろの判事の発言と、1824年・1868年の判決です。言い回しのほうが、これらの例よりずっと前から使われていたことになります。
04判決文に出てくる「親指」
ただし、「親指の太さ」という考え方そのものは、実際に裁判に出てきます。
その一つが、1868年のアメリカ・ノースカロライナ州最高裁判所の判決(State v. Rhodes)です。ハーバード大学ロースクール図書館の判例データベースで、判決文を読むことができます。
ある男性が、妻を指くらいの太さの細い枝で3回たたいた事件でした。1審の裁判官は、夫には親指より太くない枝で妻をたたく権利がある、という考えで、男性を無罪にしました。
州の最高裁判所は、この考え方を退けます。判決は「夫に妻をたたく権利があるというのは正しくない」と述べ、仮にその権利があったとしても、昔の法律書の一部が言うように親指を道具の太さの基準にする理由は見当たらない、としました。親指より太い棒でもけがをさせないことがあり、その半分の細さの枝でも命にかかわることがある。問うべきは道具ではなく、どんな結果になったかだ、というのです。
ところが、同じ判決は、家庭の中の「ささいなこと」には裁判所は口を出さない、とも述べ、結局、男性は罰せられませんでした。「親指の基準」は否定されても、それで妻が守られたわけではなかったのです。
05どんでん返し:「親指の太さまでなら」と思われていたことはあった
では「親指の法律」の話は、まったくの作り話なのでしょうか。
フレイドらは、ケリーとは少しちがう結論を出しています。rule of thumb が広く認められた法の決まりだったことはない、という点には納得しています。しかしケリー自身が集めた資料から、1782年にはすでに、妻をたたくのは許される、道具は親指の太さが目安だ、という受け止め方が世の中に一部あったと読み取れる、と書いています。
その例として、フレイドらはケリーの論文から次の話を挙げています。1782年ごろ、イギリスの判事フランシス・ブラーが「親指」の基準を認めるような発言をし、それを批判する風刺画が何枚も作られた。また1824年のミシシッピ州の判決では、裁判官が、世間に「親指の基準」が知られていることを認めたうえで、それを言い訳として退けた。
つまり、「言い回しの由来」としては根拠がない。けれど、「親指の太さまでなら」という世間の思い込み(俗信)は、言い回しとは別にあった。この2つを分けて考える必要があります。
フレイドらは最後に、この言い回しを使う人を厳しく責めることも、この言い回しを聞いて家庭内暴力を思い出しつらくなる人を責めることも、控えるよう呼びかけています。そして、本当に力を注ぐべきなのは家庭内暴力を理解し、防ぐことだ、と結んでいます。
06まとめ
rule of thumb は、辞書によれば親指を物差し代わりにしたところから来た「経験からの目安」です。「妻をたたく棒の法律」が由来という話には、根拠がありません。
ただ、「親指の太さまでなら」という考え方が昔の裁判に何度か顔を出したのは事実です。ことばの由来を正しく知ることと、その裏にあった現実から目をそらさないこと。この言い回しは、その両方を教えてくれます。
よくある質問
rule of thumb の意味は何ですか?
「経験からの目安」「経験則」です。オックスフォード学習辞典は、正確な測定ではなく、ふつうは過去の経験にもとづいて物事を行ったり測ったりする実用的なやり方、と説明しています。直訳は「親指のルール」です。
rule of thumb の語源は何ですか?
辞書の説明では、親指を物差し代わりにしたことです。アメリカン・ヘリテージ英語辞典は、大工仕事などで親指を間に合わせの物差しや測る道具として使ったことから、と説明しています。Dictionary.com によると、最も古い記録は1685〜1695年です。
rule of thumb は妻をたたく棒の法律が由来というのは本当ですか?
いいえ、根拠がありません。法の歴史を調べたケリーの研究(1994年)によると、rule of thumb という言い回しは法の歴史に一度も出てきません。言い回しが法に定められていたという考えは、1977年の本に由来するとされます。
「親指の太さの棒まで」という話はどこから来たのですか?
言い回しとは別に、世の中の思い込みとしてありました。研究者フレイドらは、1782年にはすでに、道具は親指の太さが目安だという受け止め方が世の中に一部あったと読み取れる、と書いています。ただし、広く認められた法の決まりだったことはない、という点ではフレイドらもケリーと同じ考えです。
裁判で「親指の太さ」が問題になったことはありますか?
あります。1868年のノースカロライナ州最高裁判所の判決は、夫に妻をたたく権利があるのは正しくないとし、親指を基準にする理由もないと退けました。ただ、家庭内のささいなことには口を出さないとして、男性は罰せられませんでした。
rule of thumb は英語でどう使いますか?
As a rule of thumb, ~.(目安として~)や A good rule of thumb is to ~.(~するのがよい目安だ)の形がよく使われます。複数形は rules of thumb で、thumb ではなく rule に -s がつきます。
親指が長さの単位になっている言葉はほかにもありますか?
あります。フランス語の pouce(プース)は「親指」のことですが、長さの単位でもあり、今は25.4ミリ、つまり1インチです(ラルース辞典)。昔のフランスの単位では27.07ミリでした。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA "rule of thumb" is a rough guide based on experience, as in "A good rule of thumb is to arrive ten…
音声
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原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In English, a "rule of thumb" is a simple guide that comes from experience. For example, you can say, "As a rule of thumb, leave home ten minutes early." Long ago, workers like carpenters used their thumbs to measure things.
Dictionaries say that is where the phrase comes from. Some people say it came from an old law about hitting wives with a thin stick. But there is no proof of this, and the phrase never appears in old laws.
80 words ・ CEFR A2
和訳を見る
英語で「rule of thumb」は、経験から生まれた簡単な目安のことです。たとえば「目安として、10分早く家を出なさい(As a rule of thumb, leave home ten minutes early.)」のように言えます。昔、大工のような職人たちは、親指を使って物の長さをはかりました。
辞書によると、この言い回しはそこから来ています。細い棒で妻をたたくことについての昔の法律から来た、と言う人もいます。でも、その証拠はなく、この言い回しは昔の法律には一度も出てきません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
rule of thumb の意味(経験からの目安)と、その由来について書いているので B。
Q2. Who used their thumbs to measure things long ago?
workers like carpenters used their thumbs to measure things とあるので C。
Q3. In the passage, what does "proof" mean?
there is no proof of this は「それを示す証拠がない」という意味。proof は「本当だと示す事実・証拠」なので A。
A "rule of thumb" is a rough guide based on experience, as in "A good rule of thumb is to arrive ten minutes early." The phrase has been recorded since the late 1600s. The American Heritage Dictionary explains that people, especially carpenters, once used their thumbs as a simple ruler. There is also a darker story.
Some people believe the phrase came from an English law that allowed a man to hit his wife with a stick no thicker than his thumb. A scholar named Henry Ansgar Kelly looked into this idea in a 1994 paper. According to a summary by researchers at the University of Oregon, he found that the phrase never appears anywhere in the history of law.
120 words ・ CEFR B1
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「rule of thumb」とは経験にもとづくおおまかな目安のことで、「10分早く着くのがよい目安だ(A good rule of thumb is to arrive ten minutes early.)」のように使う。この言い回しは1600年代の終わりごろから記録がある。アメリカン・ヘリテージ英語辞典の説明では、かつて人々、特に大工が、親指を簡単な物差しとして使っていた。もっと暗い話もある。
この言い回しは、男性が親指より太くない棒で妻をたたくことを認めたイギリスの法律から来た、と信じている人がいるのだ。ヘンリー・アンスガー・ケリーという研究者が、1994年の論文でこの考えを調べた。オレゴン大学の研究者による要約によると、彼は、この言い回しが法の歴史のどこにも出てこないことを明らかにした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
rule of thumb の意味と由来、そして「法律から来た」という話を調べた研究が中心なので C。
Q2. According to the passage, what did Henry Ansgar Kelly find?
he found that the phrase never appears anywhere in the history of law とあるので A。
Q3. Why does the writer call the second story "darker"?
妻を棒でたたくことを認めた法律、という暴力にかかわる話なので B。
Say "as a rule of thumb" and you are offering a guide that works most of the time without being exact. Dictionary.com dates the phrase to the late 1600s, and the American Heritage Dictionary links it to carpenters and others who used a thumb as a makeshift ruler. A grimmer explanation still gets passed around: that an old English law let husbands beat their wives with a stick no wider than a thumb.
In a 1994 paper, the scholar Henry Ansgar Kelly argued that no such legal principle existed and that the phrase itself never shows up in legal history. The thumb idea did reach a few courtrooms, though. In an 1868 North Carolina case, a lower court had cleared a man who struck his wife with a thin switch, saying he could use one no thicker than his thumb.
The state's highest court rejected that standard, but it still refused to punish him, saying courts should stay out of minor family matters. Jennifer Freyd and J. Q. Johnson of the University of Oregon read Kelly's evidence a little differently. In their view, it shows that by 1782 some people already believed a husband could use a thumb-sized stick.
199 words ・ CEFR B2
和訳を見る
「as a rule of thumb(目安として)」と言えば、正確ではないがたいていはうまくいく目安を示していることになる。Dictionary.com はこの言い回しを1600年代の終わりごろのものとし、アメリカン・ヘリテージ英語辞典は、親指を間に合わせの物差しとして使った大工などと結びつけている。もっと暗い説明も今なお出回っている。昔のイギリスの法律が、夫が親指より太くない棒で妻をたたくことを認めていた、というものだ。
1994年の論文で、研究者ヘンリー・アンスガー・ケリーは、そのような法原則は存在せず、言い回しそのものも法の歴史に一度も出てこないと論じた。ただし、親指の考え方はいくつかの法廷には届いていた。1868年のノースカロライナ州の事件では、細い枝で妻をたたいた男性を、1審が無罪にしていた。
親指より太くない枝なら使ってよい、という理由だった。州の最高裁判所はその基準を退けたが、それでも、裁判所はささいな家庭内の問題に立ち入るべきではないとして、男性を罰しなかった。オレゴン大学のジェニファー・フレイドと J・Q・ジョンソンは、ケリーの証拠を少しちがうふうに読んでいる。彼らの見方では、その証拠は、1782年までにすでに、夫は親指ほどの太さの棒なら使ってよいと信じていた人がいたことを示している。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
rule of thumb の由来と、それに結びつけられがちな「法律」の話を検討しているので C。
Q2. What did the highest court in North Carolina do in 1868?
The state's highest court rejected that standard, but it still refused to punish him とあるので B。
Q3. How do Freyd and Johnson differ from Kelly?
read Kelly's evidence a little differently と述べ、1782年までに親指の太さの棒なら許されると信じる人がいたと読んでいるので D。法律だったとは言っていない。
重要単語
- rule of thumbC1名詞経験からの目安、経験則As a rule of thumb, leave home ten minutes early.
複数形は rules of thumb。As a rule of thumb, ~/A good rule of thumb is to ~ の形でよく使う。 - thumbB1名詞親指She measured the gap with her thumb.
b は読まない(発音は「サム」)。give a thumbs-up「親指を立てて賛成する」。 - roughB1形容詞おおまかな、だいたいのCan you give me a rough idea of the cost?
「ざらざらした、乱暴な」のほか「おおよその」の意味でもよく使う。a rough estimate「概算」。 - approximateB2形容詞おおよそのThe approximate cost is fifty dollars.
副詞は approximately(およそ)。about よりかたい言い方。 - mythB2名詞根拠のない通説;神話The old story turned out to be a myth.
「神話」のほか「広く信じられているが事実でない話」の意味でよく使う。 - courtB1名詞裁判所、法廷The court decided that the man was not guilty.
テニスなどの「コート」と同じ語。the Supreme Court「最高裁判所」。 - evidenceB2名詞証拠There is no evidence that the law ever existed.
数えられない名詞なので an evidence とは言わない。a piece of evidence「1つの証拠」。
公式・一次情報をチェック
- rule of thumb(Cambridge Dictionary)dictionary.cambridge.org
- pouce(Larousse)larousse.fr
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rule of thumb(経験則)は「妻をたたく棒は親指の太さまで」という昔の法律から、という説がある。でも言い回しは1690年ごろから記録があり、法の歴史には一度も出てこないと研究者。辞書の説明は「親指を物差しに」。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- The American Heritage Dictionary of the English Language, 5th ed.「rule of thumb」ahdictionary.com
- Dictionary.com「rule of thumb」(Origin・Idioms)dictionary.com
- Oxford Advanced Learner's Dictionary「rule」(idiom: rule of thumb)oxfordlearnersdictionaries.com
- Freyd, J. & Johnson, J. Q. (1998) Commentary: Domestic Violence, Folk Etymologies, & "Rule of Thumb", University of Oregon(Kelly, H. A. 1994, Journal of Legal Education 44(3) を紹介)pages.uoregon.edu
- State v. Rhodes, 61 N.C. 453(ノースカロライナ州最高裁判所, 1868年), Caselaw Access Project(ハーバード大学ロースクール図書館)static.case.law
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。
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